いつかあった日 作:Seilin
幼い頃世話になった親方から教わった、一つのルーティン。
木製の道具を作る時に、怪我をしないように、持ちやすいように必ず角を削る。ノミとハンマーを使って大きく削り、鉋を使って滑らかに、広く削る。最後に
先が透けて見えるほどの薄く、均一な鉋屑であるほど、仕上げとしては良いものである。……と、聞いた。個人としては、既にあまり拘りすぎていない部分ではあるが、それでも、一度目を通す癖は変わらない。
「……久しぶりに、水中花にするか」
水中花。東では通草花、とも言うらしい。
瓶詰にすれば100年単位で美しさが保たれるらしい、枯れない花。数刻で崩れる
自分が作る物には何も宿っていないという事実を突きつけられるような。そんな部分は過去の人類が通り過ぎた部分だと嘲笑われているような。だから、この程度は超えていけとプレッシャーを与えられているような。それに応えていない自分が、ひどく情けない。
「だからこそ、創る」
過去の模倣しか出来ない自分が、どうやって知識を伝えるか。廃れさせないためには、何を広げていけるのか。
少しでも心に残る物を。50年後、こんなものもあったなと、笑って話のネタになるような物を。酒の席や茶会でふと思い出されるような物を。
「バレンタインデーからは過ぎているが……広げるのは、いつだって良いか」
アーサー、イリーナ、カロン、クピド、シビル、セオドア、ナヴィア、ヘラー、ヘルメス、フィオ、フローレンス、マリー、……ラグエル、リアム、リー、リリー、ルイス、ルナベル、ルカ、ルーファス、ロスナ。
きっと私よりも光り輝く、21のアルカナ。リアムに花が似合うかは怪しいが……まぁ、誰かに渡してもらえばそれで良い。
水中花の包みを抱え、茶会が開かれているだろう城へ赴く。途中、ルイスに出会った。
「ルイス、ちょっと良いか?」
「はい、シェリダン殿。如何されましたか」
親にしがみつく子犬のように近づく彼女に、包みから丸まった木くずを一つ取り出し、渡す。
「少し、変わった物を作ってな。良ければ見て行ってもらいたいんだが、今時間はあるか?」
「はい、大丈夫ですが」
恐る恐るそれに触れるルイスを引き連れ、食堂に向かう。
「ビンを一つ貰いたい。あと水を」
調理人から使い終わり、洗われたビンを一つ受け取り、水で満たす。
「入れてみてくれ」
ルイスが少し名残惜しそうにビンにそれを入れる様子を見て、真横から見るように促す。
まるで、時を送るかのように。
茎の捻れが解放されて、花弁がゆったりと水を切って。
鉋屑が水を吸って、その反りを緩やかにして。
透明度の高い瓶の、透明度の高い水の中で……青と白と紫のグラデーションを持つ水中花が開花する。
「わぁ……!」
「水中花、という。特に何か衝撃を与えたりしなければ、百年は保つそうだ。また開く様子を見たいなら、水から静かに取り出して、花弁を逆さに陰干しすると良い」
「これ、頂いても、宜しいのですか!?」
「全員分作ってきた。だから安心してくれ」
「……!ありがとうございます」
大事そうにビンを抱える彼女を後にして、食堂へ向かう。今日はゆっくりと出来るといいがな。出来る事なら、壊れないようなキッチンを作ってやりたいものだが。
少しだけ未来に思いを飛ばし、だが歩みを早めることは無く、先に進んでいく。