死のう。
そう決意したのは、一ヶ月ほど前のこと。
《ガンガンガンガンガンガン!!》
魔王が倒されてから六十年。
世界中の魔族が滅ぼされて、すべてのダンジョンが攻略し尽くされて、冒険者たちの仕事は減っていき。
ついに私の従事する聖女の仕事でも、大規模な解雇が行われた。
《ガンガンガンガンガンガン!!》
私は聖女をリストラされた。
ニートである。
私にとって聖女は憧れの職業だった。
身体が弱かった幼少期、聖女様に何度も命を救われたのだ。
生まれてからの20年、聖女を夢みて懸命に魔法制御を勉強して、やっと資格を取れたのに。
聖女の職に就けたのに。
私は一年でリストラされた。
《ガンガンガンガンガンガン!!》
聖女の職業は、発展した魔道具によって取って代わられたのである。
落ちこぼれ聖女の私が、自動化された機械に勝てるはずもなかったのだ。
私は聖女になるために、この20年間魔法操作の勉強しかしてこなかった。勉強はからっきしだった。
いまさら別の仕事を探してみても、毎日残業低賃金のブラック企業ばかり。
《ガンガンガンガンガンガン!!》
誰かに頼ろうと思っても、聖女学園では陰キャだったし、なんなら虐められてたし。
20年間恋愛禁止を律儀に守って、男に対する免疫もない。
一年間露頭に迷い。
ついに私は心が折れた。
このまま死ぬまで、いくら頑張っても食べ物に困る生活が続くのならば、
独身孤独で寂しいのならば、
プライドを投げ捨てて、女の身体を売って生きていくくらいなら、
潔く今死のう。
そう決意した。
《ガンガンガンガンガンガン!!》
どこで死のうかと考えたとき、
魔王城の天守閣からの飛び降り自殺を、Myutuebe配信してやろうと思った。
今の時代、スマホ一つで全世界に生放送ができる時代だからね。
あぁスマホって言うのは「スマート・マジック・フォン」の頭文字を取った略称ね。
このスマホという魔道具に、デフォルト搭載されている、「ヒール」アプリ。
この"携帯型治癒魔法機能"によって、聖女は失業へと追い込まれた。
つまりこの「スマホ」という輩は私にとって呪いのアイテムなのだけど、今のご時世スマホなしでは生きていけない。
まったく便利なんだか不便なんだか分からない時代になったものだ。
半年ほど前に小銭稼ぎにMyutueberを始めてみたものの、一向に数字が伸びないでやめた。
だがもうこうなればヤケクソだ。
私の死に様を全世界に垂れ流して死んでやる!
六十年前に魔王は死に。現在魔王城は森の中の廃墟となっている筈だった。
《ガンガンガンガンガンガン!!》
私がこの人生で最も憎い存在は、聖女学園のいじめっ子達でも、悪徳教師でも、パワハラ上司でもない。
私が憎いのはお前だよ魔王!
この魔王野郎! お前が弱すぎて勇者に倒されたからだっ!!
それからあれよあれよという間に世界中の魔族が死んで、ダンジョンが探索しつくされ、聖女の仕事がなくなったんだ!
何が魔王だ! この雑魚が!
《ガンガンガンガンガンガン!!》
そう決意して、なんとか立ち入り禁止の魔王城まで侵入したのに……
静かなこの地から配信開始して、全裸で踊り狂いながら飛び降り自殺してやろうと思ったのに!
到着してみたら、なんだこの騒音は!
《ガンガンガンガンガン》
って、うるせぇよ!
これじゃあ配信に声が乗らないじゃないか!
私の自殺前の遺言が、世界への叫びが!
この騒音に掻き消されちゃうじゃぁないか!
私、聖女アリスは激怒していた。
この金属音の正体は何なのか?
人生最後の配信のために、ツカツカと音の鳴る方へ歩いていく。
幸いな事に音の発生源は真上から。
私の向かうべき、魔王城天守閣からであった。
《ガンガンガンガンガンガン!!》
魔王が滅んで六十年。
魔王城一階は草木に侵食されて、歩くのも一苦労だったが。
3階まで登ってくれば、風邪魔法で埃を吹き飛ばすだけで、案外綺麗なフローリングだった。
《ガンガンガンガンガンガン!!》
この階段を登れば、魔王城最上階だ。
騒音の発生源も近い。
一体こんな場所で何が行われているのか?
と、階段の一歩目を踏み出したとき、
ひどい刺激臭が鼻をついた。
血で血を洗ったような血みどろの香り。
小さい頃の、病院の手術を思い出して、思わず私は顔を顰めた。
《ガンガンガンガンガンガン!!》
階段を登っていく。
一体そこには何があるのか?
「……あ、が、お……うぇ……」
なんという事か。騒音に紛れて獣の呻き声まで聞こえてきた。
私はゾクリと身震いした。
死ぬと覚悟を決めたのに、私の脳は恐怖を手放せないらしい。
しかし、ここで引き返す訳にもいかない。
ここで引き返したら、この金属音や呻き声の正体が気になって夜も眠れないじゃないか。
あぁ、そうだ。いい事を思いついた。
今この瞬間から生放送を始めれば、怪奇現象と自殺ということで、大勢の人に私の最後を見てもらえるんじゃないか?
という事で、配信を付けてみた。
⚫︎LIVE
「魔王城のてっぺんから飛んでみた」
「みなさんこんにちはー
リストラ聖女で無職系Myutueber、アリシャと申しまーす、はは」
自虐自己紹介に、思わずから笑いが漏れる。
「はい、ということでー 現在、立ち入り禁止の魔王城から緊急で動画を回しているのですがー
えーと、天守閣から飛び降り自殺をしようと思ったらー、うるさい音と、人の呻き声が聞こえてきたんですよー
ほら聞こえますかー? ガンガンガンガンってーー 不思議ですよねーー」
登録者数14人、最高同接7人。
『聖女アリシャの礼拝ちゃんねる』
朝の礼拝動画からはじまり、モーニングルーティン、散歩配信……お料理動画なんてのもやってみたけれどね、
あはは……黒歴史……
私みたいな、聖女なんて古臭い職業のつまらない人間。
誰も興味を持つハズないんだ。
「私の声が聞こえておりますでしょうかぁぁぁ??
人生最後の配信で、騒音なんて最悪なのでっ! 今からこの金属音を黙らせていきたいと思いまーす!!」
もうやけくそに叫び出して、どうにでもなれと飛び出した。
そこで私が見たものとは……
(続く)
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