◇◇◇
「久しぶりやん 元気しとん」
「い や
あ あ
あ
あ
あ」
ハイパー・コングは呪胎から完全変態を遂げ、一糸纏わぬ全裸の完全変態となり花沢の領域を問答無用でぶち破り姿を現した。
ハイパー・コングは一見花沢に気さくに話しかけていて敵意は無さそうに見えるがそうではない。
変態を遂げたハイパー・コングはもう無意味に喚いて癇癪を起こさないし、ましてやわざわざ感情を剥き出しにして宿敵に接することが無駄であることを理解したのだ。
今持てる自分の気力全てを憎き花沢を殺害する事に注ぐつもりなのだ。
そんな完全体となったハイパー・コングは180cm程の人型の姿であったが、全身には毛が生えておらず彫刻を疑ってしまう程滑らかで生殖器も無い。
顔にまるで貼り付けたかの様に存在している不自然な両目は三日月型に細め笑っている様に見えながらもその奥のドス黒い瞳は屍肉に群がる蛆虫のごとき殺意が纏わりついていた。
正に"薄目の呪い"を彷彿とさせる邪悪な目だ。
(*薄目の呪いとは、女の子が目を閉じて微笑んでいる画像が、薄目を開けてニヤリと笑っているように見えるという呪い。はっきり言って怖すぎるから、検索したマネモブは死ぬよ)
そして何よりも注目すべきはその肉体。そのギチギチに引き締まった筋肉は、22.59g/cm*3と、世界最高の金属密度を誇る金属である『オスミウム』でさえ比較対象として機能しない程の筋密度を有するという事実を視覚情報のみで花沢と七海に突き付けていた。
「………ッ!本当にあの時のゴリラ呪霊なのか?!(横文字書き文字)」
花沢はその全身の毛穴を突き刺す悪寒を掻き消す様に若干叫ばながらハイパー・コングに問うた。
「ああっ、俺の名は"ハイパー・コング"… "ゴリラを継ぐ男だ"
なぁ花沢…ずっとあの空間にいたから暇だったんだよ…握手してもらっていいか?」
ズッ ガシッ
「えっ」
「ッッッ?!花沢君ッ!」
「あざーす」
バキバキバキバキドリュソ ビシャシャシャ
「う
ぎ
ゃ
あ あ
あ あ あ」
花沢の両手が砕けた。否
ハイパー・コングは花沢が視認出来ない程の速度で接近し、手四つを仕掛けた。
"手四つ"とは本来、相撲やプロレスなどの格闘技において、両手で相手の両手をつかみ合い、攻撃の機会をうかがう体勢を指し、力比べの基本的な組み方の一つである。
しかし、ハイパー・コングの手四つはそんな生優しい代物では無い。
呪胎の頃のハイパー・コングの術式は自身の握力を500トンにするというものだが、進化したことでハイパー・コングの握力は素で500トンを優に超えていた。術式すら度外視したその無限にも等しい握力が花沢の両手を圧殺する。
花沢の10本の指はコングに掛けられた圧力で四方八方に千切れ飛び、ハンバーグのミンチ肉の様に手の肉と大量の血液がコングの指から溢れ地面にこぼれ、最終的にコングは手四つの状態から自身の拳を
「う あ あ あ あ あ」
「ぐうっ…(糞っ…体力が…)」
「フハハハハ!死ねいっ」
七海は特級との戦闘でほぼ満身創痍状態であり足を動かすことすらままならない。そしてコングが花沢にチョップを繰り出そうとしたその瞬間…
(…………………いや…待てよ…?この感じ…既視感があるぞ…)
0.1秒程の時間内にふとコングに考えがよぎり花沢への攻撃を一旦辞めて花沢から距離を取る。
それは、既に花沢は両手を破壊されながらも残った呪力を脚に集中させ臨戦態勢に入っていたからでは無い。花沢のやられてからが強いタフな姿を思い出したからであった。
コングはC.D.T.Kから自我が形成されたのだが一応形成される前の記憶も知っている。どれほど圧倒し、瀕死に追い込み、仲間を残虐に破裂させようとも、花沢が戦意喪失する事なく対立し、己の持ち得る全てを活用し勝利へ不乱に突き進む姿を。
そして最終的に自身は花沢に消滅一歩手前までに追い込まれ…封印された。
その思い出が自身は運良く生き延びた、花沢に敗れた"敗者"であるという事実と共に濁流の如く雪崩れ込んできたのだ。
更に自身が花沢に確実に負ける手段があったというのも攻撃を中断する要因となったであろう。
それは"反転術式"のアウトプットである。反転術式は負と負のエネルギーを掛け合わせた正のエネルギーであるため、一度流し込まれたら呪霊はなす術なく祓われる。
ハイパー・コングの中では花沢が戦闘の最中、反転術式のアウトプットが出来るようになり、祓われてしまう可能性が大きくあったし、既に花沢はアウトプット出来るという可能性もあった。C.D.T.K以降猿空間にずっといたので全く花沢に関する情報を知らないのだ。
(花沢の奴…両手を破壊したというのに反転術式で治していない…恐らく呪力消費を抑えているのか…?俺にあの時の様な一撃を…いやっそれとも俺に大量の反転術式を流し込み確殺するためか…?)
(俺は勝たなきゃいけないんだ…真依ちゃんと約束したんだ…もう一人にさせないって約束したんだ…)
花沢にはもう度重なる戦闘でもうコングを倒せる余力は到底ないし、ましてや反転術式も使えないほど呪力を消費した。しかしハイパー・コングはそんな事を知るはずも無かった。
ハイパー・コングは敗者故に、進化して知性を身に付けた故に、勝者のポテンシャルを異様に恐れた。確実な勝利を逃したのだ。
「…………やめだ」
「えっ」
「なんかもう今日はどうでも良くなってきたよ なにせ折角久々にシャバに出られたんだ、ちょっと探索したいんだよ分かるだろ?それになんかお前雑魚すぎて萎えちゃった」
「き…貴様……ッ!」
完全にハイパー・コングは白けた素振りを見せ、そんな花沢は困惑しながらも睨みつける。
「おーっ 怖ィイ 弱い癖に強気なバカってもしかして貴方は無敵の人? なーに何もお前と闘わないわけじゃない "縛り"を結ぼうぜ。C.DT.K…あの日のあの場所で再度闘うって縛りを!」
「………」
花沢はあまりにも突然な提案に何か裏があることを察しながらも睨み付けることをやめず考え込む。
「…………
…これでも俺は慎重派でね、少し考えてみたよ その結果、了承してやるということが分かった。クリス・マスを楽しみにしてますよクククク」
「オーケーだ、じゃっ 俺は消えるっ」
フッ
「……………
消えた………ん……スか………?
ドサ…
はあっ はあっ はあっ」
宿敵は、まるで下校中、途中まで帰り道が一緒の友達と気さくな挨拶を交わして別れる時の様に爽やかに自然と、それでいて寒気が止まらなくなる程に恐ろしく消えた。
◇◇◇
そして七海が予め要請していてくれた呪術師に七海と共に保護され病院に運ばれてた。家入に反転術式を施してもらった後自前の反転術式で両手を元通りにする。
(ハイパー・コングにまた別の日にやろうって言われた時に心の底から安心してしまったのが…俺なんだ…)
あの時花沢は去り行くコングを止めなかった。自分が確実に負けることをわかっていたから…コングが向かう先々で虐殺が行われる可能性があるというのに…以前の自分ならば死んで本望という意気込みで挑んでいたというのに………
「また病院送りになってんのかよ…あっおい動くな今りんご食わしてやるから、ほら口開けろ」
「真希あざーっス」シャク
「いつの間にか真希に姉付けしなくなったよな喜一」
「タフ」
「お義姉ちゃんって呼んでもいいんだぜ?義弟」
「真希姉ってゴロ悪いでしょ 年上としての偉大さも無いわよね」
ドスッ
「ぎ や あ あ あ あ」
「減らず口叩くんじゃねーよ額にフォークでチクってするぞお前」
「実行した後予告するのはルールで禁止スよね?」
「姉はルール無用だろ、後お前真依から20件くらい着信来てたぞ」
「やばっ」
友が、愛人が親が出来、去年は弟も見つかり、手放したくなくなってしまった。命が惜しくなってしまったのだ。母親が亡くなった直後の、荒んだ花沢はもういない。
死にたく無い。怖い。情けない。みんなを悲しませたくない。負の感情が入り混じりながらも花沢は打倒、ハイパー・コングの策を考える。
(………あっ)
そして花沢は十数分の思考の末に閃き、退院後、義父である夜蛾の元へ尋ねた。
「どうした喜一、悩み事か?」
夜蛾は自分の手で丹念にその筋モンのイメージとはかけ離れたキモ可愛い人形を量産している。
「魂の共有の仕方を教えてくれよ」
「………何かあったのか?急にそんなことを聞いてくるということは?」
「はい…」
そうして花沢は夜蛾に自分より遥かに強い呪霊と今年のクリスマスに闘わねばならないと伝えた。
「ある呪霊と魂を共有させて擬似的な灘神影流"陰陽互換の術"を行い、自分の身体に反転術式を流し込んで祓いたいんだ。 教えて貰おうかァ」
◇◇◇
時同じくして、とある廃墟ビルにて二体の呪いが偶然鉢合わせすることとなる。
「よう
一匹はハイパー・コング、ある計画を遂行する為、呪霊の仲間を集めるべく奔走しており、廃墟ビルに侵入した所呪霊と術師との戦闘に乱入する結果となる。術師はビンタ一発でノした。
(なんだコイツ?!……えっ 兄弟…?! 会いたかった…?! なんだコイツ?!)
もう一匹は廃棄物の呪い、名前はまだ無いが特級呪霊に指定されている。
廃棄物呪霊は困惑していた。何せ一級術師との戦闘中何故か急になんか薬物をキメたマネキンの様な呪霊が一撃で術師をぶちのめしこちらを兄弟呼ばわりしているのだ。正常な呪霊でないことは明らかである。
「えっ…とぉ…なんなんですか貴方」
「俺の名前は"ハイパー・コング"『えっ名前ダサ』殺すぞ……まぁ名前のダサさなんて後でどうとでもなる。さて本題に移らせてもらおう……
お前、俺と人間にならないか?」
◇ハイパー・コングの目的は…?
直哉CV:遊佐=ま、なるわな…
安定を超えた安定のチョイスで余り驚きがないんや