◇◇◇
「変です」
「変…?何がや?忌憚のない意見言うてみいや」
現在虎杖を東堂にぶつけた後、東京校メンバーは、真希・花沢・伏黒チームと釘崎・パンダ・狗巻チームに分かれ、伏黒チームは二級呪霊捜索の為区画内の森林の中を移動していた。
そんな中、伏黒が何か異変に気づき、花沢がその答えを求める。
「京都校の人たちほぼ全員がまとまって移動してる…虎杖とばらけたあたりだ…」
『
いや…二級なら余程狡猾でない限り玉犬が気付きます
『全員で固まる事自体が京都校の作戦だと思われるが…』
…その可能性も低いでしょう、二級を探し当てにくくなるデメリットが一塊で動くメリットに明らかに釣り合わない……
もしかして京都校の人達虎杖の事殺そうとしてるんじゃないスか?」
「なにっ」
「…あり得るな」
「なんだあっ」
花沢にとっては伏黒の余りにも飛躍した結論、そしてその結論に納得している真希に驚きを隠せない。花沢が置いてけぼりになってる間も二人は話を続ける。
「京都に属する呪術界の人間は保守派が多い傾向にある…楽巌寺学長の指示と仮定すれば何もおかしくない」
「で、学長は真依達に悠仁殺害の命令を下した…と」
「ちょっと待てっス、さっきから何スかその言い方?」
勝手に仮定を決めつけ、話を進める二人に我慢ならなくなり花沢が異議をもう立てた。少しピリピリした空気感の中、伏黒の玉犬は二級呪霊を捜索すべく周囲を嗅ぎ回っていた。
「数ヶ月間京都校で滞在して京都校の皆と接した事がある…それが俺です。
確かに少し…いやかなりこいつら性格悪いなって思った瞬間はあるが…それでも全員優しさはキレてたぜ。
そんなあいつらを目上の人間に命令されて同じ呪術師であるユーリを躊躇なく殺す様な人面獣心のクソ野郎呼ばわりされるのは我慢ならない」
「まぁ…そりゃお前にとっちゃそうだろうが…認識が違うんだよ、お前は悠仁や真依達と過ごしてきた日常があるからそう言えるが…
悠仁の事を知らない人間にとってのあいつは"宿儺の器"…呪術界の脅威以外の何者でもねぇ…真依達だって出来るなら殺したいって思う筈だ…
タフ、想像してみろ?万が一にも、"ハイパー・コング"が呪術師を名乗っている光景を…」
「うっ…………エグいなんてものじゃない」
具体例を交えた真希の説得によって花沢は簡単に腑に落ちる。腑に落ちた瞬間不気味な程急に花沢から京都校の面々への情けや擁護は消え失せ虎杖殺害防止の為伏黒と動く。
「はっきり言って幾ら冥冥さんの術式で操った烏の視界をモニター越しに五条先生達に共有させていると言っても、たかが十数体のカラスの視認範囲なんてめちゃくちゃ狭い。
京都校は恐らくユーリの殺害を烏の視界外で生じた不運の事故という体で処理させる腹づもりと考えられる。逆に言えば二日目の個人戦ではどんな方法でもユーリは殺されない筈なんだ、五条先生やおとんの目が光るんだ。
まっ そもそもこの団体戦でも今ユーリはアオヤンと絆を深めている筈だから殺されないだろうからバランスは取れてるんだけどね。あっ でも万が一ってこともあるから…恵、術式で二級呪霊を捜して祓って終わらせるでヤンs
『ビュッ』
パシッ ミキミキ…
おーっ 怖ィイ」
伏黒に指示をしている間に加茂の赤血操術によって無軌道を描く矢が花沢目掛けて高速で放たれたが血液の付着した矢尻を握り潰して粉々にした。
花沢達が作戦を共有しながら移動している内に京都校の面々と鉢合わせしていた。
三輪、加茂、新田弟、与、隠れて数百メートル遠くにいるが花沢達を射撃圏内に捉えている真依の計五人。
結果、真希が三輪・真依を、花沢が新田弟・加茂・与を相手取り、伏黒は二級呪霊の捜索に向かわせる。
それから戦闘が始まろうとしている中、新田弟が冷や汗を垂らしながら加茂に耳打ちをした。
(加茂先輩、伏黒先輩のこと止めんでいいんですか!?せめて矢で尾行させれば…あのままだと直ぐに二級呪霊が祓われて作戦が失敗するかもですし…そもそも真依先輩の援護射撃があるとは言え、西宮先輩一人であの茶髪ヤンキーとパンダ達は荷が重いんじゃあ…)
(新田、今は目の前にいる花沢に集中しろ。花沢は東堂…引いては乙骨と同等の化け物…私と与、お前が全力で迎え撃ったとしても勝率は良くて5割…今の私達に西宮を心配している余裕など無い、作戦通りやるぞ)
(は…はい…)
加茂は弓撃は無意味と判断したのか、矢筒ごと弓矢をその場に捨て、自身の血中成分を操作して身体能力を向上させる"赤鱗躍動"を発動。閉じていた闘志溢れる血走った紅い片目が花開き、与は呪力砲を撃つ準備をしていた。
対して花沢は冷徹な眼差しで仁王立ちしている。内心激怒している事は、青筋を立て骨を軋ませ、皮膚が白くなるまで握り締めていた両拳が物語っていた。
「三対一で勝負じゃあっ ……なぁ加茂さん 虎杖を…ユーリを殺すつもりって本当か?」
「虎杖悠仁を殺す…?何の事だ?そもそも殺す理由が無いだろう?」
「欺瞞だ…加茂家嫡男かつ馬鹿で無意味な程に真面目なお前が、"宿儺の器"が術師であることを簡単に認めるはずがない。」
(当たってる……)
「……馬鹿で無意味だと…?私から言わせてみればお前が御三家の呪術師として自覚が足りない腑抜けなだけだと思うがな、まずはそのふざけた喋り方を辞めたらどうだ?
…おい花沢、聞いているのか?」
「…………」
花沢の煽りに対して加茂もカウンターを喰らわせるも、花沢の瞳は虚で焦点が合っていない。身体も脱力し切っている。加茂の言葉に少しも耳を傾けていないことは明らかであった。
「おい花z
『……たぃ…なぁ……』
…ッッッ?!」
瞬間、加茂の本能が警告反応を示す。心の臓が位置を断定出来る程に鳴り響き、皮膚がズル剥けになったと錯覚する程に触覚が敏感となり、花沢以外のあらゆる情報を遮断した。
「新田!与!!構えろ!!」
「!!」
「はっ…はい!」
「……聞いてみたいなぁ……
"強い人"が生まれたばかりの赤ん坊のように怯え…泣き叫ぶ声を」
ド ソ
ブ
ワ
ア
ア
ア
花沢の"玄腿"によって繰り出される震脚。
大地を一踏みして衝撃を叩きつけた、まるで子供を叱る時の父親の怒鳴り声の様な強烈な音に、強制的に三人は意識を向けさせられる。
涼しい秋の日の昼……落ちた葉っぱは発勁でも喰らったかの様に宙を巻う。その舞い散る葉っぱを掻き分けて、花沢による呪力の放出攻撃"幻突"が視覚的に分かりやすく、その分恐怖を煽らせながら猛スピードで加茂目掛けて放たれた。
「くっ…!『ビュッ』なにっ」
加茂は間一髪で避けるも、既に加茂の目前には二発目の幻突が迫る。
「加茂さん!!」
直ぐに新田は加茂と"幻突"の間に割り込み、星の方陣を空中で描き、術式で"幻突"を固定する。
ミシシ…メキメキ
(ぐっ……お…重……!)
固定しても尚推進力と破壊力を併せ持つ"幻突"に新田は抑え込むのに力を使い身動きが取れなくなる。だが結果的に"幻突"を防ぐ事に成功。
視覚的に"幻突"のスピード及び発射方向が分かりやすくなっていたのが幸いしたのであろう。
ビュッ
「えっ」
「ばぁーっ」
しかし、その
本来目を凝らさなければ視認も難しい程の"幻突"。それを花沢は宙を舞う葉っぱを掻き分けさせて相対的に視認しやすくする様にし、東京の補助監督である新田姉から弟の術式情報を入手していた花沢は、新田に固定させる様に仕向けたのだ。
以下は、花沢が任務を終えた後の車内での新田姉との会話である。
〜
ブロロロロ~
「新田さん、この前大阪の任務に行った時に"窓"の人から聞いたんスけど…弟か妹さんいらっしゃるんスか?」
「え?あぁ弟が京都校で術師やってるっスよ、それがどうかしたんスか?」
「いや〜"窓"の人曰く、トラック位の馬鹿でかい呪霊に襲われそうになった時に颯爽と現れて、ボロボロになりながらも祓ってくれた新田さんの弟さんがめちゃくちゃカッコ良かったって言ってたっス!」
「え〜!新が?!マジっスか?!『マジっス』私この前会った時そんな話一度もされてないのに〜」
「新田さん、男には"語らぬ美学"ってものがあるんだ。カッコ良さが深まるんだ」
「うわ〜そっか〜…新が…か〜…」
「顔緩んでるっスy でーっ!新田さん前見ろっス!信号赤っス!」
「うわっと危ない危ない…でも…そっか〜…」
「術式が特にカッコよかったって言ってたっス」
「え〜カッコいい〜?!あの
「なんやりって何スか…w」
「ごめん私もちょっと分かんないっス…wテンションが今ちょっと…w」
(ククク…チョロすぎぃ〜〜〜っ)
〜
「ヒャハハハハ!死ねぃ!」
与の
ビュソビュソ
「こ…これは……」
(私の血液が付着した矢尻の破片か?!)
花沢は加茂の矢尻を手で荒めに粉砕して飛び道具にしていた。
加茂の血が満遍なく付着し、放たれた
(くっ………!背に腹は……!!)
加茂は瞬時に新田に当たらぬ様に赤燐を操作、しかし赤燐に意識を向けている状態の加茂を花沢が無視する筈が無く、即座に接近して拳の
ボボボボボボッ
「ぐっ…ぐぅ……カハッ!?」
「しゃあっしゃあっしゃあっしゃあっ」
身体の芯に響き渡るコンビネーションに加茂は大量に吐血、更に陰湿なのは敢えて加茂を吹き飛ばさないようにして攻撃する事で与にフレンドリー・ファイアを引き起こす危険性を孕ませている。
「くっ…"百歛" "s
『バキイッ』
うぐっ…
『発動が遅いんじゃあっ しゃあっ "破心掌"! ドソッ』
ッッ………ガハッ……」
ビチャビチャ……パタタ……
加茂は悪足掻きなのか穿血を放とうとするも、百歛というタメを突かれ、両手を蹴り上げられ、"破心掌"を打ち込まれる。加茂はその場に白目を剥いて倒れた。
勝負が決したと思った花沢は与と新田の方に顔を向ける。
「さて…これからは…"二人を相手に喜一が闘う"ということd
『トスッ』
……な…なにっ」
自分のすぐ横で軽い音が鳴り花沢は顔を横に向けると、まるで既に身体の一部かの様に自然と肩に矢が刺さっていた。矢尻に加茂の血液が付着した矢だ。
加茂は弓矢を捨てるというパフォーマンスを花沢に魅せつけて弓撃の選択肢を抹消させた。
しかし実際は、加茂は妥当花沢の為予め森林の木々の枝の別れ目に矢を設置して、花沢を近くに来るように誘導させていた。
少し推進力は落ちるものの弓が無くとも加茂は赤血操術で矢を操れるのだ。
「私は加茂家嫡男…二人共……後は頼んだ…ぞ……」
今度こそ加茂はその後の戦闘を二人に託して気絶した。しかし、花沢はゆっくりと邪悪に口角を上げる。
「はっきり言って肩に矢が刺さった所でめちゃくちゃしょぼい。頸動脈の致命傷を狙ったんだろうけど外れてるから話になんねーy
『ドクソッ』
はうっ」
先程まで余裕な態度を見せていた花沢の様子が突如として急変する。目をかっぱらいたかと思えば、目眩がするのか身体が揺れてその場で嘔吐する。
「おげえっ おがあっ…『ビシャシャ』…こ…この症状はま…まさか……
抗原抗体反応……?」
抗原抗体反応とは…
生物体に異物(抗原)が侵入した場合に,これに応じてリンパ細胞などで作られる抗体(免疫グロブリン)と抗原との特異的な結合によって生じる反応である。この反応は異なる血液型の血液の体内への混入の場合にも発生する。
例えばA型の人にB型の血液を輸血すると、B型の血液の中に入っているA型の型物質に対する抗体という物質があり、それと、その型物質が反応してしまい、赤血球同士が全部くっ付き合う。その結果、赤血球が壊れてしまう。
発熱などの軽い症状から、溶血・急性腎不全のような重篤な副作用を起こし、生命が失われてしまうことさえあり得る。
(ま…まずい…ユウータなら兎も角、俺の反転術式の精度では治すどころか、加茂の血液を取り込んで余計症状が悪化する…かと言って"総身退出毒印"も……)
「降参するなら今ですよ」
「心配するな…今すぐお前を倒して家入の元へ連れていく」
(そんな暇を与えてくれる訳が無い!!)
「負ける気もないしましてや降参する筈ないだろ……ば…バーカ!」