JUTOUGH   作:魚の肝

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BATTLE.22 ゼンイン・シスターズ

 

 ◇◇◇

 

 「お前、禪院真希だな?虎杖悠仁の居場所を教えてくれよ」

 

「誰だおっさん、そんなパンクな格好して森の中を練り歩いているなんて飛んだシュールな絵面だな。迷子になった脳みそスカスカの馬鹿なヤリチンかと思ったぜ」

 

「うるせーっ 寺の坊主もクリスマス祝ってケーキ喰らう時代だ バカヤロー」

 

 その呪詛師……"アギーラ池上"は手袋を外し、なまじ人間のそれとは思えないほどに悍ましい…ボコボコしている黒ずんだ悪魔の様な両手…"デビル・ハンド"を真希に覗かせていた。 

 

 「おらっ さっさと教えろよ、こっちだって女に荒い事したく無いんだよ」

 

 アギーラはそう言うとデビル・ハンドに呪力を籠め、蒼い炎を拳に纏うがまだ構えていない……戦闘スタイルを直前まで悟られないためであろう。

 

「不審者のおっさんに教えてやるわけ無いだろバーカ!もう少し考えて物言ったらどうなんだお前大丈夫か?バカみたいなドレット・ヘアーに栄養いっちゃって脳みそスカスカなんじゃねーの?」

 

 真希もアギーラを愚弄しながらもどのタイミングでも対応できる様に神経を研ぎ澄ます。 両者の間に"魔会い"が生まれる。

 

 「お前随分と口が汚いな、あん?家に帰ってママに仕上げはお母さんしてもらえよ」

 

 「全然上手い事言えてねーし意味わかんねーよお前、ママと一緒に日本語のお勉強し直してこい」

 

 「あんまりそうイキんない方がいいぜ、なんせお前は数分後命の保証と引き換えに泣きべそかきながら虎杖の居場所を馬鹿の一つ覚えみたいに連呼するんだからな…あっ訂正だ、馬鹿の一つ覚えみたいと言ったが実際お前はただの馬鹿だ」

 

「手は汚いし頭も悪い、その上妄想癖ときたもんだ…このまま生きてても可哀想だから私直々にこの世から退場させてやるよ」

 

 ブチッ

 

 「やってみなあっ 解体してやんよっ」

 

 ビュッ

    

 真希とアギーラによるレスバを終え、アギーラが真希を直接そのデビル・ハンドでぶちのめさんと仕掛ける。

 

 ビュソビュソ

 

 (なにっ)

 

 「しゃあっ」

 

アギーラが近接戦闘を行うタイプと察した真希の高速かつ巧みに振り下ろされる薙刀が繰り出される。真希のフィジカル・ギフテッドと遠心力との相乗効果で薙刀の先端は三日月の様に歪み、冷徹無比に命を刈り取る死神をアガーラは脳裏に浮かばせながら、真希の神懸かりとまで思えてしまう身体能力に冷や汗を垂らしながら驚愕していた。

 

 (速ェ!間一髪でしか避けることができない…刃が俺の側を通る度に新幹線が通り過ぎるかの様な爆音が鼓膜を叩いている……一発でも喰らえば俺の身体が面白いくらいに二つに分断されると告げている………だが!)

 

 真希の薙刀アギーラを独特なリズムを刻むステップで躱しきり、薙刀を扱うには悪手と言えるまでに真希との距離を詰めていく。

 

 「しゃあっ」

 

ボボボッ

 

 そして、低姿勢となり真希の懐に潜り込んだアギーラが顔面目掛けてジャブを放つ。本来ならば本格的な攻撃ではなく悪魔で相手との距離感を掴む役割を持っているジャブは、鉄の壁をも破壊するデビル・ハンドによって悪魔的なまでの初見殺しに昇華していた。

 

 予備動作が全くない状態から放たれるそれは、常人の場合突然アギーラの拳が大きくなったかと思ったら顔面に衝撃と激痛が走る──言うなれば神速の一撃である。

 

 

 ヒュッ

 

 (なにっ?!)

 

「おせぇんだよ」

 

ドゴォッ

 

 「はうっ」

 

しかし真希は天与呪縛の身体能力でそれを楽々視覚に捉え、自身のコメカミを素通りさせる程の最低限の動きでジャブを躱し、カウンターの右ストレートを攻撃の打ち終わりで隙の出来たアギーラ目掛けて放つ。

 

 アギーラはジャブを避けられた瞬間に真希の攻撃する瞬間を見るまでもなくバックステップを行う。

 

 そのバックステップで真希の右ストレートをある程度殺す事に成功するも、ダメージは余りにも膨大であった。

 

 「おげぇっ おがあっ」

 

ビシャジャ……ドロッ

 

 アバラの骨を何本か損傷し内臓にもダメージが通っている。アギーラの口内から血反吐と謎の赤い塊を吐き出して歯の間を痛々しく紅に彩っていた。

 

 

 

 しかし、肉体的損傷を負ったのはアギーラだけでは無かった。

 

 

 

 

 ボボボパチッボボ

 

 (なにっ 炎?!)

 

真希のアギーラの拳を近くで躱した側のコメカミが蒼炎で燃え盛っていた。

 

 アギーラの術式"焦眉之赳"が発動した。

 

 本来、アギーラの術式は"刀に炎を纏う"と言う、獲物を持つことが必須条件でありながらそこまで性能としてのメリットも無い様なパッとしない術式であった。

 

 しかし、ボクシングにおいてグローブをはめた状態でさえ相手の顔をパックリと裂けさせる事がある…言わば切れ味のある、"加速している状態の拳や足、身体"を"刀"と解釈して術式を拡張──

 

 結果として山火事程度であれば皮膚一つ焦げない程の炎の耐性や、蒼炎を身に纏うといった、術式を使用している状態としていない状態の視覚的情報の少なさによって発生する術式発動タイミングを悟らせない隠密性、刀を経由しない事による0.数秒単位のラグの解消や呪力と術式の出力上昇を実現した。

 

 「クッ…」

 

真希は頭を高速で振り揺らして炎を掻き消す。アギーラも深呼吸しながらも不敵に笑いファイティング・ポーズを取った。

 

 「ククク…有り難く思いな、地面に肉片を打ち付けられる無惨で無様な死に方をする呪術師が多い中、"火葬"という真っ当な死に方をさせてやるよ」

 

 「地面に肉片を打ち付けられる無惨で無様な死に方……?数分後のお前の事か?まぁそんな事しなくても今のお前は十分無様だぞ」

 

「ククク…酷い言われようだな、そんな無様な俺にお前は殺されるんだ悔しいだろうが仕方無いんd

 

 

 『パァソ』

 

 「なにっ」

 

 「は〜いお疲れ、解散解散」

 

 

 

 

 

 スタッ

 

 木の上から拳銃を持った真依が木の枝にぶら下がって衝撃を殺した後着地する。

 

 ジャキソ

 

 ドォソドォソドォソ

 

 その後真依はアギーラの側に歩み寄り、トドメと言わんばかりに銃弾を更に3発アギーラの脳天に叩き込む。アギーラの頭は痙攣して血が壊れた蛇口の様に静かに広まっていく。

 

 

 「随分と手こずってたわね真希」

 

「真依…お前最初から見てたのかよ」

 

真希がそう言うと真依は澄まし顔で銃弾をリボンバーに込めている。

 

 「まぁね、あの呪詛師の呪力量からして全快の状態で撃っても簡単に避けられて警戒されるのは分かっていたから、だいぶ弱ってる状態かつ真希と距離が離れるタイミングを伺ってたの。」

 

まるで(最初からいるなら直ぐに援護してくれよ……)といった真希の厚顔無恥で傲慢であるが故に言い出せない文句を見透かすかの様に真依は話しかける。

 

 小さい頃は自分にピッタリくっついて来て、『置いていかないでよ』とまで言っていたのにのに今ではもうすっかり『勝手に置いてってくれて構わないわよ』と言われたかの様に真依との間に距離があるのを感じる。

 

 これを真依自身の独立と捉えるか、花沢の存在出現による自身の興味の薄れなのかはしれないが、真希は複雑な感情を抱えていた。

 

 

 「さっ、早く帳の元凶を叩いてその火傷を家入さんに治して貰うわy

 

 

  『ビュッ』

 

 なにっ?!」

 

 「ッッッ!!」

 

 先を急ごうとした真依に血塗れのアギーラが拳を振るう。

 

 真依に不意打ちで撃たれたのあの時、アギーラの脳は銃弾が頭部に被弾する瞬間に銃弾を認識して術式を発動、"加速した切れ味のある銃弾"を"刀"と術式を拡張。肉体が耐えきれない程の炎を纏わせる。

 

 更に"術式の燃焼効果を銃弾のみに絞る"という"縛り"によって術式効果上昇および肉体の損傷を防いだ。

 

 結果として真依の4発の銃弾を脳に到達する前の頭蓋骨の段階で燃焼仕切らせて消滅。後半に撃たれた3発の際は、血反吐を吐いてさも脳天を撃ち抜かれて頭から血が出ているかの様に偽装していた。

 

 決して神が引き起こした偶然などではない。アギーラ(悪魔)の肉体と精神の実力による必然であった。

 

 (俺は神は信じない………俺の運命は俺が決める………)

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ────神はこの世にいない、万一存在したとしても、ある人間にはありとあらゆる才能と素晴らしい環境を与え、ある人側には劣悪な環境と下劣な能力しか持たせない……暴虐無尽で理不尽……人々に崇め奉られる高尚な存在なんかじゃない……!!───

 

 幼少期にしてその様な思想を抱えたアギーラ池上は、かつて宗教系の学校に籍を置いていた。家系は非術師の家系で、四歳の頃に術式が暴発。業火に晒されたドス黒いデビル・ハンドと、周りには見えない呪霊の存在を親や友達に言いふらした結果……怪奇現象に襲われた"悪魔の子"と揶揄され、忌み嫌われる存在となった。

 

 

 

そんなアギーラの前に優しく手を差し伸べたのは、当時同級生の小倉優希であった。

 

 「皆んなから虐められて蔑まれて…痛々しくて涙がでちゃうよ」

 

「小倉さん……」

 

彼女は、自分がデビル・ハンドと愚弄され虐められていた中、いじめっ子をボコして躊躇なく自分の手を取り、涙を流してくれた。神を愚弄していたアギーラも、この時ばかりは神への感謝で胸を満たした。ただ哀れまれただけ、それだけでもアギーラにとっては大きな救いとなったのだ。

 

 そこからアギーラは身体を鍛えた。緻密に練ったトレーニング・プランをこなし、デビル・ハンドが血豆だらけになって更にボコボコになろうともスパーを続け、ボクシングの県大会で優勝してしまう程に。

 

 全ては小倉に報いる為。優勝した後フラれるかもと思いながらも直ぐに小倉に告白した結果、見事OKを獲得した。

 

 全てが上手くいっている─しかしアギーラが神の残酷さを再確認するのはそう短くはなかった。

 

 「はうっ」

 

「なにっ」

 

デートの最中小椋が倒れた。診断の結果、小倉はバースト・ハートなる心臓病を患っていたらしい。アメリカで治療方法はあるものの費用は何十億もかかるらしい。

 

 そしてアギーラは藁にも縋る思いで高給な仕事やバイトを探して片っ端から申し込んだ結果闇バイトに引っかかる。最初こそ薬物の持ち込みのみだったものの、その戦闘能力の高さから裏社会の賭け試合の参加や用心棒へと昇格。そこから自分以外の呪力の存在を知る人間と出会い呪詛師へ……と、手に入る金の量に反比例するかの様に、アギーラは深い闇の底へ身を沈める。

 

 

 

 "こんな薄汚れた金で小倉は決して喜ばない"

 "こんな事をしていたらいつかロクな目に遭わない"

 

 そんな事は分かっている、しかし、そう傍観しているからといって神が魔法で小倉を治したりはしない。ただもがき苦しむ自分を悍ましく微笑んで楽しんでいるだけだ。

 

 そして、バースト・ハートで小倉が倒れ一年後、小倉のタイムリミットが一ヶ月を切り、治療金額がやっと半分しか貯まっていない現状を絶望して嘆いていた所に虎杖悠仁に5000万ドルの懸賞金をかけられている事を知り、タイガー・ラッシュに参加した。

 

 ─彼女が優しく包み込んでくれたこのデビル・ハンドで、彼女を地獄から救い出す───

 

 その時のアギーラ池上のデビル・ハンドの握りしめる音が、今までの金のほとんどを優希に費やしたことを投影するかの様なボロアパートに、不気味な程に心臓に響いていた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「真希?!」

 

「チィッ」

 

真希は真依の元へ飛び込んでアギーラの拳から己の身を盾にして守り、真希の身体に炎が燃え広がっていった。

 

 「私の事は心配すんな、目の前のコイツをやるz

 

『バサァッ』

 

なっ?!」

 

真依は上着を脱ぎ真希の燃えている箇所に被せて鎮火する。因みにちゃんと下にタンクトップを着ている。

 

 「目の前でアンタが燃えてんのに私が気にしないで闘えるワケないでしょ馬鹿なの?!」

 

「真依………」

 

 そう説教する真依を見て真希は微笑む。

 

 「てっきりもう私なんかどうでもいいとか思ってたが…杞憂だったみたいだな……」

 

「杞憂って…そんなの当たり前でしょ…姉妹よ私達」

 

そう軽口を叩き合い接近するアギーラに向かって両者が構える。

 

「足引っ張んなよ」

 

「こっちの台詞よ」

 

「う お お お お お お あ あ」

 

 

◇この勝負の行方は…?!

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