もしも袁術に妹がいたら   作:なろうからのザッキー

16 / 26
袁術軍と孫呉

姫羽と華雄は馬を全速で走らせる。

兵は連れてゆかず姫羽と華雄の二人だけにしたのが幸いだった。

どちらも馬の扱いは非情に長けており一分一秒も無駄にすることがなかった。

 

「間に合った・・?」

 

城門前はとくにいつもと変わった様子が無かった。

辺りからも戦闘の音などが聞こえない。

どうやら本当に間に合ったようだ。

 

「はあ・・危ないところでしたね」

 

華雄からも珍しく安堵の声が漏れる。

 

「今は余裕がないわ。すぐに呉軍を迎え撃つ準備を進めるわよ!」

 

「はっ!」

 

 

 

少し時間はさかのぼる。

そこでは武装した賊軍の集団と相対する呉軍。

 

「大丈夫よ。ここに袁術の見張りはいないわ」

 

「はっ」

 

孫策にそういわれると賊軍の隊長であった男が片膝をつく。

 

「でもまさかこうもうまくいくとはね・・姉様」

 

賊軍のなかから男装していた孫権が現れる。

自分が孫権であることを悟られるわけにもいかず、目立たないように男装し兵たちのなかに潜んでいたようだ。

そのため当然賊だと思われていた兵たちは賊に扮した呉の兵たち。

その中からぞくぞくと現れる呉の重臣たち。

 

「ついにこの時がきましたね」

 

「長かったですからね。でもついに呉が復活するときがきましたね!」

 

孫権のそばには甘寧と周泰が現れる。

今この場には孫策、周瑜、陸遜、黄蓋、孫権、甘寧、周泰がいた。

 

「さて、早速向かうわよ!」

 

孫策がそう号令したとき

 

「まって!雪蓮姉様!蓮華姉様!」

 

兵たちの後ろから幼い声が響く。

彼女は孫尚香。呉の孫三姉妹の末娘だ。

 

「シャオ!あんたなんでここに!?誰が連れてきたの?」

 

「ううん、私が勝手にここに来たの。

私たちが長い間煮え湯を飲まされて、ようやく呉が日の目を見れる時がきたんだよ?

そんな大事なときにどうして私だけ仲間はずれにされるの?

ひどいよ!」

 

「シャオ。あなたは何がなんでも生き残らなければいけない存在なの。

もし、私や蓮華そしてあなたが死んだら私たち孫家の血が途絶える。

だからこそ途絶えさせるわけにはいかないの。

あなただけでも生き残れば呉は滅びない。

安全に、そして生きる事が貴方の大事な役目なのよ」

 

「それはわかってる・・わかってるけど納得できないよ!

シャオだってお姉様たちの役に立ちたいの!

いつもいつもシャオだけ安全な場所でみんなの帰りを待ってきた・・辛かった。

自分だけが無傷で、みんなが傷ついて帰ってくる姿を見るシャオの気持ちわかる?!」

 

孫尚香は必死で姉たちを説得する。

いつも笑顔を向け天真爛漫な彼女。

だが彼女もやはり孫家の一員であった。

孫策や孫権が向ける呉の復活への渇望を彼女も同じぐらい持っているのだ。

 

孫策や孫権のように復活を口には出さないがいつでも戦いに赴けるように勉学も武の研鑽をかかさなかった。

そんな彼女を知っているため皆は何もいえなかった。

準備だけを徹底し本番だけが決してこない。それがどれだけ辛いか?

幼い彼女にそのような仕打ちはかわいそうではないか?

呉の将たちが孫策に目をむける。

 

「・・・」

 

孫策はなにも語らない。

 

「姉様」

 

「蓮華。あなたは死ぬ覚悟はある?」

 

「もちろんです。そして死ぬ気もありません」

 

「シャオ」

 

「私もだよ!お姉様!シャオはどんな目にあったって生きるよ!」

 

「戦場は本や物語のような優しいものじゃないわ。

あなたはそんな現実の場所へ赴き、武器を手に戦うことができるか?」

 

「できる!」

 

「なら勝手にしなさい。

私は手を貸さないわよ?」

 

「うん!」

 

孫尚香はニコリと笑顔を向ける。

そんな彼女の頭を孫策は優しくなでる。

彼女もきついことを言うが孫尚香を愛していた。

だからこそ彼女には危険な場所へ行って欲しくなかった。

血の存続のこともあるが本音でも建前でもどちらも同じだった。

 

「さて、余計な時間をとっちゃったわね・・」

 

「まったくだ。だがここに孫家の三姉妹がそろったのだ。

兵たちの士気は最高潮だ。これならいけるぞ!」

 

「よーし!ならいくわよ!

孫呉の兵たちよ!時は来た!

今こそ呉の命運を分ける戦いにその身の獣を解き放て!進軍!!」

 

「おおおおおおお!!!」

 

 

 

「来たわね」

 

姫羽は城壁の上で迫り来る呉軍を見下ろしていた。

敵は約一万五千。対してこちらの城内には約八千。

農業のために兵を割きすぎたようだ。

 

「身を屈め敵に姿を見せないように!

敵にはまだ私の存在を悟られていないわ」

 

城壁の上にいる弓兵たちは一斉に姿を隠す。

そして敵の接近を待つ。敵は恐るべき進軍速度でこの城へとやってくる。

それだけで敵の士気の高さが伺える。ならばその士気を砕く。

 

「・・・放て!」

 

姫羽自信も弓を引き矢を放つ。

敵はその一斉射撃にその行軍を止める。

そして孫策が南海覇王を抜き切っ先を城壁の上の姫羽へと向ける。

 

「さすがね、袁燿。

貴女はいつもいつも私たちの前へ立ちはだかる。

貴女がいなかったらもう10回はこの城を奪えていたわ」

 

「それは言い過ぎね。私がいなくともこの袁術軍には張勲がいるわ。

彼女が私の代わりに守ってくれる」

 

「それこそ言い過ぎね。張勲は貴女が思っているほど有能じゃないわ。

確かに私が思っていたよりも彼女はよく働いた。

でもそれは貴女がいたからこそよ。

 

貴女が彼女の心の薬になっていた。

張勲一人ではとっくに心が潰れていたわ。

そして今よりもっとダメになってたでしょうね。

貴女がいたからこそ、心を保ちそして共に力を合わせたからこそ予想以上の能力を発揮したのでしょうね」

 

「ふふ、七乃を高くかってくれるわね。

そしてそれは私も同じ。そんな彼女とお姉様の居場所は奪わせない。

こそこそ人の空き巣を狙うような虎ならぬ泥棒猫に私たちの大切な場所を奪わせない」

 

姫羽も弓矢をその場に置き孫策と同じように剣を抜き切っ先を孫策へ向ける。

 

「ならやりあうしかないわね。

その大切な場所、私たちの大切な場所にさせてもらうわ」

 

孫策がその美しいながらも切れ長な目を細め姫羽を睨みつける。

 

「いいかげん貴女は目障(めざわ)りなのよ。

いつもいつもお姉様にその不敬な目を向けて」

 

姫羽も美しい大きな瞳を細め孫策を睨みつける。

両軍に一触即発の空気が流れる。

 

「聞け!勇敢なる呉のものたち!」

 

孫策が呉の兵たちを鼓舞し始める。

彼女の圧倒的なカリスマによって呉の兵たちが高らかに咆哮をあげる。

 

「おおおおおおおーー!!!!」

 

だがすぐにその声は悲鳴へ変わる。

 

「き、奇襲!奇襲です!!」

 

「なに!?」

 

突然の奇襲。

まさに絶妙なタイミングであった。

 

「この時を狙ってたのよ!ぬかったわね孫策!」

 

「袁燿!!」

 

「っはっはっは!孫策!

姫羽様に一本取られたようだな!」

 

「奇襲部隊は華雄か!」

 

姫羽は孫策ならば確実に兵たちを鼓舞するだろうと踏んでいた。

そして孫策は予定通り鼓舞を始めた。

彼女の忠実な兵たちの視線はまさにその一点となった。

そして最高潮に達し、兵たちが全員で声を高らかに上げたときが華雄が突撃するタイミングであった。

華雄は姫羽に言われた通りその時だけをひたすら待っていた。

 

「くっ、敵を迎え撃て!甘寧!あなたは反転し華雄へあたりなさい!」

 

「それには及ばん!」

 

呉軍が反撃へ転じようとしたとき華雄の方がすぐに反転し始めたのだ。

そしてそのまま遠ざかっていったのであった。

 

「これは私たち袁術軍と孫呉の長きにわたる戦い!

華雄もいまは袁術軍とはいえこの場に相応しくないわ。

だから退場してもらったわ」

 

「そんな手に乗ると思うかしら?

甘寧!あなたはそのまま華雄の見張りをしなさい!

やつは千人近い兵を持っていたわ」

 

「そのまま疑心暗鬼に陥るが良いわ!」

 

「さあ!戦いを始めるわよ!」

 

こうして姫羽と孫呉の戦いが始まった。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。