もしも袁術に妹がいたら   作:なろうからのザッキー

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今回いろんな作品やゲームからアイディアを取り入れ、私なりに書いてみました。
一番色濃くでているのはやっぱり龍が如くかな?
今龍が如く5やってるんですよね。
あんな風にかっこいい台詞を書きたいです。



最強

「恋殿、ついに袁術軍が来ましたぞ」

 

「・・・コクッ」

 

城の前の平原には大軍の袁術軍。

兵数は三万にも及ぶだろうか?

対してこちらは五千。

兵たちの中には震えているものがそこかしこにいる。

やはりこの戦力差は大きすぎるだろう。

 

それに兵糧が不足しているため兵たちに節制を勤めてきた。

腹八分どころか六分といったところだろう。

物足りなくとも死ぬ事はない量だ。

しかしそれでもまだ良い方だ。

普段から大食漢の呂布に比べればいいほうだろう。

一般のものの六分は呂布にとって何分だろうか。

 

「この曲面は今までの戦とこれからの人生で出会う戦の中でもまぎれもない苦戦必死の戦でしょうな。

だからこそねねと恋殿にとっての糧となるのです。

幸い敵は袁術と張勲のみですぞ。

恐らく袁燿がいなくとも勝てると敵は油断してるのです、そこをつきましょう」

 

陳宮と呂布が城壁から平原を見下ろし敵の戦力を見る。

厳しい戦いと為る事に冷や汗を流す陳宮をあざ笑うかのように美羽と七乃は涼しい顔で兵たちの中から出てくる。

 

「呂布よ!そちたちと妾たちの戦力差はわかっておるかの?

いさぎよく降伏するのじゃ。そうすれば少しは良き裁量をくだしてやるのじゃ」

 

「そうで~す、それにそちらは兵糧も枯渇しているみたいじゃないですか。

こっちはこのまま包囲するだけで貴方たちに勝てるんですよ?

無駄に抵抗するより降伏したほうが少しは苦しみが減りますよ」

 

美羽と七乃は余裕の笑みで城壁の上の呂布と陳宮に話しかける。

 

(確かにこちらはこのまま何もしなければ兵糧が尽きて何もしなくとも瓦解(がかい)するです・・)

 

陳宮はまだ若輩ながらもこのまま何もしなければ負ける事が確定している未来ぐらいは予見できる。

ならば何かしなければと必死に考えをめぐらす。

そして陳宮はひとしきり考えた後、声を張り上げる。

 

「こちらこそ兵糧が不足気味だということは自覚しているのです!

しかしそれなりに城に篭れるぐらいの兵糧はあるのです。

そっちは遠征軍!そちらのほうが城に篭られる方が困るのではないのですか!」

 

陳宮のその言葉に七乃は余裕の笑みを浮かべる。

 

「こっちはそちらと違って貧乏ではないで~す♪

三万人が一ヶ月は食べれるぐらいの余裕をもってま~す。

どうですか?諦めて降伏するのが賢明だと思いますよ」

 

その言葉に陳宮はにやりと笑みを浮かべる。

そして城内の兵たちに高らかに声を上げる。

 

「皆のもの!ねねはしっかり聞いたのです!

敵は三万人が一ヶ月食べれるほどの兵糧を持っていますぞ。

勝てば我らはお腹いっぱいご飯が食べられるのですぞ!」

 

その言葉に兵たちは喜びの声を上げる。

 

「飯だ!飯が腹いっぱい食えるぞ!」

 

「久しぶりの満腹だー!」

 

「そうですぞ!皆がお腹いっぱいご飯を食べられるですぞ!」

 

「・・・ちんきゅ」

 

「恋殿もお腹いっぱいご飯が食べられるですぞ!

もう空腹に苦しまなくてもいいのですぞ!」

 

「・・おなかいっぱい、幸せ」

 

城内からたくさんの声があがる。

満腹になるほど食事をとれるのはそれほどまでに幸せなことなのだ。

五千人ならば毎日しばらくの間節制とは無縁だろう。

兵たちの士気がみるみるあがっていく。

 

「あちゃ~・・そこまで敵は兵糧が不足していたんですか。

美羽様ごめんなさ~い」

 

「構わぬ。名族の我らにはわからぬ悩みなのじゃ」

 

敵の士気を上げたことに七乃は少し表情を曇らせるが美羽はそんな事気にしない。

負けるはずがないのだ。だから美羽はいつもと変わらぬ態度だ。

 

「七乃。早くこんな戦を終わらせて帰るのじゃ。

妾は天幕ではあんまり寝られんのじゃ。

だから早く終わらせて帰るのじゃ」

 

「は~い♪では皆さん。戦いの準備を始めますよ~。

とはいっても所詮敵は寡兵。包囲を中心とし防御体制で井蘭(せいらん)で敵兵を減らします」

 

七乃の合図に戦いの準備を始める。

井蘭に兵が配置され弓矢の装備中心での攻めだ。

 

「突撃ー!」

 

こうして戦いが始まった。

井蘭が続々と城に近づいていく。

一列に綺麗に攻め入る。まさに体制のとれた華麗な形だ。

そして井蘭が城門前に到着した。

 

「敵は少数。城を防御につかい戦うしかありません!」

 

七乃はそう判断した。

圧倒的な戦力差なのだ。城を使わなければまともに戦えないはず。

だが突如として城門が開く。

 

もちろんそこにはあの女がいた。

 

「・・いく」

 

呂布が五百名の兵を伴い出撃したのだ。

 

「そんな!?この戦力差で戦うの!?

無謀すぎる!どうせそんな寡兵成す術も無くすぐに蹴散らせる!」

 

だが呂布たちの狙いはそこではなかった。

後続の兵たちは松明をもっていたのだ。

 

「呂布殿!そして前衛のものたちは兵をお願いするです!

後衛の兵たちは井蘭を燃やすのです!」

 

陳宮が城門の内側から叫ぶ。

その命を受け呂布たちは井蘭の近くの兵へ攻撃を始める。

呂布たちが兵を受付その隙に松明で井蘭へ火をつける。

当然木で作られている井蘭はすぐに燃え上がりその火は最上階にいる兵たちを焼く。

 

「井蘭さえ無くせば敵は城壁からの進入をあきらめるのです!

全てを燃やしつくすです!」

 

みるみるうちに井蘭が燃やされその数を減らしていく。

 

「何をやってるんですか!てきの攻撃部隊を早く倒してくださーい!」

 

七乃の悲痛な声があがるがそんなにうまくことが運ばない。

直接戦うものにしかわからない恐怖があるのだ。

 

「つ、強すぎる・・・」

 

「ダメだ!まともにやりあうなんて馬鹿げてる!」

 

「呂布がこっちにきたぞー!!」

 

反董卓連合を経験したものならば誰もが知っている呂布の強さ。

袁術軍にとって一番強いのは周知の事実である姫羽なのだ。

その姫羽でさえも軽くあしらった呂布。

接近をゆるせば瞬殺されるのだ。

 

そして今回の呂布はいつもよりも強かった。

それは・・

 

「な、なんだあの馬は・・」

 

まるで血のような真っ赤な馬に跨っているのだ。

呂布はその馬を自分の手足のように扱っているのだ。

馬自身も呂布のように戦いが好きなのか自身の足を使い後ろにいる兵を蹴飛ばしている。

蹴飛ばされた兵の体は穴が空くほどの蹄のあとがついている。

 

呂布は下邳で馬小屋にいるこの赤い馬に出会った。

彼女はまるで一目惚れしたかのようにその馬に吸い寄せられた。

話を聞けばこの馬は非情に気性が荒いらしく誰も乗りこなす事が出来なかった。

だが呂布は違った。普段からたくさんの動物に触れ合ってきた彼女はすぐに乗りこなしたのだ。

馬の方も彼女が来るのを待っていたかのようにすぐになついた。

 

「・・すごい」

 

呂布は心地良い風を感じていた。

この馬はとても速かった。

苦戦気味のところを見つけたらすぐに呂布はそこに手だすけに訪れる事ができた。

袁術軍の兵もさきほどまで遠くで戦っていた呂布がもう目の前にいる現実に恐怖した。

 

「ば、ばけもんだー!!」

 

「来るなー!」

 

袁術軍の兵たちの戦意が確実に低下していた。

呂布を中心にだれも近づけなくなったのだ。

だが強いのは呂布だけではなかった。

 

「呂布様!敵もあっけないものでございますな!」

 

「我ら一同決して敵に引けを取りませぬ!」

 

それは呂布の親衛隊たちであった。

官軍であったころから呂布に付き従ってきたものたちだ。

幾度も呂布の無謀な突撃に付いてきており、そして生き残ってきたものたちだ。

その強さはそこらの兵とは比べ物にならなかった。

この事実に七乃は愕然とした。

 

「あ、ありえない・・こんなことって・・こんな馬鹿なことって!」

 

七乃の表情が青ざめていく。

井蘭が全て破壊された。

確実に呂布一人の力で無力化されたようなものだ。

 

呂布の強さはこの時完成したのだ。

もはやその強さは従来の戦の方法が通用しなくなっていた。

 

「な、七乃・・大丈夫かや?」

 

「・・大丈夫だと思います」

 

「本当かの?」

 

「呂布も所詮は人間です。体力が尽きたときがこの戦が終わるときです」

 

だが七乃の期待は裏切られた。

呂布たちが井蘭をすべて破壊し終えたらさっさと城内に戻っていったのだ。

 

「敵は城内に篭りました!こうなったら包囲はやめて攻撃に移ります!

前進してください!」

 

七乃のその命に兵たちが動揺し始める。

 

「なにやってるんですか!前進!」

 

兵たちはしかたなくといった様子で前進を始める。

だがその時また城門が開いたのだ。

 

「呂布がまたきたぞー!!」

 

兵たちにまた動揺が走る。

今度は松明をもった兵がおらず全員が攻撃を始めた。

 

「そんな寡兵すぐに蹴散らしてしまいなさい!」

 

七乃のその命に兵たちは攻撃を始めるがなかなかうまくいかない。

士気の差が雲泥なのだ。

だが呂布たちは一当てするとすぐまた城内に戻っていった。

 

「また城内に篭った・・?」

 

そして七乃が前進の命をだすと呂布たちはまた出撃してきたのだ。

攻撃をしてすぐに戻るために呂布に疲れがたまる前に戻り、回復して出てくるために呂布の強さは常に保たれていた。

 

「ぐうぅ・・」

 

七乃にも敵の考えは読めていた。

近づけば呂布が出てくる。だから兵たちに前進の命を出すたびに兵たちの士気が下がる。

しかし兵を前進させなくても呂布は討って出て来たのだ。

近づいてもダメ、何もしなくともダメなのだ。

このまま夜になれば確実に敵は夜襲をしかけてくるだろう。

そうなれば兵は常に恐怖に怯え続けるため休む事も出来ない。

敵の兵糧が尽きる前にこちらの兵がもたないだろう。

 

「何か策を考えなくちゃ・・」

 

七乃が目を瞑る。だが七乃の頭は激しく混乱していた。

何も思い浮かばない。

そんな七乃に美羽が声を掛ける。

 

「七乃・・」

 

「美羽様・・」

 

七乃の表情は曇っていた。

そこにはいつも笑顔を浮かべている七乃の顔がなかった。

そんな七乃を見た美羽は辛かった。

 

「美羽様!」

 

七乃が美羽に抱きついた。

 

「ふゎ!?」

 

「少しだけ・・このままでいさせてください」

 

「う、うむ。七乃がそれで安心できるならよいのじゃ」

 

「ありがとうございます・・」

 

七乃がか細い美羽の体を抱きしめる。

美羽の体を抱きしめた事なんていままでなかった。

それほど七乃は追い詰められていた。

 

七乃の気持ちが伝わってきた美羽は七乃を抱きしめ返す。

二人の手がお互いの背中へと廻った。

それに安心したのか七乃は美羽を抱きしめる力を強める。

そして美羽の体温を感じた七乃の顔は少しずつ落ち着き始めていた。

 

「うん!恥ずかしいところをお見せしました~♪

でも!もう~私を萌え死にさせる気ですか~?

いよ!この小悪魔!魔性の女!美羽様!」

 

「・・・う、うむ!もっと妾を褒めるのじゃー!

わーっはっはっは!」

 

七乃の突然の復活に驚いた美羽は少し戸惑うがいつもの返事を返す。

そこにはいつもの二人がいた。

 

「誰か!この周辺の地図はありますか!」

 

 

 

「うまくいってますな。これも恋殿の力のおかげなのですぞ!」

 

陳宮は呂布へ労いの言葉をかけていた。

実際呂布の力によるものはかなり大きかった。

こんな寡兵で敵に対抗していたのだ。

 

「陳宮様。この後も同じような戦法で?」

 

呂布の親衛隊が陳宮へと問いかけた。

 

「そうですな・・しばらく休憩を挟むです。

敵は呂布殿が攻めてくる恐怖に怯えているです。

そのために敵が前進してきたら攻め、敵が止まっていたら出撃を控えたのです。

ですから敵はむやみに攻めてこんでしょうな。

 

このまま夜を迎えるのです。

そうすれば敵は怯えたまま夜を迎えるのです。

夜襲に敵は怯えるですがこちらは夜襲をしかけないですぞ。

敵は疲れこちらは疲れを取った状態で明日を迎えるのです」

 

「なるほど、敵の気をそぐのですな。

敵は常に恐怖に怯えていれば疲れこのまま行けば引くでしょうな」

 

「そうです。三万人とまともにぶつかるのは下策ですぞ。

敵を撤退させればいいのですぞ」

 

呂布軍の方針は決まった。

敵の士気をそぎ、敵を撤退させる事にきまったようだ。

 

「陳宮様、敵の細作がこのような手紙を」

 

どうやら細作が紛れ込んでいたようだ。

そして捕らえ敵がもっていた手紙を見つけたようだ。

 

「ふむ・・まるで侯成どのが敵と密約しているような内容ですな」

 

「どうなのでしょう?」

 

「ありえないですぞ。侯成どのはよくやってくれているです。

これは確実に敵の離間の計ですぞ。

我ら呂布軍の結束は固いです。侯成どのにこの手紙を見せ伝えてくだされ。

誰も侯成どのを疑っているものはいないと」

 

「はっ!」

 

この知らせに侯成は涙を流して喜んだ。

より一層の忠誠を呂布、そして伝えてくれた陳宮にささげると。

 

だが次々に手紙は見つかった。

それは侯成だけではなかった。高順、魏続などたくさんの将の名前で内容が同じものであった。

 

「うっとうしいですぞ!こんなもので我が呂布軍の仲を引き裂く事はできないですぞ!」

 

陳宮たちは次々に見つかる迫り来る敵の離間の計を防ぐ。

そのたびに将たちの結束は強まった。

 

「敵はいったい何を考えているですか?

これでは離間どころか我らの結束が強まるだけ。

本当にこんなもので離間が狙えると・・?

もしかして狙いは別に・・?」

 

陳宮の頭に疑惑が浮かび上がったころ。

事態は急転した。

 

「ち、陳宮様!水です!水が!」

 

「な、なんですと!?」

 

城内に水が溢れかえっていく。

その水はとどまることをしらず水位がどんどんと上がっていく。

 

「そんな馬鹿な!?まさか沂水と泗水の水をひいたのですか!

まさか離間は我らの注意をそぎ、この水攻めを悟られないようにするため!?」

 

陳宮たちはあわてて城壁の上へと避難した。

その時下から七乃たちの声が響く

 

「どうですかそちらの参謀さん。

見事に嵌ってくれましたね。私の狙いは離間なんかではなくこの下邳城ごとの水攻めです。

貴方たちの兵糧はすべて水没したんじゃないですか?

聞きなさい兵たち!貴方たちは明日から何を食べるつもりですか?

泥?草?まさか仲間の肉でも食べるつもりですか?」

 

その言葉に呂布軍の将たちが怒り狂う。

 

「我らを馬鹿にするな!」

 

「この呂布軍の結束は鉄よりも固い!

仲間の肉を食うぐらいなら死を選ぶわ!」

 

「貴方たちは私たちを恐怖で震えさせ、夜も眠れないようにし戦意をそぐつもりですよね?

ですが私たちの戦意がなくなるか、貴方たちが空腹で倒れるかどちらですかね?

そんなずぶ濡れになって体力が奪われた状態では今戦えますか?」

 

呂布軍は全員がずぶ濡れであった。

体力が奪われ普段から満足に食えていなかった呂布軍にとってはきつい状態であった。

そして今は兵糧がすべて水没したのだ。

食べるものはもはや何も無し。

敵の戦意が無くなるのが先かこちらが倒れるのが先か・・もはや勝敗は決してしまっていた。

 

「うう・・皆、ごめんなさいですぞ・・」

 

陳宮が涙を流して謝罪する。

だが誰も攻めるものはいなかった。

 

「気にしないで下され陳宮殿」

 

「我らも気づきませんでした。

誰も貴方を責められません。皆同罪なのです」

 

「侯成どの・・魏続どの・・」

 

呂布軍の結束は本当に固かった。

誰も戦う意思をなくしてはいなかった。

 

「こうなったらとことん抵抗してやりましょうぞ!」

 

「おう!我ら呂布軍の意地をなめるなよ!」

 

「そうですぞ!それこそ敵の言うとおり草や泥を食べる覚悟はできでるです!」

 

陳宮たちは徹底抗戦を選んだ。

兵たちもみんな戦うことを選んだ。

誰も降伏をすることを望まなかった。

だが・・・

 

「・・・ダメ」

 

呂布が首を振った。

 

「れ、恋どの・・?」

 

「・・みんな死ぬのはダメ」

 

「し、しかし・・」

 

「・・恋が出る」

 

呂布が方天我戟を握り締め、馬を引き城壁の階段を下りていこうとしている。

あの赤い馬は呂布が一緒に城壁の上まで避難させていたようだ。

水攻めによって一次は木のてっぺんほどまで上がった水位は今は全て流れていき、腰ほどまでに下がっていた。

 

「ひ、一人ででるつもりなのですか!?」

 

「・・恋が死んだら皆降伏して」

 

「そ、そんなことできませぬ!私たちもともに参ります!」

 

「・・降伏して」

 

呂布の何も言わさない瞳に侯成はただたじろくしかなかった。

 

「れ、恋殿~・・」

 

陳宮が涙を流しながら呂布に取りやめるように泣きつく。

 

「・・ちんきゅ、ごめん。

恋が弱かったから負けた」

 

「そんなことありませぬぞー!ねねがもっとがんばればよかったのです!

そうすれば負ける事はなかったですぞ!

だからねねも連れてってくだされ」

 

「・・ダメ」

 

呂布が陳宮を引き剥がす。

陳宮は夢遊病者のように手を前に突き出し呂布にまた抱きつこうとするがそれを高順が止める。

そして呂布はポツリと呟いた。

 

「・・呂奉先」

 

「ええ、あなたは天下の飛将軍です」

 

「呂布殿・・あなたの最強の武。

我らしかと見届けさせていただきます」

 

「・・ん、出る」

 

そう言って階段を下りていく呂布の背中は誰よりも大きく見えた。

呂布は背中で語っていた。

死んでくると。

 

そして呂布が階段を降りきったころ城門前に呂布の親衛隊が勢ぞろいしていた。

 

「・・皆、ダメ」

 

「我らは貴方の武に惚れ込んだ者達!」

 

「我らの瞳が写すは貴方の背中のみ!」

 

「どこまでもこの大地を貴方と共に駆けたいのです!」

 

親衛隊の意思は固かった。

誰も死ぬ事への恐怖など微塵も感じていなかった。

呂布と共にあることこそが彼らの望みなのだ。

彼らの目はまっすぐに呂布へと注がれていた。

そんな彼らの気持ちを呂布は断る事などできなかった。

 

「・・・一緒にいく」

 

「御意!」

 

呂布の親衛隊十人全て揃っていた。

この十一騎の騎馬隊は城門を開きそして駆けた。

 

「呂布が手勢を率いて出撃してきました!」

 

「数は?」

 

「十一騎です」

 

「たったそれだけですか?

勝利を諦めて玉砕覚悟で攻めてきたんですね。

さすが天下の呂布ですね。ならば望みどおり迎え撃ってあげましょう!」

 

七乃は呂布を正面から受け止める事に決めた。

兵たちも恐怖を感じたが敵がわずかな人数である事もあり、七乃の命をこなす。

だが現実はうまくいかなかった。

 

「・・・頑張って」

 

呂布のまたがる赤い馬はまさに神速の速さであった。

一日で千里は走れるだろうか?それほどの速さがあった。

そのため呂布の前に立った兵は全身の骨が砕かれ数十メートルは吹き飛ばされた。

 

「まさに天下無双の豪傑にございます!」

 

「呂布様が切り開いた道を続けー!」

 

呂布の親衛隊たちも類まれなる武を発揮し、切り開かれた道を更に広げる。

彼らの武はそこらの兵程度では止めることなどできなかった。

呂布たちは侵略する火の如く袁術軍に食い込む。

 

「くっ・・予想以上の強さですね。

ですがこれにはどう対処しますか!

大盾隊!呂布をなんとしても止めなさい!」

 

七乃の命により大盾隊が呂布の前方に配置される。

文字通り鉄壁であった。そこには入り込む隙間など無かった。

 

「・・・・」

 

「かかってくるがよい!呂布!」

 

大盾隊の隊長の声に反応するように大盾隊は身構える。

この後大きな衝撃が来るだろう。

大盾をもつ兵の後ろに控える兵たちにも緊張が走る。

 

「・・・・」

 

「来い!最強!」

 

両者の距離が縮まる。

縮まる

縮まる

 

「・・・飛ぶ」

 

「なっ!?」

 

「や、やつは空も飛べるのか!?」

 

「・・・死ね」

 

「人中の呂布・・我らに適うはずも無し。無念だ」

 

呂布が空を飛んだ。

いや、実際には空など飛べるはずもない。

そう見えただけなのだ。

呂布は戟を地面を引きずるようにする。

そうされた呂布の下にいる兵たちは頭を割られた。

呂布は三十メートルは空を駆けた、その道には死体が一直線に築かれた。

 

「ぐうぅ・・呂布は逃したがやつの親衛隊は逃がすな!」

 

大盾隊は身構える。

後続の親衛隊はなんとしても行かせてはいけないのだ。

だが呂布の親衛隊のうち3人は馬の背に片膝をつくように騎乗していた。

 

「呂布殿・・貴方と出会えてよかった」

 

「全ての戦が楽しかったですぞ呂布様!」

 

「お前ら!我らの屍を越えてゆけ!」

 

三人の親衛隊は大盾隊とぶつかる直前に馬の上で立ち、飛び上がった。

そして大盾を持つ者の頭に剣を突き刺した。

騎手を無くした馬はそのまま大盾にぶつかり棘に串刺しにされるが数秒は慣性で走り続けた。

その数秒で辺りの兵を吹き飛ばす。

鉄壁は破られた。

 

「同士の切り開いてくれた道を進めー!」

 

「同士の死を無駄にするな!」

 

捨て身でいどんでくれた仲間はすでに袁術兵の槍や剣によって蜂の巣にされていた。

切り開かれた道を防ぐように次々と兵が現れるがすぐに親衛隊に切り捨てられる。

こうして彼らは呂布においついた。

そして七乃の声が響く。

 

「弓隊!構え!」

 

「なに!?ここで使用する気か!」

 

呂布たちはまだ敵中を突破している最中だ。

当然周りには袁術兵がいる。

 

「非情な選択だとはわかっています!

生き残った者にすぐ救護兵を駆けつけさせます。

どうか生き残ってください!斉射!」

 

「ばかな!?」

 

袁術軍は大量の弓で呂布に応戦する。

もはや数になどこだわっていないのだろう。

たった数人に一万本近い矢が使用された。

 

「があー!!」

 

「ぐ!?」

 

「・・・ッ」

 

辺りに悲鳴が響く。

呂布も方天我戟で矢を防ぐが全てを防ぐことはできなかった。

肩や腹に矢が刺さった。どれも致命傷をさけていたため幸いであった。

さすがの親衛隊も一万本近い矢を防ぐ事は難しく四人が今の攻撃で死んでしまった。

 

「呂布殿・・我らもまだいけますぞ」

 

体に四本も矢が刺さっている兵がそう呂布に声をかける。

残りの親衛隊は三人。全員満身創痍であった。

 

「・・頑張る」

 

「はい!」

 

こうして呂布は親衛隊三人を引き連れなおも突撃を続けた。

だが袁術軍も呂布たちがもう限界だということに気づいていたためか苛烈な攻撃が続く。

その攻撃に親衛隊も一人また一人と倒れていく。

 

「どうか・・ご武運を・・」

 

ついに呂布は一人となった。

それでも呂布は一人駆けた。

 

 

 

「これは・・」

 

華雄がついにこの戦場へと到着した。

だが信じられない光景が広がっていた。

敵はたった一人で我が軍を荒らしていた。

そこに映るかつての同僚は獣であった。

いつも何を考えているかわからない表情はそこにはなかった。

 

「・・・ぁ”あ”あ”あ”あ”!」

 

今まで上げた事もない声を上げ兵をぶった切っていた。

その姿は鬼神の如し。

逃げるための体力など残すつもりのない片道だけの全力投球。

 

「恋・・貴様死ぬつもりなのか」

 

華雄は馬を走らせた。

目指すはまずは袁術のもとだ。

 

「袁術様!」

 

「・・・お、おお!華雄ようやく来たか!

遅いのじゃ!」

 

「申し訳ありません。ですが問題が発生していまして・・」

 

華雄が現在の南陽の様子を伝えようとしたとき。

 

「馬を倒したぞー!!」

 

「おおお!ようやったのじゃ!はよう呂布を殺すのじゃ!

そして妾の前にその首をささげるのじゃー!」

 

 

 

呂布が落馬した。

 

「・・・ぐっ」

 

赤い馬は呂布を庇うように槍に巨体を突き刺され死んだ。

もはや体力などほぼない呂布は致命的なミスをおかし敵の接近を許してしまったのだ。

そしてそんな呂布に迫った槍を防ぐために馬は後ろ足で二本立ちし、呂布の変わりに槍を受けた。

 

「・・どうして」

 

馬は体から大量の血を流す。

そしてブルッと一鳴きし、瞳を閉じた。

馬はまるで呂布に頑張れと励ましているかのようだった。

 

「・・ぅう”あ”あ”あ”あ”!!」

 

呂布が再び咆哮をあげる。

そんな呂布を中心に円を書くように兵が取り囲む。

 

「呂布!貴様もここまでだな!」

 

「馬も体力ももうない貴様など、そこらの人間と同じ!」

 

彼らの言うとおり呂布はもはや体力など無いに等しかった。

相棒の馬も死に絶望に打ちひしがれその気持ちももはや閉ざしていた。

 

「貴様を討てば我らの名は天に昇るが如し」

 

「最強の名は俺たちが受け継いでやる!」

 

「最強の貴様を討てば俺が最強だ!」

 

呂布を討てばまさにその功績はすさまじいものだろう。

兵たちは未来の自分の姿を想像しその目をギラギラとぎらつかせる。

 

「・・・最強」

 

最強という言葉に呂布は反応した。

その言葉は自分を慕ってくれる小さな少女がよく口にしていた言葉だ。

 

「死ね!呂布!!!」

 

「最強は俺だー!!」

 

「俺だー!!!!」

 

兵が次々に呂布へと迫る。

 

 

 

 

 

 

「・・・龍。天に龍はただ一人」

 

そこには呂布しか立っていなかった。

数十人の死体が一瞬で築かれた。

最強などと口にしていた者たちは呂布に瞬殺された。

 

呂布は再び袁術の方へ向かい歩き出した。

その呂布を止めるものは誰もいなかった。

もはや誰も呂布に近づこうとしなかったのだ。

 

「ぴ、ぴー!!こ、怖いのじゃー!

ば、ばけものじゃー!」

 

美羽は泣きながら馬に跨ろうとするも一人では馬に乗れなかった。

 

「み、美羽様、逃げましょう!

あんなのの相手などしていたら命がいくつあっても足りません」

 

美羽は七乃の介助の手助けにより馬に跨った。

そして七乃も隣にあった馬に跨る。

 

「え、袁術様!兵や他の将を見捨てて自分たちだけ逃げるおつもりですか!」

 

華雄が美羽と七乃に抗議する。

 

「わ、妾は逃げるのではない!ちょっとあれなのじゃ!えー・・」

 

「ぜ、前進です!私たちは後ろへ前進するだけです!

袁術軍本隊のみなさーん!集まってください!」

 

「そうなのじゃ!あちらの方が怪しいから妾たちは調べにいくのじゃ。

華雄!あとはお主に任せるのじゃ。

呂布と戦いたいなら勝手にするがよい」

 

そう言い残し美羽と七乃は本隊一万の兵を連れものすごい速さで撤退していった。

そこに残されたのは華雄といまや一万に満たない兵だ。

逃亡兵が後を絶たなかったのだ。

 

(クソが!!凡愚が!君主が兵や将を見捨てて逃げるだと!

これがあの姫羽様の姉だと?

 

やはりあの時の袁術はまやかしだったのか?

今はあの時の見る影も無い)

 

華雄が美羽に対して不満を抱く。

だがいまはそうは言っていられない。

 

「恋・・」

 

華雄は歩き出した。

その時にはすでに道ができていた。

袁術軍の兵は呂布を避けるように道を譲っているようなものだったのだ。

そして二人は対面した。

 

「久しぶりだな」

 

「・・華雄」

 

「まさかこんなところで貴様と再び出会えるとはな」

 

「・・コクッ」

 

「そんなに・・傷だらけになりおって」

 

華雄の言葉どおり呂布の体には三本もの矢が刺さっていた。

そして顔にも腕にも、腹からも出血している。

目は赤く血走り吐血したのだろうか口からも血の跡が伝っている。

 

「私は貴様にあこがれていた」

 

「・・・」

 

「その最強の武、まさに私たち武将が目指す頂だった。

天下無双の飛将軍、呂奉先。

誰もが知っている名だ。

 

私たちもいつか貴様のように全ての人間に名前を知られ、そして恐れられるような存在になりたかった。

強くなり、憧れられるようになりたかった」

 

「・・・」

 

「だが今は違うぞ呂布!」

 

「・・・」

 

「私の知っている呂布はそのように死に様を求めるような女ではなかった。

己の生き様を求め戦う女だった!

死ぬために戦うのではない!生きるために戦っていたのだ!」

 

「・・・」

 

「来い!最強!!!

この華雄が貴様に貴様の戦いを教えてやる!

貴様の死に様と私の生き様!どっちが強いか教えてやろう!」

 

「・・・」

 

呂布が無言で方天我戟を構えなおす。

 

「うおおおおおあああああ!!」

 

「・・・」

 

二人の武器が交差した。

辺りにここ一番の金属音が響き渡る。

鼓膜を直撃するような激しい音だ。

 

「こんなものか最強!以前の貴様であったら私を軽く吹き飛ばしていたぞ」

 

「・・・ぐっ」

 

呂布の口から苦悶の声があがる。

その言葉を聞いた華雄が距離をとる。

 

「貴様はどこまで私を失望させる気だ。

お前は・・お前は最強でなくてはならないんだ!

私如きを軽くあしらわなくてどうするんだ!」

 

「・・・」

 

なおも呂布は何も答えない。

 

「受けてみよ・・・私の一撃を受けてみよ!」

 

華雄が金剛爆斧を構えなおす。

今の華雄にできる最大限の一撃を呂布へと向ける。

 

「今の貴様に、この一撃が受け止められるものかーーー!!!!」

 

華雄が呂布へ向けて走る。

対して呂布は武器を構えているだけだ。

 

「ううおおおおあああああ!!!」

 

華雄が渾身の一撃で武器を振り下ろす。

そして辺りには先程よりもさらに大きな金属音が響く。

そして武器の衝撃によりあたりに土煙が舞った。

 

「・・・ふふ、はーっはっはっは!!」

 

土煙の中、華雄の笑い声が響いた。

煙が晴れ視界が開けてきた。

そこには華雄の一撃を受け止めきった呂布の姿があった。

 

だが呂布は微動だにしていなかった。

まるで人形のようだ。

 

「やっぱり・・お前こそが最強だったな。恋」

 

華雄が武器を地面に置き、呂布を抱きしめた。

その行為を受けた呂布も武器を落とした。

 

「お前・・もう目が見えていなかったんだろ?

体もほとんどうごかなかったんだろ?」

 

呂布からは力を感じない。

 

「お前、もうとっくに気絶していたんだろ?

それでもなお戦っていたんだな。

そして・・この私の一撃でさえも受け止めた。

ハハ・・気絶しながらでも私如きの攻撃なら受け止められるとはな。

やっぱり貴様は強かったか。そして、お疲れ様だ。恋」

 

呂布の体は捕らえられた。

世界で一番優しい、華雄の両腕という縄で。

 

 

 

 

 

 

 




下邳の戦い

3ヶ月の包囲の後、荀攸と郭嘉が水攻めを提案。
マジで下邳城を水攻めした。しかも季節は冬であったために士気は激減。
ついに侯成と諸将が反乱し陳宮と高順を捕縛して曹操に差し出して降伏した。
呂布は包囲が厳しくなると部下に自分の首を切り、それを差し出して降伏しろと言ったが部下はそれを拒否した。そして呂布は降伏した。
ちなみにこれは史実のほうです。


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