もしも袁術に妹がいたら   作:なろうからのザッキー

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今年最後の更新かな?
龍が如く5を今年中には終わらせたい。
そして戦極姫4も積んでいるんだ・・
早く猪鹿ちよ様の素敵ボイスが聞きたい。
わかるかな?松永久秀の人だよ。
三極姫2では張魯とか馬超とか謎の少女とか。



攻城戦VS防衛戦

華雄が離脱した後もこの南陽では戦いが行われていた。

むしろ華雄が離脱した分,守備側である袁術軍は不利だ。

だが敵はまさか華雄ほどの有力な将が本当に離脱したとは思えなかった。

そのためどうしても奇襲を警戒させるために兵を割かなければいけなかった。

 

どちらも苦戦必死の戦い。

本来城を落とすには三倍の兵力は必要なのだ。だが実際は二倍にも満たない兵力である。

そして本来いるはずがなかった強力な守将が相手だ。

この状況で戦うのは下策だと思われるが孫呉は退けなかった。

もはや退路はないのだ。ここで決着を付けれなければもう未来はないかもしれない。

それほど孫呉にとっては勝たなければいけない戦なのだ。

 

「破城槌(はじょうつい)を早急に作りなさい!

同時に井蘭も!城門さえこじ開ければこちらは兵力でなんとでもなるわ!」

 

孫策は兵たちに命を下す。

攻城兵器を使っての城攻めは誰もが使うセオリーな攻めだ。

 

「周泰!」

 

「はっ!」

 

「城内に潜入できそうにない?」

 

孫策の質問に周泰は首を振る。

 

「さすが袁燿といったところです・・

鉄壁の守備で警戒が尋常じゃないです」

 

「そう。やはり内側から崩されるのが守備側にとって一番困るものね。

それを許すほどあまい分けないか・・わかったわ」

 

「ですが、城内にすでに侵入している細作のものたちとは連絡がとれます。

この時のために連絡用の鳥を飼いならしておりましたので!」

 

「なら鳥を介し城内のものと連絡をとり民を扇動しなさい。

外と内からの攻めならば袁燿といえど防ぎきれないでしょう」

 

「はっ!」

 

周泰はその場からすばやく去っていく。

孫策はその姿を見送ったあと前線へと目をうつす。

城門に果敢に攻める兵たちがいる。

 

丸太を数人で担ぎ城門へと突撃を繰り返す。

その攻撃を城壁の上から矢を放ち迎え撃つ。

姫羽自身も矢を放ち対応していた。

彼女が放つ矢は全てがまっすぐ丸太を持つ兵の一人へと一直線に突き進む。

 

「例のものはまだなの!」

 

「もう少し時間がかかります!もう少々お待ちください!」

 

「急ぎなさい!」

 

姫羽は兵たちにあるものを用意させていた。

城内の民たちにも協力してもらい用意しているものだ。

戦闘に不参加の民たちでもそれはいとも簡単に手に入るものであった。

 

戦況は敵兵が城壁に梯子をかけて上ってくるのでそれを必死に防いでいる状態だ。

丸太による城門への攻撃と梯子による敵兵の二つを対処しなければいけないのだ。

そしてついに準備ができた。

 

「袁燿様!ついに一定数たまりました!」

 

「よし!なら派手にいくわよ!敵兵に浴びせてやりなさい!」

 

姫羽が号令を出すと兵たちは一斉にある物が入っている桶を持つ。

 

「さあ、やりなさい!」

 

そして梯子を上ってくる兵たちにその中身が浴びせられる。

姫羽の号令により敵兵に浴びせられるそのある物とは・・

 

「がっ!?なんだ!?」

 

「く、糞だ!!人糞だーー!!!」

 

「こ、こっちは燃える糞だー!」

 

それは城内全てからあつめられた糞尿だ。

梯子を上ってくるものや下にいる兵たちに一斉に浴びせかける。

城壁の兵たちは穴を掘るときのスコップのようなものやシャベルで桶に糞尿をいれそれを外へ向けてひっくり返すだけの単純な作業だ。

 

「く、くせーー!!!」

 

「く、口に入ったー!」

 

「ひでえ臭いだ・・」

 

「民に集めさせなさい!

この桶いっぱいに集めた者には褒美をとらせると伝えて!」

 

「はっ!」

 

兵たちは戦いに集中し、糞尿を集める役には民を使用した。

褒美がもらえるとわかれば民は喜んで協力した。

普段邪魔で、そして悪臭の元となり、蝿を寄せ付ける何もやくに立たない糞尿が今は金に変わるのだ。

誰が異を唱えようか。

 

「怯むな!

糞尿で死にはしないわ!殺傷力など皆無な糞尿に何を臆す必要があるか!」

 

孫策が兵を鼓舞する。

だが兵の士気は思うようにあがらない。

 

「く・・仕方がないさ雪蓮。

私たちでさえ糞尿を頭からかぶりたくないだろ。

それを兵たちだけにやらせているのだ。

兵を鼓舞するためには私たちが自ら浴びるぐらいの気概を見せねばな」

 

「うわぁ・・さすがにそれはちょっと無理ね・・」

 

二人の顔は歪む。

想像しただけで悪寒が走るようだ。

 

「明命!」

 

「はっ!」

 

「民の扇動はまだか?」

 

「それなのですが糞尿を集めているのは民たちなのです。

集めれば褒美がもらえるとのことなので民の心は今そのことだけで・・」

 

「そうか。だが糞尿などすぐに集まるものでもないだろう。

糞尿のあつまりが悪くなったとき、民たちも金が入らないと気が焦りだすだろう。

そのときが扇動の好機だ。細作たちにそう伝えるのだ」

 

「御意!」

 

そして周瑜たちはしばし時をまった。

周瑜の予想は的確であった。

褒美がもらえると民たちは皆一斉に城内から糞尿をかき集めたのだ。

自分で出すものもいたがそう何度も出るものではない。

城内の糞尿はすぐに底をつきた。

 

「もうどこにもない!」

 

「ちくしょう!あともう少しで桶いっぱいなのに!」

 

予想通り民たちは糞尿のあつまりが悪くなり気が立っている。

そんなチャンスを逃すほど呉の細作はあまくなかった。

 

「みんな!聞いてくれ!」

 

集まりが悪くなったからか、民たちはその声に反応し足を止める。

一般の民の格好をした呉の細作が声を広場で大きく上げる。

 

「今こそ俺たちを苦しめる袁術に手痛い目にあってもらうときじゃないか?

圧政に苦しめられた俺たちの苦しみを袁術に知ってもらうときだ!」

 

「手痛い目に・・?」

 

民たちはその声に反応した。

 

「ああ!いつもいつも自分たちはいいもんばっか食って俺たちは苦しい生活ばかり。

袁術どころか袁術軍全員にだ!

いまこそ俺たち南陽の民が立ち上がり袁術軍に反旗を翻すときだ!

立ち上がれ!皆!俺たちの鬱憤をぶつけるときだー!」

 

細作は高らかに声を上げる。

そこに迷いや不安などは見られない。

まさに扇動するものとしては完璧だった。

 

「そうだそうだー!」

 

「俺たちはずいぶん我慢してきたんだ!

今こそ袁術を引き摺り下ろすときだー!」

 

二人の男もその声に賛同する。

もちろん彼らも細作だった。

 

「だ、だが・・」

 

他の民の反応はよろしくないようだ。

 

「どうしたんだ?呉の人たちに保護してもらえば俺たちの生活は今よりもきっとよくなるぞ?」

 

「そうだぜ?何をためらう必要があるんだ?」

 

「ちょっとまってくれ」

 

この騒ぎを聞きつけた民たちがもはやここには百人は集まっていた。

その中から一人の民が前へ出てくる。

 

「お前たち袁術様を殺すということか?

袁家に敵対するという事か?」

 

「当然だ。お前はこのままでいいのか?」

 

「なら袁燿様にも敵対するということだな?」

 

「ああ。当然だ」

 

その言葉を聞いた民は持っていた桶の中に手を突っ込む。

そして・・

ひとしきりの風斬り音が辺りに響いた。

 

「あ・・あ・・・」

 

民の桶の中には糞尿など入っていなかった。

入っていたのは一本の短剣のみ。

それで扇動していた細作の喉をかき切ったのだ。

 

「おい」

 

その声に反応するように百人の民の中から数人の民が出てくる。

その民たちの手には全て短剣が握られたいた。

 

「この扇動に最初に賛同したお前ら呉のもんだな」

 

「ち、ちがう!?」

 

先ほどの二人の細作は必死に弁明する。

 

「ここで袁術様に不満を持つものはあれど袁燿様に不満をもつものはいない!

仮にあれど袁燿様と敵対し、そして袁燿様に害をなそうなどと思うものはおらぬ!

いるとすればそれは貴様ら呉の者のみ!覚悟せよ!」

 

その男の声とともに短剣を持った民たちは一斉に二人の細作に襲い掛かりそして斬り殺す。

彼らは民などではなく兵であった。

袁燿に命を受けていたのだ。

この光景を袁燿は上から見ていた。

そして城壁の外へと再び視線を移す。

 

「さすがかの有名な周泰に鍛えられた細作たち。

見事なものね。でもまだまだ私の方が上だったようね。

でも細作がこれだけしかいないなんてありえない。

なんとしてもつぶさなければ」

 

姫羽はそう呟く。

細作をこのままにしておくわけにはいかない。

敵はあの周瑜だ。何をされるかわかったものではない。

 

「扇動は失敗したか」

 

「はい。生き残ったものたちの中からそう手紙が届きました」

 

「民たちのなかに兵を紛れこませ、そして自身に反発するものはすべて敵か。

よほど自信があるようね。ふふっ、かの傾国の美女の軍だからこそできる看破の仕方ね。

間違えば一斉に民が恐怖に震え本当に反旗を翻すわ」

 

「ですが、民たちは真に袁燿に忠誠をちかっているみたいですね。

袁術が暗愚だからこそ、逆に袁燿の評判が高まっているようです。

自ら町のゴミなどを広い、警邏をしているようです」

 

「城内で袁術軍に反旗を翻すような策は使えないか・・ならばこれはどうだ」

 

周瑜の目がするどく光った。

 

 

 

「矢にも糞尿を塗りたくり放ちなさい!そうすれば傷口が化膿し敵に大きな被害を与えられるわ!」

 

袁燿の指示により一斉に兵たちの矢が発射される。

その矢尻は茶色に変色していた。いや、変色ではない。

表も裏も糞が塗りたくられているのだ。

 

「くっ・・これが傾国の美女のする戦か!?」

 

下の平原から孫権の声があがる。

 

「戦には男も女も、そして美女も関係ない。

使えるものは全て使う。この身がどれだけ汚れようが勝利の味の前には全て塵に等しい!

 

孫権!貴方もいずれ王となる身なら、かっこつけるのはやめなさい!

勝者こそが歴史を作ることができる!

数百年後には糞尿がただの火矢に変わっているかもしれないわよ」

 

「勝者が歴史を作る・・か。

ならば私たちの手で歴史の一頁(ページ、けつ)をここより作ってみせる!

孫呉の兵よ!敵を倒しここより新しき物語を作るのだ!」

 

「おおおおお!!!!!」

 

兵たちが高く声を上げる。

先ほどまで沈んでいた顔は少し元に戻ったかのようだ。

 

「よくやったわ蓮華!皆蓮華に続き声をあげよ!

糞尿ごとき戦のあとに水浴びをすればいいだけのことよ!」

 

「姉様!シャオもがんばっちゃうよー!!」

 

孫呉の士気が続々と回復していく。

この事態に姫羽はすこし戸惑う。

 

「孫呉の次代の王もなかなかやるようね。

お勉強ばっかりのからきしだと聞いていたけれど、この戦で少しは成長したみたいね。

私とそう歳が変わらないんだから私もがんばらなきゃ」

 

孫呉の姫に少し勉強させてしまった事を後悔したが、その程度でへこたれる姫羽ではない。

士気が回復したとしても長くは続かない。時間と共に減少するのは当たり前だ。

ならば時間をかせげばいいのだと姫羽がそう思ったとき・・

 

ヒュッと風を切る音がする。

その音に姫羽はとっさに体を捻るように今の場所から逃げるように体をそらす。

だが完全に今の場所から体をずらすことはできなかった。

 

「ぐっ!?」

 

姫羽の左腕に一本の矢が刺さった。

それでもいいほうであった。

とっさに体をそらしていなかったら恐らく心臓付近に矢が刺さり内臓を傷つけていただろう。

 

姫羽は矢が飛んできた方向を睨むように視線を移すと一人の男が逃げていった。

恐らく呉の細作の一人であろう。

 

「暗殺に乗り出したようね・・なんとかして手を打たなきゃ」

 

敵に自分の場所が割れているのならこの場所は危険だ。

留まっていたら何度も暗殺に来るだろうと姫羽は痛みに顔を歪めこの場所を移動した。

 

「ここなら・・」

 

姫羽は先ほどの場所から対角線に場所を移した。

先ほどの場所よりも最も離れた場所である。

 

だが期待はすぐに崩された。

 

「覚悟せよ!」

 

物陰から男が突進してくるように短剣を突き刺すように走りよってくる。

先ほどとは別の男だ。その声に姫羽はとっさに反応する。

 

「片腕だからってなめないでよね!」

 

姫羽はその男の短剣の切っ先から体を左にずらすようによけ、右腕で男の顔面を殴る。

男が走ってきた勢いがそのまま男の顔面に拳と一緒に襲い掛かった。

姫羽の力と運動エネルギーが合わさったその一撃は男をそのまま気絶えとおいやった。

 

「悪く思わないでよね」

 

姫羽は腰から剣を抜き、そのまま男の心臓を一突きにした。

敵を生かしておくほど姫羽は甘くはない。自分の命を狙った相手なのだ。

生かしておけばまた自分を襲いにくるだろう。

呉は強敵なのだ。

 

その後も姫羽は何度も敵に襲われた。

矢で狙われ、斬りかかられ敵は完全に姫羽の居場所を把握しているようだ。

どうやって?何故?

 

何度も何度も姫羽は襲われそしてようやく解決の糸口が見つかった。

 

「鳥か・・」

 

何度も襲われることで姫羽はついに気づいた。

それはこの城の上空を鳥が何匹も飛んでいるのだ。

しかも旋回をすることでこの場所から離れず、ずっと飛び続けていた。

今まで城壁から下を見続けていた姫羽には気づくにはずいぶん時間がかかった。

 

「舐めたことしてくれるじゃない」

 

 

 

 

「燃えているのか・・?」

 

周瑜は城から片時も目を離さなかった。

そして今、敵の城からは黒煙が上がっているのだ。

それも一箇所だけではない、何箇所からもだ。

 

「周泰!」

 

「はっ!」

 

「城内の様子は」

 

「それが・・わかりません」

 

「どういうことだ?」

 

「それが城内のものと連絡がとれないのです。

 

「全員やられたのか?」

 

「それもわからないのです。

連絡用の鳥たちが城に近づくことを嫌がっているのです」

 

「そうか・・」

 

周瑜は悟った。

この火の手も敵の策なのだろうと。

 

 

 

「もっと燃やしなさい!」

 

姫羽は手があまっているものたちに火をたくように命じた。

 

「燻(くすぶ)るように、黒煙が多く上がるようにしなさい。

煙をもっともっと上げるのよ!」

 

その命令どおり城内からたくさんの黒煙が上がる。

その煙は城の上空を覆うように黒い雲となるようにもくもくと上がった。

 

「くそ!これでは鳥が」

 

呉の細作たちは困った。

彼らは場外と鳥を通して連絡をとっていたのだ。

そして今回の命令は袁燿の暗殺。

だが広い城内では袁燿の居場所をつかむのが難しかった。

だからこそ、広い空から鳥をつかい鳥に袁燿の居場所を調べさせていたのだ。

 

そのために姫羽の居場所は彼らに筒抜けだったのだ。

だが姫羽が黒煙を上げた事により、鳥はその煙を嫌がり上空を飛ぶ事を拒否したのだ。

 

「してやられたか・・袁燿。なかなかの策だ」

 

周瑜もこの事実に少し戸惑う。

これでは城内と連絡がとれず、城内からの瓦解は望めないのだ。

だがここで呉軍に朗報が入った。

 

「破城槌が完成しました!これより城門へ攻撃を開始します!」

 

「おお!ついに完成したか!

よし!これより怒涛の攻めへ転じる!」

 

周瑜の言葉どおり呉軍は城門へ破城槌を移動させ、その攻撃を開始した。

さきほどの丸太とは違い、その破壊力は雲泥の差であった。

 

「ついに来たか・・破城槌を何とかしなければ私たちに勝ち目は無いわね。

弓隊!火矢を構えなさい!」

 

姫羽の命令により弓隊が矢に火を灯す。

全員の矢に火が灯りそして合図を待った。

 

「斉射!」

 

一斉に火矢が放たれる。だがその効果は薄い。

呉軍が作った破城槌の屋根は尖った三角の形で作られており、その形が矢の力を上手く受け流し、矢が屋根を滑るように落ちていく。

そのため火がうまく付かないのだ。

 

「くっ・・火がつかないわね。

かといって、もはや糞尿でどうにかなるような事態でもないわね」

 

れっきとした兵器なのだ。

今まで全て人力に頼っていたが、今回人の力は振り子のように付けられた丸太を揺らす時だけに使うのだ。

人を数人殺せば一時的に攻撃が止むようなしろものではない。

 

「袁燿!おとなしく開門しなさい!

私がこの城を使うんだからあんまり壊したくないのよね!」

 

「あら、破城槌が出来たら急に態度がおおきくなったわね。

たった一つの兵器に頼りきる呉軍なんてたかがしれているわね」

 

「でもそのたかが一つの兵器に戦況を覆された貴方がよくそんな口をきけるわね。

みるみる城門に傷がついているわよ?」

 

「見てなさい。

その兵器が壊れたときが貴方たちの敗北の時よ」

 

「どうやって壊すつもりかしら?

開門して兵の力で壊しにきたらこの兵力であっというまに飲み込むわよ?

せいぜいそこからちまちま火矢でも打ち続けることね」

 

「あいにく私も気が短い方なのよね。

そんなちまちま火矢を放って小火程度で満足できないのよね。

やるならやっぱり大火じゃないと」

 

「は?」

 

「やりなさい。私に相応しく派手にね」

 

姫羽の号令により城壁から大量の火が付いた木材が降り注ぐ。

その木材は破城槌を飲み込むほどの大量の木材だ。

折り重なるように降り注いだ木材はもはや大きな焚き火のように天を焦がした。

 

「こんな木材をどこから調達したっていうのよ・・あんたほんと規格外ね」

 

孫策はこの状況に唖然とした。

一方の姫羽は

 

「もっと家をぶっ壊しなさい!

この辺りを更地にする勢いでいいわ。呉のことよ、きっとなにかまだ策があるはず!」

 

姫羽の命により民家が打ち壊されていた。

その光景を家主が感慨深い目で見ている。

 

「え、袁燿様」

 

「何かしら?」

 

「本当に家が建て替えられるほどのお金がいただけるので?」

 

「ええ。家を建て替えても少し余裕ができるほどの金を用意するわ。

だから貴方はなにも心配しなくていい。

ただで新品の家と余分な金が手に入るのよ」

 

「あ、ありがとうございます!

あまった金で酒でも買いますぁー!」

 

家を壊される側の住人も喜んでいるようだ。

姫羽はこの事態を金の力で解決した。

やはり名族袁家。資金は潤沢にあるのだ。

彼女たち袁家だからこそできる起死回生の荒業なのだ。

 

「さあ!火を放ちなさい!油を注ぎなさい!

敵に袁家の財力の力を大火として見せ付けなさい!

恐れよ。崇めよ!これが我ら袁家がとる破城槌の破壊方法よ!」

 

大量の燃え盛る木材に埋もれられた破城槌はもはやその姿は見えなくなった。

呉の軍勢は大きな大火に士気をそがれその光景を眺める事しかできなかった。

そして火が消えたとき、戦況は再び動いた。

 

「さあ、二度目の戦いといこうじゃない」

 

「なかなか好戦的な女ね。

嫌いじゃないわよ、その性格」

 

「私は貴方のことなんて大嫌いよ孫策」

 

「ありがとう♪私ももう貴方には会いたくないわ。

何度も煮え湯を飲まされたんだもの。簡単には殺してあげない」

 

二人の視線は鋭く尖り、まるで火花がちっているようだ。

膠着した戦況。また振り出しにもどったのだ。

だが、完全に振り出しに戻ったのではなかった。

あのころより時が経ったのだ。

 

「雪蓮、できたぞ。これで再び攻勢に転じる事ができる」

 

「よし!なら今度こそあいつらを葬るわよ!

前進!井蘭、破城槌!兵器の物量で敵を飲み込みなさい!」

 

「何度きても同じ事!」

 

こうして再び戦いは再開された。

呉軍の井蘭は二十機、破城槌は十機。

この物量はあまりにも大きかった。

 

南陽の城門の数は東西南北に配置されている。

そのため井蘭が五機ずつ配備され、破城槌が各城門へと襲い掛かる。

さきほどのように破城槌を燃やし、破壊してもすぐに予備の破城槌が登場するのだ。

 

木材を落とすために城壁の上に配置されている兵は井蘭によって撃退される。

なかでも一番の難関は正門であり、今まで戦っていた南門なのだ。

 

「くっ・・矢の攻撃が激しい。さすがといったところね」

 

「ほらほらどうしたのじゃ!こんなものか!」

 

黄蓋だ。彼女の弓の腕前はまさに一流であった。

そしてその黄蓋に鍛えられた弓隊が井蘭の上に配置されていた。

そのために城壁の上で少しでも無防備な行動を取ろうものなら何十本もの矢が一斉に襲い掛かってくるのだ。

 

「私だって!」

 

姫羽が城壁から体を出し矢をいる。

その矢はまっすぐと飛来し、敵弓兵の体を突き刺した。

 

「ほう、たいしたものじゃの。

その腕前、儂の兵たちよりも幾分も上じゃな。

美だけではなく武も、そして知も全ての才能に恵まれたまさに天才か」

 

「この持って生まれた天の才。私は全てを活用する。

そしてお姉様を天下へと連れて行くことこそが私が天より与えられた使命だと思っています。

だからこんなところで負けるわけにはいかないのよー!!」

 

姫羽が立ち上がり矢を放つ。

 

「ぐうっ!?」

 

だが突然姫羽の腕から再び激痛が走る。

そのため放たれた矢は大きく逸れてしまった。

姫羽の腕からは先ほど受けた矢の傷から血がどくどくとあふれ出していたのだ。

一度は止まった血が再び傷を開き血があふれだしたのだ。

 

「袁燿よ!貴様は確かに優秀だ。まさに天より与えられた才の持ち主じゃ。

じゃが貴様は所詮一人!一人では何も出来ぬ!

貴様が傷つけばそれは軍全体の弱体化に繋がる。

 

貴様に頼り切った軍になにが出来ようか!

我ら呉は優秀な将がたくさんおる。

儂が傷つけば他のものが補ってくれる!

それが貴様らにはできんのじゃ!」

 

黄蓋の言う事は最もだった。

袁術軍には優秀な将が少なすぎる。

そのため、現に傷ついた姫羽が一番攻撃の激しい南門に休むことなくつきっきりなのだ。

 

他の城門の様子は姫羽が自ら確認しにいく余裕も無く。

伝令からの情報しだいなのだ。

 

「そんな独りよがりの軍になにが出来ようか!

悪い事は言わん!儂らに任せよ。

儂らがかならずや良き世を作ってみせる。

さあ、もう休むのじゃ。疲れたであろう?」

 

黄蓋が姫羽を説得する。

その顔はまるで自愛に満ちた菩薩のようだ。

疲れ、傷ついた姫羽にはその説得は心に響く。

 

「確かに休みたいわ。もう疲れた」

 

「じゃろ?さあ、門を開くのじゃ」

 

「でもね・・まだ天が私を休ませてくれないのよね!」

 

姫羽がそう高らかに叫ぶ。

 

「これぞ天運!私には天がついている!

まだ倒れるなとそう私に言っている!」

 

 

 

「で、伝令!!袁術軍が・・袁術軍の援軍です!」

 

「馬鹿な!?どこに兵を隠していた!華雄か!?」

 

「いえ、本隊です!袁術、張勲の部隊です!その数およそ一万!」

 

「ばかな!?やつらは呂布に・・・まさか!」

 

「そのまさかでしょうね・・もう負けたのよ。

圧倒的速さで呂布に負けた。

だから今は城に逃げ帰ってきた」

 

「そ、そんな馬鹿な・・私の予想を遥かに上回る速さで負けただと・・」

 

その知らせに周瑜は一気に老け込む勢いで落胆する。

孫策は頭を抱える。敵をあなどっていた。

袁術はこれほどまでに弱かったのか。

まさかこのタイミングで城に戻ってくるとは。

 

 

「な、ななにょーーーー!!!」

 

「美羽様ーー!!城が攻められています!!どどどどうしましょう!」

 

「し、知らん知らんのじゃーー!!」

 

城の状況に美羽と七乃は混乱する。

彼女たち二人の慌てぶりに兵たちも混乱する。

その歩みは完全にその場で止まってしまった。

 

対して呉軍も突然の敵の援軍に混乱した。

これで兵力は完全に覆ったのだ。

もはや互角の勝負などできないだろう。

こちらはまだ城門すら破れていないのだ。

 

そんな混乱する両軍の中で唯一平静を保っている部隊がいる。

それこそが姫羽たち城内のものだ。

 

「これが訪れた最後の好機!

今こそ打って出る時。敵は混乱している!

城内に半分残りなさい。もう半分は私の背中に続けーー!

かいもーーーん!」

 

姫羽の号令により開かれた城門。

地面に散らばる糞尿などもはや誰も気にもとめない。

美しい女が片手で剣を握り敵兵を斬る。

走るたびに血と一緒に糞が飛び跳ねる。

だが彼女の前では血だろうが糞だろうが土だろうが全てが絵画のように美しかった。

 

「もはやこれまで・・策士、策におぼれるとはこのことか。

全軍に伝えよ、撤退だ!この場から離脱せよ!」

 

周瑜の合図に呉の兵たちが蜘蛛の子をちらすように逃げていく。

 

「くやしいけどここまでのようね・・母様。ごめんね」

 

孫策も撤退する。

 

「私たち呉は決してあきらめない!いつか必ず帰ってくるぞ!」

 

孫権も撤退する。

 

 

「なんかよくわからんが敵が逃げてゆくぞ」

 

「美羽様!ここは私たちは追撃しましょう。

なんかよくわかりませんがとりあえず敵ですから倒せば私たちの功績ですよ」

 

「わははー!逃げ惑う敵を倒すなんぞ、妾の精鋭なら余裕なのじゃ。

皆の者!敵を血祭りにあげるのじゃー!」

 

美羽たちはおいしいところを頂くように呉を追撃する。

全軍が動きを見せた。

そんな中一人動けないでいるものがいた。

 

「そんな・・負けるなんて」

 

孫尚香だ。彼女はまだこの現実を受け止めきれないでいた。

彼女にとってはまだ戦の経験は数えるほどしかないのだ。

まるでつい最近初陣があったかのようなほどだ。

 

そしていつも過保護に扱われてきた彼女はいつも戦う相手は賊などの弱い相手だ。

だからこそちゃんとした軍隊と戦うのは今回が初めてだった。

そして、今回は姫羽がいるとは思わなかった。

空の城で守備兵相手に戦うものだと思っていた。

 

そしてその結果がこれだ。

初めての負け戦。しかも呉の存続をかけるような大きな伏目の戦い。

幼い彼女には理解するには時間が必要であった。

今、激しく戦況が移り変わるこの時にその時間はあまりにも致命的すぎた。

袁術軍本隊と姫羽が引き入る兵、そして撤退していく呉の兵によりまわりは袁術軍で埋め尽くされていく。

 

「見つけた・・」

 

「だ、だれ!?」

 

そこには血まみれの女が立っていた。そう、姫羽だ

全身を血で真っ赤に染めたその女は恐ろしいながらも、美しかった。

孫尚香は彼女のその魔とも言えるほどの魅力に魅せられ金縛りにあったかのように動けなかった。

 

「孫呉の姫は大事な人質になる。

貴女には悪いけど、ちょっと眠っててもらうわ」

 

姫羽はニタリと笑う。

なまじ美しいだけにそれが怖かった。

 

「ひっ・・」

 

幼い彼女にはその光景はただただ恐怖でしかなかった。

 

「大丈夫、殺さないわ」

 

姫羽は突然走り出し、そして孫尚香の腹に飛び蹴りを入れる。

 

「ごふっ!?」

 

その突然の腹の衝撃に彼女の体は耐え切れず悶絶する。

彼女の口からはまだ消化しきれていない食べ物が吐き出された。

 

「がはっ!」

 

「ごめんね。孫呉をつぶすには貴女が必要なの。

・・・もう追撃はお姉様に任せて私はここで引き上げね。血を失いすぎたわ」

 

クラクラする頭を抑え姫羽は孫尚香を縄でしばり兵にたくした。

そしてここに勝利を宣言した。

 

「私たちは敵、孫呉を退け見事我が家を守りきった。

こそこそ空き巣を狙う孫呉は逃げおおせた!

この勝利はやはり敗北寸前に助けに来てくれた我が姉袁公路のおかげであろう。

最大の功績者袁術の名を高らかに掲げよ!ここに勝利を宣言する!」

 

「袁術様ー!!」

 

「袁術様ばんざーい!」

 

こうして南陽の戦いは終わった。

最大の功績者は逃げおおせてきた美羽だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




破城槌(破城槌)
城の城門をやぶるために作られた攻城兵器。
振り子みたいになってて丸太が振り子。
先を尖らせてそして威力とか増すために金属になってたりする。
三国志シリーズをやってる人ならおなじみかな。

井蘭(せいらん)
やぐらみたいな兵器。移動できるやぐらみたいな感じ。
主に城壁の上の兵を殺すためのもの。
板を通して城壁に乗り込んだりするよ。
これも三国志シリーズをやってたらかなりお世話になる兵器。
ぶっちゃけいつもこれをもって城攻めするよね。

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