もしも袁術に妹がいたら   作:なろうからのザッキー

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戦極姫4武田と足利と島津ルートクリアしましたー!
これで残りはあと伊達と上杉です!
しかし足利は義昭ルート選んだんですよね。義輝ルートも見たいけどまた一からやり直すのが長い・・
セーブを分けて置いても400万石からのやり直しだしそこから始めても長いんですよね。
とりあえず、黒田官兵衛がかわいすぎる。
馬場信春もいいし、今作は直江兼続もなんか好きになれた。
やっぱりこのシリーズはおもしろいなあ。


政策

呂布一派を無事仲間にすることができ、戦力の大幅な増強ができた袁術軍。

これからこの戦力を元にどんどんと進んでいきたいものだがまだ行動に移す事ができないでいた。

 

「やっぱりなんとかしないといけませんよね~」

 

「そうね。このままじゃさすがにますいわ」

 

「こんな城すぐにおとされてしまうのですぞ」

 

七乃、姫羽、音々(ねね:陳宮の真名。本来は音々音)の軍師三人は城門前で唸っていた。

それもそのはず、大陸でも屈指の実力を持つ孫呉の果敢な攻勢を防ぎきったのだ。

その代償として現在この城は酷いありさまだ。

 

城門は今にも壊れそうなほどに軋み、城壁には穴が空いている場所もある。

次に攻められたら確実に崩壊するであろうことは容易に想像できる。

そして城門や城壁は物理的な防衛だけが目的ではない。

城内の民たちに守られているという安心をも提供しているのだ。

 

ではその城壁がボロボロだとどうなるか?

すぐに負け、攻め入れられれば民たちは巻き込まれてしまうだろう。

不貞な輩は金品を強奪し、女性に乱暴をはたらく者もいる。

だからこそそんな不安をさせないために防衛施設は徹底すべきなのだ。

可能ならば真っ先に修理しなければいけないものだ。

 

「しかしずいぶんと酷いありさまなのですぞ」

 

「ですね~、そんなに孫策さんたちは強かったですか?」

 

「当たり前よ。できれば二度と戦いたくないわね。

兵の錬度は高く、将たちも一流、兵器のその場での開発も恐ろしく早い。

相当訓練を詰み、私たちに恨みを持っていたんでしょうね。

だからこそこの戦いで私たちをつぶしたかった」

 

「ならばそう簡単には諦めないはずですぞ」

 

「そうですね~何か一計を案じなければいけませんね」

 

「まあ、孫策たちは兵糧もほとんどないし資金もない。

そんな状態じゃ脱走兵も出るでしょうね。間違いなくいまこの中土で一番の貧乏は孫呉よ。

義勇軍みたいな状態じゃしばらくは仕掛けてこないでしょ。

今のうちに城壁を治さなきゃ」

 

すぐに治したいのはやまやまだが城壁、城門の補修は全体にも及ぶ。

相当な人手が必要なのは見ても分かるとおりであった。

兵を使えば良い話なのだが、あまり多く投入してしまえば補修の兵はずっと補修に付きっ切りだ。

引継ぎの無駄、手際、全体の把握のためにもやはりずっと同じ者が行ったほうがいいのは当たり前だ。

 

「やはり兵には軍事のことに力を注いでもらいたいものですぞ。

工作兵は工作技術と戦闘技術、料理が出来るものは料理と身を守るための護身術、一兵卒は戦う力だけでいいのです。

一人の兵に必要以上の技術を身に付けさせる事は逆に弱くなってしまうのですぞ。

何でもできるのはいかんせん良い事なのですが、器用貧乏は中途半端なのです。

やはり一つの事に関して突き詰めた技術や知識を持つことこそが大切なのですぞ」

 

「ねねもそう思うわよね。

でも人手が足りないのよね」

 

「だったらまた民の力を借りるしかないですね~」

 

「そうは言っても民の中には働きたい人もいればすでに商売をしてる人もいるし、そして今は働けない人もいる。

強制的に働かせるわけにもいかないわ。すでにかなり民に無理をしいているし・・」

 

「なら孫策さんたちとの戦いの時にお金を出して糞尿を集めさせたんですよね?

今回もお金を出せばいいじゃないですか」

 

「う~ん、やっぱり民の力を借りるしかないか。

まあ、民たちもお金がもらえるんだし喜んでやるわよね」

 

七乃の案に納得する姫羽。

財力は袁紹に匹敵するほどある同じ袁家の名門なのだ。

特に反対する理由も無いため姫羽はこの案でいくことにした。

 

「じゃあねねは町中に城壁及び城門の補修の仕事を宣伝してくるのです」

 

「どれくらいで人は集まりそう?」

 

「そうですな、一日五回くらいその場で人を集めて口頭で説明するのです。

この城内の街、四隅と中央の五箇所で宣伝してくるのです。

あとは字が読める人のために100枚ほど紙に募集の旨を書いて貼り付けるのですぞ」

 

「人が集まるにはどれくらいかかりそう?」

 

「そうですな・・やはり全体の補修分の人員を集めるとしたら十日はかけないといけないのですぞ」

 

「やっぱりそうよね。何かもっとうまく仕事の募集を宣伝する方法はないかしら・・」

 

「今の方法では仕事を必要としていない人にも無駄に足を止めて聞かせていますしね~

街全体に広めるためにもやっぱり五箇所ほどでやるしかありませんし、時間と人員も無駄になりますし」

 

この家での軍師3人がうんうんと頭を唸らせながら知恵を出し合う。

だがやはりそう簡単に新しい画期的な方法など浮かぶはずが無い。

時間だけが流れていった。

そして丁度言葉が出なくなった静かな時、「くぅ~」と小さなお腹の音が新参の軍師のお腹から鳴り響いた。

ねねは両手を顔に当て、赤くなった顔を隠すように呟いた。

 

「あ、頭を使ったらお腹が空くのは自然の摂理なのです・・」

 

「そうね、何か甘い物でも食べにいきましょうか」

 

「実は朝ご飯を食べていなかったのです」

 

「じゃあちょっと早いですがお昼ご飯にするのはどうですか~?」

 

「私は構わないわよ」

 

「ねねも賛成なのですぞー!」

 

三人は早めの昼食を取るために飯店へと赴いた。

店は時間が早いということで中は談笑する主婦たちや、仕事の休憩なのか少し汚れた服で早めの昼ご飯を食べる男たちだけであった。

三人も食事を取り食後のお茶を飲みながら少し雑談に興じることにした。

 

「なかなかおいしかったわね」

 

「新しいお店を発見しましたね~店員さんも明るくて良い感じです~♪」

 

「ねねも今度恋殿を連れてくるのですぞ」

 

腹も膨れ味もよかった。

少し口の中に残っている油を流すため茶を飲んでもこれもまた良い味だ。

姫羽は仕事に疲れた脳と体を癒すのに最高の時間を過ごしていた。

いつまでもこんな安らかな時間が続けばいいのにと思っていたがそうはいかない。

 

「少し込んできましたな」

 

ねねがそういったため姫羽はチラリと入り口に目をやると、また一人の男が入ってきた。

店内に目をやると自分たちが入ってきたときよりもずいぶんと客が増えていた。

 

「もうお昼の時間なんですね~」

 

「みんなお腹が空いたから今頃どの店もきっと込んでいるのですぞ」

 

「・・っ」

 

ねねの何気ない一言に反応する姫羽。

しごく当たり前の言葉に彼女は何かを感じた。

 

(お腹が空いたから飲食店に・・)

 

「どうしました姫羽様~?」

 

「お腹が空いたから飲食店に来るのよね?」

 

「??。そうですぞ」

 

「だったら、服が欲しかったら?」

 

「服屋でしょうね~」

 

二人の顔を見て一拍の間を置いてこう問いかけた。

 

「じゃあ・・仕事が欲しかったら?」

 

「それは・・どこでしょう?」

 

姫羽の質問に七乃とねねは顔を見合わせる。

お腹が空いたら飲食店へ行くように仕事が欲しかったら何故仕事屋がないのだろうか?

このことに気づいた姫羽。彼女はいてもたってもいられず勢いよく立ち上がった。

その衝撃で椅子は後ろへと倒れるが気にしない。

 

「これはまだどこにもないでしょうね!

なんせ個人がやるには問題が多すぎるお店よ」

 

「しかしどうやって運営するつもりなのですか!?」

 

「この際売り上げや収入には目をつけないわ。

個人がやるお店としては無理がありすぎる。

私たち袁家が運営する直轄の店、いいえ施設とするわ」

 

「利点と不利点の問題は?」

 

「人手が欲しい所には届け出る申告制にするわ。

そうすれば店や人手が欲しい人は自分か代理の人が一人で申請にくればいい。

そしてその条件をこの仕事屋が求職者に伝えれば良いのよ。

今までのように何箇所にわたって一日何度も宣伝する必要が無い。

求職者も自分が仕事がしたいときに仕事屋にくればいつでも情報がきける!」

 

「現状では適当なお店に仕事がないか直接たずねているみたいですしね。

そして何件も断られてやっと仕事につけるようですし、この仕事屋にくれば確実に仕事が手に入るのは良い利点ですね~」

 

「では不利点は何があげられますかな?」

 

「これはやはり売り上げでしょうね。

安く仕入れ高く売る、大量に作り大量に売るっていう基本が成り立たないわ。

人手が欲しい人からしたらあんまり高い金額を払うくらいだったら自分で探し回るって思うでしょうしね。

だから人手の募集を持ち掛けるための金額はただ同然にするしかないわ」

 

姫羽の案にしばし考え込む二人。

そして姫羽が再び口を開いた。

 

「これは私の最大の目標が叶うかもしれない」

 

「目標ってなんですか?」

 

「この街から乞食や餓死者を無くすっていう政策・・」

 

これは以前姫羽が華雄にのみ語っていたことだ。

この中土ではどの街にも乞食や餓死者が発生している。

長く善政を続けていた董卓、そして劉備や曹操でさえ成し遂げていない。

姫羽も実際無理だと半ば諦めていた。だからこそ話すのを少し恥ずかしがり華雄にしか話していなかった。

それもただの気まぐれで語った事だ。

 

「仕事を見つけることができないからこそ金が手に入らない。

だから乞食や餓死してしまう。簡単に仕事を見つけることができれば少なくとも今より格段によくなる!

二人とも!行くわよ!」

 

「あ、待ってくだーい!」

 

先を行く姫羽を追いかけるように二人は走って姫羽に駆け寄った。

姫羽はぶつぶつと何か自分に問いかけるように口にしながら一人でさっさと突き進んでいった。

そして姫羽は急ぎ文官を緊急集合させ先ほど二人にした説明を改めて全員へと話した。

 

「どこに施設を作るのですか?」

 

「この街のド真ん中よ」

 

「しかし、今は早急に人手が欲しいところ。

施設を建てていては余計に時間がかかるのでは?」

 

「だったら予定地に建っている店か住居の住人に金を払い出てってもらうわ。

既に建っている建物を利用する。広さが足りないなら壁をぶち抜いて隣に拡張用の建物を作れば良い。

大事なのは仕事屋という新しい施設が出切る事」

 

「金を払うから出て行けというのはあまりにも横暴では・・」

 

「一を切って九を救うが私の持論。

奇麗事や夢物語なんて語らないわ。

それに金と、新しい住居が出来るまでは城の空き部屋に住まわせればいい。

言うほど一を切っているわけじゃなくないかしら?」

 

「ではその施設に誰を赴任させるのですか?」

 

「これにも民を使うわ。

既に仕事がある城の者に余計に仕事をさせるわけにもいかない。

この街で仕事につけず働いていない人を少しでも減らすためよ。

金を手にし、金を循環させる事で経済が動く」

 

文官たちからの疑問点や質問を全て答える姫羽。

そして次第に口を開くものがいなくなっていった。

 

「全て出尽くしたみたいね。

ならば早急にことにあたりなさい!」

 

姫羽の言葉に一斉に動き出す文官たち。

彼らも頭の良い者たちなのだ。

金を手にするものが増えるという事は当然税収入も増えるという事なのだ。

結果誰も損をするものがいないということだ。

 

予定地の中央には民家が建っており、そこには直接姫羽が赴き直談判で交渉をした。

交渉は予定よりもすんなり事が運び、七乃には「あいかわらず魔性の女ですね~」とからかわれたが姫羽は使えるものは何でも使う派なので存分に傾国スマイルを連発した。

民家の家財道具などを全て運び出し、大きな一つの部屋に机をたくさん並べただけの簡素な施設とすることにした。

字が読めるもののために「仕事屋」の字をでかでかと掲げまだ営業していないがたくさんの民が不思議と興味の半々の顔をしていた。

 

そして日は巡り姫羽が思い立った日から五日。

ついに仕事屋が営業を開始した。

やはり民たちは見たことのない新しい店のため興味をもっていたためにたくさんの人が訪れた。

そして仕事を紹介する店と知るとすでに職を持っているものは立ち去り、無職の者はそのまま残り仕事を紹介してもらっていた。

この光景を姫羽、七乃、ねねの三人が眺めていた。

 

「うまくいったみたいね」

 

「はい~♪私たちの目的の城壁及び城門の修理ですが雑用から始まり本格的な補修作業と細かく分けていますからね。

女性でもできる矢の製作なんて仕事も無理やり作りましたしね」

 

「子供でも出来る仕事として街中の清掃もありますからな。

政策前と現在では大きな違いが出ること間違いなしですぞ!」

 

七乃とねねは手放しで喜んでいた。

だが姫羽の顔は晴れていなかった。

 

何故だ?何故こない・・

姫羽は辺りを見回す、だがやはりいない。

彼女の顔に暗い影が出始めていた。

 

 

 

 

「ぼう~、太公望~どこにおるのじゃー!」

 

城の中庭に美羽の声が響いていた。

彼女は草むらを掻き分けたり、木の上を見回していたが目当ては見つからない。

 

「うぬぬ~、妾がこんなにも探しておるのじゃ。

お主はとっとと見つかればよいのじゃー!」

 

さすがに長時間探し疲れたのかその場で背中を草むらにぺたりとつけ寝転んだ。

汗で服が濡れて気持ち悪い。髪が濡れて顔に張り付く、邪魔だ。

 

「太公望・・どこにおるのじゃ・・」

 

美羽の声に少し悲しみの色が付き始める。

後半の声はかすれ、小さくなっていた。

 

だがそんな美羽の悲しみは一気に吹き飛んだ。

「キャンキャン」と甲高いあの独特の鳴き声

 

「太公望!」

 

美羽がガバッとその場で起き上がった。

その起き上がりと同時に一匹の犬が美羽に向かって飛びついてきた。

美羽はその小さな体を抱きしめ、犬は彼女の顔をペロペロと舐める。

 

「これ、やめるのじゃぼう。

それにしてもどこにおったのじゃ?」

 

美羽がそう犬に問いかけると急に空が暗くなった。

いや、違う。美羽の背後に大きな何かが立ち、その者の影だ。

 

「呂布・・」

 

「・・セキト」

 

「セキト?」

 

「・・名前」

 

呂布がその視線を犬に向ける。

その視線を受けた犬も美羽の体から離れ呂布の傍にピタリとつけ、顔を呂布の足に擦り付ける。

 

「そうか。太公望はお主の犬であったか」

 

美羽の表情は少し暗くなった。

どうりで人懐こいはずであった。

信頼できる者も少ない美羽にとってこの犬は大変良き信頼者であったのだ。

犬は嘘をつかないし、体を使って信頼を示してくれる。

この犬に美羽は大変癒されたのだ。

 

最近美羽がたまたまこの中庭を歩いていた時に偶然見つけたのだ。

もともと呂布の家族の一人なので呂布と同時にやってきたのであった。

だがそんな事など知らない美羽は自分が最初にこの人懐こい犬を見つけたと大層喜んだ。

毎日毎日かわいがり、おやつを上げたりもしていた。

だが今日は呂布がセキトをつれて散歩していたためにこの場にいなかったのだ。

 

「すまんの呂布。お主の犬とは知らなんだ。

太公望などと別の名を付けられてはそのセキトも混乱したであろう」

 

「・・大丈夫。セキトは頭がいい」

 

「で、あるな。頭がよいから妾も太公望と名づけたのじゃ」

 

「・・セキトは喜んでいる」

 

「そうなのかの?わかるのかや?」

 

「・・セキトが小さいころから一緒にいる。

袁術のことを恋に紹介したくて今日恋をここまで引っ張ってきた」

 

「なんと!そうであったか。

セキト、そなた妾のこと迷惑でなかったかの?」

 

「・・太公望のままでいい。セキトもそう望んでいる」

 

「呂布・・太公望は妾と遊んで楽しかったのかの?」

 

「・・セキトは気に入った相手にしか懐かない。

袁術のこと大好き。動物が好きな人は恋も大好き」

 

「呂布・・お主妾を恨んでいるのではないのかや?

妾はお主を殺そうとしたのじゃ、そして今お主が生きているのも我が妹袁燿と華雄のおかげじゃぞ?」

 

「・・恋。恋のこと恋て呼ぶ」

 

その言葉に美羽は驚いた。

なぜこの話の流れから真名を託すことになるのか?

そして何故恨んでいる相手に真名を託すのか?

 

「なぜ真名を?」

 

「・・セキトが袁術は信用できる相手だっていってる。

恋もそう思う。セキトを探すために袁術は長い時間探し回ってた」

 

そう指摘された美羽の体は先ほどどおり汗でべったりのままだ。

 

「・・そこまでしてセキトを愛してくれた。

椅子に座っているだけでいい袁術が必死に探してくれた。

きっと動物が大好き、私の家族を愛してくれる」

 

「うむ。・・家族?」

 

「おーい恋!ここでいいのか?」

 

中庭に華雄の声が響きわたった。

華雄が団体の先頭を歩いている。その後ろには・・

 

「ぶ、豚!?鴨!?牛に蛇までおるの・・」

 

「・・恋の家族」

 

中庭はあっというまに動物たちの楽園となってしまった。

鶏のような小さな動物から牛までとかなり種類はバラバラだ。

 

「華雄は何をしておるのじゃ?」

 

「あ~、街を散歩していたら恋がセキトに先導されながら歩いておりました。

それで話しかけたら恋がみんなをつれて来いと言っておりましたので連れてきました」

 

どうやら恋は美羽に家族を合わせたかったようだ。

この場所に集合した動物たちは最初こそ落ち着きがなかったが次第に美羽のもとに集まりだした。

 

「な、なんじゃ!?」

 

「・・みんな袁術を気に入った」

 

「しょ、初対面じゃぞ!」

 

「・・きっとセキトから話を聞いていたんだと思う」

 

「さ、さすがじゃの太公望。それにしても少し誇張に話したのではないかの?」

 

美羽の首に蛇がきつくないように巻きつき、鶏はヒヨコを引き連れ美羽の膝の上にのる。

牛や馬のような大きな者は美羽の傍らで寝そべっていた。

 

「・・袁術からは動物好きの気が出ているんだと思う」

 

そういって呂布は美羽の太ももの上に頭を乗せて寝そべった。

 

「こ、これ呂布!?」

 

「・・恋」

 

「う・・恋。妾はお主の君主じゃぞ!極刑に処するぞ!」

 

「・・袁術は優しい。そんなことしない」

 

「うぐぐ・・太公望。お主本当に恋に何を話したのじゃ!」

 

美羽にそういわれるもセキトは知らん顔をしている。

この犬は人語がわかるのか?恐らく雰囲気で判断しているのだろう。

 

「恋」

 

「・・?」

 

「美羽じゃ。妾の真名は美羽。

かつては争っておったが今はともに戦う仲間。

過去を掘り返しておってはいつになっても戦は終わらぬ。

そして今、共に動物を愛する同士である。

生き物に罪はない、早くこやつらが安心して暮らせる世を共に作ろうぞ」

 

美羽の言葉を聞いた恋は寝そべっていた体を起こし、そして美羽をまっすぐと見る。

 

「・・美羽」

 

「うむ、恋よ。お主は我が妹と同じこの軍の要であるのじゃ。

相棒の陳宮と力を合わせ早くこの戦乱を終わらせてたも。いいかげん飽きたのじゃ」

 

「・・わかった」

 

二人の間に堅い握手が行われた。

お互いの遺恨などもはやかけらも感じられない。

姫羽を主とするのではなく、七乃を除いた美羽を主と思ってくれた初めての武将なのかもしれない。

 

「・・やっぱりかわいい」

 

「ふぎゃー!?な、なんなのじゃ!?」

 

「・・小動物みたい」

 

恋が握手の後に手をひっぱり美羽を抱き寄せていた。

長身な恋と背の低い美羽であるため美羽はされるがままだ。

その光景を眺める華雄

 

「はっはっは!袁術様も少しずつ変わられているな。

最強の心を掴むとは曹操や孫策でもうまくいかないだろうな。

まあ、私は姫羽様に全てを捧げているのだ、これ以上奪われる心など一つも残っていない」

 

華雄がそう呟きそこから去ろうとしたとき

 

「姫羽様!?」

 

「華雄」

 

華雄の後方に姫羽が立っていたのだ。

その顔は酷く落ち込んでいる。

 

「ど、どうされたのですか!?」

 

「ダメなのよ・・」

 

「何がですか?」

 

「乞食や物乞いが・・誰一人来ないのよ!」

 

姫羽はそう叫び美羽のもとへと走っていった。

美羽の目の前で膝をついた。

 

「お姉様。何故でしょう?

私の政策に何一つ間違いなど無かったはず・・」

 

妹の様子に驚き駆け寄る美羽。

 

「どうしたのじゃ姫羽!

お姉ちゃんに話してみるのじゃ」

 

「お姉様ー!もうわかりません!

乞食たちのためにやったのにどうしてー!

何がいけないって言うのよー!」

 

「あの新しく作った仕事屋のことかの?」

 

「はい・・もともとこの国から乞食や餓死者を無くすのが私の夢でした。

だから全員が仕事につき、金を得ればなくなると思って・・

しかし、普通の身なりの者たちはたくさんきたのに物乞いたちは誰一人こないんですよ!

来ればもうそんな辛い思いしなくて済むのに!なぜ!?どうして!?」

 

姫羽の心は荒れていた。

拳を地面に叩きつけてもいる。

妹の様子に美羽も少し困った顔をする。

だが妹でもわからないことを美羽がわかるはずもなかった。

そんな時・・

 

「恋どのー!ここにおりましたかー!」

 

ねねが両手にいっぱいの肉まんを抱えてやってきたのだ。

その様子を見た恋はすぐにねねの元へかけより肉まんをほおばる。

 

「・・幸せ」

 

恋の顔は至福に満ち溢れていた。

その表情はまさに傾国の美女を見慣れた者たちをも破顔させる。

 

「恋。かわいいのお・・」

 

「恋どのは天下無双ですぞー!」

 

しかし姫羽はそれどころではなかった。

相変わらず俯き、うなだれていた。

だがいくら考えても何も出てこない。

時間だけが流れ呂布の食事も終わった。

 

「・・おいしかった」

 

「では恋殿。今からは警邏の時間ですな。

お腹も膨れたので俄然やる気がでましょうぞ!」

 

「わかったのじゃーー!!!!!」

 

美羽が大声をその場で上げた。

 

「な、なんですぞ!?」

 

「袁術様。どうされた?」

 

突然の奇行に驚くねねや華雄。

美羽は姫羽の肩に両手を置き話し始める。

 

「姫羽!妾はわかったのじゃ!

なぜ乞食や物乞いたちが来ないのか!」

 

「ほ、本当ですかお姉様!?」

 

「当然じゃ!妾はお姉ちゃんじゃぞ!」

 

「そ、それで!?」

 

「簡単なことじゃ。腹が減っておるからじゃ」

 

「お腹が・・?」

 

「生きる活力であるからの。

腹が減っておっては一日中仕事なぞとうてい無理に決まっておろう。

それに給金が出るまでは無一文のまま毎日仕事をせねばならぬ。

まともに働けぬとわかっておるのじゃ」

 

美羽にそう言われ頭の中に美羽の言葉が走り続ける。

簡単なことであった。例えば朝ご飯、昼ご飯を食べずに一日仕事をするなど常人でも辛い。

ましてや、毎日生きるギリギリの者たちには終日仕事など無理であろう。

姫羽はついに答えにたどりついたのだ。

 

「た、確かに・・しかしどうすれば・・」

 

「無論、金さえあればよい。

給金が手に入るまでの生活費が必要じゃな」

 

「しかし、金を渡してしまうなんて・・それでは自分の力での立ち直りではない!」

 

「ならば新しき制度とすればよいのじゃ」

 

「制度・・?」

 

「新しい仕事をするのじゃ。

ならば働くための準備がいろいろ必要であろう。

服であったり、仕事道具であったり。

金は入用じゃ。それは皆同じである。

ならばその仕事のための支度をする。名づければ「支度金」じゃな」

 

「支度金ですか」

 

「うむ。これなら皆平等じゃ。

制度として施行するから姫羽がいう手助けではない。

物乞いどもはこの袁家の仕事屋の制度にのっとって金を手にするのじゃ。

食事を取り、体をまともにしておく支度も充分に必要じゃ」

 

「・・・」

 

姫羽は黙ってその場に立った。

そして・・

 

「おねえさまー!!」

 

「ぶわっ!?お主もか姫羽!?」

 

両手で美羽を抱きしめた。

そしてその場でぐるぐると抱きしめたまま廻りだす姫羽。

 

「だってだってお姉様が私のために頭を使ってくれたんですもの~♪

しかもかなり的を得たすばらしき制度。私かなり困ってたんですよ!

これはまさにお姉様の私への愛、愛の手、救いの手」

 

「おおげさじゃー!」

 

ぐるぐると振り回され困惑する美羽であった。

しかし、そんな仲の良い二人にねねが話しかけた。

 

「しかしあながち間違っておりませんぞ袁術様。

ねねは姫羽様と七乃と三人でこの政策についてずっと話し合っていたのですぞ。

誰もこの問題に気づかずそして誰も打開策が浮かばなかったのです。

それをまさか袁術様が・・」

 

「確かに・・私はこの政策について話し合ってはいなかったが姫羽様でも解決策が出なかったことをまさか袁術様が」

 

「・・美羽凄い」

 

「まさかまさかとお主ら妾をどう思っておるのじゃー!」

 

美羽は最近少しずつだが成長してきているようであった。

以前までは一日椅子の上ですごし、仕事は全て七乃と姫羽が行っていた。

気に入らない事があったらすぐに癇癪を起こし、わがままし放題だったのだ。

 

「姫羽様。よかったですね」

 

「ええ、華雄。私を助けてくれたのが他でもないお姉様よ。

今の私は百人力。ちょっと行って来る!」

 

「はっ!お気をつけて!」

 

姫羽は中庭から走り出て行った。

そして姫羽は仕事屋へと赴き、従業員たちにこの支度金の制度を追加した事を伝えた。

給金が出るまでは最低限の金額が一度だけ至急されるものとした。

 

 

 

 

ここは路地裏。

生きているのか死んでいるのかわからないような者たちばかりだ。

顔は痩せこけ、肋骨(ろっこつ)は自己主張し、腕は骨をつなぎ合わせただけのような細さ。

 

「うう・・」

 

この女性もまた腹に激痛が走る。

空腹があまりにも長時間続くともはや痛みすら走るのだ。

 

彼女には子供もいた。

子供も衰弱し、かなり危険であろう。

まさに絶望の淵。希望などとうに捨てた。

 

だが今日、この日から全ては変わるのだ。

一人の女が作り出した新しい袁術軍の夜明け。

 

一人の女が路地裏へとやってきた。

そして親子の傍で立ち止まる。

 

「そこの貴女、今人手不足なのよね。ちょっと働かない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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