もしも袁術に妹がいたら   作:なろうからのザッキー

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戦極姫4が飽きちゃったので今回投稿が早くなりました。
またやりたくなったらやります。
更新は本当に不定期なのでみんなゆっくり待ってね


孫尚香

姫羽の政策により南陽は大いににぎわっていた。

当初は物乞いたちは誰一人と仕事屋を訪れなかったが今では仕事が見つかり、かつ支度金ももらえるということで逆に連日訪れるようになり確実に無職者は減っていった。

このまま行けば姫羽の夢は近いうちに適うだろう。

噂とは早いもので他所の村からも出稼ぎとしてこの南陽に訪れるものもいるほどだ。

 

そして今日は祭りが開かれていた。

何を思ったか美羽が突然開きたいと言い始めたのだ。

まったくわがままもなりを潜めたかと思ったが理由は「食べ物信仰を広げたい」という理由であった。

 

確かに美羽が自分で作った宗教だ。

全ての食物には人間を生きさせる力、いわば神が宿っているというものだ。

たとえ人参一本であろうと人間が手足を動かし、物を考える力となるのだ。

力だけではなく、蜂蜜を舐めれば心に幸福でさえも与えてくれる。

きっと幸福の神様が蜂蜜には宿っているとも美羽は言っている。

完全に宗教の教主になっていた。

 

しかし姫羽も七乃も、そして客観的に贔屓目(ひいきめ)無しに見れるねねでさえもこの宗教を推している。

なぜなら食物に感謝を捧げ、豊作を願い、開墾や稲作に精を出して悪い事など何一つないからだ。

御神体も美羽の木像であるため広がればそれだけ袁術軍の知名度が上がる。

 

そして今日一日だけ城壁や城門の補修の仕事を休みとして完全に南陽を祭りにしたのだ。

街中には露店が立ち並んでいる。どれも名目では「それぞれの食べ物神様の加護のお味をお確かめください」であった。

街一色で食べ物神を後押ししていた。

 

「わーっはっはっは!楽しいのお!」

 

美羽は神輿の様な物を作り兵士たちに担がれて街中を練り歩いていた。

どこを見ても今日は人、人、人。人で溢れ返している。町の空気も悪くない。皆楽しんでいるようだ。

美羽の顔を知らなかった人も木像どおりの顔である美羽を見て指差すものや、祈りを捧げる者もいた。

支度金があるためか仕事が無かった者達でもこの祭りを少ないお金で楽しむ事はできているみたいだ。

この光景は一月まえではとても考えられなかったことである。

 

「よくここまで復活できましたね」

 

「そうね。貴女のおかげでもあるのよ七乃」

 

「いいえ。私は手助けしただけです」

 

七乃と姫羽は街の数箇所に木造の椅子を長くした物を作らせ今日のために設置させていた。

祭りはずっと歩き続けるため疲れるのだ。

一個一個の椅子を設置しても良いのだが軽くて動いてしまうため、ならば重くすればいいと椅子を巨大化させたのだ。

そして改良してできたのがこの長椅子。全体に大きくでは無く横に長くしたのだ。

 

「本当によくなりましたね~。

ゴミも街中に散乱しておらず、死体や腐った臭いもしない。

祭りを開いたとしても雰囲気を壊す乞食たちもいない。

まさに街全てが一丸となった祭りですね」

 

「ええ。他所から来た者もこの活気に驚くでしょうね。

この南陽こそ中土一の街。それを作りあげたお姉様こそが天に近き人」

 

「天・・ですか」

 

「ええ。私は帝に忠誠などなし。

名前だけの権威などより、実績のお姉様を民は支持してくれるはず。

とりあえず今はもっと領土を広げ、いずれは皇帝を名乗ってもらうのもいいかもしれない」

 

「ずいぶんと朝敵な発言をしますね~でもそれでこそ姫羽様です」

 

七乃も美羽と姫羽以外に忠誠など持っていない。

どこまでも二人についていくと決めているのだ。

 

「さて・・どうでるかしらね?七乃」

 

「ええ」

 

 

 

 

「楽しそうだなぁ・・」

 

外からは民たちの楽しそうな声が聞こえる。

楽器のような音が聞こえる。

壁は厚いのだが外の世界をわざと聞かせるためか?腕が一本通るくらいの穴が空いているのだ。

 

「お祭りかなあ?」

 

孫尚香は一人独房にいた。

呉軍が負け、捕らえられてからはここにずっと入れられっぱなしなのだ。

周りに牢は無く、完全に一人だけの独房であるため何もすることはない。ただ毎日時間が経つのを待つだけ。

時間が経ってもまた時間が経つのを待つだけ。

 

「楽しそうだなあ」

 

孫尚香はまた今日も外の世界へ憧れを持ち続けるのだ。

 

 

 

 

(小蓮さま、今お助けします)

 

周泰は南陽へと潜入していた。

もちろん目的は孫尚香の救出である。

孫策から命じられ潜入する日を待っていたのだ。

最近急に南陽へ向かう人が増えていた。

捕まえて聞いてみるとどうやら祭りが開催されるらしい。

 

(これだけ大勢の人がいると潜入も楽ですね)

 

城門が開きっぱなしであったため他所の村の民たちと一緒に入る事ができた。

 

(うわ~凄い人。南陽はがここまで発展するなんて。

民が多く、笑顔も溢れている。もっとも良い状態を袁術が作り上げるなんて)

 

周泰は裏路地に向かうも裏路地にまで露店が開かれていた。

本来であれば大通りから離れているためもっとも治安の悪い場所であるのだ。

だが、そんな場所で店を開くなどとは襲ってくれと言わんばかりだ。

 

(警備がよく出来ているんですかね?

そもそも浮浪者が全然いない・・今日のために集めてどこかに押し込んでいるのかな?)

 

こんな街中に孫尚香は捕らわれていないだろうと判断し周泰はどんどんと奥へ進む。

政務所や将の邸宅、はては玉座の間が並ぶ重要な区外へと入るために門があり、そこには門番がたっていたのだが今日は街中がお祭り気分のため彼らも怠けていた。

雑談を交わし、まったく仕事をしているそぶりがない。

 

(やはり袁術は袁術なのです。小蓮さま、すぐに向かいます!)

 

周泰は拍子抜けしながらも門番の隙をつき、死角をさぐり門を突破した。

門を突破してからは周泰は民の服を脱ぎ、いつもの服装へと戻った。

 

ここからは日の光は弱い。太陽光が入らないところは灯りがないのだ。

赤黒い彼女の服装は闇に溶け込みやすく周泰は女中たちや文官たちをやり過ごしどんどんと進んでいく。

だが一応警備たちはいるようだ。周泰は物陰に隠れたり、光の当たらない隅の暗がりで丸くなり完全に闇と同化したり次々とやり過ごす。

そしてついに周泰は牢へとたどりついた。

 

(ここは一般の牢かな?小蓮さまは恐らくそのさらに奥・・)

 

周泰は慎重に進む。

この部屋の構造は牢が部屋の左右に設置されており全て鉄格子のみ。

一番手前の牢には誰かが入っていた。

だがその者は薄い布団を頭から被り眠っていた。

 

(よかった寝てる。これならいける)

 

周泰はその者を起こさないようにソロリソロリと足音を立てずに進む。

牢と牢の間のまっすぐな一本道。本来なら危険だが今日は祭り。

牢番でさえいなかった。

 

(囚人が一人だし、おとなしいから休みにしたのかな?)

 

多少疑問に思いながらも何を気に病む必要があろうか?

もうすぐで小蓮を救出できるのだ。

あとは警備たちを暗殺でもして無理やり逃げればいい。

入るのは難しくとも、出るときは門を突破すればあとは大量の民に紛れればいいのだ。

いける。周泰は奮起し尚も進む。

 

そして周泰は一番奥の扉に手をかけようとしたとき。

何かの物音がした。

 

(えっ!?)

 

「クゥ~ン」

 

犬だ。一匹の犬がいたのだ。

 

「なんだお犬様でしたか。びっくりしました」

 

なんでこんなところにお犬様が?

周泰は疑問に感じたが囚人の気持ちをやわらげるためだろうか?

などと特に気にせず先に進もうとした。

 

だがその時・・

 

 

後ろから「ギー」と鉄のすれる音がした。

先ほどまで寝ていた囚人が起きて牢から出てきたようだ。

囚人が牢から出てくる?そんな馬鹿な。

 

その者の背はでかく顔が見えない。

牢は暗く、蝋燭の灯りだけでは足りない。

その間ものしのしとゆっくりこちらへと歩いてくる。

手には何か持っている?槍?

 

だんだんと近寄ってくるたびに見えてくる。

その者の髪の色はまさに深紅。

露出の大目の服で少し肌が黒い。

顔は・・

 

「呂布・・」

 

囚人は呂布であった。

なんだそれ、ありえない。

 

周泰は周りを見渡す。

出口はまったくの反対側。呂布の背中側だ。

周りには牢しかない。その牢も恐らく鍵がかかっているだろう。

呂布のいたあの手前の牢だけ鍵がかかっていなかったのだろう。

なんのため?私を奥に誘い込み退路を無くすため。

 

「ク~ン」

 

「・・セキト。えらい」

 

「そのお犬様は呂布の犬でしたか」

 

恐らく怪しいものが通ったら鳴けとでも命令していたのか。

賢いお犬様だ。やっぱり私はお猫様の方が好きかな。

だって、今この状況は・・

 

「無念です・・」

 

逃げれるはずがない。

狭く、一本道。そして呂布は武器を構えた完全武装。

自分の実力を考えれば結果などとうに見えている

 

「捕らえるなり、殺すなりすればいいです」

 

「・・?違う」

 

「ならなんですか?」

 

「・・これ。渡せって」

 

「紙?」

 

「・・読んで」

 

それは孫策へ当てた手紙であった。

場所はこの南陽、玉座の間へと来いと書かれていた。

日時や時間もかかれており、その内容としては

 

「小蓮さまの解放について・・ですか?」

 

「・・コクッ」

 

「人質の解放についての話ですが、ただで解放してくれるとは思いませんがその場を設けてくれるならばありがたいです。

この手紙を孫策様に届ければいいのですね」

 

「・・そのために待ってた。絶対今日来るからって」

 

「全て掌の上だったというわけですか。

この周泰一生の深くです・・」

 

「・・がんばって。あと出口まで送れって言われた」

 

「わかりました。ここはおとなしく送られます」

 

こうして周泰は恋に付き添われ南陽から脱出した。

その姿を姫羽と七乃はしたり顔で見送る。

 

「やっぱり来たわね」

 

「当然ですよ。人ごみに紛れれば簡単に隠れられますし。

警備たちもあえてかっこ悪くない程度に減らしました。

門はあえて隙を見せろって命令しましたしね。

 

「簡単すぎて図に乗ったようね。

最悪周泰が門を突破したら兵を集めて一斉に突入させようかと思ったけど」

 

「周泰の技術は中土一と言われていますしね~

逆に多すぎると危険かもしれませんしね」

 

七乃と姫羽はうまくいったことを安堵した。

とりあえず今日の一仕事は終わったと祭りに目を向けた。

そこでは周泰を送り終えた恋がねねと一緒にゴマ団子を頬張っていた。

華雄は部隊の兵たちだろうか?「姉御!」と呼ばれ五人ぐらいで祭りを楽しんでいるようだった。

 

「今回の人質解放の任。任せていいのよね?」

 

「はい。お任せください」

 

こうして、この祭りの日は水をさされることなく良き一日として終わった。

 

 

 

 

「袁術からの人質についての交渉・・ね」

 

「ああ。明命を生かしてまで申し入れてきたのだ。

小蓮様の解放に莫大な交換条件をつけてくるだろうな」

 

「私たちなんてもう貧乏のどん底なのにね~」

 

孫策と周瑜は500名ほどの兵たちと野営で過ごしていた。

彼女たちはあの戦いで負けたのち抱えた兵の数に困っていたのだ。

生活の苦しさ、貧しさから脱走兵などが大量に出てからでは評判が悪い。

そのため、自分の意思で残るもの以外は全て解放したのだ。

つまりこの場に残っているのは心から呉に忠義を尽くす兵と将たちなのだ。

 

「しかし、街はずいぶんと潤っておりました。

城壁や城門の修理をしながら祭りを開くほど余裕があるようですし・・」

 

周泰は無事帰還し城下の感想を述べた。

 

「だから金を要求してこないと?」

 

「まあ、それが普通よね。でも金持ちはやっぱり金を溜め込みたいものでしょ?」

 

「ひょっとしたら金ではないかも知れんな」

 

周泰の報告で孫策と周瑜は南陽の経済状態を聞いていた。

とはいえ、聞いたのは祭り当日の日の話だ。

あの街の民が笑っていたのはかなりの額を祭りに投じたためによるものではないかと考えた。

大盤振る舞いし、民たちに酒でも振舞ったのだろうと。

だからこそ金を回収したいのでは?

 

「お金以外というと・・」

 

「別の人質かもな」

 

人質。

当然呉にとって孫家は大事な存在である。

孫策、孫権、孫尚香がいれば孫家の血が途絶える事は無い。

だからこそ、孫尚香と別の者の交換だ。

 

たとえば周瑜。

周瑜と孫尚香を交換させればどうなるか?

袁術軍からしたら孫尚香よりも周瑜が欲しいのだ。

だが呉軍からしたらそれでは損害が大きすぎる。

 

「同盟と人質の交換の線ね」

 

「かもな」

 

大事な孫尚香を返し、そして弱小の呉と同盟を結び滅ぼさないでやる。

だからその代わりに優秀な将を同盟の証に寄越せということだ。

同盟の証の人質になるのだ。牢に捕らえられて使えない者より、働く優秀な将が手に入るのだ。

呉軍がおかしな動きを見せればすぐに人質は殺される。

人質もおかしな動きを見せればすぐさま同盟は破棄され攻め滅ぼされる。

 

「冥琳、祭あたりが要求されるかもね」

 

「だろうな。雪蓮、私がいなくとも大丈夫か?」

 

「さあね!わかんない。貴女がいないなんて考えたくないわ」

 

「ふっ、言ってくれるな。口説き文句か?」

 

「どうだろ、私の隣にはいつも貴女がいるからそんな未来なんて見えないわ」

 

「そうだな。私の頭の中にもいつもお前がいる」

 

「いつも考えてくれてるってこと?」

 

「世話が焼けるという意味でな」

 

二人は笑いあった。

明日には離れ離れになるかもしれないのだ。

だからこそ二人はたくさん話し合った。

そして結論が出たようだ。

 

「ま、なるようになるか」

 

 

 

 

 

「誰?」

 

「袁燿です」

 

ここは孫尚香の独房。

そこに姫羽がたずねてきたようだ。

 

「孫尚香殿。外に出たいですか?」

 

「えっ!?出してくれるの!?」

 

「はい。明日でれますよ」

 

その突然の知らせに孫尚香は目を見開いた。

今日一日ずっと祭りの音を聞いていたのだ。

心が躍り、さらに外の世界へ渇望していたためにこの知らせは心が躍った。

 

「わーい!やった!でもどうして?」

 

「貴女が外の世界を望んだからかな」

 

「どういうこと?}

 

「ま、明日になれば出れるんだから今日は早く寝なさい」

 

 

 

 

 

そして翌日。

この日は人質の解放についての席がある日だ。

孫策は馬を飛ばし一人でこの南陽まで来た。

手紙にも一人で来いと書いてあったためだ。

 

「ずいぶんとにぎわってるじゃない」

 

周泰には祭りの日のことしか知らされていなかったが、今日は普通の日だ。

それなのにずいぶんと人が多い。

こんなこと以前まではなかった。

 

「城壁の修理に民が混じっているわね。

袁術のことだし無理やり働かせているのかしら?」

 

今までの袁術のことしか知らない孫策にはその発想しか出てこない。

まさか彼らは自らの意思で働いているとは思えなかった。

 

「孫策さまですね」

 

「ええ」

 

「こちらへどうぞ。袁術様がお待ちです」

 

袁術軍の兵が孫策の元へやってきて玉座の間へと案内していく。

道中歩く道でも民の存在がやけに目に付く。

これほど積極的に民は町を歩いていただろうか?

街が臭くもない。妖術でも使ったのか?

 

「ではお入りください」

 

そして玉座の間の扉を開く。

 

「久しぶりね」

 

「うむ」

 

孫策は中へと入っていった。

チラリと周りを見渡すと張勲と袁術の二人だけだ。

将はその二人だけ。無用心に思えたが部屋の左右に兵がしっかりと控えている。

兵は二列で一列目に弓を構えた兵。

後方の二列目は槍を持った兵。これなら護衛の将はいらないか。

 

「あら、あの妹はいないのね」

 

「姫羽ならば今忙しいのじゃ。

七乃も優秀じゃしの。妾たち二人でよい」

 

「そ」

 

孫策は安堵した。

あのやっかいな袁燿がいなければ何とかなるのではないかと。

自分たちをこんな目に合わせたのも全て袁燿のせいだ。

これはまさに好機。

 

「私は今忙しいの。さっそく本題のうちの孫尚香の話をしましょう」

 

「うむ、そうであるな。七乃」

 

「はぁ~い♪美羽様。

それでは孫策さん。私たちは孫尚香の解放に条件があります」

 

(そら来た。誰?冥琳?祭?)

 

「それは・・」

 

「それは?」

 

 

 

「貴女の持っている南海覇王との交換です」

 

「南海覇王ですって・・」

 

孫策は驚いた。まさか南海覇王を要求してくるとは思わなかったからだ。

 

「はい。私たちに南海覇王を渡せば孫尚香さんは解放します」

 

「だ、ダメよ!!これは母様から受け継いだ孫呉の宝、家宝なのよ!」

 

孫策が断るのも無理は無い。

まさにこれは孫家という証でもあるものなのだ。

孫策たちの母である孫竪もこの南海覇王を受け継ぎ戦ってきたのだ。

そして今、孫策がそれを受け継いでいるのだ。

そしていずれ王が変わるとき、この南海覇王もまた妹の孫権へと受け継がれていくものなのだ。

 

「ではこの話は無かった事になりますね」

 

「他に条件はないの!?人質の交換や同盟、金銭の授与いろいろあるじゃない」

 

「いいえ。私たちが欲するのはその剣のみ。

他は一切受け付けません」

 

「これは・・ダメなのよ」

 

孫策は顔を渋らせ、そして睨むように袁術と張勲を見る。

絶対に渡さないと体からにじみ出ているようだ。

まさに鉄壁の意思。

 

これは難航しそうだと孫策は思った。

だが張勲の顔を見ると特に困った様子もない。

そしてまた彼女は口を開いた。

 

「そうですか。どうしても渡せないと?」

 

「ええ」

 

「貴女の妹はその剣一本よりも重くないと?」

 

「あの子も孫家の人間なら分かっていると思うわ。

そして負けて捕らえられることの意味を知っているはず」

 

「そうですか。ウフフ、捕らわれる事の意味を知っているのですね。

それなら話は早い!」

 

「??」

 

突如張勲の表情が変わった。

それは笑顔。笑顔ではあるがその顔に孫策はゾクリと背中に寒気が走る。

 

「拷問、尋問、捕虜への待遇は貴女も知っているはず。

そうですね~、貴女にとって妹さんの価値は剣一本にも劣ると。

ならば何をされても妹さんは仕方ないですね~

 

え~っと、とりあえず10人ぐらいの兵に一ヶ月性行為及び自慰行為は禁止させましょう。

そして部屋に放り込んでおきましょうか~♪

えーっと1人5発だとして50発ですね。あちゃ~、さすがに妊娠しちゃいますね~」

 

「な!?あ、あんた何言ってるかわかってるの!?」

 

「ええ、もちろん。

男の捕虜では鞭打ちや耳削ぎなどの拷問が行われますがそれと同じでは?

女性にはやはりこちらの手のほうが兵も喜びますから」

 

「ぐっ、く・・・・」

 

孫策は顔を歪める。

まさかここまで張勲が腐っているとは。

いや、知っていた。こいつは危険なやつだと。

自分の知らないところで行われていたのなら怒りをぶつけ殺すだけだ。

だが、あえて自分にこうすると選択肢を突きつけてくるなんて。

これでは私が小蓮に拷問の許可をしたようなものだ。

 

今すぐ南海覇王を渡してしまいたい。

そして小蓮を抱きしめてやりたい。

きっと今までは何もされていないだろう。

全て今日この日のために、私を苦しめるために・・

 

「さて。どうです~?」

 

「・・・」

 

「あ、10人はやめて20人にしましょうか」

 

「南海覇王は孫呉の魂」

 

孫策は眉間と額に深い皺をつくり張勲を睨みつけた。

背中にすべての業と(ごう)と責任、罪を乗せ重く口を開いた。

この世の全てに怒りをぶつける鬼の睨み。

 

「・・・」

 

「貴様らになどくれてやるものか!!」

 

「では貴女は孫尚香を見捨てると!」

 

「ああ!」

 

「剣一本のために妹を捨てるというのですね!」

 

「くどい!」

 

その時、か細い少女の鳴き声がこの玉座の間に広がる。

どこから聞こえるのかと孫策が辺りを見回すと、扉が開き誰かがいた。

 

「なっ!?」

 

「お姉様・・」

 

孫尚香が袁燿に肩を抱かれて立っていた。

顔をクシャクシャに濡らして。

 

「しゃ、シャオ?」

 

「・・・」

 

「あ、あのね」

 

「嫌い」

 

「え?」

 

「嫌い嫌い!だいっきらい!

お姉様なんて大っ嫌い!うわーーーん!」

 

孫尚香はその場で大声を上げて泣き出した。

そして振り返ることもせず背中を向けて走っていった。

その後を袁燿が追いかける。

 

「あらあら~嫌われてしまいましたね」

 

「貴様ーー!!このために・・」

 

「くすくす。全ての選択はあなたがしたんですよ孫策さん。

さあ、もう話は終わりましたね。交渉は決裂です」

 

「この恨み。いつか晴らしてやるわよ」

 

「出口はあちらです。お引取りください」

 

「このために、袁術はずっと口を黙っていたのね」

 

「わ、妾は七乃に今日は最初以外はずっと黙っていればはちみ」

 

「・・・」

 

孫策は袁術が喋り終わる前にさっさとこの場を離れていった。

 

 

 

「うう・・ぐす・・」

 

孫尚香は泣いていた。

大好きな姉に捨てられたのだ。

しっかりと姉の口から、声で、その姿で聞いた。

 

だが彼女にも分かっていた。

あの南海覇王がどれだけ孫呉にとって大切なものなのかを。

わかっているのだが彼女の幼い心ではそれを受け止めきれるほどの広さを持っていなかったのだ。

これがもし孫権であれば、家のためと割り切れていただろう。

だが彼女はまだ幼いのだ。

 

彼女は昨日の夜楽しみにしていた。

今日という日に期待を膨らませて眠りについたのだ。

ドキドキする胸を押さえて、袁燿がこの牢を開けるのをまった。

ずっと監禁されていて辛かったが、この瞬間をどれだけ待ちわびたか。

ただの廊下もあの独房に比べたら広く感じ、まさに憧れた外の世界と言えただろう。

 

そして袁燿につれていかれたのがあの玉座の間であった。

そこで聞いたのだ。姉が自分を捨てる言葉を、瞬間を。

 

「孫尚香」

 

「袁燿・・」

 

姫羽は孫尚香の近くまで近寄り、そしてしゃがみ目線を彼女に合わせた。

 

「ごめんなさい。私も知らなかったの。

孫策が今日来ていたなんて知らなかったの・・ごめんね」

 

「うう・・ぐす・・私捨てられちゃった。

こんな事ならずっと牢にいればよかった。

外になんて出なきゃよかった!」

 

「ずっと出たかった外に出たら、辛い現実を見てしまったものね・・

でも大丈夫よ。私が貴女を見捨てない!

孫策が、いいえ孫呉が貴女を捨てたのなら私が拾えばいい。

そうすればあなたは一人じゃない!」

 

「袁燿が・・私を?」

 

「ええ。だって私は貴女の事が好きだから」

 

そう笑顔を浮かべる姫羽の笑顔に孫尚香は心を奪われる。

姉に捨てられ居場所のない彼女のボロボロの心にはあまりにも綺麗過ぎたのだ。

まさに心が奪われるとはこのことか、体が自然に引き込まれる。

 

「好き・・シャオのこと好きなの?シャオのこと捨てない?」

 

「ええ。貴女はかわいそうな子。まだこんなにも幼いのに家に捨てられ、姉に捨てられ・・

でもそれももう終わった事。貴女はここで新しい居場所を見つければいい。

自分を見てくれる人、大切にしてくれる人、友達、親友。

もううるさく言う人なんていないわ。

貴女は今日から自由。そして私の大切な人よ」

 

「自由・・」

 

心が温まってくる。きずけば先ほどまで流れていた涙が止まっていた。

体がポカポカする。

 

「そしていつか仕返ししてやりましょ。

貴女が捨てた私はこんなにも強いんだぞ!ってね」

 

「うん!」

 

「さ、いきましょう。孫尚香」

 

「シャオ!真名は小蓮だよ!

シャオってよんでね!」

 

「そう、シャオ。私は姫羽。

好きなように呼んでいいわよ」

 

「じゃあ姫羽お姉様!」

 

こうして小蓮は袁術軍に加入したのだった。

何も知らない無垢な少女は七乃が考えたこの策によって忠誠を持って部下となった。

外の世界を渇望し、そしてその憧れを力技で壊したのだ。

ボロボロの心に与える甘い蜜の甘いこと・・まさに飴と鞭。

姫羽にやってもらう仕事はただタイミングを見計らって玉座の間の前を通り、孫策がシャオを捨てると宣言したのを聞かせればいいのだ。

身内や古参からの将の多い絆を重視する孫呉にとってこの策はまさに破壊の一手である。

南海覇王の重要性を知っていたからこそ成ったまさに鬼謀と言える策であった。

 

 

 

 

 




やっぱり恋姫は七乃だよね。
七乃が一番かわいいし、性格が好き。
黒い人って結構自分的に好きかな。
性格が悪いと黒い人は違うよ。あくまでも黒いだからね。

ちなみに好きなキャラは1、七乃 2、美羽、3、猪々子かな。
恐ろしいまでに袁家が多いです。

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