もしも袁術に妹がいたら   作:なろうからのザッキー

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七乃の口調が難しいです。


排除

「暇じゃの~」

 

「そうですね~」

 

今日も二人は平和に過ごしていた。

だがいつものように彼女たち以外は忙しく仕事をしていた。

その中でも姫羽は人一倍忙しく働いていた。

 

そんな彼女とはうって違い七乃はいつものように美羽の傍らで控え、話し相手にもなっている。

大将軍。彼女はとても高い位についている。

だがそこらの者たちよりもあきらかに仕事をしていない。

いや、傍から見ればまったく仕事をしていないと言っていいだろう。

当然嫌味を影で言われるのはいつものことである。

 

「張勲様は今日も仕事をしておらんな」

 

「ああ。いや子供のおもりって仕事なんじゃねーか?」

 

「だな。あんなわがままなガキの相手してんだ、さぞかし苦労してるんだろうよ」

 

張勲は仕事をしていない。

世間の判断はそうだった。

 

「・・・」

 

その陰口を姫羽は聞いていた。

だが彼女の目は怒りどころか、悲しみに満ちていた。

そして彼女はその場をそっと立ち去った。

 

「七乃」

 

「姫羽様?どうされました?」

 

「その・・お姉様が寝たら私の部屋にきてくれない?」

 

「姫羽様の・・?わかりました」

 

彼女たちはその言葉を交わし、その場を後にした。

 

そして約束の時間。

七乃はいつものように美羽を寝かしつけた。

美羽と七乃は同じ部屋で寝ている。

美羽はその見た目の外見どおり精神がまだ子供なのだ。

だから七乃はいつも美羽と同じ寝台で寝、絵本を読んであげたり子守唄を歌ったりしている。

 

「美羽様・・失礼しますね」

 

美羽が寝息を立てはじめ数十分経過した。

もう深い眠りに入ったころだろう。

七乃はそう判断して寝台から抜け出し、姫羽の部屋へと向かう。

 

「姫羽様。七乃です」

 

「入って良いわ」

 

「失礼しますね」

 

姫羽からの許可が出たため七乃はドアを開けた。

 

「いらっしゃい」

 

姫羽は酒やつまみを準備して待っていた。

二人分の陶器でできたコップのような入れ物にすでに注いであり、律儀にも飲まずにまっていたようだ。

 

「どうされたんですか?」

 

「ふふ、ただ貴女と飲みたくてね」

 

「相手が欲しかっただけですか。何か問題でもあったのかと思いましたよ」

 

「問題といえば問題ね。

友と久しぶりに飲みたいっていう衝動がね」

 

「友ですか。光栄です~ではお相手しましょう」

 

「ええ。さ、乾杯よ」

 

酒を交し合い二人の飲み会が始まった。七乃は言われた通りに酒を一口飲んだ。

だが彼女は姫羽に聞きたいことがあったのだ。

酒をとりあえず飲み、おかわりをする過程でそれを聞いた。

 

「姫羽様。だいぶお疲れのようですね。

目の下に隈(くま)ができてますよ?」

 

「二日ぐらい寝てないからね・・」

 

「申し訳ありません。私が・・」

 

七乃の表情が暗くなる。

彼女は酔っていたが。そのほろ酔い気分が現実に戻ったかのようだ。

だが当の姫羽はそんなこと気にしていないといわんばかりにぐいぐい酒を飲んでいる。その仕草も優雅だ。

右手で陶器を持ち、左手は添えるように陶器の底を持っている。

 

「いいえ、貴女には何も責任はないわ。

それに、私が頼んだ事だから」

 

「ですけど!」

 

「いいの。貴女にはお姉様を守るという重大な仕事があるんですもの」

 

「ですが・・姫羽様自信の仕事と私の仕事。

姫羽様は一人で二人分の仕事を毎日して・・」

 

二人の感情は逆であった。

七乃は泣きそうな顔と声で姫羽へと激しくかかり、姫羽は何も考えていないかのように冷静に話す。

 

「しょうがないことなのよ。

これが現状、お家(おいえ)の現状なのよ。

だから私は貴女にいった・・・

 

私が貴女の分の仕事もするから、貴女はお姉様から離れず、お姉様を守ってってね」

 

袁術軍の家臣たちは腐りきっている。

内務の問題では前のような横領や賄賂問題。

そしてまだ精神が幼い美羽へ取り入り、傀儡(かいらい、くぐつ)としようとしている者までいる。

 

確かに美羽が一人で行動していれば必ずすりいろうとするものが後をたたないであろう。

美羽を亡き者にしようとするものもいるかもしれない。

だから姫羽は頼んだのだ。姉を悪党から守るために。

 

「私の方こそごめんね。

いつもお姉様の傍にいるから貴女は仕事をまったくしていないと陰口を言われてるわ。

美羽にとりいるクズや腰ぎんちゃくなんて酷いことを・・

 

家臣たちの評価をどん底にさせてしまって、代わりに私の評価は上がる一方。

貴女を踏み台にしたみたいで」

 

今度は逆に姫羽が七乃へと謝罪の言葉を述べる。

表情は先ほどとは討って変わって、眉毛が八の字となり、七乃へ目をあわせられないのか下を向いている。

 

「いいえ、気にしていませんよ。

これが最善の手なんです。私でも同じことを言ったでしょう。

それに・・」

 

「それに・・?」

 

「実際私政務や内務をしないですむんですから~♪

ぜ~んぶ姫羽様がしてくれるんですもの」

 

七乃の表情は明るいものになっていた。

そして酒をぐびぐびと飲みほし、自分と姫羽のものにまた継ぎ足した。

 

「そう・・」

 

その言葉に姫羽は安堵したのか七乃の目をみて呟いた。

姫羽はわかっていた。

それは七乃が私のために言ってくれたものだと。

私が負い目を感じているから、あえて気にしていないと振舞ったのだろう。

 

「やっぱり貴女は私の親友ね。

歳は少し離れているけど私は貴女の傍では素の私でいられるわ。

傾国の美女を振舞わなくても良い、本当の私でいられる」

 

二人はまさに心友(しんゆう)であった。

久しぶりに飲む二人の酒。その場で二人が互いに謝罪しあっていては決して楽しくないだろう。

そのことを二人は無意識に思っていたのだ。

だから七乃が溜まっていたものを吐き出したときは姫羽が受け止める。

逆もまたしかり。感情を二人があらわにしていては空気が悪くなるだろうと二人は自然にわかっていたのだ。

 

「ぷは~!七乃!もういっぱい!」

 

「はいはい~♪」

 

傾国の美女。彼女はそれをずっと維持し続けなければいけないのだ。

自分の噂は大陸中に広まっている。

その二つ名のもとにたくさんの使者や貢物が送られてくる。

 

名門袁家一族として姫羽はいつも華麗であり、優雅であり続けなければいけないのだ。

姫羽が袁家に与える影響は大きい。だからこそ彼女はいつも気を張っている。

他家との友好や袁家の威光のために。

 

だが、姫羽が気を張らずに自分でいられる相手が七乃だ。

共に美羽と袁家を守るものとして。

 

美羽のほかに唯一気を許せる相手。

二人にとっても美羽を守るためにいつも傍にいては政務ができない。

結果袁家を衰退させることになる。

 

だが二人が共同で守っている。

いわば運命共同体。

彼女たち二人の絆は決して崩れはしない。

 

この二人の間では上司と部下の関係など存在しなかった。

姫羽自信も君主である美羽の妹という立場で七乃には接してほしくなかった。

 

「かんぱ~い♪」

 

二人の飲み会はまだまだ続きそうだ。

だが場所は変わり

 

「な、七乃~・・どこなのじゃ~?」

 

美羽は蝋燭(ろうそく)の灯りを頼りに暗い廊下を歩いている。

今はまさに闇の時間。幼い彼女の頼りはこのか細い光だけ。

 

「うう・・も、もれそうなのじゃー!?

蜂蜜水を飲みすぎたのじゃ~」

 

美羽は一人で厠(かわや)へと向かっていた。

普段は七乃が一緒に行ってくれるが今日に限ってはいない。

 

「だ、ダメなのじゃー!怖いのじゃー!!」

 

もう限界だ。美羽はその場に座り込んでしまった。

そして彼女の周りには黄金の水溜りが発生してしまった。

 

「うう・・ひっく・・な、ななにょ~~・・・」

 

「袁術様?」

 

「ひっ!?だ、誰じゃ?」

 

そこには一人の文官がいた。

 

「少しお話が・・」

 

数日後・・

姫羽は一人部屋で唸っていた。

おかしい、民の目に生気が感じられない。

そしていつもよりも不満の声が多い。

 

またかと内心姫羽はため息をついていた。

そして姉に問いただしても

 

「し、知らんのじゃ~。妾は何も知らんのじゃ」

 

これもまたおかしい。

姉の事を知り尽くしている姫羽からすれば姉の些細な変化には気づく。

だが七乃に聞いても彼女も何も知らないらしい。

 

「美羽様?何か隠し事をしていませんか?

いけませんよ、もしバレたらもう蜂蜜水を作ってあげませんからね?」

 

「い、いやなのじゃー!でも何も知らんのじゃ!

妾をあんまり疑うでない!」

 

やっぱり彼女は何かを隠している。

それは二人とも感じていた。

 

「七乃」

 

「はい」

 

また二人は部屋にこもった。

 

そして翌日。

姫羽は緊急で朝議を開いた。

文官、武官。すべての部下を集めた。

 

「さて、最近話題に上がっている黄巾族について朝議を始めます」

 

最近増えてきた黄巾族についての朝議を始めた。

規模が大きく大陸中を巻き込む大きな賊。

その朝議は2時間にも及んだ。

 

「さて、ここで張勲に頼みがあります」

 

「はい」

 

「貴女には洛陽に赴き、何進様に要請を頼んで欲しいの。

あの方は気質が高くそれなりの位が無ければ首を縦に振ってくれないわ。

だから大将軍という地位の貴女にしかできない役目よ。

引き受けてくれないかしら?」

 

「なるほど・・それなら仕方ありませんね。

わかりました。袁燿様、おまかせください」

 

「ありがとう。洛陽までの往復などを考えたら1ヶ月近くかかるわ。

体調を崩さないようにね」

 

そして朝議は幕を閉じた。

七乃は会議が終わった後にすぐ出発をした。

この大陸中を巻き込む大きな賊。

大事な役目を引き受けた彼女は姫羽を含めたたくさんの部下たちに見送られ南陽を後にした。

 

 

そしてその後、すぐに事件は起きた。

 

「・・・」

 

美羽の機嫌がすごく暗い。

当然だいつも傍を離れない七乃がいないのだ。

美羽からしてみれば自分がいない場で勝手に話を進められたのだ。

そして大事な七乃がいなくなった。

大好きな妹であっても同じぐらい好きな七乃を引き離されたも同然なのだ。

 

「お姉様。機嫌を直してください。

しかたなかったんですよ」

 

「ふんっ!知らんのじゃ!姫羽なぞ嫌いなのじゃ!!」

 

ツンと姫羽からそっぽを向く美羽

 

「ああ・・・」

 

姫羽はその場から崩れ落ちた。

膝から崩れ、両手を地面につきうなだれる。

 

「失礼します・・」

 

そしてその場から立ち去った。

 

「おい、やばいんじゃねーの?」

 

「ああ。張勲様もいなくて袁術、袁燿様の関係が悪化。

こりゃこの軍もやばいかもな」

 

袁術と袁燿の関係が悪くなった。

袁術がまったく袁燿に口を利かなくなった。

その関係は瞬く間に袁術軍に広まっていった。

 

そしてその日の晩

 

ギー

 

美羽の部屋の扉が開いた。

 

「・・・」

 

怪しげな男たちが5人部屋へと入る。

そして彼らは美羽の寝ている寝台へと近寄る。

 

そして彼らは布団をめくった。

 

「は~いこんばんわ~♪」

 

「なっ!?張勲」

 

美羽の寝台には七乃が寝ていた。

肝心の美羽はその場にいない。

 

「現行犯ですね~君主たる美羽様の部屋に帯剣で無断で侵入するなんて」

 

「貴様が何故ここにいる!?」

 

「全ては策です。私がいなくなり、そして美羽様と姫羽様の関係が悪化したとなれば美羽様にとりいる機会なんて今しかありません。

貴方たちはおびき出されたんですよ。

あ、当然最近の民たちの不満に対しての言も取れてますよ?

 

まさか口止めが美羽様のおもらしをばらすなんてくだらない理由なんて・・

女の子のおもらしを種に揺するなんてクズですね~

このクソ虫の下郎め♪」

 

七乃は寝台から体を起こし男たちとにらみ合う。

そして男たちは全員が抜刀した。

 

「しからば貴様に亡き者になってもらう!」

 

「残念そうはさせないわ」

 

突如ドアが開く。

 

「え、袁燿様!?」

 

そこには姫羽が剣を手にし、立っていた。

 

「本当に現行犯ね。

お姉様の部屋に侵入しただけでなく、側近の七乃を殺すと私は確かに聞いた。

もはや情状酌量の余地なし」

 

全ては姫羽と七乃による策であった。

 

「まさかここまで釣れるなんてね。

でもおかげでお姉様にとりいる悪党を減らせたわ。

貴方たちが今ここで消えなくても、いずれ必ず牙をむく。

だからここで消えてもらうわ。

 

七乃、ご苦労だったわね。

今まで隠れながら生活するのは大変だったでしょう?」

 

「いいえ、これも全て美羽様に敵対する者たちを消すためですから」

 

そして七乃も抜刀する。

男たちには逃げ場はもう無かった。

 

「さあ!覚悟なさい!」

 

「え~い♪」

 

姫羽の声を合図に七乃は布団を掴みそれを男たちに投げる。

突如布団が頭からかぶさり2人の男たちの視界を奪う。

 

「よくやったわ七乃!貴女は控えてなさい!」

 

姫羽は視界が生きている3人の男に斬りかかる。

姫羽の戦闘スタイルは双剣である。

片手で剣を振るうため通常の剣よりも刀身がいくらか短い。

右手の剣で上から下へ振り下ろす。

 

「効くかよ!」

 

男が剣を上段で受け止める。

だが姫羽は見越していたのか、左手の剣で男のがら空きの心臓を一突きにする。

一瞬で絶命した。

 

姫羽はそのまま戸惑っている男たちに斬りかかる。

彼女の攻撃は神速の速さだった。

攻撃の重さよりも速さに長けたその攻撃。

右手も左手も意思を持っているのかそれぞれ違う動きをする。

 

その攻撃には男たちの誰も見切れなかった。

 

 

「あっけないものね」

 

その場には5体の死体が転がっていた。

 

「ふふっ、以前とは真逆ですね。

あの横領騒ぎの時には私が部屋のまえに立ってましたね」

 

「そうね。ただ策を考えただけなのにね。

打ち合わせも何もなし。それでもうまくいくものね。

でもお姉様に嫌われたのは効いたわ・・」

 

彼女たちに深い打ち合わせは必要なかった。

お互いに美羽のことになるとそのポテンシャルを発揮する。

 

「さて、死体を片付けましょ。

私はお姉様と仲直りしたばっかりで今部屋で待たせてるの」

 

「そうですね。私はお漏らしした事を隠してた事を言及しなくちゃいけませんし」

 

「そうね。3人で何か飲みましょ。

今日は夜更かしね」

 

「あらあら、美羽様が不良になっちゃいます~」

 

「ふふ、不良になったお姉様も見てみたいわね」

 

二人の顔は笑顔だった。

また少し大好きな美羽の敵を排除したのだ。

その手は血に染まっているがまったく気にしない。

どれだけ血を被ろうと彼女たちは前へと突き進む。




張勲
孫策が袁術の元にいたときに張勲は孫策の才能を感じ取り高く評価していた。
そして時は流れ袁術が揚州の支配を握った時に大将軍に任じられた。
曹操がまた袁術を攻めてきたとき袁術は将たちを見捨て一人逃げていき、仲間たちが次々にやられていったが張勲だけはなんとか逃げ帰ることが出来た。
袁術の死後、張勲は孫策を頼ろうとした。孫策の元へ向かう道中かつての袁術の部下劉勲に攻撃されその生死は不明。
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