洛陽までの道のりに難関が二つある。
その一つ汜水関。
鉄壁の関である。
汜水関を落とすには大量の兵と時間を要するだろう。
だがその汜水関を任されたのが劉備軍であった。
袁紹は劉備のせいでなにかと面倒な総大将になったのだからお前が汜水関に一番槍をいれろと命令したのだ。
当然劉備には逆らう力も何もない。
だがそこで彼女の軍師諸葛亮が巧みな話術で袁紹から兵と兵糧、足りない武具などを用意させそのかわりその役目を引き受けたのだ。
「お姉様。どうやら私たちは後方に控えさせられたようですね」
「それでは妾たちが何も活躍できんではないか」
「でも美羽様~汜水関や虎牢関は固すぎて兵だけが無駄に減っちゃいますよ?
ここは虎牢関を突破した後に一気に前進して洛陽一番のりをしたほうがいいとおもいす。
そうしたら兵も減らさず、功績もとれる。
一石二鳥です~危険な役割は他の人に任せればいいんですよ~」
「うむ。七乃その通りじゃ。
つまり妾たちは他の者たちが虎牢関を落とすまではゆっくりしておればいいんじゃな」
「はい♪美羽様蜂蜜水です~のんびりまってましょう」
七乃と美羽は遠足気分であった。
実際後方では何もすることがない。
だが、姫羽はそれを良しとしなかった。
「お姉様。七乃。私は前方にいって邪魔にならないように他の諸侯たちを偵察してきます。
いずれ敵になりうる者たちの情報を少しでも入れときたいのです」
「わかったのじゃ。気をつけるのじゃぞ」
「はっ」
姫羽はその場で一礼し、そして前方へと向かう。
彼女の頭には一人の武将の姿がちらついていた。
(関羽・・)
先ほどあった関羽である。
(彼女はきっと並みの武将の比にはならないわね。
見てみたい!貴女の武を!)
姫羽は馬を飛ばす。
行き先は汜水関。先陣を任された劉備たちはどのような策をとるのか?
城や関を落とすには通常は三倍の兵力が必要とされる。
彼女たちの兵力では三倍どころか劣勢だ。
(いたっ!)
姫羽は関羽を発見した。
しかし彼女は関の目の前で一人でたたずんでいる。
「華雄!貴様も武人であろう。
私はここにいる!この首を取ってみろ!
臆したか!!」
どうやら華雄を挑発しているようだ。
華雄を引きずりだし、敵のほうから門を開けさせようということなのだろう。
だがしかし。
「そのような安い挑発に誰がのるものか。
あいにく私は高いのでな」
華雄がその挑発を看破する。
(あら?意外と猪じゃないようね)
「くっ・・」
関羽もうまくいかず悔しがっているようだ。
「だがしかし!!私一人では出ん!!
お前たち!突撃だーーーー!!!」
うおおおおおおーーーー!!!!!
華雄の号令で閑が開き、華雄が兵を引き連れて突撃してきたようだ。
華雄は一騎討ちの挑発は受けなかったが関羽の武に免じ、兵同士の戦いを受けたようだ。
華雄が出てきたと同時に関羽は後ろへ下がる。
そして後方の劉備軍たちと合流したのち、突撃し華雄部隊と交戦する。
「見つけたぞ」
「華雄!劉玄徳が一の家臣、関雲長いざ参る!」
華雄と関羽が一騎討ちの体制をとり武器を交える。
二人は馬上という不安定な状態だがどちらも巧みに馬を操りながら戦う。
「はあああ!!」
華雄の武器は金剛爆斧という斧を主体とした武器だ。
その重量を生かし、上段から下段へと力の限り振り下ろす。
ガキン!
「そのような攻撃が効くか!
次はこちらからいくぞ!はああああーーー!!」
関羽は青龍堰月刀の柄で華雄の攻撃を防ぎ、そのまま突きを繰り出す。
だが華雄もその攻撃を予想していたのかこちらも柄で防ぐ。
お互い猛将と呼ばれているだけのことはあり、敵が攻撃を繰り出す前にある程度予想できるのだろう。
目で確認してからでは間に合わないほどの速さの攻撃だろうとそれを防ぐ。
「でえやあああ!」
「はああああああ!」
二人の武器と武器が重なり合う。
「軽い!軽いぞ関羽!!」
「貴様は猪なだけあって力はたいしたものだな!}
二人がつばぜり合いを始める。
しかしお互いの力は拮抗しているのかどちらの体制も崩れない。
そして二人は力が拮抗していると知るやいなや離れ距離をとり始める。
「ハハハ!おもしろいぞ関羽!
この私を挑発するだけのことはあるな!
少しは楽しませてくれる」
「華雄。お前も一撃で死ななくて安心したぞ」
「ほざけ!どうせ私が勝つのだ!
この私の勇士をしかと見ろ!」
「お前も冥土の土産にこの青龍堰月刀の輝きを見ろ!」
対面ににらみ合う二人は同時に馬を走らせた。
そして重なり合う瞬間に武器を交える。
ガキーーーーーン!!
戦場に激しい音が鳴り響く。
「・・・・」
二人は言葉を発しない。
時が止まったかのようだ。
「くく・・っはっはっは!!!やるな!関羽!」
華雄が笑い出す。
だがその声はどこか楽しそうだ。
華雄の左腕の二の腕あたりから血が滴り始める。
「お前もなかなかの腕前だった」
対して関羽は無傷。
この勝敗は決した。
姫羽は遠くからこの一騎討ちの光景を眺めていた。
(関羽が勝ったか。やはり彼女の武は並みのものではなかったわね。
あの華雄に勝つとはね・・さて、収穫もあったし私は戻るとしましょうか。
ちょっとその前に麗羽姉さまの様子でも見てこようかしら)
姫羽は馬を反転させこの場を去った。
二人の戦いの勝敗が決して、この場の空気が穏やかなものになりつつあったがその空気は突如としてまた変わる。
「さあ一気にこの汜水関を落としなさい!」
孫策が劉備軍と華雄部隊が戦っている隙を突き、汜水関に自軍をなだれ込ませる。
「私たちも黙って見てられないわ!春蘭!貴女の武で汜水関への道を作りなさい!」
曹操軍もこの瞬間を虎視眈々と狙っていた。
「みなさーん!愛紗さんが作ってくれたこの機会!決して他の者たちに取られてはいけません!!」
諸葛亮も漁夫の利を取られては溜まったものではないとさらに兵を鼓舞し突撃させる。
汜水関前はもはや大混雑。
孫策、曹操、劉備、華雄部隊と4つが入り乱れ完全に混乱状態である。
「おとなしく閑に篭っているべきであったか。
とんだ失態をしてしまったものだ」
華雄は関の光景を眺めもはや戻るのは不可能だと判断したようだ。
4つの部隊が入り乱れる大渋滞。
自部隊以外は全て敵。
戻るのは無理であろう。
「ならば!!この失態を取り返すほどの功績をあげて死すのみ!!
関羽!さらばだ!!」
華雄は馬を反し関とは反対の方向へ馬を走らせる。
「なっ!?華雄!!待て!!」
関羽が慌てて華雄を止めようとするがすでに間に合わず華雄の姿が遠く離れていく。
「どけどけええええ!!!
この華雄!貴様らにくれてやるほどこの首は安くないぞ!!」
華雄が兵を蹴散らす。
怪我を負っているとは思えないほどの武だ。
「待てい!!ここから先は通さん!」
「誰に口を聞いている!!雑魚が!!」
「があああ!馬鹿な・・」
華雄が一刀の元に将を切り捨てる。
まさに瞬殺。たった一合で終わらせたのだ。
「この華雄貴様如きでは止められん!!」
華雄の猛進は止まらない。
華雄が通る道は全て屍が出来上がるまさに黄泉の道。
「そこまでだ!!止まれ!!」
「どけい!!!ムシケラが!!!!!」
「ひっ・・・」
将は華雄の姿に臆したのか腰を抜かす。
その場で尻餅をつく。
「どけええええええ!!!!!」
華雄の声が戦場に響き渡る。
そのあまりの迫力に兵たちは恐れ、逃げ出すものまでいるほどだ。
恐怖で道をあける兵たちもいる。
まさに一騎当千。これが猛将華雄の実力だ。
「えんしょおおお!!!!!貴様を殺す!!!
邪魔をするものは全て斬る!!!」
華雄の狙いはただ一つ。
袁紹の首だ。
総大将を取られてはたまらないと数多くの将が立ちはだかるがすべて一刀の元に切り伏せられる。
今の華雄を誰も止められないのだ。
「ほ、報告します!!!
敵将華雄がこちらに向かってきております!!
御見方の将は華雄により十名ほど討ち死にされたもようです!!
どうやら華雄の目的は袁紹様の首を狙っているもよう!!」
「な、なんですって!!!」
さすがの袁紹も驚いたようだ。
口があんぐりと開きっぱなしだ。
「が、顔良さん、文醜さん。
貴方たちでなんとかしなさい!!」
「む、むちゃですよ姫~・・」
「アタイたち二人でかかっても勝てるかどうか・・」
「キーーー!!!情けないですわね・・」
袁紹がその場で地団駄を踏む。
「だ、誰か華雄さんを止めなさい!!
華雄さんを止めたら褒美を差し上げますわ!」
「では私が止めましょう」
今まで黙って見ていた姫羽が声を発した。
その手には自慢の双剣が握られていた。
「き、姫羽さん・・
そうですわね。貴女は確か猪々子や斗詩よりも強かったはず。
ならば見事止めてごらんなさい!」
「では麗羽姉さま。吉報をお待ちください。
ですが麗羽姉さま、褒美のほうもお願いしますね」
「現金な方ですわね・・まあいいでしょう!
よろしく頼みますわ」
袁紹も自分の命がかかっているからか素直に姫羽を送り出す。
姫羽は前方に向けて馬を走らせる。
「クズどもがああ!!どけあああああ!!!」
華雄の怒声があたりに響く。
華雄一人に弱小諸侯たちかなり混乱させられていた。
頼みの曹操軍も孫策軍も前方の汜水関につきっきりだ。
そのためまともにやりあえるほど強くないのだ。
華雄があと少しで袁紹のもとにたどり着こうというとき。
「むっ!?」
華雄が馬を急停止させる。
ヒヒーーーーン!!
馬が急に倒れる。
「無粋なやつめ。私の武に恐れをなしたか?」
「将を射んとせばまず馬を射よ。
貴女を討つためには必要な事なので」
姫羽が弓を構え道を防いでいた。
姫羽はまず馬を射殺したのだ。
「予定ではそのまま落馬して死んでくれていれば楽だったんですけど・・
なかなか勘がするどいようで」
「ふっ・・私をそこらの雑魚と一緒にするなよ?
貴様もこの代償は高くつくぞ」
華雄が金剛爆斧を姫羽へと向ける。
「私は袁術軍が袁公路の実妹(じつまい)袁燿!」
「私は華雄。貴様を殺す者だ」
お互いに武器を構えじりじりとその距離を詰める。
そして最初に動き出したのは。
「おおおおおおお!!!」
華雄が力の限り金剛爆斧を左から右へ薙ぐ。
姫羽はその攻撃を後ろに下がる事で避けるが華雄の攻撃はそこで止まらない。
華雄はその勢いのまま金剛爆斧を上から下へと叩きつける。
姫羽はまた後ろに下がる事で避ける。
「この!ちょこまかと逃げるな!」
「これが私の戦い方なんですよ。
さあ、どんどんかかってきて良いですよ。
手加減なんてしてくれなくてもいいです。
私に一太刀でもいれてみてはどうですか?」
「くそがあああ!!いちいち勘に触る奴だ!!」
華雄が力の限り金剛爆斧を振う。
だがどれも当たらない。
なおも姫羽は絶妙な距離を保ち続ける。
わずかに当たる位置を取り、そして華雄が動けばすぐに距離を離す。
武器こそ持ってはいるが攻撃を完全に捨てているのだ。
その後も華雄の攻撃だけが続く。
華雄が上から下に金剛爆斧を振り下ろせば左右どちらかに避け。
横に薙げば、屈んだり後ろに下がる事で全て避ける。
姫羽は決して攻撃をしなかった。
華雄も不思議に思うが、舐められているとさらに激昂(げきこう)する。
そしてその状態がしばらく続けば
「くそっはあっはっ・・・」
当然華雄に疲れが見え始めている。
もともと彼女の武器は重いのだ。
その重量もあり、体力がもはやわずか。
「ふふ、やはり貴女の体力はもうあまり無かったようですね」
「貴様最初からこれを狙って・」
「ええ、そうですよ。
途中死体を見ましてね。
汜水関にいたときは貴女に切られた兵は体が真っ二つに離れていました。
ですがここら付近の兵は貴女の体力がもう無いのか、体が離れるどころか筋肉にさえぎられ、骨すら切れていないものが増えていましてね。
まあ、普通そうでしょう。
関羽と一騎打ちをし、負傷しながらもここまであなたは来たんです。
敵ながら見事としかいいようがないですね」
姫羽は最初から華雄の体力切れを狙っていた。
もし自分が何かの不注意で死んでしまったとしても華雄の体力さえそぎ落としておけば馬もない華雄ではここから逃げる事は不可能であろう。
あとは兵の力押しでなんとかなるのだ。
「さて。そろそろ終わりにしましょうか」
そういい姫羽は華雄へと近づく。
「く、くそ・・」
華雄の膝が笑う。金剛爆斧を支えに華雄は立ち上がる。
「ああああああ!!」
華雄が残った力の限り金剛爆斧を振う。
だが姫羽はその攻撃を左に避け、左足でそのまま華雄の右ひざの裏を蹴る。
「!?」
華雄は右ひざの関節を蹴られたことでそのまま右膝をつく。
そして髪の毛を後ろにひっぱられ上を向く体制にさせられる。
「終わりですよ」
そして華雄の首元に剣を突きつけられる。
「殺せ・・」
「貴女の命は私の手の中です。
ですから貴女を生かすも殺すも私次第。
今は私に従ってくれませんか?」
姫羽は兵を呼び華雄を縄で縛り上げた。
華雄は殺さず生け捕る事にしたのだ。
「敵将華雄、この袁燿が生け捕った!
この報告を全軍に伝えてください!」
華雄捕縛の報告に全軍の士気が上昇した。
それと同時に孫策軍が汜水関を落としたという報告も同時に伝わってきたのだ。