乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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ボクシング編 最終話にして後日談。


アンディは笑う

 決闘の後日談だ。

 

 

 アンディを殴り倒した俺はゲームクリアとなり元の世界に戻れた―――という訳には行かなかった。

 

 殴り合いで倒したのだからアンディを攻略したと言っても過言ではないはずだ。けれど、どうやらアンディを攻略できたとは判定されていないらしい。

 

「じゃあ、いったいどうすればアンディを攻略したことになるんだよ…」

 

 やはりマ〇オやドラ〇エのように、攻略対象を踏みつけマグマに突き落としたり、剣と魔法で攻撃して討伐するしかないのだろうか。

 

 今回の合宿でモンスターの討伐はしたが、さすがに人間を討伐するとなると話は別だ。

 乙女ゲーム、全然乙女チックじゃないじゃんか…。

 

 

 

 

 

********************

 

 

 

 

 決闘が終わった後、疲れた俺は眠りたかったのだが寮の部屋でノバクが祝勝会を開きだした。

 あの日、ノバクはなぜか終始ハイテンションだった。

 

 顔を殴られパンパンに腫らしていた俺は途中で倒れるように眠ったが、ノバクは夜まで一人で騒いでいたようだ。

 

 

 ところが次の日の朝、ノバクは布団にくるまりながら俺にキレだした。

 

「主君、昨日の私のことは全て忘れてください。忘れないのなら魔法劇薬部に依頼して記憶を吹っ飛ばす薬を作らさせますよ」

 

 その後も布団の中からぶつぶつと文句を言ってきて怖かったが、なんだかいつも通りのノバクに戻っていた気がする。

 よく考えれば、ノバクのハイテンションは異常だったが、俺も合宿中は終始ハイテンションだった気がする。

 

 あまり記憶はないが…

 

 あれはいったい何だったのだろう。

 

 

 

 

********************

 

 

 

 

 決闘から2日後の日曜日、食堂に朝食を取りに行くとアンディがいた。

 彼の顔はいつも通りのイケメンだった。顔面を何度も殴打したのに、腫れも傷跡も見当たらない。

 「勝者の俺は鼻を折られたんだぞ、不公平だろ!」と騒ぎたくなったが、流石にみっともないのでやめた。

 

 

 一度は揉めて決闘までしたが、アンディのことは別に恨んでも憎んでもいない。

 なんなら、熱い一戦を繰り広げたライバルだとさえ思っている。

 

 

 俺がアンディを見ていると、アンディもこちらに気づいたようだ。

 わざわざ席を立って話しかけてきた。

 

「この前は悪かったな、あの決闘は完全に俺様の負けだ」

 

 アンディは深々と頭を下げる。

 そして、手に持った袋からチョコアイスを取り出し俺に手渡した。

 

「元々はこれが原因でお前の先輩と揉めたからな。決闘に勝ったお前にやるよ」

 

 俺は差し出されたチョコアイスの意味が分からず、呆然とそれを見つめる。

 

 数秒間、頭をフル回転させてやっとチョコアイスの意味を理解した。

 

 なるほど、俺はアンディとエチゴ先輩が揉めた理由を知らなかったが、つまりそういう事だろう。

 ――――アンディとエチゴ先輩は、最後の1個だったチョコアイスをどちらが買うかで揉めたようだ。

 

「まさかチョコアイスをどっちが買うかから、決闘にまでなるとはな」

 

 俺は少し照れながら笑う。

 

 決闘が決まってからの1週間は大変な思いをしたが、過ぎてしまった今ならこんな結末も悪くはないと思えた。

 

 

「いや、どちらが買うかで揉めたわけじゃないぞ。()()()()()()チョコアイスが最後の1個だったみたいでな、お前の先輩がそれをよこせと言ってきたんだ」

 

 

 ………へ?

 

 

 どうやら俺の予想は外れたらしい。というか、エチゴ先輩は先にチョコアイスを買ったアンディを見つけカツアゲをしたのか? 

 

 

 つまり俺の決闘は、エチゴ先輩のカツアゲを全力で手伝だっていたことになる。

 ………あの先輩、まじで性格がやばい、終わっているだろ!!

 

 

 俺の引きつった表情を見て、アンディは笑う。

 

「しかし、お前強かったな。ボクシングは素人の動きに見えたのに異常いタフだったぞ」

 

 自覚はないが、俺が異常にタフだというのなら、きっとあの合宿の成果なのだろう。

 

「まあな、山で一週間モンスターと殴り合いの修行をしてたからな。最終的には素手で"ベーアー"とまで闘ったんだぞ」

 

「お前、"ベーアー"と闘ったのか! それで試合前からあの傷だったわけか…。 しかし、本当に人間が素手で"ベーアー"に勝てるのか?」

 

 アンディの問いに、俺は「フッ」と笑って返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …結論から言おう。人間が素手で"ベーアー"に勝てるはずがない!!

 

 合宿最終日、俺はノバクの回復魔法を頼りに半不死身状態で"ベーアー"と殴り合った。

 

 だが、"ベーアー"の強烈な攻撃を後頭部に受けた俺は失神をしたのだ。意識が飛んでしまっては、回復魔法もクソもない。

 

 倒れこんだ俺を見たノバクは俺を必死に庇って―――くれる訳がなく、なんと自分も死んだふりをしたらしい。

 結局、"ベーアー"も俺との闘いで疲れたのだろう。俺たちを捕食することなく山頂に向かって帰っていったようだった。

 

 俺が目を覚ましたのは気絶してから4時間後だった。

 危うく遅刻して決闘は棄権負けになるところだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、お前は修行をして強くなったんだな。俺様ももっと強くなるから、またいつか、もう一度俺様と闘ってくれるか?」

 

 アンディは今回は負けたにもかかわらず、すごく爽やかな顔をしている。

 きっとアンディにとっても、あの決闘はスポーツとして楽しかったのだろう。

 

 俺はアンディの問いに、しっかりと目を見てほほ笑む。

 

 

 

「絶対に嫌だ。 もう二度とやらん!」

 

 

 

 

 

 正直なところ、あの決闘もラファエル先輩の横やりがなければ俺は負けていただろう。

 

 一時中断の後、アンディが試合中にべらべらと語りだしたから勝てたが、地力ではアンディの方が強かった。

 

 これから先、アンディはボクシング部で鍛錬を積みさらに強くなるだろう。

 

 そうなれば、俺と彼とではいずれ勝負にすらならなくなる。

 

 俺は将来もっと強くなるであろうボクサーを相手に勝ち逃げすることを選んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 マリアは激怒した。

 

「意味わかんない!意味わかんない!意味わかんない!!」

 

 どうやら、圭太は攻略対象の第二王子アンディ様と決闘で殴り合いをしたそうだ。

 

 第二王子アンディ様の攻略ルートでは確かに主人公と決闘をするイベントがある。

 

 しかし、それはもう少し後の時期に起こるイベントで、食堂で肩がぶつかって言い合いになるところから始まるはずだった。

 

 決闘を申し込まれて困っている主人公に「決闘の相場はチェスだよ」と教えるのが親友ポジのマリアの役目だ。このイベントはチェス勝負で固定されている。

 

 

「殴り合いなんかして何が楽しいの!? なんで殴り合った相手と後日平気で話せるの!?

 本っっっっ当に、意味わかんない!!」

 

 マリアは布団に覆いかぶさって喚きちらしたのだった。




 ボクシング編完結!
 少し長編になりましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 次回、麻雀回です。ついに四人目の攻略対象が登場!
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