乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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麻雀編① 第3話!


賭博部なんてあるの? うちの学園?

「大学生は麻雀ができれば友達ができるさ!」

 

 これは親父の格言だった。

 

 

「父さんも大学生の頃はしょっちゅう徹夜で麻雀をしたもんさ。そのおかげで先輩に後輩、他の学科の奴とも友達になれた」

 

 親父は偉そうに語り出した。

 

「いいか、ケイ!麻雀は2段階の楽しさがあるんだ。まずはルールを覚えた時だ。ルールを覚えれば麻雀は運試しのギャンブルとして成立する。スリリングで楽しいぞ!

 次に実力がついた時だ。今度はただの運試しじゃなくて戦略が絡みだしてスポーツ化する。負けず嫌いのお前なら絶対に楽しめるだろう」

 

 熱弁いただいて申し訳ないが、大学の入学式を間近に控えている俺は麻雀に興味など持てなかった。

 

「親父、俺は大学に遊びに行くわけじゃなんだからな!」

 

 

 この会話は、大学の部活対抗麻雀大会で八連荘(パーレンチャン)伝説を残した俺の若き日の思い出だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全然、金が足りないッ!!!」

 

 休み時間、俺の喚きを聞いたマリアは困り顔をする。

 

「今度はどうしたの、ケイ君?」

 

 いつも通り優しく接してくれるマリアに、俺は昨日テニスラケットを買いに行ったときのことを説明した。

 

 この学園には売店があり、そこの品ぞろえは驚くほどよかった。スーパーマーケットに売っているような日用品はもちろん、文房具や家具、スポーツ用品まで取り揃えている。

 

 その売店で相棒となるラケットを購入するつもりだった。

 

 …しかし

 

 

 

「テニスラケット1本300万ドンって高すぎるだろ!!」

 

 テニスラケットには俺の所持金100万ドンを大きく上回る価格が設定されていた。生徒会室で札束をもらった時はその衝撃ですっかり忘れていたが、この売店はとにかく値段が高いのだ。

 

「どう考えても価格設定おかしいだろ! あれか? この学園の生徒は王族や貴族の金持ちで金銭感覚おかしいだろうからって、ふっかけてきてるのか!?」

 

 だとすればかなりアコギな商売だ。いくら金持ちが率先して経済を回すべきだと言っても限度がある。

 

「ケイ君、それは多分違うよ。価格設定がおかしいんじゃなくて、貨幣価値がおかしいんだよ」

 

 俺の感情的な叫びをマリアは優しい声で諭す。しかし、俺にはマリアが言っていることが難しくてよくわからなかった。

 

「えっと、つまりね。ラケットの値段が高いんじゃなくて、1万ドン札の価値が低いから買えないんじゃないかな」

 

 …………???

 

 その2つはどう違うのだろうか。

 俺、馬鹿だからわかんねえや!

 

 

 俺が「ごめん、どういうことかわかんない」という顔をしたら、マリアは「そうだよね、一から説明するね」と言う顔をした。

 偶にだが、マリアとは表情だけで会話が成立することがある。

 

「そもそも、このドンっていう通貨は学園独自の通貨なんだけどね、正確には生徒会が貨幣の発行権を持ってるんだ」

 

 以前マリアはこの学園の生徒会は権限が強いと言っていたが、どうやら貨幣まで発行しているらしい。

 

「それでね、昔のことらしいんだけど、当時の生徒会長が秘密裏に大量のドン貨幣を発行して自分のものにしちゃったんだって。

 その生徒会長がたくさん買い物をしたり、知り合いにドン紙幣を横流しをすれば、学園内にたくさんドン貨幣が出回るでしょ。すると、皆が売店のものを簡単に買えるようになっちゃうんだよ。

 そしたら今度はね、売店側が商品の値段を上げて本来の商品の価値を保とうとしたの。それでね、このやり取りを何度か繰り返していたら今みたいな価格設定になっちゃったんだって」

 

「つまり、その昔の生徒会長のせいで、今の俺たちは札束で買い物をする羽目になっているのか」

 

「そういう事ね」

 

 この学園にそんな歴史があったとは。それにしても、なんとはた迷惑な生徒会長なんだろうか。

 

 

 よく考えたら、あの売店はジュースやアイスですら1万ドンしたのを思い出してきた。100円で買えそうなジュースやアイスが1万ドンしたということは、実質100ドンで1円だ。

 つまりだ、俺が持っている100万ドンは日本円だと1万円程度の価値になる。

 

 7日間、死に物狂いモンスター退治をして1万円か。そう考えると割に合わなさすぎるなモンスター退治。

 

 ………いやまあ、素手で対峙しようとした俺が非効率なだけなのだろうけど。

 

 

 

 

 財布から1万ドン札を取り出し手に握る。今、俺が手にしている1万ドン札は実質100円玉という訳だ。

 

「ということは、俺はラケットを買うためにあと200万ドン稼がなきゃいけないのか。手っ取り早くこのドンを稼ぐ方法ってないのか?」

 

 マリアは「うーん」と少し考えてから答えを出した。

 

「そうだね、先輩を頼るっていうのはどうかな?」

 

「先輩?」

 

「そう、先輩! 先輩たちは授業の一環で魔物討伐をしていたり、そのほかにもいろいろな方法で稼いでいる人が多いからね。そういう人たちのお手伝いをして個人的にお小遣いをもらうのが一番かも」

 

 なるほど、となるとお金を持っていそうな先輩を探すのがよさそうだ。

 

「えっとね、先輩のお手伝いをするんだったらロジャーさんとかどうかな? 生徒会長だし、色々な職務をしているから沢山ドン札を持ってると思うよ。

 あとはね、ラファエル様とか。ラファエル様も魔物討伐やボランティアの依頼をよくこなしてるって聞くからお勧めだよ」

 

 

 マリアはロジャー先輩とラファエル先輩の名前を出したが、俺は別に心当りがあった。

 

「ありがとうマリア。俺、先輩を頼ってみるよ」

 

「うん! 頑張ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、俺はテニス部の部室にいるエチゴ先輩を見つけた。

 

「というわけでエチゴ先輩、俺の取り分をください!」

 

「あ!? どういう訳だよ」

 

 俺はエチゴ先輩にお金に困っていることを相談した。

 

「確かエチゴ先輩、俺とアンディの決闘で俺に賭けてましたよね。あれでかなり儲かったんじゃないですか」

 

「ん? ああ、確かにあの件ではかなり稼げたぜ! なんせ200万ドンが10倍になって返ってきたんだからな。2000万ドンだぜ、凄えだろ!」

 

「2000万ドン! それは凄いっすね! ところでエチゴ先輩、その件で俺も分け前が欲しいなと思ってまして…」

 

「は? なんでだよ」

 

「いや俺、先輩のために必死に闘ったんですよ。ファイトマネーくらい出てもいいんじゃないかなと……」

 

 エチゴ先輩は俺の頭をポカッと殴った。―――痛い。

 

 

「何言ってるんだ、これは俺が稼いだ金だぞ! 誰がお前に分けるかよ!!」

 

「そんな、少しで構いませんのでお願いします!」

 

 懸命に頭を下げた俺の姿を見て観念したのだろうか、エチゴ先輩は自分の財布を取り出した。

 

「…仕方ねえな、少しで良いんだよな。ほらよ」

 

 そう言ってエチゴ先輩は俺に1万ドン札を渡した。

 

「おお! 1万ドン札もくれるんですか!? …って、たった1万ドンじゃないですか!」

 

 1万という数字の大きさに惑わされたが、1万ドンは100円程度の価値だったことを思い出した。

 

 …ややこしいなこの通貨。

 

 

「ふん。これ以上欲しいなら自分で稼ぐんだな」

 

 やっぱり駄目だったか。もしかしたら、エチゴ先輩がすこぶる機嫌が良くて分け前をもらえるかもしれないと期待したが、さすがにそう甘くはなかった。

 

 

 がっかりと落ち込む俺に対し、エチゴ先輩がある誘いをした。

 

「そんなにお金が欲しいんだったらよ、お前も入るか"賭博部"に…」

 

 エチゴ先輩は耳馴染みのない部活動の名前を出す。

 

「と、賭博部!? 賭博部なんてあるんですか? うちの学園」

 

 生徒会は風紀を守っているとか言ってたが、もうすでに無法地帯じゃんか。

 

 

「ちなみになんですが、賭博部って生徒会公認ですか?」

 

「あ!? 馬鹿かお前、公認なわけねえだろ」

 

 俺の質問をエチゴ先輩は馬鹿らしいと言わんばかりにあしらう。

 

 よかった、さすがの生徒会もそこまで適当な仕事をしているわけではないようだ。

 しかし、魔法劇薬部でも認可が通るのに、それが通らない賭博部って一体…

 

 

 

「賭博部がどうかしたんですか?」

 

 俺たちの話しを盗み聞きしていらしく、いつの間にか部室にいたヤニクが声をかけてきた。

 急に現れたヤニクにびっくりする俺をよそにエチゴ先輩は話しを続ける。

 

「おお、ヤニク。 ちょうどよかった! いまケイを賭博部に誘おうとしてたんだ、副部長のお前から説明してやってくれ」

 

 どうやらヤニクも賭博部の部員だったようだ、しかも副部長らしい。

 確か俺とアンディの決闘の時も彼が賭博を仕切っていたが、あれも賭博部の活動の一環だったのだろうか。

 

 

 エチゴ先輩の説明を継いで、今度はヤニクが俺を勧誘する。

 

「そうか、ついにケイも賭博に興味を持ちだしたんだな」

 

「持ってねえよ。というかよく捕まらないなその部活。賭博は犯罪だろ」

 

 俺の指摘は事前に予期していたのだろう。ヤニクは自信満々に答える。

 

「ところが、犯罪じゃないんだなそれが! この学園の独自通貨を賭ける分にはグランドスラム王国の()()()()()()()()んだよ」

 

 俺はグランドスラム王国の法律にはさっぱり詳しくないので、そういわれるとそうなのかと思ってしまう。

 つまり賭博部はこの学園ならではの部活動という訳だ。

 

「あれ? でもさっきエチゴ先輩から賭博部は生徒会非公認だって聞いたぞ。それはどういう理由なんだ?」

 

「ああ、それね。生徒会公認の部活動になるためには年に一度、申請書類を出す必要があるんだけど、部長が期日までに申請書類を出し忘てしまったんだ。だからこの1年だけは非公認扱いって訳さ」

 

 なんだ、そんな理由だったのか。

 

 

 ……本当か? なんか怪しいぞ?

 

 

 先ほどからヤニクは貼り付けた笑顔でやたらとすらすらしゃべっている。まるで詐欺師のような話し方だ。

 

 この話、信じて大丈夫なのだろうか…

 

 

 

「それよりケイ! お前も賭博部に興味があるんだろ!」

 

「いや別に賭博は興味ないよ。ただお金が欲しいって話してただけだ」

 

「なんだ、同じじゃないか!」

 

「同じじゃないだろ!!」

 

 俺のツッコミをよそに、ヤニクは賭博部の説明を続ける。昨日の生徒会長といい、人の話を無視して説明ばっかり押し付けてきやがる。

 

「賭博部の活動は不定期開催なんだが、運の良いことに実は今日も開催するんだ。普段はポーカー、ルーレット、ブラックジャックや他のトランプゲームがメインだな」

 

「いや…だから興味ないって」

 

「あとは、ケイがこの前決闘しただろ。あんな感じで勝負事や学園行事では必ずと言っていい頻度で勝敗予想の賭博がされるんだ」

 

「いや…だから…」

 

「ちなみに今日は麻雀の日だ。ケイは知ってるか、麻雀?」

 

「……麻雀?」

 

「そう、異国のボードゲームさ。この学園じゃルールを知ってるやつは稀だが、賭博部の部員はみんな知ってるんだぜ!」

 

 そうか、この世界にも麻雀はあったのか。てっきり、この世界に転生した時点で麻雀を打つ機会はないものだと思っていた。

 

 ……そうか、麻雀が打てるのか。

 

 

 

「なあ、ヤニク。 本当に賭博は法律違反じゃないんだな?」

 

「ああ、学園独自の通貨"ドン"を賭ける限りは()()()()()()()()ぜ」

 

「そうか…  ところで、今日の何時からやるんだ?」

 

 俺の質問にヤニクはニヤリ笑う。

 

「さすがだぜケイ! そうこなくっちゃな!」

 

 

 関東体育大学、部活動対抗麻雀戦のMVPプレイヤーと言われた俺がついにそのベールを脱ぐ時が来たようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この学園に転生して数か月経つが、旧校舎に訪れたのは初めてだった。

 

 旧校舎は普段通っている校舎や学生寮とは少し離れたところにある。周りは木々や雑草が生い茂っており、ちょっとした隠れ家にはちょうど良さそうな立地だった。

 

 ヤニクとエチゴ先輩に連れられた俺は旧校舎2階の美術室の扉を開けた。すると、そこにはすでに麻雀を打っている面々が20人近くいた。

 

 5台の麻雀卓が並び、そのうち4台では既に麻雀が行われている。

 

 何とも懐かしい光景だ。元の世界で大学生だった頃に行った雀荘を思い出してしまう。ただ、さすがに学園の教室だけあってタバコ臭くはない。そこは凄くありがたいポイントだ。

 

 どうやらこの部屋が"賭博部"の部室のようだ。

 

 

 

 

 別に賭博部に入部するつもりはないが、部活の活動に参加するのであれば部長に挨拶くらいしておいた方がいいだろう。

 

「なあヤニク、賭博部の部長はどこにいるんだ?」

 

「部長? ああ、部長はここにはいないぜ …というか、部長は人前に出ることはないからな」

 

「人前に出ない? 流石に部活の活動中は姿を現すんじゃないのか?」

 

 俺の質問に対し、ヤニクは首を横に振る。

 

「部長は副部長への指示は出すが、表舞台に立って賭博の仕切りや主催をすることはないんだ」

 

「どういうことだ?」

 

「そのまんまの意味さ。賭博部は部長が1人、副部長が3人いるんだがな、部長は3人の副部長に裏で指示をする指示役なんだ。んで、実際の仕切りは副部長が行うって訳さ」

 

「怪しすぎるだろ、この部活…」

 

 指示役が裏で指示をして実働部隊が活動する。まるで闇バイトのようだ。

 

 

「ちなみに副部長の内1人は俺、残りの2人は競輪部の奴と………、もう1人は俺も誰だか知らないんだよな」

 

 部長と副部長1名が正体不明って、本当に大丈夫かこの部活動…。

 

 

 今更ながら怪しい活動に参加ることに躊躇していると、ヤニクは俺の背中を物理的に押した。

 

「そんなことよりほら、お前の卓はあっちだぜ!」

 

 こうして俺は、ヤニクに押されながら怪しげな部活の麻雀勝負に挑むことになった。

 




次回、麻雀勝負開幕!
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