麻雀編終了!
「やべえ!! 生徒会の奴らだ!!」
「ずらかるぞ!!」
ロジャー先輩と生徒会の面々の姿を見た瞬間、賭博部員は札束を握りして席を立ち、一目散に窓の方に向かった。握り損ねたお札がひらひらと宙を舞う。
1人、2人と窓から脱走した直後、ロジャー先輩の後ろにいた女性が呪文を唱えた。
「大地よ凍れ! アイスグランド!」
その瞬間、教室の床がカチカチカチと音を立てて凍り出した。
「なにこれ…? 魔法!?」
初めて生でくらう魔法に呆気に取られていると、椅子に座ったまま足首まで凍らされてしまった。
え、凄ぇ!魔法ってこんなこともできるんだ!―――と内心興奮していると、段々足が冷たくなってきた。
今度は、え? これ俺の足どうなっちゃうの? 溶かせば戻るの!?―――と不安と恐怖が押し寄せてくる。我ながら感情の揺れが忙しい。
どうやら逃げ遅れた賭博部員たちも、床ごと足を凍らされて動きが封じられてしまったようだ。
「すみません会長。二、三名ほど逃がしました」
魔法を使ったこの女性は、確か生徒会のマジカル書記の人だ。
「いや、大丈夫だよ。ありがとうミルカ」
そういうと、ロジャー先輩は俺たちの方に向き直った。
「君たちは賭博部だね、君たちの活動は生徒会の認可が下りていないはずだよ。罰として1週間の停学処分とする。何か言い訳はあるかい?」
…停学、1週間か。
確かに賭博部は非公認部活動だが、非公認の理由は部長が書類を出し忘れただけのはずだ。
それが魔法で拘束され、しかも1週間も停学させられるほどのことなのだろうか。
俺はロジャー先輩に反論を試みた。
「非公認なのに活動していたことはすみません。でも、麻雀をすることってそんなにダメなことですか? 賭博だって学園独自通貨の"ドン"を使っている限りは法律上問題ないって聞きましたよ」
「そうですよね?」と、援護射撃を期待しながらエチゴ先輩の方を振り返る。
足が凍った状態のエチゴ先輩は、一瞬だけ目を合わせると、さっと目をそらした。
…あれ?
ロジャー先輩は戸惑う俺を見て、ため息をつく。
「ケイ君、君まで加担していたんだね」
加担といわれても、俺は今回が初参なんだが……。
「確かに学園独自通貨の"ドン"での賭博はグランドスラム王国の法律には引っかからないよ。でもそれは合法というより脱法だからね。それに……」
ロジャー先輩は続けて言った。
「普通に
…………!?
「なッ… そうなの!?」
確かに学園独自で作っている通貨なら、学園のルールで規制がされているべきだろう。その発想が出てこなかった俺は国の法律しか気にしていなかった。
おそらくエチゴ先輩やヤニクはこのことを知っていたのだろう。だからさっき目をそらしたんだ…
どうやら俺は、知らぬ間に校則違反に加担していたらしい。
知らぬ間に違反に加担していました―――って言うと、ますます闇バイトの感想のように聞こえる。
ロジャー先輩は改めて賭博部員たちに問いかける。
「そのほかに言い訳はあるかい?」
すると、先ほどまで気まずそうにしていたエチゴ先輩が、急にギアを上げてロジャー先輩に怒鳴り散らした。
「てめえら! 校舎内での魔法の使用は校則違反だろ! 卑怯だぞ!!」
さすがはエチゴ先輩だ。自分たちも校則違反をしていたのに、自分のことは棚に上げて逆切れをし始めた。
しかも生徒会長相手でも全く怯む様子がない。
この前は第二王子のアンディからカツアゲしてたし、ほんと無敵だなこの人…
「魔法を使った彼女はマジカル書記だからね。マジカル書記の役職者は、校則違反者を取り締まる場合には魔法の使用は許可されているよ」
「なに!? 権力を振りかざしやがって! それがお前ら生徒会のやり方か!!」
エチゴ先輩はまたもや逆切れをする。
普段から上級生という権力を使って新人いびりをし、後輩をパシリに使っている人の発言とはとても思えない。
そういえば、エチゴ先輩はいつも通り怒鳴り散らしているが、アシヅカ先輩は観念したのか意外と大人しい。
俺がアンディ王子と決闘をする旨を報告したときもドン引きしてたし、アシヅカ先輩は意外と常識がある人なのかもしれない。
ロジャー先輩は改めて凍り漬けにされた俺達を見渡す。
「他に言い訳はなさそうだね。 ところで、今回の活動の首謀者は誰だい?」
俺はヤニクの姿を探した、首謀者というのなら彼だろう。
足が凍っているので何とか首を回して教室内を見渡すがヤニクの姿は見当たらなかった。
生徒会の面々が登場たとき窓から二名ほど逃げて行ったが、その中にもヤニクはいなかったはずだ。いつの間に逃げたんだあいつ……。
「誰も名乗り出さないか。まあいい、それについては生徒会室でじっくり話を聞こう。スタン、ミルカ、カルロス、彼らを足の周りだけ氷を割って拘束したまま生徒会室に連行してくれるかい?」
「ふざけるなよ! 俺はまだ許してねえぞ!! ……あ、こら、やめろーーー!」
エチゴ先輩の抵抗も虚しく、賭博部メンバーは次々と生徒会に面々に運ばれていった。
俺は最後の一人まで残された。
生徒会の面々は俺の足の氷を溶かした後いなくなり、ロジャー先輩だけが残っていた。なぜかロ
ジャー先輩と二人っきりだ。
…どういう状況だ、これ?
ロジャー先輩は俺の近くに来ると、先ほどまで俺達が触っていた麻雀牌を見つめる。
俺がこれどういう状況ですか?―――と聞く前に、彼はひとりでに語り始めた。
「僕の父親は庶民から貴族になったんだけど、そこから色々あったらしくてね…。僕が小さいころには酒やギャンブルに溺れていた。僕はそんな父のことが嫌いだったんだ。
この麻雀牌を見ると思い出すよ、ギャンブルに負けて家で暴れまわっていた父の姿を」
どうやらロジャー先輩は順風満帆な家庭環境という訳ではなかったようだ。この王族貴族の金持ちたちが集まる学園にしては珍しい。
いや、もしかしたら俺が知らないだけで、大変な環境に生まれた学生も結構いるのかもしれない。
ロジャー先輩は淋しそうな目で麻雀牌を見つめた後、俺の顔を見つめる。
「ケイ君、君はやっぱり"僕と同じ側"の人間だと思うんだ。どうだろう、僕の味方になってくれないかな。そうすれば、1週間停学の話もなかったことにしてあげるよ」
ロジャー先輩はまたも俺を生徒会に勧誘した。
「それって職権乱用なんじゃ?」―――と言いかけたが、停学を免除してくれるのはありがたいので言葉を飲み込んだ。
しかし、以前も言っていたが"僕と同じ側"とはどういう意味だろうか。
俺は先ほど淋しそうな目で麻雀牌を見つめるロジャー先輩を思い出していた。
彼はギャンブルに負けて暴れまわっていた父が嫌いだったのだろうか。それとも、父をそういう風にしたギャンブルが嫌いだったのだろうか。
ギャンブルが嫌いで、麻雀牌を淋しい目で見つめて、俺と同じ側…………
ああ、そうか! そういう事だったのか!!
俺はロジャー先輩に向かって自信満々に答える。
「俺に任せてください! ロジャー先輩には俺がついています!」
「…そうか、ありがとうケイ君」
ロジャー先輩は先輩は少し救われたような表情で胸をなでおろす。
やっぱりそうだったか! となれば、今の俺がやるべきことはたった一つだ。
「きっとロジャー先輩が満足するような
「……
ロジャー先輩はきっと、俺と同じで
だからこそ、麻雀をギャンブルだと認識している父が嫌いで、満足のいくレベルの相手がいないからこそ麻雀牌を見て淋しい目をしたのだろう。
そうだろう! そうに違いない!!
わかるぜロジャー先輩、麻雀は同じレベルの人間と打たないと面白くないよな!
「だからロジャー先輩、俺と一緒に麻雀しましょう!!」
ロジャー先輩は笑顔を張り付けたまま、しかし眉間にピキッとしわが寄った。
*************
7月も中旬になれば、夏が本格的に訪れたといってもいい暑さになる。
カーテンの隙間からこぼれる朝日を浴びて、思わずタオルケットで顔を覆う。
どうやら今日も絶好のテニス日和のようだ。
「主君、いつまで寝てるんですか。もうすぐ授業が始まりますよ」
ドS執事に体を揺らされた俺は、少しだけ抗った後、寝ぼけ眼を擦りながら二段ベッドから這い出る。
すると、ノバクはハッとした表情で申し訳なさそうにする。
「すみません主君、ついいつもの癖で起こしてしまいました。停学中の主君は授業に間に合う必要はありませんでしたね。ゆっくり寝ててください。
では、停学をしていない私はしっかり学問を修めてまいります」
そういうと、ノバクはいそいそと学生鞄に荷物を詰め始める。
「…絶対わざとだろ!!」
--------------------------------------
--------------------------------------
マリアは教室で後ろの机を見ながら考える。
誰も座っていない後ろの机を見ながら…
生徒会長ロジャーのルートでは、非公認部活動の捜索に協力をするイベントから始まるはずだった。それがまさか、取り締まられる側にまわるなんて…
「今回、私に相談してくれたし、私のアドバイスを聞いてくれてたよね。それでこうなったってことは……… もしかして、今回の件って私のせい?」
麻雀編① 終了!
次回、麻雀編②! 麻雀嫌いな方はごめんなさい。