乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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麻雀編②の前編です!


麻雀編②
この後、時間は空いてますか?


 停学初日、午前10時の食堂は異様なまでに人が少なくとても開放的だった。

 

 停学処分をくらった俺は学校の授業を受ける必要はないが、学生寮から追い出されるわけではないので普通に食堂を使っている。

 いつもは昼休みなどの混雑した時間に利用するため必然的にあわただしくなるが、この時間帯は他の生徒達は授業を受けているため人が全くいない。

 

 俺はオムライスをのせたお盆を持って席の確保に向かっていた。

 

 食堂の席を見渡すと、アシヅカ先輩とエチゴ先輩が向かい合って座っているのを見つけた。

 どうやら彼らも俺と同じく、空いている時間帯に食堂を利用しようという魂胆のようだ。

 

 

 

 俺は二人の隣の席にお盆を置いてから挨拶をした。

 

「おはようございます!」

 

 二人は座ったまま俺の顔を見上げると、低い声で挨拶を返す。

 

「うーす」

「ういーす」

 

 すでに午前10時を回っているというのに二人とも寝起きのようなテンションだった。

 このテンションの相手にベラベラと話すのも気が引けたので、俺も黙って食事をした。

 

 

 

 俺達が黙々とご飯を食べていると、背中越しに声をかけられた。

 

「君の向かいは空いているかい?」

 

 振り向くと、そこには美しい金髪をなびかせたラファエル先輩がいた。相変わらずのイケメンっぷりだ。

 

「…ええ、空いてますよ。どうぞ」

 

 俺はオムライスをのせたお盆を少し寄せて、ラファエル先輩のスペースを確保する。

 

 

 

「ラファエル先輩、今って授業中じゃないんですか?」

 

「今日は野外での魔法実習だったのさ。私はもうすべての課題を終わらせたから、空いているうちに食堂を利用しようと思ってね」

 

 ラファエル先輩は笑顔で答える。

 

 横で聞いたエチゴ先輩は「チッ!相変わらずの優等生様だね」と悪態をついた。

 

 

 

 

 正直、俺はラファエル先輩のことがあまり好きではないし、きっとラファエル先輩も俺のことは好きではないだろう。それなのに、なぜ彼はわざわざ俺の向かいに座ったのだろうか。

 

 ラファエル先輩は自分のお盆をテーブルに乗せると、向かい合わせた状態で目を合わせてきた。

 

 …気まずい。

 

 

 

 俺から何か話題振った方が良いの?―――と考えていると、ラファエル先輩から話しを切り出した。

 

「ケイ君、私は君のことを買っていたんだ。アンディが決闘の後にね『とても楽しかった、良い試合だった』と言っていたよ。あんなに楽しそうな弟を見るのは久しぶりだった。これはきっと君の人柄が生んだ結果だと思っているよ。

 けどね…。まさか君が賭博麻雀で停学処分をくらうだなんて、いったいどうしたんだい?」

 

 なるほど。要件はお説教というわけだ。

 

「いえまあ、成り行きといいますか… 自分は麻雀が好きだったのでつい…」

 

 さすがに「お金が欲しかったからです!」―――と真実を語る訳にもいかない。

 

 俺の回答を聞いたラファエル先輩はため息をつく。

 

「麻雀か… あのゲームのいったいどこが面白いんだい?」

 

 ラファエル先輩の質問は完全に面白くないと思っている人の聞き方だった。

 自分の好きなものを否定された気がして、俺はつい言い返す。

 

「麻雀は戦略や心理戦があって面白いですよ。それこそ先輩の好きなチェスと同じです!」

 

 ラファエル先輩はチェス部の部長だ。俺は以前、ラファエル先輩とチェスの対局をしたが、瞬殺で終わったため彼がどのくらいの打ち手だったのかはわからない。

 けれど、チェス部の部長をしているのだから、きっと彼はチェスが好きなのだろう。

 

 俺の言葉を聞いたラファエル先輩は少し表情を曇らせる。

 

「それは違うよケイ君。確かにチェスは戦略と心理戦を最大限に楽しめるスポーツだ。けれど麻雀は運の要素が強すぎる。あれは戦略や心理戦ではなく運試しゲーム…つまりはただのギャンブルだよ」

 

 ラファエル先輩は声色こそ優しいが、俺の意見を力ずよく否定した。

 

 

 今度は俺が言い返すより早く、横からアシヅカ先輩が参戦してきた。

 

「ラファエル様、言わせてもらうが麻雀の理解についてはケイの方が正しいぜ。確かに麻雀は運が絡むこともある。だがその運という不確定事項が増えることで、より推測や計算が必要になるんだ」

 

 アシヅカ先輩の言葉に続けて、俺も説明を追加する。

 

「それにメンバーが四人というのも良いんですよ。1対1なら勝利か敗北の2パターンしかありませんが、四人いることでどの順位を狙うかという駆け引きも生まれます。それこそが、より心理戦を引き立てるんですよ」

 

 俺達の説明を聞いたラファエル先輩は訝しげな表情をしている。まだ納得していないようだ。

 

 構わず俺は捲し立てる。

 

「だからですね、麻雀はチェスとは異なる部分も多いですが、やはりチェスと同じでギャンブルではなくスポーツなんですよ!」

 

 俺の説明を着てアシヅカ先輩はうんうんと頷いている。やはりアシヅカ先輩も俺と同じ意見の様だ。

 

 すると、今まで黙っていたエチゴ先輩がぼそりとつぶやく。

 

「いや、麻雀はギャンブルだろ…」

 

 あんたはそのまま黙ってろ!!

 

 

 

 

 

 

 

「言いたいことはわかったけれど、それでも私はそうは思わないな」

 

 ラファエル先輩は俺たちの説明を聞いてもまだ納得していないようだ。

 

 この先輩頑固だな!

 

 

「私も何度か家のものと麻雀を嗜んだことはあるけれど、やはりあれはただのギャンブルだよ。チェスと同列に語るのは違うだろうね」

 

 ラファエル先輩があまりにも否定するので、俺はだんだんと腹が立ってきた。

 

「ラファエル先輩、それは先輩が本当の麻雀を知らないだけですよ。家のものって家来の方でしょ?だったら接待麻雀されてたんじゃないですか?」

 

 ラファエル先輩の額にピキッと血管が浮かぶのが見えた。

 

「ケイ君、そこまで言うなら君たちはその高度な戦略や駆け引きが―――、つまりはスポーツである麻雀ができるんだよね?」

 

「はい、勿論ですよ。それこそラファエル先輩の数倍は得意ですよ」

 

 俺の売り言葉に、ラファエル先輩は買い言葉を返す。

 

「生憎だねケイ君。私は戦略、駆け引きのボードゲームにおいては無敵の強さを誇っている。そう言えるだけの実績を積んできているからね。もし本当に麻雀がスポーツ足りえるのなら、必ず私が勝つよ」

 

 

 

 ラファエル先輩にここまで言われてしまっては、今更口論だけで決着はつけられない。

 

「ラファエル先輩、奇遇なことにここには四人の面子(メンツ)がそろっています。この後、時間は空いてますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロン!!」

 

 俺の声が旧校舎の例の部屋に響き渡る。

 

 

「リーチ、七対子(チートイ)、ドラドラ。満貫ですね!」

 

「くっ!」

 

 ラファエル先輩は悔しそうに顔を歪ませる。

 

「いやー、まさかこんな簡単な筋ひっかけに引っかかってくれるなんて… ラファエル先輩、あざっず!」

 

 先程まで口論をしていたせいか、先輩相手でもつい煽り文句が口から飛び出してしまう。

 

 今回の麻雀は、さすがに停学中の身なので賭博麻雀ではなく普通の点棒を使った麻雀だ。その代わりという訳ではないが、どうにも煽り言葉が頻繁に飛びかっている。

 

「あれ? ラファエル様は確か無敵って言ってなかったか?」

 

 中でもエチゴ先輩はガンガン煽っていくスタイルのようだ。

 

「言ってやるなエチゴ。きっと弱すぎて誰も敵になってくれないから"無敵"なんだろ」

 

 アシヅカ先輩の言葉に、俺とエチゴ先輩はガハハハッと笑う。

 

 

「な…なるほどね、段々と麻雀の戦い方がわかってきたよ。次はこうはいかないよ。」

 

 ラファエル先輩は引きつった顔で何とか言い返してきたが、それが強がりであることははた目にも明らかだった。

 

 

 

 東一局、二局と立て続けに被弾したラファエル先輩は点棒がかなり減ってきていた。

 

 この2局でわかったが、やはりラファエル先輩は麻雀をただのギャンブル程度でしかとらえていない、つまりは初心者だ。

 

 この卓には上級者といっても過言ではない俺とアシヅカ先輩がいる。いくら麻雀に運が絡むとはいえ、到底ラファエル先輩が運だけで勝てるような面子(メンツ)ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 「ロン!!」

 

 東三局にして、ラファエル先輩がエチゴ先輩から初上がりをした。

 

 「チッ!」

 

 エチゴ先輩は思わず舌打ちをした。

 

 ラファエル先輩はやっと上がれたことに安堵したのだろう、ふっと小さく息を吐いた。

 

 「リーチ、平和(ピンフ)、ドラ1だね」

 

 ラファエル先輩は少し得意げな表情で役を数えていくが、すかさず、アシヅカ先輩が口をはさんだ。

 

「ちょっと待てよ、ラファエル様。確かに面子(メンツ)がすべて順子(じゅんつ)だし、両面(リャンメン)待ちだ。だが、頭が(ハク)じゃねえか。この場合平和(ピンフ)は成立しねえぞ」

 

 

 どうやらラファエル先輩は、平和(ピンフ)の成立条件を理解していないらしい。平和(ピンフ)という役は条件が非常にややこしく、初心者が最も理解に苦しむ役だ。

 

 初級者のラファエル先輩が理解できていなくても無理はない。

 

 

 しかし、エチゴ先輩はお構いなしに煽りだす。

 

「おい、ラファエル様よ!あんた俺から点棒を多くとるため騙そうとしたんじゃないだろうな?」

 

 ラファエル先輩の表情からは先ほどの得意げな様子が失せ、申し訳なさと恥ずかしさが半々に感じ取れた。

 

「すまないエチゴ。わざとではないんだ」

 

「けーー! これ以上幼気(いたいけ)な国民から搾り取らないでくれよ、王子様!」

 

 

 

 俺はエチゴ先輩の煽り文句を聞き流しながら、ラファエル先輩の捨て牌を眺めていた。

 

 ……!

 

 ……あれ? これって!

 

 

 

「ラファエル先輩……、さっきエチゴ先輩の切った六筒(ローピン)で『ロン』って言いましたよね。 でも先輩、三筒(サンピン)を切ってますよ。

 先輩の待ち牌は三筒(サンピン)六筒(ローピン)の両面待ちだから、どちらか片方でも切ってるとフリテンになりますよ」

 

「フリテン? それはどういう意味だい?」

 

 ラファエル先輩はフリテンを理解していないようだ。

 

 フリテンも麻雀のルールの非常にややこしい部分で、ざっくり言うと上がっちゃダメな牌で上がることだ。この場合、ルール違反として上りは無効になるのだ。

 

 これまた、初級者のラファエル先輩が理解できていなくても無理はない。

 

 

 …無理はないが、せっかくなので俺も煽っておくことにした。

 

 

 

「ラファエル先輩、下手なのは勝手ですけどせめてルールは守りましょうよ!」

 

 チェスで負けた時に言われた分のお返しだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、俺たちの麻雀の尊厳をかけた戦いは勝利に終わったのだった。

 

 

 終わった後、ラファエル先輩は荒んだ目で下を向きながらぼそぼそとつぶやいていた。

 

「あり得ない。こんなことあってはならない。 …今日のことは絶対に忘れない、必ずリベンジしてみせる」

 

 

 

 この時、俺達はラファエル先輩の負けず嫌いな性格を甘く見ていたのだ。

 そのせいで、まさか後々大変―――いや、面倒くさいことに巻き込まれることになるとは……。

 

 




次回、麻雀編② 後編。

ラファエル先輩の逆襲が始まる…かも。
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