乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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卓球編 第2話!


受けましょう、その試合!

 俺の夏休みが始まってから数日が過ぎたある日、俺は寮の自室で膝をついて倒れこんでいた。

 

「テニスがしたいです………」

 

 そうつぶやき(うずくま)りながらも、目線をノバクに向ける。

 ノバクはそんな俺に対し「朝から面倒くさいですね」と言わんばかりの顔で振り向いた。

 

「…ウザイですね」

 

 ……違った。もっと心にくる言葉だった。

 

 

 

 夏休み初日は雨でテニスの練習ができず、仕方なくノバクと卓球をした俺だった。しかし、あれから数日経っても俺はまだテニスの練習ができなかったのだ。

 

 この学園は全寮制のため生徒たちは授業がある時期に帰省するのが難しい。そのため、多くの生徒は8月下旬のこの季節に実家に帰っているそうだ。

 そして、俺の所属するテニス部はそのことを考慮して8月下旬の練習がすべて休暇となっているのだった。

 

 ちなみに、俺が補修や追試を受けている間にテニス部は夏合宿をしていたらしい。その話を聞いた時、俺は普通に泣きそうになった。

 

 

 

「今更だけど、部長か副部長がいないと自主練でテニスコートが使えないって面倒くさすぎるだろ!!」

 

 俺はノバクを見つめたまま叫んだ。

 

「そんなこと、私に向かって言われましても」

 

 ノバクは呆れた様子で答える。ごもっともな意見だ。

 

 けれど、俺はこの数日間、毎日学園内をうろついて、いるかもわからない部長のラファエル先輩と副部長のお蝶先輩を探し回ったのだ。この苦労を少しくらいわかってくれてもいいじゃないか。

 

「主君はラファエル様か、その、お蝶先輩という人を見つけ出して練習をしてもらうのですか?」

 

「いや、今回はただ練習に付き合ってもらうだけじゃないんだ」

 

「と言いますと?」

 

 ここ数日、学園内にいるのかどうかもわからない二人を探しながら考えたのだ、こんな面倒事をしなくて済む方法を。

 

 そして思いついた。―――そう、俺が部長か副部長になってしまえばよいのだ。

 

「俺は二人のうちどちらかを見つけ出して、部長か副部長の座を譲ってもらう!」

 

「はあ。そんなに簡単に譲っていただけるものなのですか?」

 

「いや、簡単じゃあないだろうな」

 

 二人とも責任感が強そうなので、そう簡単には譲ってくれないだろう。

 

「だが俺には秘策がある。その名も『(副)部長の座をかけて試合をしましょう』作戦だ! 俺が勝ったら部長や副部長の座を奪う、そういう勝負を仕掛けるんだ」

 

「その勝負をお二人が受けてくれる算段はあるのですか?」

 

 その算段はある。

 

 数カ月の付き合いで分かったことだが、ラファエル先輩もお蝶先輩も無駄にプライドが高く負けず嫌いなのだ。勝負事をしかければ、なんだかんだ言っても最後は必ず乗ってくるに違いない。

 

「あと、そのお二人と勝負をして主君は勝てるのですか?」

 

「それは…………」

 

 そう。この作戦の一番の問題点はそこなのだ。俺は1学期の頃、お蝶先輩にテニスのシングルスで負けている。

 さらに、ここ数日俺は補修と追試漬けだったが、お蝶先輩は夏合宿でさらに強くなっているはずだ。

 

 今、テニスの試合で勝負をして勝てるかと言うと…。

 

 

「……大丈夫だ。そこも秘策がある!」

 

 

 俺はラケットケースからテニスラケット―――ではなく卓球ラケットを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと見つけた!! お蝶先輩!!」

 

 学園中を探し回ることが日課になりつつあった今日、ついに副部長のお蝶先輩を見つけることができた。

 

「あら、ケイ。どうしてこんなところに?」

 

 俺に大声で呼ばれ、お蝶先輩は少し驚いた様子で振り向く。

 

 けれど、俺の姿を見たお蝶先輩はすぐに呆れ顔に変わった。

 

「ここは女子寮よ。あなた、こんなところで何をしているの?」

 

 確かにここは男子禁制の女子寮だ。だが、そんなことはどうでもいい。

 

 どうやって男子禁制の女子寮に忍び込んだのかとか、なぜ俺が女装をしているのかとか、そんなことはどうでもいい。

 

「もしかして女装をして侵入したのかしら。それにしてもケイ、あなたの女装は見るに堪えないわね」

 

 …それもどうでいい!!

 

 

 

 男子禁制の女子寮に忍び込むには女装をするのが一番だ。そう思い立った俺は、ノバクに女装グッズを用意してもらい二人そろって女装をしてきたのだ。

 ノバクは元々イケメンのためか、女装をしても違和感のない美少女になった。対して俺は…… お蝶先輩の感想の通りだ。

 

 女装の甲斐あってか、俺とノバクは怪しまれずに女子寮に忍び込めた。

 

 道中、すれ違った女子生徒に何度もガン見されたが怪しまれていない………はずだッ!!

 

「そんなことより先輩! 今までどこに居たんですか? ここ数日ずっと先輩のことを探してたんですよ!」

 

「あら? そうだったのね、ごめんなさい。あたくしは家の仕事でこの学園からは離れていましたの」

 

「家の仕事?」

 

「そうよ。あたくしは上級貴族ですから、下級貴族のあなたの家と違って色々と忙しいのよ」

 

 どうやら上級貴族というのは大変らしい。よくわからないが、俺は下級貴族でよかった。

 

「けれど、お蝶先輩ともあろう人が、テニスの練習より家の仕事なんかを優先するなんて…」

 

「あらケイ。あたくしのテニスへの情熱を尊重してくれるのは嬉しいですが、あたくしももう2年生。いつまでも学生気分ではいられませんわ。そろそろ、将来に向けて準備をしなくてはなりませんの」

 

「将来に向けて? ならなおさらお蝶先輩はテニスを優先するべきでしょ。じゃないとプロにはなれませんよ」

 

 お蝶先輩ほどテニスが上手くて情熱を注いている人はそうはいない。何せ、借り物ラケットだったとはいえ、男子の俺を相手にシングルスで勝った人なのだから。

 

 だからこそ、俺は当然のようにお蝶先輩はプロの女子テニスプレイヤーを目指しているものだと思っていた。

 

 しかし、お蝶先輩は俺の想像していなかった言葉を口にする。

 

「何を言っているの? あたくしは貴族ですから、当然、将来は貴族の役割を全うしますわよ」

 

「…え!? お蝶先輩、プロテニスプレイヤーを目指してないんですか!?」

 

 自分が女子寮に忍び込んでいることをすっかり忘れて大声を出してしまう。

 

 お蝶先輩は、そんな俺を訝しそうに見つめながら、先ほど以上に俺を驚かせる言葉をつづけた。

 

「だいたい、あなたの言っている()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 …………へ?

 

 

「…え? 何って… そりゃ…」

 

 

 お蝶先輩がどういう意図で聞いてきたのかわからず、思考の処理が遅れる。

 

 プロテニスプレイヤーとは何かって、そりゃプロの、テニスの、プレイヤーだろ。

 

 

「もしかして、テニスのコーチのことを言っていますの? 確かにテニスのコーチは魅力的なお仕事ですが、どこまで行ってもテニスはあくまで趣味でしょう。上級貴族のあたくしが趣味の指導者なんてうつつを抜かすわけにはいかないわ」

 

「…いや、コーチではなくてプロ選手ですよ」

 

「選手の…プロ? 何ですのそれは?」

 

「…………………………え?」

 

 ……この世界って、プロテニスプレイヤー存在しないの?

 

 乙女ゲームの世界に転生してから4カ月。

 まさかの衝撃の事実に、俺の思考は完全に停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでケイ。あたくしに何か用事があったのではなくて?」

 

 お蝶先輩の呼びかけで、何とか正気を保つ。

 …危なかった。完全に意識が飛んでいた。

 

 

 この世界にプロテニスプレイヤーという職業がないことについて、何とも言葉にし辛い淋しさというか、やるせなさを感じる。

 けれど、よくよく考えれば、この世界にプロテニスプレイヤーという職業があろうがなかろうが、俺のすることは変わらない。

 

 このゲームの世界を攻略して元の世界に帰る。そして、その方法を見つけるまではこの世界でテニスの練習をして少しでも上達することだ。

 

 そのためにも今俺がするべきことは、目の前のお蝶先輩からテニス部副部長の座を勝ち取ることだ。

 

 

「お蝶先輩!」

 

 俺は姿勢を正してお蝶先輩に向き合う。俺の様子から真面目な話だと感じとったらしく、お蝶先輩も俺の目を真剣に見つめ返してくれた。

 

「…改まって何かしら?」

 

「俺にテニス部副部長の座を譲って…」

 

「嫌よ」

 

 判断が早い!!

 

「あの、お蝶先輩。俺まだ最後まで言い切ってないんですが…」

 

「ケイのテニスへの情熱は認めています。けれど、あたくしは責任をもって副部長を引き受けた身。引退をする日までは、そう簡単に誰かに譲る気はないわ」

 

 やはり、お蝶先輩はそう簡単には副部長を譲ってくれなかった。

 

 こうなれば仕方がない。多少強引にはなってしまうが、お蝶先輩から副部長の座を奪うしかなさそうだ。

 

「では、お蝶先輩。俺と副部長の座をかけて試合してください!」

 

「それも嫌よ。あたくしにメリットがないわ」

 

 それはそうだろう。副部長の座をかけた試合など、元から副部長のお蝶先輩には何のメリットもない。

 

 それでもお蝶先輩には試合を受けてもらう必要があるのだ。

 

 そのために俺の思いついた方法は、プライドの高いお蝶先輩を挑発することだった。

 

「あれ? お蝶先輩、もしかして負けるのが怖い…」

 

「受けましょう、その試合!」

 

 判断が早すぎる!!

 

 俺の想像以上のプライドの高さと煽り耐性の低さを併せ持ったお蝶先輩は、俺の挑発に爆速でのってくれた。

 

「ありがとうございま――――」

 

 けれど、俺がお礼を言い切る前にお蝶先輩は条件を付けたした。

 

「ただし! ケイが負けた場合は今度のテニス部の対外試合に、女子部員として参加してもらうわ」

 

「女子部員として!? なんで!?」

 

「今度の対外試合では女子部員での団体戦を行うわ。けれど、都合のつく女子部員が少なくてメンバーが1人足りなくてよ」

 

「それで、俺に女子部員の代わりに試合に出てくれと…」

 

 別に試合に出る分には構わないが、なぜ俺に頼むのだろう。

 

 俺は数秒考えたのち、今の自分の恰好を思い出した。

 

「…もしかして、女装して試合に出ろってことですか!?」

 

「そうよ。よくって?」

 

 よくって?――じゃねえよ! よくねえよ!!

 

 

 そもそも、自分で言うのもなんだが、俺の女装姿は完全にガタイの良い男が化粧をしてスカートをはいているだけなのだ。どう見間違えても女性には見えないだろう。

 それに、いくら何でもこの女装姿を晒しながらテニスをするのは恥ずかしい。

 

 俺はお蝶先輩の提案を断ることにした。

 

「さすがに女装して女子部員になりすますのは無理ですよ。こんな姿でテニスコートに立ったら、皆の笑いものになるじゃないですか」

 

「あら。あたくしはケイが負けた時の条件を告げたのですよ。ケイが勝てば問題ないのではなくて? それとも、ケイはもしかして負けるのが怖い―――」

 

「上等ですよ! 受けて立ちます!!」

 

「…判断が早いわね」

 

 こうして、勝てば副部長、負ければ女子部員になるという条件での試合が決定した。




次回、卓球編最終話!
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