乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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サッカー編開幕!
登場人物が増えてきたので、やっと団体競技ができます!!


サッカー編
ケイ君のバカ! テニスバカ!


 2学期が始まり、教室で久しぶりにクラスメイト達に会った。

 

 夏休みはたった1カ月ちょっとの期間だというのに、物凄く久しぶりな気がする。高校の長期休暇明けの雰囲気というのは、卒業後には味わえない独特なワクワク感にあふれている。

 

「久しぶりだね、ケイ君」

 

 俺の前の席に座っているマリアは夏休みが明けても変わらず元気そうだった。

 

 マリアとはクラスが同じだが、部活動や寮が違うため、授業がないとめっきり合わなくなってしまう。

 

「ケイ君は夏休みも元気にしてた?」

 

「ああ、元気だったよ!」

 

 俺の明るい表情に、満足そうにマリアは頷く。

 

 俺が他愛のない夏休みの出来事でも語ろうかなと思ったところ、マリアのほうから勢いよく話題をふってきた。

 

「ところでさ、ケイ君。確かテニス部は夏合宿があったみたいだけど、合宿場ってボクシング部や生徒会の合宿場と同じだったんだよね。

 そこで、テニス部部長のラファエル様はもちろん、ボクシング部のアンディ様や生徒会長のロジャー様と一緒になったんだよね!? 仲良くなれたりしたのかな!?」

 

 マリアは興味津々と言った様子で身を乗り出してくる。

 

 テニス部の合宿だというのにマリアは随分と詳しいようだ。マリアの話が本当なら、夏合宿には偶然、攻略対象の三人が集まっていたらしい。

 

 

 

 ………が、補修と追試で夏合宿に参加できなかった俺には関係のない話だ。

 

 

 

「合宿は参加できなかったんだ」

 

「……へ? なんで!? 親密度アップの一大イベントだったのに!?」

 

「親密度?」

 

 とは一体何だろう。

 

「なんで一大イベントに参加しなかったのよ!? ケイ君、何やってるのよ!?」

 

 なぜかマリアは急に怒りだした。どうやら、俺がテニス部の夏合宿に参加しなかったことについて怒っているらしい。

 

 …なんでだよ。

 

「ほら、俺は補修とか追試とかあったからさ…」

 

「補修に追試!? そのせいで夏合宿に参加できなかったの? ケイ君のバカ! 大バカ!」

 

 マリアの言う通り、バカだから補修や追試をうけたのだ。

 けれど、そのことに対してマリアから怒られるのは訳が分からない。

 

 マリアは怒りを収めることなく、まくし立てる。

 

「じゃあ、残りの夏休みは何してたのさ!!」

 

「なにって、そりゃ…」

 

「やっぱり言わないで!! 言わなくてもわかるから!!」

 

 俺が答えようとした矢先マリアは大声でそれを封殺した。

 

 理不尽だ…。

 

「どうせテニスでしょ! 合宿サボってまでテニスしてたんでしょ!! ケイ君のバカ! テニスバカ!」

 

 先ほど説明したが、合宿はサボったわけではなく行けなかっただけなのだ。そもそも、テニス部の夏合宿をサボってテニスの練習をするのは意味が分からない。

 

 それに…

 

「夏休みはテニスしてなかったんだけど」

 

「はあ!? ケイ君がテニスをしてない? じゃあ何をしてたのさ?」

 

「卓球…」

 

 俺の答えにマリアは数秒沈黙した。そして、困惑の表情のまま重たい口を開く。

 

「………………なんで?」

 

 どうやらマリアにとって、俺がテニスをしていないことはかなり意外だったようだ。本当にテニスバカだと思われてるんだな、俺…。

 

 そして、そんなテニスバカな俺が夏休みを卓球に費やした理由。それは………。

 

「……俺にもわかんない」

 

「…わかんないのに卓球するって、そんなことある?」

 

 

 俺たちの間に無言の沈黙が流れた。どうやら、マリアは怒りの感情より困惑が勝ったらしく、お説教はここで終わりを迎えた。

 

 

 

 

「お前たち、本当に仲がいいよな」

 

 無言で向き合っている俺とマリアに、学級委員長のカルロスが声をかけてきた。

 

 カルロスは少し焼けた肌に茶髪の髪をふんわりとセットした、イケメンで明るいクラスの人気者だ。

 

 彼のような性格を世間では陽キャというのだろう。俺は別に陽キャ自体は好きでも嫌いでもないが、彼のようなポジティブで行動力のある陽キャは結構好きなタイプだ。

 

「おお、カルロス。2学期も委員長になったんだよな。おめでとう!」

 

 カルロスは今日のクラス会で1学期に続いて2学期もこのクラスの委員長になったのだ。この手の行動力のある陽キャは、クラス行事などを勝手に仕切ってくれるのでありがたい。

 

 おかげで、俺のような部活動に注力している人にクラスの仕事が回ってこなくて済む。

 

「ああ、ケイも俺に投票してくれてありがとうな!」

 

 カルロスは俺に向かって拳を突き出す。俺はその拳にグータッチをした。

 

 別にそこまで仲良しという訳でもないが、この距離感。さすがの陽キャっぷりだ。だが、こういう距離の詰め方は実は結構好きだったりする。

 

「ところでケイ、この間はラケットを貸してくれてありがとうな」

 

「ああ、別に構わないぜ」

 

 実は以前、俺が補修を受けているとき偶然教室によったカルロスからテニスラケットを貸してほしいと頼まれたのだ。

 俺はテニス部の部室からレンタル用のテニスラケットを2本貸してあげた。

 

 カルロスはサッカー部らしいが、別にテニス部員でなくても構わない。テニスに興味を持ってくれたのなら喜んで貸し出そう。

 

「テニスは初めてだったけどさ、すごく楽しめたよ!」

 

「そうか! それはよかった!」

 

 初心者だから…とか、失敗すると恥ずかしいから…とか、そんな言い訳を考えるより、思い切って行動にでる。俺は陽キャのこういうところがかなり好きだ。

 

「ところで、ラケットを2本借りてたけどテニスは友達としたのか?」

 

「え? 彼女とだけど」

 

「……彼女?」

 

「そう。彼女。というか、夏休みに男二人でテニスって流石に淋しすぎるだろ」

 

 俺は陽キャのこういうところが大っ嫌いだ!!!

 

 

 

 

 

「ていうか、ケイも彼女くらいいるだろ」

 

「え、ああ。そうだな」

 

 俺は愛想笑いで返す。

 

 もちろん彼女なんていない。転生前の世界にも、転生後のこの乙女ゲームの世界にもだ。

 そもそも、彼女ができるかもしれないと思った出来事さえない。

 

 彼女ってどうやればできるの? 魔法? 魔法で作れるの?

 

「そうだ、今度俺の彼女もつれて4人でテニスしようぜ!」

 

「はは。そのうちな。ははは」

 

 なんで彼女がいる前提で話が進むの? ゲームの世界ってみんなそうなの?

 

「おう、よろしくな!」

 

 そう言うと、カルロスは自席に戻っていった。

 

 俺はその背中に込めれる限りの怨念を込めてガンを飛ばし続けた。

 

 

 

「大丈夫だよ。ケイ君にだってすぐに恋人ができるよ」

 

 俺とカルロスの会話の一部始終を聞いていたマリアが、優しい眼差しで俺を励ましてくれる。

 

「そうかな、俺にも彼女ができるかな?」

 

「え? 彼女はできないでしょ」

 

「え?」

 

「え?」

 

 こうして、俺たちの間に再び無言の沈黙が流れた。

 

 

 

 

 

***************

 

 

 

 

 

 2学期が始まって数日、放課後にクラス会が行われた。

 

「みんな、ついにこの時期がやってきたぜ!!」

 

 クラス委員長のカルロスは教壇の前で鼻息を荒くし、クラスメイト達に呼びかける。

 

「そう、来週から球技大会が始まるんだ!!」

 

 カルロスの言葉に教室内がざわつきだす。

 

 球技大会。確かに楽しみな行事ではあるが、そこまでざわつくほどだろうか。

 

 

 

「おっと、みんな。楽しみなのはわかるが少しだけ俺の説明を聞いてくれ。もう知ってる人も多いと思うが球技大会はクラス対抗戦だ。サッカー、バスケ、バレー、ラクロス。いろいろなスポーツでトーナメントを行い、その合計得点でクラス順位をつけることになる。

 なかでも一番人気はサッカーだ! 何せ他の競技より優勝した時にクラスに入るポイントが多いからな!」

 

 はあ、つまりサッカーで優勝をすればクラス順位で大きく優位に立てるわけだ。

 

「そして、全クラスの中で1番になったクラスには賞金が贈られる!」

 

「球技大会で賞金!?」

 

 俺は思わず声を上げる。

 

 なるほど、賞金が支給されると知っていたから、みんな球技大会という言葉に盛り上がっていたのだろう。

 

 しかし、学校行事で賞金が支給されるとは、流石はゲームの世界の学園だ。

 倫理観より面白さ優先というわけだ。

 

 

 けれど、球技大会で賞金が出ることは俺にとって願ってもないチャンスだった。

 

 以前行った賭博部での麻雀戦は、結局は無効試合となってしまった。それ以降、俺はまだお金を稼げていないのだ。そのため、自分用のテニスラケットはまだ買えていない。

 

「賞金っていくらなんだ?」

 

 俺の質問に、カルロスは得意げに答える。

 

「そこは気になるよな。聞いて驚け! なんと、全競技の総合得点で優勝したクラスは1人あたり100万ドンが支給されるんだ」

 

「ひゃ…100万!?」

 

 あまりの金額の高さに、俺は椅子から転げ落ちそうになった。

 

 いくらなんでも高すぎる。球技大会で支給されていい額ではない!

 

 

 ……ああ、違った。確か100ドンは1円程度の価値なのだ。つまり、100万ドンは1万円ということになる。

 

 相変わらずややこしいシステムだ。

 

「…1万円か。それでも嬉しいな」

 

 

 

 

 カルロスは話を続ける。

 

「賞金を手にするためにはサッカーで優勝をするのが一番確実だ! 今回のルールでは、サッカーは1チーム5人だ。俺はサッカー部だからサッカーに出場しようと思う。つまり、あと4人必要だ」

 

 カルロスは教壇からクラスメイトを見渡す。

 

「そこでだ、あと4人! 我こそはスポーツが得意だという者に名乗り出てもらいたい!」

 

 スポーツが得意な者。―――それはつまり俺のことだろう。

 

 俺は当然のように右手をピシッと直線にして、高く挙手する。

 

 俺の自信にあふれた華麗な挙手っぷりにクラス内が少しざわついた。その反応に少し得意げな気分になる。

 

 すると、俺の視界に隅にもう一人、自信満々に挙手をしている奴がいた。

 

「…ふふ。やはりお前も出るのか、アンディ!」

 

 俺はクラスメイトにして、この王国の第二王子であるアンディに向かってほくそ笑む。

 

 俺とアンディはかつてボクシングで決闘をした仲だ。

 俺は彼の運動神経の良さを十分に知っている。

 

「ふん。お前と組むことになるとはな、ケイ!」

 

 アンディも俺を見てニヤリと笑う。

 

 

 

「おお、二人とも凄い自信だな! あと二人だ。誰か挙手を… あれ?」

 

 教壇からクラスメイトに呼びかけていたカルロスは、クラスの雰囲気ががらりと変わったことに気づいたようだ。先ほどまでの期待感のあるざわつきが、不安や戸惑いに変わったのだ。

 

 隣の席のひそひそ話が聞こえる。

 

「アンディ様が出るのかよ」

 

「確かにアンディ様は運動神経がいいけど、あの性格だろ。同じチームはちょっとな…」

 

 どうやら、クラスメイト達はアンディと同じチームでサッカーをすることを躊躇っているようだ。アンディは一人称が「俺様」な本物の『俺様系』だ。チームプレイなどできそうもない。

 

 クラスメイトにまで不安がられるなんて、まったく、アンディの奴は仕方がないな…。

 

 

「しかも、もう一人はケイかよ」

 

「あいつも運動神経はいいけど学園最バカだろ。サッカーのルールとか覚えられるのか?」

 

 …おいコラ、聞こえてるぞ!

 

 

 

 教室内に漂った戸惑いの空気の中、一人の少女がそれを打ち破った。

 

「あ、あの! 私もサッカーにでます!」

 

 その少女は、なぜか学園指定の制服ではなくメイド服で学校に通っている少女だった。

 

 彼女は青いショートボブで透き通ったような白い肌、小柄で可愛らしい顔つきをしている。クラスで一番かわいいと噂の少女だ。

 

 名前は確か…

 

「ほう、お前も出るのかセリーナ」

 

 そうだ、セリーナだ。

 

 アンディに声をかけられたセリーナは嬉しそうに表情を輝かせる。

 

「は、はい! アンディ様のお役に立てるよう頑張ります!」

 

 このセリーナという少女は、俺たちのクラスメイトにしてアンディの付き人のメイドさんらしい。

 

 

 

「それじゃあ、メンバーはあと一人だな。と言ってもこの空気じゃみんな立候補しづらいよな。しょうがない。マリアはケイと仲良かったよな。5人目はマリアに出てもらおう」

 

「…へ? わたし?」

 

「ああ。ケイと仲のいいマリアなら、きっとこのメンバーでも上手くやれるさ」

 

「あれ… こんなストーリーじゃなかったはず…」

 

 マリアは困惑した表情でボソボソとつぶやいている―――が、なにはともあれサッカーに出場する5人が決定したのだった。

 




新キャラが二人登場!!
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