乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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サッカー編 第2話


ボールはともだち、こわくないよ!!

 セリーナはアンディ様ルートに出てくる主人公のライバルキャラだ。

 

 ただ、同じライバルキャラでもラファエル様ルートに出てくる高飛車な悪役令嬢とは違い、とても性格が良いのだ。

 セリーナは健気で前向き、その上アンディ様に尽くそうと一生懸命に頑張る女の子だ。そのため、キャラ投票ではイケメンに次いでの高順位となったほどだ。

 

 アンディ様ルートでは、主人公がアンディ様と恋仲になるためセリーナの健気な恋は叶わずに終わる。プレイヤーはその度に心を痛めるのだ。

 無論、私もこのゲームをプレイしたときは主人公を応援しながらも、セリーナには幸せになってほしいと願ったものだ。

 

 

 

 

 

 

 そんなセリーナが今、私の目の前で男子生徒にいじめられている。

 

 セリーナはたった一人で男子生徒三人を相手にしている。セリーナは決して強くはない。というか弱い。けれど、それでもその小さく細い体で懸命に立ち向かっているのだ。

 

 そんな哀れなセリーナの様子を黙ってみていられるほど、私は人でなしではない。

 

 私はセリーナと男子生徒たちの間に割って入り、両腕を広げてセリーナを庇うように立ちふさがった。

 

「これ以上はやめなよ! セリーナが可哀そうだよ!」

 

 私は男子生徒たちをきつく睨んだ。男子生徒の一人が困惑した表情でつぶやく。

 

「いや、そう言われても…」

 

「三人がかりで一人をいじめるなんておかしいよ!」

 

 必死に叫ぶ私に向かって別の男子生徒が諭してくる。

 

「いじめるって… 人聞きの悪いこと言うなよマリア」

 

「立派ないじめだよ!! 男三人でか弱い女の子を寄ってたかって…」

 

 セリーナは優しい女の子なのだ。けれど、優しさが裏目に出て嫌なことを嫌だと言えない。

 つらいときに逃げ出すことができない。そういう女の子なのだ。

 

 だから、私が代わりに声を大にして叫ぶ。

 

「セリーナが可哀そうだよ!!!」

 

 私の大声にたじろぎながら男子生徒の一人がつぶやく。

 

「でも……。 ゴールキーパーをやりたいって言いだしたのはセリーナ自身だろ」

 

「………………まあ、それはそうだけどさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、私たちはセリーナのゴールキーパーの自主練に付き合っていたのだ。

 

 メンバーはセリーナとアンディ様、学級委員長のカルロス君、そして圭太。この四人に私を含めた五人だった。

 

 

 

 球技大会のサッカーのメンバーが決まり、一番初めに起きた問題はポジション決めだった。

 

 何故か自信満々なアンディ様と圭太はそろってフォワードを希望した。そして、唯一サッカー経験のあるカルロス君はオフェンスとディフェンスのどちらもこなすミッドフィルダーとなった。

 そうなると、必然的に私かセリーナがゴールキーパーをしなければいけなくなる。

 

 私が「男子のシュートを受け止めるなんて嫌だ。怖い」と言ったところ、なんとセリーナが自らゴールキーパーに立候補したのだ。

 

 そして今、私がゴールキーパーになるのを躊躇ったばっかりに、ほぼいじめ現場のような練習風景が生み出されてしまっている……。

 

 セリーナは小さな体を大の字に広げサッカーゴールを必死に守っている。

 

 そして、セリーナの自主練に付き合っているアンディ様、カルロス君、そして圭太の男子生徒三人はゴールキーパーのセリーナに向かって代わる代わるシュートを蹴っていたのだ。

 

 

 

「確かに、サッカーの練習だろうけどさ…」

 

 私は男子三人に向かって呟く。

 

 頭の中では先ほどまでの男三人がかりで華奢な女の子にボールを蹴り飛ばす情景を思い返していた。

 

「はたから見たら、結構ひどい絵面だよ」

 

「そ、そんなにか? サッカーの練習をしてただけなのに?」

 

「うん。ほぼいじめ現場」

 

「まじか…」

 

 男子三人の中でも良識のあるカルロス君は、私の感想を聞いてげんなりとする。

 

 

 

 

「セリーナ、大丈夫? ゴールキーパーの練習怖くない? やっぱり私が変わるよ?」

 

 今さらながら罪悪感が芽生えてきたので、セリーナにゴールキーパーの交代を提案してみた。

 

 けれど、セリーナは怖がるどころか得意げな顔で鼻息を吹かす。

 

「ありがとうねマリアちゃん。でも大丈夫だよ! 私、なんだかゴールキーパーのコツを掴めてきたんだ!」

 

 私より一回り小柄なセリーナは、私の顔を見上げながら上目遣いで屈託のない笑顔を見せる。

 

 

 か、かわいい!!

 

 

 …じゃなくて。

 

 セリーナはコツがつかめてきたと言っているが、先ほどから一度たりともサッカーボールに触れられてすらいないのだ。なんと圧倒的な運動音痴。

 それなのに、一体どこからその自信がわいてくるのだろうか。

 

 

「でもほら、ボールって当たると痛いし、やっぱりゴールキーパーはセリーナに向いてないよ…」

 

 私はなんとかセリーナにゴールキーパーを辞めるように誘導しようとした。

 

 私の言葉を聞いたセリーナ少し曇り顔になる。

 

 まるで、努力している子供に諦めるよう諭している大人の気分だ。

 なんて言うか…、罪悪感が凄い。

 

「あ、いや、その…。セリーナは十分頑張ってると思うよ。でもほら、セリーナだったらゴールキーパーよりディフェンダーの方が向いてるんじゃないかなって…」

 

「心配してくれてありがとうね、マリアちゃん。…でも、私やってみたいの! いつまでもアンディ様の陰に隠れてるんじゃなくて、アンディ様と肩を並べて歩けるように頑張りたいの!!」

 

 セリーナは強い意志を宿した瞳で、上目遣いで私を見つめる。

 

 

 やっぱり、かわいい!

 

 

 …じゃなくて。

 

 

 

 本人はやりたがっているが、それでも辞めさせるべきだろう。運動音痴なセリーナがゴールキーパーの練習を続ければ、いずれは顔面にシュートが当たって鼻血を出すことになってしまう。

 

 …………いや、そこまでは心配しすぎかな?

 

 

 私の心の揺れを感じ取ってか、セリーナは畳みかける。

 

「ボールが痛くても平気だよ! 私、アンディ様の役に立てるならどんな痛いことだって頑張れるから! だから、もう少しだけ頑張ってみたい。アンディ様によく頑張ったなって言ってもらえるようになりたいの!」

 

 う…。そこまで言われてしまっては、止めようがない。

 私はセリーナの身の安全より、彼女の決意を尊重することにした。

 

 

 

 

 

 

 結局、私はコートの隅でセリーナの自主練習を見守ることにした。カルロス君もシュート役は他に任せて見守ることにしたらしく、私の隣で給水をしている。

 

「ねえ、カルロス君。どうしてこのチームの五人目に私を選んだの?」

 

 これは、サッカーのメンバーに選ばれたときからずっと気になっていたことだ。

 

 本来のゲームのストーリでは、ヒロインはアンディ様と一緒にサッカーをプレイするか、アンディ様を応援する立ち回りとなる。

 そして、ヒロインがそのどちらを選んでも、親友ポジの私(マリア)はサッカーには出場しないのだ。

 

「ああ、そのことか。マリアはクラスの中でも運動神経は良い方だろ」

 

「うん。まあそうだね」

 

 確かに私は運動は得意な方だ。アンディ様や圭太みたいに自信満々とはいかないけれど。

 

「それに、あの面子を見てくれよ」

 

 カルロス君はゴールキーパー練習をしている三人を遠い目で見つめる。

 

「チームプレイができそうにないアンディ様に、学年で一番バカなケイ。それに、やる気だけは凄いけれど運動神経0なセリーナが同じチームなんだ。一人くらいまともなメンバーが欲しくてさ…」

 

「それは…………、仕方がないね」

 

 カルロス君は陽キャでコミュ力が高い。その彼ですら思わずまともなメンバーが欲しいと嘆きたくなる面子――――アンディ様と圭太、それにセリーナ。この三人のクラスでの評価はなかなかに酷いものらしい。

 

 

 

 

 

 私たちがコートの隅で話していると「ふぎゅ!!」という可愛いうめき声がサッカーゴールの方から聞こえた。

 慌てて振り向くと、そこには鼻血をダラダラと流しているセリーナが(ひざまず)いていた。

 

 彼女の顔は赤くはれ上がっている。

 

 どうやら本当にシュートが顔面に当たってしまったらしい。

 誰よ、当たれば鼻血が出るほどの勢いでシュートを蹴ったのは…。

 

 

 私は慌ててセリーナの傍に駆け寄る。

 

「セリーナ! 大丈夫!?」

 

 セリーナは私が近づたことに気づいていないようで、転がっているサッカーボールを見つめていた。

 

「サッカーボール… 怖い…」

 

 私に遅れてアンディ様も駆け寄ってくる。

 

「すまない、セリーナ。シュートを強く蹴りすぎた」

 

 セリーナの顔面にぶつけたの、あんたかよ…!

 

 

 アンディ様の声に反応したセリーナはとっさに顔を上げる。

 

「えへ、えへへ。らいじょうぶれす」

 

 セリーナは鼻血を垂らしたまま無理に笑顔を作ってアンディ様を安心させようとする。だけど、全然ろれつが回っていない。

 

 私たちは自主練習を中断し、セリーナを保健室に連れて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、懲りずに自主練習をしたいと言い出したセリーナだったが、異変が起きた。

 

 

「ひゃっ!」

 

 サッカーゴールの手前で小さな悲鳴を上げて、セリーナはうずくまる。

 

 圭太のゆっくり蹴ったサッカーボールは、コロコロと転がってセリーナの横を通り過ぎゴールネットを揺らした。

 

 昨日は自信満々にゴールキーパーの練習をしていたセリーナだったが、顔面にボールが当たって以来、サッカーボールが怖くなってしまったようだ。

 

「セリーナ、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫。 もう一回お願い!」

 

 セリーナは恐怖に震えながら、それでも懸命に立ち上がって大の字に構える。

 

 

 

 今日の自主練習にはアンディ様を呼んでいない。セリーナが、アンディ様にこれ以上迷惑をかけたくないと言い呼ばなかったのだ。

 

 私はセリーナの姿がいたたまれなくなり、圭太とカルロス君に助けを求める。

 

「ねえ、なんとかしてセリーナがボールを怖がるのを克服できないかな。このまま無理に練習を続けても、悪化するだけだと思うの」

 

 圭太とカルロス君は、うーんと考えだす。

 

 少しの沈黙の後、圭太がハイ!と元気よく手を挙げた。

 

「テニスラケットを使うのはどうだ?」

 

「…テニスラケット?」

 

 何を言っているのだろうか、このテニスバカは。

 

「テニスラケットを使ってゴールキーパーの練習をするんだよ。そうすれば、顔面にボールが飛んできてもボレーで打ち返せるだろ?」

 

 打ち返せるだろ?――じゃないよ。打ち返せないよ。

 

 パワーのある男子ならともかく、華奢なセリーナがテニスラケットを持ったところで、サッカーボールの勢いに負けてテニスラケットごと顔面に当たるのが目に見えている。

 そもそも、セリーナならテニスラケットのあの大きな面にすらボールを当てられないかもしれないのだ。それほどまでに運動神経が壊滅的なのだ。

 

 私が「このテニスバカ」という顔でじとーと睨むと、圭太は「ええ?真面目に意見したのに!?」という表情をする。

 

 たまに私と圭太は、表情だけで会話が成立することがある。

 

 …それにしても。ほんとにテニスバカだな、このテニスバカは。

 

 

 

 

 

「それなら、サッカー部に代々伝わるいい方法があるぞ」

 

 今度はカルロス君が手を挙げる。

 

「方法は2種類あるんだけど、催眠療法と薬物療法どっちが良い?」

 

「催眠か薬物!?」

 

 私は思わず聞き返す。どちらが良いかと聞かれても、どちらも怪しすぎる。

 

「えっと、じゃあ。比較的に安全な方で―――」

 

「効果がある方でお願い!!」

 

 セリーナの大きな声が私の言葉に割り込む。

 

「これ以上、皆にも迷惑をかけられない! だから、効果のある方でお願い! 私、サッカーボールを怖くないと思えるのなら、どんなことだって頑張るよ!」

 

「お、おう。わかった」

 

 セリーナの勢いに気圧されたカルロス君は鞄から小さな小瓶を取り出す。

 

「それなら、薬物療法だな。この魔法劇薬部が作ってくれたドリンクを飲んでくれ」

 

「魔法劇薬部!? なにその部活動!?」

 

 私はこのゲームを何度もやりこんだことがある。攻略情報だけでなく、ゲームの制作秘話や裏設定など様々な情報を調べたりもした。

 けれど、魔法劇薬部なんて部活動の存在は一度も耳にしたことがなかった。

 

「このドリンクを飲むと、サッカーボールの怖さなど忘れてサッカーが大好きになるんだ。その名も『覚醒ドリンク』さ」

 

 

「覚醒ドリンク!? なにそのアイテム!!?」

 

 当然だけれど、そんなアイテムはゲーム内では一度も出てきたことがない。

 

 …というか、そんなドリンクを代々受け継いでいるサッカー部、やばいでしょ!!

 

「ちょっと待って、さすがにそのドリンクは…」

 

「飲むよ!!」

 

 私の困惑をよそに、セリーナは大きな声で宣言する。

 

 私は助けを求めて圭太を見た。さすがに魔法劇薬部が作った覚醒ドリンクなんて怪しいドリンク、彼もおかしいと思っているに違いない。

 

 けれど、圭太は覚醒ドリンクの小瓶を「ああ、またあのドリンクか」――――という冷めた表情で眺めていた。

 

「…え? このドリンクって学園で有名なの? …知らないの私だけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボールはともだち、こわくないよ!!」

 

 そう叫びながらセリーナはサッカーボールに飛びつく。ボールはセリーナの大きく伸ばした腕… から少しずれて、また彼女の顔面にぶつかる。

 今度は鼻血こそ出なかったが、それでもすごく痛そうな音がした。

 

「えへへ、全然痛くないや! 私の体、大空へ羽ばたけ!!」

 

 そう叫びながら、セリーナは次々とボールに飛びつく。

 

「セ、セリーナ? もう今日は練習やめとこうよ。たかが球技大会のために練習しすぎだよ」

 

 セリーナの豹変ぷりが心配になり、私は練習を止めるように促す。

 

 けれど、セリーナは練習を辞めようとはしなかった。それどころか、

 

「なにいってるの? 球技大会は遊びなんかじゃない、サッカーは私の夢だ!!」

 

 という始末だ。

 

 あの健気で可愛らしい姿はどこへやら、昔のサッカー漫画の主人公みたいになってしまった。

 

「覚醒ドリンク、怖すぎるよ…」

 




次回、サッカー編3話
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