乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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サッカー編 第3話


ジャイアントキリングというやつだな!?

 宿題を終えて女子寮の自室で休んでいると扉がノックされた。

 

 私が扉を開くとそこにはセリーナがいた。彼女はメイド服のままサッカーボールを持っている。

 

 私はこの学園に入学してから5カ月経つが、セリーナがメイド服以外の服を着ているのを見たことがない。セリーナはたとえサッカー中であってもメイド服を着用しているのだ。

 

 

 

 そんな可愛いけど変わり者なセリーナが、私の部屋を訪ねてきた理由は既にわかっている。

 

「マリアちゃん。今から私と秘密特訓しようよ!」

 

 セリーナは目を爛々と輝かせて私を自主練に誘う。これで4日連続だ。

 

「…うん。いいよ」

 

 本当はちょっと面倒くさい。

 

 けれど、健気で可愛いセリーナの頼みをあんまり無下に断るのも気が引けるので、つい引き受けてしまう。

 

「私、昨日部屋で素振りをしていたら必殺技を編み出したんだ!!」

 

 セリーナは自慢げに語る。彼女の無駄に大きな声が女子寮の廊下に響き渡った。

 

 普段はあまり自信なさげな態度をしているセリーナだが、覚醒ドリンク飲みだしてからは常にこのテンションなのだ。

 

 

 ………というか、ゴールキーパーの素振りとはいったい何なのだろう。

 

 

「こうね、右手を前にかざして構えるの。するとね、巨大な手が具現化するんだ。名前も付けたんだよ、ゴッドハ…」

 

「うん。わかったわ。…凄いねセリーナ」

 

 …………ついに幻覚まで見え始めちゃったよ、この娘。

 

「えへへ」

 

 私に褒められたセリーナは嬉しそうにはにかむ。こういうところは変わらず可愛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サッカーコートの付近には街灯があり、ナイターほど眩しくはないが充分にサッカーができるくらいには明るい。

 私たちがサッカーコートに到着すると、フェンス越しに先客がいるのが見えた。圭太とアンディ様だ、どうやら二人で自主練習をしていたらしい。

 

 圭太とアンディ様は一度は殴り合いの決闘に発展するまで揉めていた。

 

 圭太は学校をずる休みして山籠もりをしていたので知らないだろうが、私たちのクラスでは決闘がきまってから大騒ぎだったのだ。

 

 そんな二人だが、殴り合いを経てお互いを認め合ったのだろうか、今では一緒にサッカーの自主練習をする仲にまで発展したようだ。

 殴り合って友達になるなんて古いヤンキー漫画かよ―――とツッコミを入れたくなる。

 

 

 アンディ様がボールをドリブルし、そのボールを圭太が奪おうとしている。オフェンスとディフェンスでの1on1の練習のようだ。

 

 

 

 それにしても……。

 

 ボールを取り合うのに必死で、二人の体は激しく密着している。

 

 それに、スポーツをしているためか息遣いも荒く、顔も少し火照っているように見える。

 気のせいだろうか。…いや、気のせいなはずがない!

 

 アンディ様がオフェンスということはアンディ様が攻めで、圭太が受けのようだ。

 私の解釈通りだ!!

 

「デュフフ…」

 

 おっと、よだれが垂れてしまってた。

 

 私は慌ててハンカチでよだれを拭う。

 

 隣では、セリーナが私と同じようにフェンス越しに二人を見ていた。セリーナはどこか淋しそうな表情をしている。

 

「…(うらや)ましいな」

 

 セリーナがポツリとつぶやいた。

 

「そうだよね、(なま)めかしいよね!」

 

 私もセリーナの言葉に賛同する。

 

「え? なま…? 違うよ、羨ましいだよ! …私はケイ君が羨ましいんだ」

 

 (うらや)ましい!? せっかく男が二人でくんずほぐれつしているのに、それが羨ましいだと!?

 普通の女子は、BL(ボーイズラブ)の現場を見ると、近くの壁になりたいと考えるはずだ。

 

 …さてはこの娘、BLの尊さがわかってないな?

 

 

「私は幼いころからアンディ様に仕えてきたの。でも、運動も勉強も、なんでも上手くできてしまうアンディ様にとって私の存在はずっとただのお荷物だったと思うんだ。私は運動もできないし、勉強を頑張ってもアンディ様を超えられない…。

 本当はアンディ様の助けになって、アンディ様が悩んでいる時に力になりたいのにそれができない。だから、アンディ様に認められて、肩を並べて練習をしているケイ君が羨ましい…」

 

 セリーナの淋し気な表情を見ると私まで胸がズキンと痛くなる。

 

 私はセリーナの恋は成熟して欲しいと思っている。このゲームの世界に来る前からずっと思っていたことだ。けれど、アンディ×ケイも捨てがたい。

 

 いったいどうしたら……。

 

 

 

 それでも、私は……。 

 私は…… 腐女子だ!! その信念を貫こう!!

 

 だって、そのために私はわざわざ、この世界に………。

 

 

 ごめんねセリーナ。せめてセリーナにもBLの尊さが伝われば、きっと幸せになれるよ。

 

 

 

 

「…マリアちゃん、鼻血でてるよ?」

 

 セリーナは自分のハンカチをポケットから取り出し心配そうに私の鼻に当てようとする。私は心配無用と言わんばかりにセリーナの伸ばした手を優しく抑えた。

 

「セリーナ、知らないの? 女の子はね、男同士の絡み合いを見ると興奮して鼻血が出るようにできてるんだよ?」

 

 セリーナはポカンとした表情で私を見つめる。

 

 やっぱりまだ、セリーナは腐女子の心得を知らないようだ。大丈夫、これからゆっくり腐っていけばいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 球技大会の当日、どの競技も盛り上がりを見せていたが、サッカー場はひと際にぎやかだった。

 

 私は球技大会にそこまで前のめりではなかったが、それでも大会当日を迎えると楽しみな気持ちが湧いてくる。

 

 サッカーのメンバーが決まってから1週間。私たち五人は放課後に毎日練習をした。そして、夕食後もセリーナが夜の自主練習に誘ってきたのだ。これも毎日だ。

 他のメンバーも各々で自主練習もしていたようだが、結局私もこの一週間はサッカー漬けだった。

 

 ここまで頑張ったのだから勝ちたいという気持ちになる。

 

 けれど、私たちを待ち受けていたのは困難な現実だった。

 

「一回戦の相手は3年A組だな」

 

 カルロス君がトーナメント表を見ながらつぶやく。

 

「いきなり3年生が相手ね…」

 

 対戦相手は1年生から3年生のうちのどれかだ。当然だけれど、学年が上がるにつれて相手の体格が大きくなるので力強くなる。できれば3年生とは対戦をしたくはなかった。

 

 

 けれど、苦虫を噛み潰したような表情をしている私やカルロス君とは対照的に、不敵に笑う男子たちがいた。

 

「ふん、相手は3年生か。俺様たちの相手にしては不足はないな。そうだろ? ケイ」

 

「ああ、そうだなアンディ。俺たち1年生は弱いチームだと思われている。弱いチームが強い奴らをやっつける。勝負事において、こんな楽しいこと他にあるかよ」

 

「ジャイアントキリングというやつだな!?」

 

「ああ、そうさ!!」

 

「「ふはははは!!」」

 

 二人の高笑いがサッカー場に響く。

 

 この二人の自信家な性格を見ているとたまに羨ましくなる。いったいどういう考え方をすれば、あそこまで根拠のない自信を持てるのだろうか。

 

 そしてもう一人、突貫工事の自信家が私たちのチームにはいる。

 

「今日は頑張ろうね、マリアちゃん!! ゴールキーパーの私とディフェンダーのマリアちゃん。私たち二人でゴールを守ろうね、目指すは無失点(クリーンシート)だよ!!」

 

「…うん。そうだね」

 

 結局、ほぼ毎日セリーナと一緒に夜の自主練習を行ったのだが、セリーナが綺麗にシュートをセーブできたことは一度もない。顔面でのセーブは何度もあったが…。

 

 セリーナは今まで私が出会った人の中で、群を抜いて圧倒的に運動神経が悪い。ダントツの1番だ。

 

 

 それともう一つ、覚醒ドリンクなどという怪しいドリンクのせいだろうか、セリーナはたまに必殺技の名前を叫び出すようになった。ゴッドなんとかやマジンがどうとかだ。

 

「マリアちゃん! 実は私、今日の試合に向けて新しい必殺技を考えたの!」

 

 ほらきた、これだ。

 

「今度はね、沢山の手でシュタタタタタン! ドババババーン!ってボールをおさえるんだ! その名も、ムゲン・ザ・ハン…」

 

「そっか。…凄いねセリーナ」

 

「えへへ」

 

 セリーナは学校指定のブレザーを着ずにメイド服を着用しているので、ちょっと変わり者だということをは元々から学園内でも知られている。

 それでも、この大観衆の目前で必殺技の名前を叫びまわるセリーナの姿を想像すると、あまりに可哀想すぎる。セリーナの人生における黒歴史化は確実だ。

 

 

 

「ねえカルロス君。そろそろあのドリンクの効果が切れそうなんだけど、今日の分も貰えるかな?」

 

 セリーナがカルロス君に今日もドリンクをねだる。その姿はまるで中毒… いや、辞めておこう。

 

「あれ? セリーナが覚醒ドリンクを飲み始めてから、今日で何日目だっけ?」

 

「えっと…。たしか8日目だよ」

 

「しまった、8日目か! ごめんなセリーナ、あのドリンクは8日連続で服用すると死よりも恐ろしいことが起きるんだ。だから、今日の分は渡せない」

 

「…死より恐ろしいこと!? カルロス君、あんたセリーナになんてもの飲ませるの!?」

 

 8日連続で服用すると大変だからと言って7日までセーフとは限らない。現にセリーナは幻覚で必殺技が見えてしまっているようだし…。

 

「あのドリンクがないと私、自分に自信が持てないのに!? あ、あれ? だんだんと自信がなくなってきた…」

 

 セリーナが蹲って頭を抱えだす。

 

「セリーナ、大丈夫?」

 

「マリアちゃん…。 どうしよう、ボール… 怖い…」

 

「ええ…」

 

 昨日の自主練種では、アンパン〇ンよろしくボールと頭が入れ替わるのではないかというくらい、何度頭にぶつけても平気そうだったのに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合の順番が迫るにつれて緊張感が増してくる。何もしていないと落ち着かないので一人で軽くストレッチを続けていると、見知らぬ男子生徒が声をかけてきた。

 

「おう、お前は1年B組か?」

 

 その男子生徒はツンツンに立てた金髪に鋭い目つきとでかい鼻、二重あごを備えた大きな顔面をしていた。そして、その大きな顔面を支えるだけの筋肉質なガタイの良さが際立つ。

 

 例えモブキャラであっても、乙女ゲームの登場人物とは思えないような顔つきだった。

 

「おい、どうなんだ?」

 

 別に声を荒げているわけではないが、見た目のせいか高圧的に感じてしまう。

 

「は、はい…。そうです」

 

「そうか、俺は3年A組のアシヅカだ。よろしくな」

 

 3年A組ということはトーナメントの1回戦で当たる相手だ。試合前に脅迫でもしに来たのだろうか…

 

「ところで、1年B組にはケイってやつがいるだろ。どこにいる?」

 

「ケイ君ですか? えっと…」

 

 こんな厳つい男に探されているなんて、圭太はいったいなにをしたのだろうか…。

 

 私が辺りを見渡して圭太を探していると、圭太の方から私たちを見つけて駆け寄ってきた。

 

「そんなとこにいたのかマリア。それと…、アシヅカ先輩じゃないですか!」

 

 圭太は厳つい顔をしたアシヅカという男に、嬉しそうに近づく。

 

「おう、ケイ。1回戦で当たるから少し様子を見に来たぜ」

 

「試合前に会いに来るなんて賄賂でも渡すつもりですか? 先に言っておきますけど、俺に賄賂は通用しませんよ」

 

「フンッ! 勝てる相手にわざわざ賄賂なんて渡すかよ」

 

 

 

 …あれ? なんだか楽しそうだ。

 

 

 

 どうやら、あの3年生の厳つい男子生徒と圭太は仲が良いようだ。

 

 

 

 

 …おかしい。

 

 圭太は乙女ゲームの主人公に転生しているのだ。普通に生活していれば自然と乙女ゲームの主人公と同じような友好関係が出来上がるはずだ。

 それなのに、あんな昭和のスポコン漫画に出てくるような、悪そうな先輩と関わりを持つなんて…。

 

 

 楽しそうに会話している二人のもとに別の男子生徒が近づいてきた。こんどは丸坊主で太い眉と全身から漂う男臭が特徴的な、これまたガタイの良い男だ。

 

 このモブキャラは知っている。ラファエル様ルートにでてくる嫌な先輩キャラだ。このモブキャラの人相の悪さから、今度こそ揉め事になるのではないかとつい身構えてしまう。

 

「アシヅカさんにケイじゃねえか!」

 

「エチゴ先輩、チッす!」

 

「おう!ケイ。 この後、お前の試合だろ? 俺が激を飛ばしに来てやったぜ。ケイ、お前は死ぬ気で勝てよ!」

 

「うす!」

 

「そしてアシヅカさん。相手は1年生なんだから、あんまり本気でやると可哀そうですよ」

 

「なに!? さてはエチゴ、てめぇケイのクラスに賭けやがったな!! どうして俺のクラスに賭けねえんだ!?」

 

「だって、アシヅカさんのクラスはオッズが低いんですよ」

 

「エチゴ先輩、任せてください! 俺が勝ってまたエチゴ先輩を金持ちにしてみせます! その代わり勝ったら俺にも分け前ください!」

 

「なにぃ!?」

 

 

 …あれれ? なんだか楽しそうだ。

 

 なんで!?

 

 

 普通に生活をしていれば、乙女ゲームの主人公なのだからイケメンたちが寄ってくるはずだ!

 それなのに、圭太の周りに集まったのはイケメンとは正反対の男どもばかりだ!!

 

 いったいどこの選択肢を間違えたら、こんな男臭い連中が集まってしまうのだろうか?

 なんのイベントを発生させたら、こんな乙女ゲームとは思えない絵面になるのだろうか?

 

 …いや、予想はつく。

 

 だいたい、この圭太の意味不明な行動の根源にあるものはテニスだ。

 

「ねえ、ケイ君。 その人たちって…」

 

「ああ、テニス部の先輩たちだ」

 

 

 

 やっぱりか、このテニスバカ!!

 

 




次回、キックオフ!
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