乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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 皆さま待望のテニスの話です。
 主人公の価値観に共感はしなくて大丈夫です。そういつ奴だと思っていただければ。


好感度が爆上がりしているだろう

 "テニスって楽しそうだよね"

 

 この言葉には心から賛同する。テニスは楽しい。

 12年間テニスに熱中し続けてきた俺が断言しよう。

 

 皆にもぜひお勧めする、テニスは楽しい。

 

 

 

 ところで、中学に入学してすぐこんな言葉をよく聞いた。

 

「俺さぁ、親に運動部には入っとけって言われてるんだよねぇ。でも野球とかサッカーって"ガチ"じゃん。 あ、でもテニスって "ガチ" じゃないから "(らく)そう" だよね」

 

 もし俺が部長になったら、こういうやつらは血ヘド吐くまで走り込ませよう。血便でるまで素振りをさせよう。そう誓ったのだった。

 

 見事に有言実行をした中学3年生の俺は、1年の入部希望者を集めて、その数が半分になるまで毎日走り込みと素振りだけをさせた。

 その結果、一度は部員投票で部長になったはずの俺は再度行われた緊急部員投票で部長をクビになり、後輩からは"独裁者"や"鬼軍曹"と陰口をたたかれたのだった。

 

 当時を振り返ると少しやりすぎだったなと反省している。

 

 ただ、これだけは言わせてほしい。

 

 

 どんなスポーツでも練習しなければ楽だし、上を目指さなければ "ガチ" ではない。

 逆に言うと、本気で練習すればしんどいし、上を目指せば漏れなく "ガチ" だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じテニス部の1年生であるヤニクから、俺はこの部活動の説明を受けた。

 

 『ウィンブル学園テニス部』は男女混合で、部員は合わせて20人程度らしい。人数の割にはテニスコートは10面も用意されており部室等まである。

 まさに王族貴族御用達の金持ち学校ならではの設備だ。

 

 練習は週4日で強制参加ではない。そのため、勉強や友達と遊ぶ時間も確保しやすく、他の部活動との兼部も許されている。

 

 早い話が、部活動というよりは大学のサークル活動に近いものだった。

 

 

 

 

 

 

 俺は借り物のテニスシューズを履き、ラケットを握って芝のコートに向かう。各コートでは球出しやラリーなど様々な練習をしていた。

 

 俺は並んでいるコート全部に聞こえるくらい大きな声であいさつをした。

 

「今日から入部しました!! 1年のケイタと申します!! 一生懸命に頑張りますので、よろしくお願いします!!」

 

 

 部員たちは俺の挨拶に驚いたようだったが、少しして明るい返事がいくつも返ってきた。その後早速、俺は練習に参加させてもらうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 休憩時間、俺はテニス部の先輩や同級生に囲まれていた。

 

「ケイタ君テニス上手だね! ね、私もケイ君って呼んでいい?」

 

「はい!ぜひお願いします!」

 

「ほんと上手いよな! テニスは何年くらいやってたんだ?」

 

「12年っス!」

 

「12年って、お前今高校1年生だろ? 3歳からやってたのか!?」

 

「あ、いえ、冗談っス!」

 

「お前面白いな!」

 

 少し練習をしてわかったが、どうやら俺はこの部活の中ではかなりレベルが高いらしい。

 

 正直、ブランクが2カ月間あるうえラケットが部活のレンタル品だったので実力は半分くらいしか出せていないつもりだ。

 

 それでも、ここまでちやほやされるとつい嬉しくなる。

 

「ストロークの回転凄いよね。 こう、ギュンッって感じで」

 

「そっすか! ありがとうございます」

 

「ケイ君なら、ラファエル様ともいい試合出来るかもだね」

 

 

 

 あまりにも皆が褒めてくれるので俺は天狗になりかけていた。すると、コートの中から大きな声が聞こえてきた。

 

「おい!!新入り!! コート入れよ! 俺が球出ししてやるよ!」

 

 コートには丸坊主で太い眉をしたガタイの良い部員が立っていた。男は鋭い目つきでにらみつけてくる。

 

 その男を見て、周りにいた部員がひそひそ話し出す。

 

「うわ、エチゴさんだ」

 

「エチゴか、あいつまた新人いびりをする気か」

 

 近くにいたヤニクが俺にコソコソと耳打ちをする。

 

「ケイ、気を付けろ。あの人はエチゴさんっていう、すごい怖い先輩なんだ」

 

 いきなりのことで驚いている俺に対しエチゴ先輩は叫ぶ。

 

「おい、どうした新入り! 聞こえないのか!!」

 

「いえ、すぐに行きます! ご指導お願いします!!」

 

「よし! まずは球出し100球からだッ!!」

 

 

 

 

 エチゴ先輩の球出しは強烈で、ダブルスコートの端から端までかなりの勢いでボールが飛んできた。

 先ほどまでの球出しでは2か月間のブランクに対する技術面の心配ばかりしていたが、エチゴ先輩のハードな球出しを受けると、このゲーム世界での自分のフィジカルの弱さが目立った。

 

 1球ごとにスプリットステップを踏み、全力ダッシュ、からの重心を下げラケットを振りぬく。

 

 また、スプリットステップを踏んで全力ダッシュ…

 

 元の世界の肉体で出来ていたことが、転生した肉体ではできなくなっていた。

 

 これでも、転生してからも筋トレや体幹トレーニングはし続けてきたのだが、やはり元の世界の肉体と比べるとまだまだ鍛え足りないようだ。

 

 

 

 

 70球、80球と何とか食らいつく。

 

「…ぜぇ…ぜぇ」

 

 段々と息が上がってきた。

 

「オラオラァ! ハァ… そんなもんかぁ!」

 

 エチゴ先輩も少し息が上がっている。

 

 だが、エチゴ先輩はまだ球出しを止めようとしなかった。球出しの勢いは強く、これだけの球を出し続けられるエチゴ先輩もなかなかに鍛えているようだ。

 

 

 

 

 エチゴ先輩の球出しが90球目を迎えようとしていた、ちょうどその時―――――― 一人の男がコートに入ってきた。

 

「何をやってるんだ、エチゴ!」

 

 その男は長身で長い金髪を後ろで括っている。顔は…うわッ!!―――と驚くほどのイケメンだった。

 執事のノバクもかなりイケメンだったが、この男はさらに上かもしれない。同じコートに立つエチゴ先輩と比べるとその差は歴然だ。

 

 俺の後ろで練習を見ていた部員たちがまたひそひそと話し出す。

 

「キャー、ラファエル様よ」

「かっこいい」

「よかった、これで新人いびりが終わるよ」

「エチゴにガツンと言って欲しいな」

 

 どうやらあの金髪ロン毛がこの国の第一王子、ラファエル先輩のようだ。

 

 エチゴ先輩はきまりが悪いらしく、ぶっきらぼうに呟く。

 

「なんだよラファエル様。俺はただ新人が来たから球出しをしてやってただけじゃねぇか」

 

「君がやっているのは練習ではなく新人いびりだろう。そういうことは止めろと前にも言わなかったか?」

 

「チッ」

 

 エチゴ先輩は舌打ちコートから立ち去ろうとする。

 

 

 

 その様子を横目で見ながら、ラファエル先輩は今度は俺に近づいてきた。

 

「大丈夫だったかい? 君はえっと、新入部員の方かな?」

 

「はい! 1年のケイタと申します ハァ… 皆さんにはケイと呼んでもらってます!」

 

 練習が中断されたことで少し呼吸が整ってきた。

 

「そうか、ケイ君か。私は2年のラファエルだ。よろしくね」

 

 ラファエル先輩は甘い顔でほほ笑む。

 

 先ほどまでの怒った顔ですらイケメンだったのに、ほほ笑むとさらにイケメン度が増す。凄いな、俺が女だったら一発で惚れてただろう。俺が女だったらだが………。

 

「よろしくお願いします」

 

 俺はラファエル先輩の挨拶を表面上で返す。

 

 

 

 

 ……そんなことよりだ。

 

「ちょっと、エチゴ先輩! まだ残ってますよ!」

 

 俺はコートから去ろうとするエチゴ先輩の後姿を大声で呼び止めた。

 

 俺の声に驚いたのか、エチゴ先輩の足がピタリと止まった。そのまま振り向いてこちらを睨んでくる。

 

「残ってる? 何がだ!?」

 

「球出しは100球でしたよね、後10球残ってます! お願いします!!」

 

 俺はラケットを強く握りセットポジションをとる。そして、目に力を入れてエチゴ先輩を見る。

 

「チッ!根性あるじゃねぇか」

 

 エチゴ先輩は舌打ちしながらコートに戻り籠からボールを取る。練習再開だ!

 

「ラファエル先輩、すみませんが練習を続けるのでコートから出てください」

 

「え? 練習? さっきのは新人いびりでは…」

 

 ラファエル先輩は俺の方を見てポカンとした表情を浮かべた。

 

 

 

 

 練習が少し中断したとはいえ筋肉疲労はすぐには治らない。結局、残りの10球は殆どボールを追いかけるだけで終わってしまった。

 今回の練習で、転生したこの体ではフィジカルトレーニングが大きな課題だと改めて思い知った。

 

 俺は肩で息をしながら球出ししてくれたエチゴ先輩に向き合う。

 

「エチゴ先輩、ありがとうございました!」

 

「おう、お前良い根性してるじゃねぇか!」

 

「あざっす!」

 

「後は球ひろ…」

 

「球拾いは自分がやります!」

 

「……おう、当たり前だ! さっさとやれ!」

 

「ッうす」

 

 俺はコート周りに散らばったボールを集めだす。

 

「ところでエチゴ先輩、球拾いはすぐ終わらせますんで、終わったら一緒に飯行きませんか!」

 

 

 

 

 ここのテニス部の人たちは新人の俺を受け入れてくれて、楽しい雰囲気を共有してくれた。それはとてもありがたいことだった。

 正直、ちやほやされた時は自分の顔がゆるゆるに緩むのを自覚した。少し調子に乗っちゃうくらい嬉しかった。

 

 

 ……だが、俺が求めている楽しさはそれじゃない。

 

 

 俺が求めている楽しさは "ガチ" な楽しさだ。そんな俺にとってはエチゴ先輩の厳しさの方がありがたかったりする。

 

 

 

 全身の疲労が心地よい。2カ月ぶりのテニスは最高だった。

 この世界でもテニスができるのなら、ゲーム攻略は急がなくていいかなとさえ思えてしまう。

 

 せっせと球拾いをする俺の姿を見て、ラファエル先輩がポツリとつぶやくのが聞こえた。

 

「…ふふっ おもしろい男」

 

 おもしろい? 何がだ?

 

 俺は必死に練習をしただけだったはずだ。ただ、後半はボールを追うことしかできなかった。そんな俺の情けない姿がおもしろかったのだろうか。

 

 

 

 …………もしかして、俺今バカにされた!?

 

 

 

 

 

 

 

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 圭太がテニス部に所属したということは、ラファエル様ルートに入ったということだ。

 

 ラファエル様ルートはこの乙女ゲームの初心者向け定番ルートにあたる。

 

 

 

 第一王子であるラファエル様は主人公(ヒロイン)のことを『面白い女』と気に入り、色々と贔屓にしてくれるのだ。

 

 彼との出会いは、主人公(ヒロイン)がテニス部の嫌な先輩に新人いびりをされたところを庇ってくれるというものだ。怖くて嫌味な先輩への嫌悪感が、そのまま庇ってくれたラファエル様への好感度につながる。

 きっと圭太もラファエル様への好感度が爆上がりしているだろう。今頃はラファエル様の甘い呟きにドキドキしているに違いない。

 

 

 マリアは、今ごろ圭太がラファエル様を好きになっているだろうと確信していた。

 




次回は魔法の話を予定しています。
お楽しみに!
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