乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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サッカー編 第5話


攻守コンプリートだ!!

 後半戦開始直後、カルロス君が相手チームから早々にボールを奪う。さすがはサッカー部だ。

 

 またカルロス君がドリブルでボールを運ぼうとするのだが、しかし、先ほどまでと様子が違う。

 

 前半戦では、圭太とアンディ様は左右に散らばって走っていたのだが、今度は二人揃ってドリブルしているカルロス君を追いかけだした。

 

「ヘイ! カルロス、ヘイ!!」

 

「俺様によこせ、カルロス!」

 

「ヘイやよこせと言われても…。もっと散らばってくれないとパスを出せないだろ!」

 

 二人から逃げるようにドリブルで前進していたカルロス君だったが、ついに追いつかれボールを奪われてしまった。…味方に。

 

 さすがのサッカー部も味方からボールを奪われないための練習はしてこなかったようだ。

 

「ふん、俺様のドリブルテクニックを見せてやる!」

 

「おいアンディ、それは俺が奪ったボールだぞ!」

 

 圭太とアンディ様は互いに肩をぶつけてチャージを繰り返しながら、相手陣地のゴールに近づいていく。

 

 とても味方同士の掛け合いとは思えない。

 

 

 

 

 味方が固まっているものだから、当然、相手のディフェンダーたちも一か所に集まりだす。

 

 しかし、圭太とアンディ様は相手のディフェンダーが集まっているところになんの躊躇もなく突撃しだした。

 ゴールとの距離は近いが、ディフェンダーが二人とゴールキーパーにも完全にマークされている。

 

「おいどけケイ。邪魔だぞ!」

 

「いや、どう考えても… お前が邪魔だアンディ!!」

 

 圭太がアンディ様のユニフォームの後ろの襟を掴んで引っぱる。すると、ユニフォームの生地がビリビリッと音を立て綺麗に縦に引き裂けた。

 

 後ろにいる私からはアンディ様の綺麗な背中が丸見えになる。なんとあられもない姿だろうか。

 

 アンディ様は「ぬうぉ!」と叫んで体勢を崩した。

 

 

 …またやってるよ味方同士で。

 

 

「よくも俺様のユニフォームを… 仕返しだ!!」

 

 今度はアンディ様が圭太のユニフォームの襟を両手で掴んで力いっぱい引き裂いた。すると、圭太のユニフォームは無残に引き裂かれ布切れの破片となり風に舞う。

 

 圭太は上半身が素っ裸になった。

 

 

 …いや、そうはならないでしょ!?

 

 

 破けて舞ったユニフォームの破片が相手ディフェンダーの男子生徒の目に当たったらしく、男子生徒は「うわわああああ! 目が、目がああああ!!」と叫びながら転げてのたうち回った。

 

「てめえ、アンディ!!」

 

 今度はまた圭太がアンディ様のユニフォームの服を掴もうとする。しかし、圭太はのたうち回るディフェンダーの男子生徒に躓き前のめりで倒れた。

 倒れる刹那、圭太は咄嗟にアンディ様のユニフォームのズボンを掴んだようだ。倒れながらアンディ様のパンツごとずりおろしてしまう。

 

 後ろにいる私からはアンディ様の綺麗なお尻が無修正で閲覧できた。後ろからお尻が見えるということは、きっと前にいる人からは……。

 

 

 「キャー――」という悲鳴を上げながら、相手ゴールキーパーの女子生徒が目を覆いうずくまる。

 

 

 

「む! なんか知らないがチャンスだ!!」

 

 どうやら、自分のパンツがずり落ちていることに気づいていないらしいアンディ様はゴールキーパーが目を覆った隙にシュートをしようとする。

 

 しかし、シュートしようと振り上げた足にパンツがひっかかりアンディ様は後ろに転倒する。転倒する刹那、ちょうど起き上がってきた圭太のズボンを掴んでそのままずりおろした。

 

 今度は圭太のお尻が公開される。

 

 それを見た相手ディフェンダーの女子生徒は「いやあああああ!」と叫び目を覆う。

 

 

 

「おお! なんか知らないがチャンスだ!」

 

 つい先ほどまで倒れていた圭太は、自分やアンディ様の状況―――主に下半身の状況を理解していないらしい。そのままシュートモーションに入る。

 

 しかし、これまたパンツがひっかかって圭太はまたもすっ転ぶ。

 

 ちょうど、先に倒れていたアンディ様と頭がぶつかったらしく、遠くにいる私にも聞こえるくらい大きな「ゴン!」という鈍い音が響いた。

 

「痛てえええ!!」

 

「ぬおおおおおお!!」

 

 パンツがずり落ちた男二人が頭をおさえながら悶絶して転げまわる。圭太に至っては、ほぼ全裸だ。その周りには、目を覆い悲鳴を上げてうずくまる女子生徒とのたうち回る男子生徒がいる。

 

 

 BL好きの私からしてもこの光景は目に余る。なんとも見苦しい地獄絵図だ。

 

 

 ちなみにだが、サッカー場のギャラリーたちはフル珍の二人に対して大盛り上がりのお祭り騒ぎだった。

 

 

 現世に生み出された地獄のような状況のなか、ポツンと転がっているサッカーボールをカルロス君が相手ゴールに蹴り入れて得点する。

 

 これで、スコアは2-1で逆転だ。

 

 

 

 

 一部始終を見ていたアシヅカが審判に怒鳴る。

 

「おい! 相手選手がフル珍じゃねえか!? あれはさすがに何かしらの反則だろ!!」

 

 しかし、審判の女子生徒は首を横に振る。

 

「イケメンに限り、フル珍はルール内です」

 

「嘘つけ!!!」

 

 

 

 

 

 圭太とアンディ様は起き上がりあたりを見渡す。そして、相手ゴールにサッカーボールが収まっているのを見つけたようだ。

 

 二人は私とセリーナの方見てぐっと親指を上に立てる。満面の笑顔だ。

 

「…いいから二人ともパンツ履けぇ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後半戦も折り返しだ。この時間帯は完全に相手のペースだった。

 

 なんども相手のシュートが私たちのチームのゴールをかすめた。カルロス君も守備に加わり私と二人でディフェンスをしているのだけれど、なかなか相手の勢いがとめられない。

 

 私たちのチームが逆転をしたことで、かえって相手チームを勢いづけてしまったのだろうか。

 

 特に、アシヅカが持ち味のパワーを生かしてどんどんと攻めてくる。相手チームのエースはやはりアシヅカのようだ。このままだとアシヅカに点を取られるのも時間の問題だ。

 

 

 

 ボールがフィールド外に出た隙に、圭太に声をかけてみる。

 

「ケイ君、ディフェンスの厚みが足りないからディフェンダーやってくれない?」

 

「ディフェンダー? この天才フォワードに向かってディフェンダーに転向しろって言ってるのか?」

 

 いったいどこからそんな自信が…。

 

「お願い! 私じゃあのアシヅカって人を止められないの。代わりにマークして」

 

 私がお願いしても、圭太はなぜか渋る。

 

「しかしなあ…。 やっぱり俺は攻めたいんだよなあ」

 

 どうやら圭太はサッカーの得点をする喜びに酔っているようだ。これでは、こちらも譲歩をしないと説得が難しい。

 

「別に、ディフェンダーだからって攻めちゃダメなわけじゃないよ。守備さえ完璧にしてくれたら攻撃に参加してもいいからさ」

 

「それはつまり…、俺に攻撃と守備をどちらも完璧にこなせと言ってるんだな?」

 

 言っていない。

 

「わかった。マリアがそこまで言うならやってやる! 攻守コンプリートだ!!」

 

 別にそこまで言っていない。

 

 攻守コンプリートというものは、もっと視野の広い人が目指すべきだろう。圭太はその真逆なのだ…。

 

 

 

 

 

 スローインで投げ込まれたボールをアシヅカが足元に収める。彼の前には圭太が立ちはだかった。

 

「ケイ、お前に俺が止められるか?」

 

「止めてみせますよ、アシヅカ先輩!」

 

 二人は体をぶつけあいながら必死にボールを奪い合う。さすがは圭太だ、あの巨体なアシヅカにパワー負けしていない。

 

 

 

 しかし、二人の男が汗を垂らしながら体を密着させているというのに、まったく興奮できない。私の腐女子センサーがピクリとも反応しない。

 

 

 やはり顔だな。BLはイケメンに限る。

 

 

 アシヅカには申し訳ないが、ブサイクな卑怯者が相手だと、男同士の密着もBL足りえないのだ。

 

 

 

 私が邪念だらけで二人のデュエルを眺めていると、ついに攻防に進展があった。しびれを切らしたアシヅカが強引にシュートを打ったのだ。

 

 少し無理な体勢から打ったシュートなので、普通ならそこまでの勢いはつかない。

 

 けれど、アシヅカはの打ったシュートは物凄い勢いでゴールに飛んでいく。多少の無茶なシュートもパワーで押し込めてしまうようだ。

 

 ―――するとその直後、高速でうねるサッカーボールに対し、圭太が超人的な反射速度で、咄嗟に足を伸ばした。圭太のつま先が微かにボールにかすりシュートの軌道が変わる。

 

 

 その結果、破壊的な勢いのサッカーボールが、ゴールキーパーのセリーナの顔面に向かって飛んで行った。

 

 

「ふぎゃ!!!」

 

 

 可愛い女の子には似つかわしくない、取り繕いのない悲鳴―――というか鳴き声が聞こえた。

 セリーナが顔面でセーブしたときの鳴き声だ。ここ1週間で何度も聞いた。

 

 

 セリーナは頭を後方に弾き飛ばされ、その勢いで尻餅をつく。セリーナの顔面でバゴンッと小気味良い音を立てたサッカーボールは、そのままフィールドの外へと飛んでいった。

 

 

 ………ナ、ナイスセーブ。

 

 

「…じゃなくて、セリーナ大丈夫!?」

 

 セリーナの顔面セーブは練習中にも見飽きるほどに見てきた。そのため、心配するのが遅れてしまった。

 

 

 

 セリーナのもとに駆け寄ってボールをぶつけられた顔を覗き見る。

 

 セリーナは顔の真ん中を真っ赤に腫らして、鼻からツーと鼻血が垂れている。目は涙目になっているがギリギリ泣いていない。

 

 セリーナの必死に泣かないようにしている姿が痛ましく、私はついアシヅカに叫んでしまった。

 

「こんな可愛い女の子の顔面にボールをぶつけるなんて、この人でなし!!」

 

 わたしに怒鳴られたアシヅカは少しうろたえてあたりを見渡す。この試合を見ていた観客たちが皆アシヅカに冷たい視線を送りだしたのだ。

 

「お、俺が狙ったわけじゃねえよ! ケイの足に当たって軌道が変わったんだ…」

 

 狙ったわけではないというのは事実だろう。別にアシヅカは悪くない。

 

 …けれど、そんな事実はどうでもいい。

 

 私はアシヅカにダイブという卑怯な技をされた分、その憂さ晴らしをすることにした。

 

「そんなの関係ないよ、この人でなし!」

 

 セリーナのもとに駆け寄ってきたアンディ様は、セリーナが鼻血を出しているのを見て表情をゆがめる。

 

「貴様、アシヅカといったな。よくも俺の大事な従者に鼻血を出させたな…!! 絶対に許さんぞ!!」

 

 これも立派な言いがかりだ。

 

 

 

 …というか、あんたも練習中に鼻血出させてただろ!!

 

 

 

 ―――と思ったが言葉にはしない。その代わりアシヅカに文句を言おう。そこに筋や道理はない、ムカついたからけなすのだ。

 

「そうだそうだ。許さないぞ、この人でなし!」

 

 アシヅカは周りの観客たちの視線にたじろいでいる。

 

 …ふう。すっきりした!

 

 

 

 

 

 

 わたしが憂さ晴らしをしていると、審判がセリーナのもとに近づいてきた。

 

「君、鼻血がでてるね。この試合は棄権した方がいいんじゃないかな?」

 

 「棄権」という言葉を聞いてドキッとする。どうやら圭太やアンディ様も同じようだ。

 

 いくらセリーナが運動音痴だからといって、いてもいなくても同じということはない。

 

 なぜなら彼女はゴールキーパーなのだ。ゴールキーパーが棄権した状態で一体どうやってゴールを守れというのだろう。

 

 セリーナには棄権をされたら困る。…けれど、鼻血を出しているセリーナにこのまま試合を続けろというのも酷だ。

 

 セリーナは審判に棄権を勧められて悩んでいるようだ。目が泳いでいる。

 

 

 

 

 なんて声をかけようか私が迷っていると、アンディ様がポツリと呟いた。

 

「棄権するな。出ろ、セリーナ」

 

 傍から聞けば冷たく放たれた言葉に感じる。けれど、その言葉を聞いたセリーナは顔を輝かせる。

 

「はい! れます! らいじょうぶれす!!」

 

 セリーナは審判に向かって、強い意志を宿した瞳で訴える。

 

「でも…。その鼻血だと試合続行はできないよ。球技大会で怪我人を出場させるわけにはいかないし…」

 

 この試合はたかが球技大会だ。本来は怪我をしてまで出場するものではない。けれど、セリーナにとっては、これはもうただの球技大会ではなくなってしまったのだ。

 

 

 

 アンディ様に「出ろ」と言われた。

 

 それはつまり、セリーナはアンディ様に必要とされたのだ。

 

 

 

 セリーナはアンディ様に必要とされているのに引き下がることはない。決してない。

 

「ら… 大丈夫です! 怪我してません!」

 

 セリーナは鼻血を出しながら強く言い放つ。どう見ても嘘だ。

 

 

 セリーナ…

 

 

「でも、その鼻血…」

 

「これは、その、えっと………。 そう、興奮しただけです!」

 

「興奮?」

 

「えっと、その………。 お、男の人同士の絡み合いを見て興奮しました!」

 

 

 セリーナ……!?

 

 

 この娘は一体、急に何を言い出すのだろうか。男の人同士の絡み合いを見て鼻血を出すなんて、そんなこと……。

 

 あ、私か。 数日前に私が教えたのだった。

 

 

 

 セリーナの声はフィールドの外にも聞こえてしまったようで、それを聞いた観客たちがざわつきだす。

 

 

「うそでしょ。あのセリーナちゃんが男同士で…」

「まさか、セリーナちゃんは腐ってたの?」

「デュフフ、同士ですわ…」

 

 

 続けてセリーナは、圭太とアシヅカを指さす。

 

「あの二人が、その、えっと、そう! (なま)めかしかったです!!」

 

 

 セ、セリーナ……ッ!?

 

 

 セリーナの透き通った大声は、また周りの観客たちをざわつかせた。

 

「うそ!あんな不細工な男に対しても興奮するの?」

「守備範囲、広すぎるよ…」

「あんな男でも… 同士ではなく師匠ですわ…」

 

 

 

 セリーナの発言は観客をざわつかせるだけでなく、審判の表情も引きつらせていた。セリーナは力強い瞳で審判にとどめを刺す。

 

「この鼻血は怪我じゃないので、試合にはでます!」

 

「…そ、そういうことなら、棄権はしないということで」

 

 

 

 審判が去った後、セリーナは私に向かって無垢な笑みを浮かべる。

 

「えへへ、やったよマリアちゃん。マリアちゃんが教えてくれたことで乗り切れたよ!」

 

「え… ああ、うん」

 

 

 セリーナ。なんかごめんね。

 

 

「それに、さっき観客の人が私の守備範囲が広いってほめてくれてたんだ! 嬉しいね」

 

 

 ……たぶんそれ、意味が違うよ。 

 




サッカー編 第5話
だんだんサッカー味がなくなってきました。
次回、決着予定!
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