乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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女子テニス編 第2話!


俺たちで最強の女子テニスプレイヤーになろう!

「部長、テニス辞めちゃうんですか!?」

 

 大学の学部棟、その廊下に『俺』の声が響いた。

 

 この『俺』というのは夢の中での俺のことだ。

 

 乙女ゲームに転生してからの俺は、転生しなかったらきっとこんな生活を送っていただろう―――という『俺』の夢を頻繁に見ていた。

 

 夢の中の『俺』は大学3年生の冬を迎えていた。

 

 

 

 

 叫んだ『俺』に大学テニス部の部長は少しだけ淋し気に笑う。

 

「ああ。この春からは俺も新入社員だからな。営業マンとしての第二の人生が始まるってわけだ」

 

「そ、そんな…」

 

「それに、今の部長はお前だろ?」

 

 テニス部の部長―――いや、元部長は『俺』の肩をバシバシと叩く。

 

「でも…。せっかくテニスがあんなに上手いのに、もったいないですよ!」

 

 『俺』にとって1学年上でチームをまとめ上げていた元部長は憧れの存在に近かった。『俺』と同じくらいテニスに夢中で、テニスへの向き合い方には尊敬の念を抱くほどだった。

 

「ありがとな、ケイにそう言ってもらえると自信がつく。けど新生活を始めるのにいきなりテニスをしながらってのは大変だろ? だからテニスは大学までだ。

 もちろん生活が落ち着いたら部活にも顔をだすつもりだから、それまでしっかりやれよ新部長!」

 

 『俺』は元部長の(げき)に「はい!」と力強く返事をする。

 

 けれど、その返事とは裏腹に『俺』の心には寂しさがこみあげていた。

 

 

 

 この感情を味わうのは今回が初めてではない。

 

 中学、高校そして大学とテニス部に所属していた『俺』は今までに何度もこの寂しさを経験していた。

 全国大会やプロの舞台を目指して切磋琢磨してきた仲間たち、競い合ってきた他校のライバルたち。彼らがテニスを辞めるのを『俺』は何度も見送ってきたのだ。

 

 彼らは別に挫折をしてテニスが嫌になったわけではない。ただ、人生の次のステージに向かって進んでいるだけだ。

 他のことに興味を持ったり、テニスよりも優先するべきものができた。ただそれだけなのだ。

 

 

 これは決してテニスに限った話ではない。

 

 子供の頃、日が暮れるまでずっとサッカーボールを追いかけていた少年少女は会社員になってもサッカーを続けているだろうか。甲子園を目指していた野球バカの彼らは、おじいさんになってもバットを振り続けているだろうか。

 子供の頃スポーツに夢中でのめり込んでいた人たちも、大人になるにつれて殆どの人はやめてしまう。『俺』は今まで何人もそういう人たちを見送ってきた。

 

 

 

 

 

 それから、元部長とは他愛のない話をして別れた。『俺』はふと振り返って元部長の小さくなる背中を見つめる。

 

 テニスを辞めるのは元部長で、見送っているのは『俺』だ。

 

 けれども、『俺』はまるで自分が置いていかれたような気持ちになる。テニスを本気で続けている自分だけが一人、大人になれずに立ち止まっているような感覚だ。

 

 この寂しさはきっと、テニスを続けている限り降り積もりるものなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると俺はいつもの2段ベッドの下の階にいた。

 

 「今日も練習だってのに朝からテンション下がったな……」

 

 俺は薄めの毛布をどけて、のそりと転がるようにベッドから降りた。

 

 

 

 

 

 

********************

 

 

 

 

 

 

 アシヅカ先輩から託されたテニスラケットを背負いテニスコートに向かう。

 

 アシヅカ先輩はテニスラケットを手放した。それはつまり、彼も夢で見た元部長と同じように部活動を引退するだけでなく、テニス自体を辞めるつもりなのだろう。

 

「くよくよしてても仕方ないよな。俺はアシヅカ先輩に託されたんだ、その分練習を頑張るしかない!」

 

 男子の対外試合が昨日終わったことで自然と気が緩んでしまう。けれど、二週間後には女子の対外試合が残ってるのだ。

 応援を頑張るのはもちろん、自分たちの出番が終わったからといって部内にゆるい空気を持ち込むわけにはいかない。

 

 テニスコートに着いた俺は気合を入れなおすことにした。

 

「女子部員に負けないくらいテニスに打ち込むぜ!」

 

「いい気合ねケイ。その意気よ!」

 

 振り返ると、まばゆい金髪縦ロールを引っさげたお蝶先輩が立っていた。

 

「あなたには期待してるわ」

 

「任せてください、俺のやる気でテニス部の空気を引き締めてみせます! もちろん女子の対外試合は全力で応援してますね!」

 

 お蝶先輩は2年生なので引退はしない。けれども、女子の対外試合に向けて誰よりも熱心に練習していた。そんなお蝶先輩の役に少しでも立てたら―――。

 

「応援? 何を言っているの? 二週間後の対外試合、あなたには女子テニス部員としてダブルスにでてもらうわ」

 

「…………………………え? 女子テニスの試合に?? 俺が??」

 

「団体戦の人数が足りないから出場するよう約束したこと、もうお忘れになって?」

 

 約束したかな?

 

 ……したかも。

 

 …………なんかしたような気がする。

 

 

「でも俺、男ですよ? 女子テニスの試合なんて出られるわけ……」

 

「そのままの恰好で出られるわけないでしょう。きちんと相応しい格好をなさい。この対外試合だけは絶対に負けるわけにはいかないの、よくって?」

 

「相応しい格好って………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノバえも~ん! 助けてよ~~!」

 

 寮の部屋に帰った俺は早速ノバクに泣きついた。

 

「…何ですかいきなり。またアンディ様に決闘でも申し込まれましたか? それともまた卓球ですか?」

 

「いや、今回はそうじゃないんだ」

 

「と言いますと?」

 

「俺に…  女装の仕方を教えてくれ!!」

 

 

 

 ついに頭がおかしくなりましたか主君―――と言いたげなノバクに対し、俺はこれまでの経緯を説明した。

 そもそもノバクは、お蝶先輩と女子テニスの試合に出る約束をした場にいたのだ。おかげで俺の言いたいことはすぐに伝わった。

 

「それで主君は女装をして、女子テニスの人数合わせで試合に出ると」

 

「ああそうだ」

 

「おっしゃることはわかりましたが…。それは人として何か大切なものを失いませんか?」

 

「しょ、しょうがないだろ!? 男の俺が女子テニスに出ること自体ルール違反なんだ。だからせめて女装して少しでも女子に近づかないと…」

 

「誰に向けた誠実さなんですかそれは…」

 

 

 

 

 以前女子寮に忍び込んだときの女装は自分で言うのもなんだがかなりひどいものだった。化粧をしただけで”男”が丸出しだったのだ。

 試合まで残り二週間、この間になんとしても俺は女装のレベルを上げなければならない。

 

「あと二週間で女装を完成させるぞ! 俺たちで最強の女子テニスプレイヤーになろう!」

 

「主君はどこまでいっても女装テニスプレイヤーにしかなれませんよ。………ところで今、『俺たち』と言いましたか?」

 

「あれ? 説明してなかったっけ? ノバクにも女装して試合に出てもらうぞ。俺とペアでダブルスの試合だ」

 

「………は?」

 

 テニス部員は20人程度、そのうち女子部員は約半数を占めている。本来であれば団体戦に必要な7人は女子部員だけで確保できるはずだった。

 けれど、ちょうど対外試合の日が、様々な学園行事や国家行事と被ってしまっているらしい。そのため、団体戦に出場できる女子部員は5人しかいないのだとか。

 

「だから俺とノバクでダブルスの一枠を埋める必要があるんだ。安心しろ、お蝶先輩には2試合あるダブルスのうち強い相手と戦える方にオーダーを組んでもらったからな」

 

 ちなみにだが、ノバクを指名したのはお蝶先輩だ。俺が誰と組めばいいのかと質問したところ、「女子寮に一緒に来ていたあの子を呼べばいいのではなくて」―――と真言賜ったのだ。

 

 

 

 困惑顔で固まるノバクを余所に、俺は一方的に話を進めることにした。俺たちがやるべきことは明確だ。

 

 ノバクはテニスの強化。そして俺は女装の強化だ!!

 

「試合当日までの二週間、忙しくなるから覚悟しておけよ!」

 

 

 

 

 

 

 この世界に転生してから半年近くになる。

 

 最近分かってきたことなのだが、俺の執事であり攻略対象でもあるノバクという男―――コイツはなんだかんだで押しに弱く、しかも付き合いがいいのだ。

 そのため、多少無茶なお願い事も懇願すれば協力してくれる。もちろん物凄く嫌そうな顔をしながらではあるが。

 

 

 放課後、女子テニス部員が練習をしている横で俺とノバクはテニスの特訓を行うようになった。

 

 テニス初心者であるノバクを短期間で試合ができるレベルまで仕上げないといけない。

 しかも、今回の対戦相手は女子とはいえテニス部員だ。球技大会のような未経験者同士の試合とはわけが違う。

 それに何より、ノバクはそれほど運動神経がよくない。決して身体能力が低いわけではないが、上達速度があまり早くないのだ。もちろんセリーナみたく絶望的なレベルではないが……。

 

 最低限試合に必要な技術となるサーブとレシーブに焦点を絞って練習を重ねてはいるものの、たった二週間でテニス部員相手に試合をさせるのはかなり厳しい。

 

 

 

 

 放課後にテニスの練習をし始めてから5日が経ち、土曜日を迎えた。

 

 試合まで残り一週間近くに迫った俺たちは今、向かい合わせに座りながら汽車に揺られていた。この前乗った汽車と全く同じ便だ。

 

「ところで主君。私たちは今どこに向かっているのですか?」

 

「決まってるだろ。ローラン学園に偵察に行くんだよ」

 

「偵察!? 主君が!?」

 

「ああ。対戦相手のレベルを確認しておかないと練習の目標が立てられないだろ。それに、相手の戦略や得意苦手がわかると対策も練られるしな。……ていうか、偵察ってそんなに驚くことかよ」

 

「いえその…。主君の口から頭の良さそうな単語が出てきたものでつい……」

 

「お前……」

 

 どうやら俺は本当にただのバカだと思われているらしい。

 

 この世界に来てからの俺は補修も追試も受けている。けれど、俺は決してバカではないのだ!

 

 大事なことなのでもう一度言う―――俺はバカではないのだ!!

 

 

 

 近代のスポーツはシステム化やデータ分析が重視されている。対戦相手の過去データを大量に洗い出して、それらを解析し、事前に相手の攻略パターンをいくつも組んでおくのだ。

 

 そんな中、「データの見方がわかりません」とか「戦略が理解できません」なんて言っていたら周りに置いていかれる。

 根性論で朝から晩まで練習をしたところで、超効率的な練習を積んだうえに、試合が始まる前には相手を分析し終えているような連中に勝てるはずがないのだ。

 

 つまり、近代スポーツでは()()()()()()でないといけないが、()()()()()だと勝てないのだ。

 

 機材もデータも揃っていない乙女ゲームの世界では関係のない話だが…。

 

 

 

 

 

 背もたれに深くこしかけて、窓の景色を漠然と眺めた。

 

 先週も男子テニスの試合のために乗ったので、今回が人生で二回目の汽車だった。

 

 元の世界では一度も乗車したことがなかったので自然とテンションが上がってくる。

 まるでタイムスリップをして旅行を楽しんでいるような気分だ。

 

 俺たちの通っているウィンブル学園やこれから向かうローラン学園は、どちらも都心に位置する学園だ。そのため最寄り駅付近は賑やかな街並みが広がる。

 

 けれど、汽車の窓から見えている二つの街を間の景色はまさにド田舎だった。田畑の緑と遠くの山、電信柱も自動車も見当たらない緑が延々と続いている。

 

 その圧倒的な自然の中をレトロな汽車で優雅に走るのだ。

 

「なんていうか、風情だよな…」

 

「風情? こんな田舎の風景いったい何が楽しいのですか?」

 

 どうやら乙女ゲームの住人にはこの風情がわからないらしい。可哀想な奴め。

 

「ところで主君。ローラン学園についたとして、どうやって学園内に入るつもりですか。入園許可証はお持ちでないですよね」

 

「そりゃな。テニス部の偵察をしたいから学内に入れてくれ、なんて言う訳にはいかないだろ」

 

「では、どうするおつもりで?」

 

「どうするって… 何のためにノバクがいるんだよ」

 

「私ですか!?」

 

「ああ。執事なんだからバレない潜入方法の一つくらい知ってるだろ」

 

「主君… 執事をなんだと思っているのですか。 ………まあ学園への潜入程度であれば簡単にできますけど」

 

 簡単にできるんだ。執事怖ッ!!

 

 




本編は女子テニス編です。
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