乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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女子テニス編 第6話!


勝つのはローラン! 負けるのウィンブル!

「「「勝つのはローラン! 負けるのウィンブル! 勝つのはローラン!」」」

 

 

 ローラン学園からわざわざ応援に来た女子生徒たちが、一丸となって声援を届ける。

 

 

「「「勝つのはローラン! 負けるのウィンブル! 勝つのはローラン!」」」

 

 

 本来テニスの応援というのはもっと静かなものだ。こんな応援をプロの試合でやろうものなら、会場を出禁にされても文句が言えない。

 けれど、日本の学生大会では意外とよく見られる光景だったりもする。俺にとっては日常的な応援なので難なく聞き流すことができた。

 

 

「「「勝つのはローラン!! 負けるのウィンブル!!」」」」

 

 

 声援はどんどんとヒートアップしていく。

 

 

「「「勝つのはローラン!!! 負けるのウィンブル!!! 勝つのは―――――」」」

 

 

 パチンッ! と合図が鳴るとピタリと静まり返る。

 

 

「――アタシだ!!」

 

 

 コートの真ん中に立ち、決め顔で指を鳴らしたビリー先輩。

 

 その直後、『キャーーーー!!』という黄色い歓声がコートを包む。

 

 

 

「悪いな、これをやらないと気が済まねえんだ」

 

「別にいいですよ……ですわよ」

 

 ビリー先輩はテニスの王〇様でしかやらないようなパフォーマンスを終えると、リターン位置につく。

 

 

 

 

 試合は俺のサーブから始まった。

 

 俺は高くトスを上げて、全身の力を使いしなやかにラケットを振り上げた。

 

 ラケットに擦られて押し出されたボールは鋭いカーブを描きながら相手コートに突き刺さる。直後、リターンのビリー先輩目がけて跳ね上がる。

 

「うわっ!」

 

 驚きの声を発しながらもラケット面にボールを当てたビリー先輩だったが、その返球は甘くチャンスボールとなる。すかさずノバクが飛び掛かりボレーを決めた。

 

 開幕の1ポイント目は俺たちが勝ち取る。

 

「ナイスサーブですわお嬢様!!」

 

「ノバ子もナイスボレーだ………ですわ!!」

 

 俺たちは互いにラケットで相手を指しながら叫ぶ。

 

 まさかツイストサーブを初見で打ち返されるとは思わなかったが、浮いたリターンはノバクがきっちりと仕留めてくれた。まさに合宿の成果があらわれたプレーだった。

 

 

 ビリー先輩は失点したにも関わらず楽しそうに笑う。

 

「まさかツイストサーブの使い手に会えるとはな…。気をつけろよカバミ」

 

「ウス」

 

 テニスのダブルスはゲームが切り替わるまでサーバーは固定で、リターンする人は1ポイントごとに交互に代わる。そのため、俺のサーブを今度はカバディがリターンすることになる。

 

 俺がサーブを打つと、先ほどのツイストサーブの軌道を見ていたカバディはボールの着弾点から大きく左にずれて構える。

 しかし、俺のサーブはカバディの予想から外れ、曲がることなく真っすぐに跳ね上がる。ツイストサーブがくる想定で構えていたカバディはラケットに触れることすらできなかった。

 

 

 ビリー先輩は腰に手を当てて唸る。

 

「今度はスピンサーブかよ。……これは、手こずりそうだな」

 

 

 

 

 

 その後も俺はツイストサーブとスピンサーブを織り交ぜて相手を翻弄した。俺のサービスゲームは難なく勝ち取るに至った。

 

 

 

 

 

 しかし、問題はここからだ。次のゲームはサーブ権が相手にわたる。

 

 

 ビリー先輩は高くトスを上げると、小さな体を大きく反らして勢いよくサーブを打った。

 

 サーブの種類はスピンサーブ。威力はそこそこあるが、お蝶先輩のような一発でポイントにつながるようなビッグサーブではない。

 それでもやはり、このレベルのプレイヤーともなるとファーストサーブは中々に手強い。

 

 

 俺のリターンも悪くはなかったが、ビリー先輩はすかさずスピンショットをコーナー深くに沈めてきた。そこからはビリー先輩がやや優勢なままラリーの応酬が続いた。

 

 偵察をしたから知ってはいたがビリー先輩はバリバリのストローカーで、案の定、男子の俺が強打しても当然のように返球してきた。

 

 俺が何度目かのストロークを打った。―――直後、俺の返球がバウンドするより早くネット前にいたカバディが飛びついてきた。

 先ほどのお返しと言わんばかりに、「い゛ぃ―――ッ!」と吠えながらボレー強打する。ボールはものすごい勢いでバウンドし、相手ペアのポイントになる。

 

 

 

「「「キャーーーー!! ビリー様ぁぁ!! カバミちゃんも凄いですわ!!!」」」

 

 またもや黄色い歓声がコートを包み込む。

 

「今更だけど、カバミちゃんを受け入れてんじゃねえよ。違和感もてよ…」

 

 俺が応援団に悪態をついていると、ノバクが歩み寄ってきた。

 

「やはり相手のサービスゲームは厳しいですわね。早速ですが()()()()を使いますか?」

 

「いや、まだ1ポイント取られただけだ。それにこのゲームは重要じゃないから、作戦を使うのは別の場面でだ」

 

「重要じゃない? どういう意味ですか?」

 

「テニスの試合は、なにも全てのゲームをとる必要はないって意味だ」

 

 テニスはサーブを打つ側がかなり有利になるスポーツだ。そのため、自分のサービスゲームを確実に取りながら、相手のサービスゲームをいかに崩すかが大事になる。

 つまり、俺たちはビリー先輩かカバディ、どちらかのサービスゲームを一度で構わないから奪い取る必要があるのだ。

 

 その二つの内、崩すのが困難なのは――――断然、ビリー先輩のサービスゲームだ。

 

 

 ストローク特化のビリー先輩が後衛を守り、190㎝以上ある巨体のカバディが前衛に張り付く。

 このフォーメーションこそがビリー&カバディペアの最も強いパターンなのだが、ビリー先輩のサービスゲームでは、その型が担保されてしまっているのだ。

 

「崩すならカバミさんのサービスゲームということですわね、お嬢様」

 

「ああそうだ。……どうでもいいけどノバ子、その喋り方使いこなしすぎだろ」

 

 

 

 結局、このゲームポイントはビリー先輩たちに取られてしまった。

 

 これでゲームカウントは1-1。次はノバクのサーブだ。

 

 

 

「さて、ノバ子ちゃんはどんなサーブを見せてくれるんだ? ……っておいおい、マジかよ」

 

 ビリー先輩は俺たちの方を見て怪訝そうに顔をしかめる。

 

 彼女はきっと二つの異変に気が付いたのだろう。

 

 ひとつはノバクのサーブの構えがアンダーカットサーブであることだ。軟式テニスならいざ知らず、硬式でアンダーカットサーブは中々見ない。

 

 なにせ、アンダーカットサーブは超守備的なサーブ。サービスゲームが有利とされるテニスにおいて、わざわざその優位性を捨てるようなサーブを打つ選手はほとんどいないのだ。

 

 そして二つ目は、ペアである俺が後衛の位置に立っていること。

 

 サーブを打つノバクも当然後衛の立ち位置にいる。つまり俺たちは二人揃って後衛の立ち位置に並んでいるのだ。

 

 

 

「面白いことしれくれるじゃんか。いったい何の戦略なんだ?」

 

「……秘密です。……ですわ」

 

 不敵にニヤケるビリー先輩に対し、俺も不敵な笑みを作り返してみせる。―――が、内心は言い訳をしたい気持ちでいっぱいだった。

 

 ノバクはアンダーカットサーブを打つと、そのまま前衛の位置に向かって走る。サービスダッシュだ。

 

「アンダーカットからのサービスダッシュ!? 本当に意味わかんねぇぞ!」

 

 そう叫びながらビリー先輩はリターンを強打した。

 

 後衛の俺はその球に何とか食らいつくが、直後、またしてもカバディのボレーに捕まりポイントをとられてしまう。

 

「なんだぁ。奇をてらった作戦だったのか? まあ驚きはしたけどそこまで――――って、また同じ作戦をする気か!?」

 

 先ほど失点したにもかかわらず、またもやアンダーカットサーブの構えをするノバク、その横に並ぶ俺。そんな俺たちにビリー先輩は呆れた様子だった。

 

 

 ビリー先輩の言いたいことは十分にわかる。つまらない奇策を続けるくらいなら堂々と戦えと言いたいのだろう。

 

 けれど、俺たちはこの作戦で挑み続けるしかなかった。

 

 その理由はシンプルで―――――実は、ノバクがテニス合宿で身に着けた技術はリターンとボレーだけだったのだ!!

 

 

 

 そもそも、テニスの基本的な技術はサーブ、リターン、フォアハンドストローク、バックハンドストローク、ボレー、スマッシュとてんこ盛りだ。

 たった二週間でそれらをすべて学び、そのうえでビリー先輩レベルの人と戦えるようにするのは不可能だった。

 

 そこで、ノバクにはラケットを振る『スイング系』の技術をすべて諦めてもらい、代わりにボールをラケットに当てて返球するリターンとボレーに特化してもらったのだ。

 

 その分、ダブルスのフォーメーション練習に重点を置いて、このレベルの試合でも使い物になる前衛に仕立てた。

 

 二週間という短い期間からの逆算で考えた練習メニューだったのだが、削った技術のしわ寄せは、すべてノバクのサービスゲームに集まってしまったのだ。

 

 

 サーブ練習をしていないノバクは、もっとも簡単なアンダーカットサーブしか打てない。しかも、ストロークがロクに打てないのでサービスダッシュをするしかないのだ。

 代わりにストロークを打てる俺が最初から後衛に張りつく型になる。

 

 傍から見ればいびつな戦法に見えるだろうが、俺たちのペアにとっては、これ以外にない作戦だったのだ。

 

 

 

 このゲームは、見慣れないアンダーカットサーブに対しカバディが2回連続でリターンミスをしてくれたので、何とか取得することができた。

 

 正直、ノバクのサービスゲームが一番の難所だったので胸をなでおろす思いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは、互いにサービスゲームを取り合う展開が続いた。

 

 カバディのサービスゲームは、その巨体を生かした高速サーブで試合を優位に進めてきた。

 結局、相手にゲームポイントは取られてしまったが、カバディのサーブは強力な反面、ダブルフォルトが多かったのが幸いだった。

 やはり、カバディのサービスゲームこそが狙い目だと、俺は確証を得ることになる。

 

 続く俺のサービスゲーム、ビリー先輩のサービスゲームは互いに難なくキープをし合った。

 

 

 ……問題が起きたのはその後だった。

 

 

 再び訪れたノバクのサービスゲームは、やはり攻撃性のないアンダーカットサーブと無理のあるフォーメーションがたたり、俺たちはサービスゲームにも関わらずゲームポイントを奪われてしまった。

 

 しかし、その直後のゲームでは、カバディが痛恨のダブルフォルト2連発をやらかし、逆に、俺たちがカバディのサービスゲームを奪取するに至った。

 

 

 

 

 

 

 そして、ゲームカウント4-4で迎えた俺のサービスゲーム。

 

 

「ばあああう!!」

 

 カバディは咆哮と共に、俺のサーブを強烈なリターンショットで打ち返す。もはや女子の振りをするつもりなど毛頭ないらしい。――――初めからなかったけれども。

 

 カバディの打球はベースラインよりも深くに突き刺さった。

 

「アウト!」

 

 審判がコールを上げる。

 

 カバディのリターンは強烈だが、元々威力がある俺のサーブに対し更に威力を乗せて打ち返してくるので、必然的にネットやアウトのミスが増える。

 面を保ちながらスピンをかけ、深いところに安定して返球してくるビリー先輩の方が数段と上手く、相手の俺からすれば厄介だった。

 

「ゲームカウント5-4」

 

 審判がスコアを読み上げる。

 

「すみませんお嬢、自分が不甲斐ないばかりに」

 

「気にするな。それより次はアタシのサービスゲームだ。このゲームを落とすと負けちまうからな、気を引き締めていくぞカバミ」

 

「ウス」

 

 テニスは6ゲーム取得した方が勝ちとなる。つまり次のゲームをとれば6-4で俺たちの勝利だ。

 だが、逆に次のゲームをとられると5-5となり、その場合は7ゲーム取得する必要が出てくる。

 

 ちなみにだが、スコアが6-6になればタイブレークという別ルールに突入することになる。

 

 

 

 

 ノバクはかなり汗をかいていた。それでも、集中力は落ちていないといった表情だった。

 

 当然、俺も集中力は落ちていないし化粧も落ちていない。ただ、ウィッグをのせたまま運動しているので頭が凄い蒸れてはいる。

 

「結局、()()()()は使いませんでしたわね」

 

 ノバクはひそひそと話しかけてくる。

 

 ()()()()は、本当はカバディのサービスゲームで使うつもりだったが、カバディがダブルフォルトを連発し勝手に自滅してくれたので、使う機会を失っていたのだ。

 

「いやノバ子。やっぱりこのゲームで使おう」

 

 俺もひそひそ声で返す。

 

「正直、ここまで拮抗した展開が続くとは思ってなかった。次はビリー先輩のサービスゲームだから相手ペアの最も得意な陣形が続くことになる。

 でも、そもそも()()()()はビリー先輩のストロークに対抗するためのものだ。ビリー先輩が後衛に張り付いているこのゲームは、ある意味では絶好のタイミングだ。初回からやるぞ!」

 

「わかりましたわ、お嬢様!!」

 

 

 

 

 

 5-4で迎えたビリー先輩のサービスゲーム。最初のポイントは俺のリターンからだ。

 

 俺はベースラインよりも後ろに構え、対照的にノバクはネット付近で前衛のポジションにつく。

 

 ここまで試合が進めばプレッシャーなどはなく、コート上の四人とも、集中力が研ぎ澄まされたような顔つきになる。

 

 そんな中、ビリー先輩は高くトスを上げると、いつも以上に鋭いサーブを放つ。ボールはコーナーぎりぎりに着弾した。

 

 すかさず反応した俺はラケット面でしっかりとボールを捉えて強く押し返す。

 

 

 

 ――――その直後、俺はネット前に向かって全力で走った。

 

 

 

 

「なるほど、そう来たかぁ」

 

 

 

 ストロークを構えながら、ビリー先輩は白い歯を見せてニヤケる。俺たちがこのゲームポイントを全力で奪いに来たと察したのだろう。

 

 

 

「とっておきを隠してたってわけだ。ダブル前衛か、面白いじゃねえか!!」

 

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