乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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女子テニス編 第7話!


多少のリスクを背負ってでも強打だ!

 ダブル前衛というフォーメーションには弱点が多い。

 

 二人並んでネット前に立っているのだ。山なりのロブショットをコートの深くに打たれると取りようがない。

 他にも、二人の間に速いボールを打たれるとどちらも反応できないことがある。

 

 さらには、足元に短く沈むボールを打たれたり、体の正面めがけて強打されたることにも弱い。弱点だらけだ。

 

 だが、その弱点に見合うだけのメリットがある。それは――――

 

 

 

 

 

「いったぞノバ子!!」

 

「ハイッ!」

 

 ノバクは強烈なボレーショットをカバディに目がけて打つ。とっさにラケットをボールに当てたカバディだったが、その返球は緩くなる。

 

 今度は俺がそのボールをカバディとビリー先輩、二人が届かない場所に打ち込んだ。

 

「しゃーー! ……ですわ!!」

 

 練習していたパターンが綺麗にはまり、その高揚感から思わず叫ぶ。

 

 

 ダブル前衛は弱点が多い。けれど、それに見合うだけの攻撃力があるのだ。

 そして、このフォーメーションこそが、俺とノバクが合宿で身に着けた最大の武器だった。

 

 

 ダブル前衛はボレーの技術も必要だが、それ以上にポジション取りが重要になる。

 

 マリアに球出しをしてもらう約束を取り付けたのも、実はこの練習のためだった。

 ダブルスのポジション取りを確認するには、俺とノバクが並んでいるところにボールを打ってくれる、三人目の存在が必要不可欠なのだ。

 

 

0-40(ラブ・フォーティ)

 

 

 俺たちはダブル前衛を解禁してから、3連続でポイントを奪取していた。そして、次のポイントをとればこの試合に勝利することになる。

 

 逆に相手からすれば、3ポイント連続で取り返さないと負けるため、絶体絶命のピンチだ。

 

 ―――にもかかわらず、ビリー先輩は楽しそうに笑う。

 

「なるほど、ラリーになる前に勝負を仕掛ける作戦か。悪くねえな」

 

 

 

 どんな選手だってマッチポイント(試合が決着するポイント)を握られたら緊張する。けれども、ビリー先輩はいつも以上の威力でファーストサーブをコーナーに打ち込んできた。

 

「くっ……」

 

 リターンのノバクはなんとか返球するが、その球は浅くなる。

 

 すかさずビリー先輩が前進し、高い打点から強打を打てるように大きなテイクバックで構えた。それにつられて、俺とノバクは速球に対応できるように身構える。

 

 

 ―――しかし、ビリー先輩が打った打球はロブショットだった。

 

 

 速い球がくると思っていた俺たちは、頭上を通り過ぎるボールをただ眺めて見送ることしかできなかった。

 

 

「すみませんお嬢様。わたしのリターンが甘かったですわ」

 

「気にするなノバ子。こういうこともある」

 

 

 

 やはりダブル前衛はロブショットに弱い。先ほどのように、あれだけ綺麗にスピンロブを打たれると、はっきり言ってお手上げだ。 

 ビリー先輩はダブル前衛の弱点を的確に狙える、それくらいの技術は当然のように持ち合わせているのだ。

 

 それでも俺は、ビリー先輩に対してダブル前衛で戦うことを選択した。

 

 そもそもダブル前衛というのは「弱点をカバーして守ろう」というフォーメーションではなく、「弱点に打てるものなら打ってみろ」という攻めの型だ。

 ビリー先輩のストローク技術が卓越していることは百も承知だが、その技術を発揮できない程に、隙間なく攻め続ければ勝てるというのが俺たちの作戦だった。

 

 

 

 

 しかし、次のポイントもとられてしまった。

 

 今度はロブショットの構えでフェイントをいれたビリー先輩が、ノバクの足ものにショートボールを打ち込んだ。

 先ほどのロブショットが頭に残っていたノバクは構えに騙されて数歩さがってしまっていた。その下がり際ので足元を狙われたため、体制を崩したノバクは転ばないようにするだけで精一杯になってしまう。

 

 

 

 

30-40(サーティ・フォーティ)

 

 

 

 ポイントでは依然俺たちが優位ではあるが、二連続でポイントされたため追い詰められたような感覚に陥る。

 

 ノバクも苦しげな表情をしていた。

 

「まさか、こんなに早くダブル前衛が攻略されるとは思いませんでしたわ」

 

「ああ。俺も予想外だった……ですわ」

 

「お嬢様、やはりここは元のフォーメーションにもどすべきでしょうか」

 

「………いや、確かに二連続で失点したが、それでもこの型をつき通すべきだ」

 

「ですが…」

 

 ノバクは元のフォーメーションで戦うべきだと考えているようだ。

 

 確かに、直近の2ポイントはロブショットに足元のショートボールと、ダブル前衛の弱点を見事につかれてしまった。

 けれど、ダブル前衛に弱点が多いことも、ビリー先輩がそれを狙い打てることも端からわかっていたことだ。

 

 問題なのはその前段階、つまり俺やノバクのリターンショットが弱いことにある。

 

 ダブル前衛は攻め続ける前提の作戦だ。ビリー先輩が思わず守りに入るようなリターンショットを打てない限り、彼女にやられるのは必然なのだ。

 

 それに……。

 

「そもそもダブル前衛で俺たちは3ポイントをとれてるんだ。てことは、やっぱりこの作戦は勝率が高い。2回やられた程度でビビることはないぞ」

 

 

 

 ビリー先輩のプレーを積み重ねて組み上げていく戦略は、まるでチェスのようだ。けれど、俺はテニスの作戦はチェスではなく麻雀に近いと考えている。要するに確率の勝負だ。

 

 麻雀で確率の高い手を選択し裏面にでたとする。だからといって、次は確率の低い方を選ぼうとする雀士がいるだろうか。―――それと同じだ。

 

 テニスは如何にして1ポイントをとるかというスポーツではない。1ポイントをとられても2ポイント取ればいいのだ。

 

 

 

「あれだけ練習したんだ。リターンさえ強く打てれば得点につなげられる。自信をもてよ!」

 

「リターンさえ……ですね」

 

「そうだ。次はノバ子のリターンだろ、多少のリスクを背負ってでも強打だ!」

 

「わかりました。リスクを承知で攻めますわ」

 

 

 

 

 

 ビリー先輩はリターンがノバクの場合、ずっとサイド側―――つまりはノバクのバックハンド側を責め続けていた。相手のバックハンドを責めるのは定石がだが、それにしても執拗に狙い続けている。

 

 30-40(サーティ・フォーティ)で迎えた場面。ビリー先輩はまたもや定石どおりにバックハンドを責めるだろうか。

 それとも、今までのプレーをブラフにして、逆側のセンターラインぎりぎりを責めるだろうか。

 

 

 俺には、ビリー先輩がどこにサーブを打ってくるか予測できなかった。

 

 

 ビリー先輩はトスを上げると、またも鋭いスイングでサーブを放つ。その狙いは―――――右でも左でもなく真ん中、ノバクのボディ狙いだった。

 

 その選択肢に意表を突かれた俺は、別に自分がリターンする訳でもないのについ驚いてしまう。

 

 

 ――――けれど、俺はさらに驚愕した。

 

 

 なんと、ノバクは初めからボディ狙いがくると予想しており、フォアハンドに回り込んでからジャストで捉えたのだ。

 

 

 ……こいつ、山を張りやがった!!

 

 

 ノバクはビリー先輩がサーブを打つ直前に、ボディ狙いがくる前提でステップを刻んでいた。もしサーブがサイド側やセンター側に来ていたら、きっとノバクはボールに触れることすらできなかっただろう。

 

 リスクを背負えとは言ったが、まさか三分の一の心理戦に賭けるとは……。

 

 

 ノバクは分の悪い賭けに勝った。その代償は大きく、虚を突いてボディ狙いをしたビリー先輩は、想定外の好リターンが返ってきて逆に意表をつかれることになった。

 

 咄嗟の返球で、ロブショットや足元を狙う余裕はないビリー先輩は、せめてもの足掻きで俺とノバクの真ん中に向かって強打した。

 

 

 ――――そのボールに、俺とノバクは呼吸が詰まる。

 

 

 一瞬、ミリ秒の世界で思考がよぎる。俺かノバクどちらがボールに触るべきか……。

 

「―――俺!!」

 

「―――お嬢!!」

 

 二人の判断が一致する。

 

 飛んでいたボールに詰め寄ると、俺はビリー先輩の足元目がけてボレーを強打する。攻めて攻めて攻め続ける。これこそがダブル前衛の戦い方だ。

 

 ―――直後、足元の球をビリー先輩は軽く打ち上げた。

 

 その打球は俺やノバクがジャンプしても届かない絶妙な高さで、スピンこそかかっていないが、俺の強打の勢いを利用しているため決してチャンスボールにはなっていない。

 

 

「上手ッッッ」―――と心のなかで叫んでしまう。

 

 

 頭上を抜かれた俺は、ボールを追いかけるため慌てて振り返る――――が、打たれた時点で直感していた。このボールには追いつけないと。

 

 

 しかし、振り返って俺が目にしたのは、山なりのボールをいち早く追いかけていたノバクの姿だった。

 

 ノバクはスマッシュを練習していないし、仮に打てたとして、背を向けて走っている状態ではどのみち使えない。

 

 

「ノバ子ーーー!!」

 

 

 俺は無我夢中でノバクの名前を叫んでいた。

 

 その声にこたえるかのように、ノバクは両手でラケットを握り背を向けたままボールに飛びつく。そして、イルカのように体を反って、ノーバウンドでボールを打ち上げた。

 

 何とも不恰好な、それでいて、なんというファインプレーだろうか。

 

 

 

 俺はまた慌てて相手コートに振り向きなおす。

 

 

 目の前では、すでに打ちあがったボールを迎撃するべく、カバディがスマッシュの構えでバックステップを踏んでいた。

 

 ネットから離れた位置からのスマッシュだから威力はそこまで――――――いや、相手は長身のカバディだ。

 

 

 …どうする?

 

 

 ……どうする?

 

 

 ―――迷うな!!

 

 

 俺はネット前に体を寄せてラケットを高く構える。

 

 今ごろノバクは俺の後ろで腹ばいになって倒れているだろう。そうなれば、俺が一人でスマッシュを迎え撃つしかない。

 後方に下がれば下がる程、俺が守らないといけない範囲は広くなる。ならば――――顔面にボールを受ける覚悟でネット前に張り付く!!

 

 

 スマッシュだろうが上等だ!!

 

 ノーバウンドで叩き返してやる!!

 

 

 

「ばぁぁうっ!!」

 

 カバディはその巨体を伸びあがらせ、全力でスマッシュを叩き込んできた。

 

 俺は意識すら追いつかない肉体の反射でラケットを動かす。そのラケット面は的確にボールの軌道を追いかけて、追いかけて、―――――ネット下に辿り着いた。

 

 

 きっと絶好のチャンスに力が入りすぎたのだろう。

 カバディのスマッシュはネットに深々と突き刺さったのだった。

 

 

 

 

 

 

「ゲームセット ケイ子、ノバ子ペア 6-4(シックス・フォー)

 

 

 審判の判定が、無情にも伝えられた。

 

 

 

 こうして俺とノバクは勝利した。

 

 

 そして、この瞬間――――

 

 

「よって、ウィンブル学園対ローラン学園の団体戦は、3-1でウィンブル学園の勝利となります」

 

 

 

 …………残されたシングルス1を迎えぬまま、団体戦の勝利までもが確定したのだった。




ギャグなしのスポーツ回。
やっぱりテニスには嘘をつけない。
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