子供のころからゲームはしてこなかったが、漫画はよく読んでいた。
中でもスポーツ漫画が大好きだった。
野球、サッカー、バスケ、ボクシング……。
その中でも特に好きだったのがテニスの王〇様だ。
小学生のころに熱中し、自分もテニスをしみたいと思うようになった。ジュニアのテニススクールに通うきっかけになった作品だ。
テニススクールでは友達とテニスの王〇様に出てくる必殺技を真似して、よくコーチに怒られたものだ。
ブーメランスネーク、ヒグマ落とし、零式ドロップなど、たくさん練習したがその殆どは実ることはなかった。ただ、ツイストサーブだけは実在するサーブだったこともあり習得するに至った。
ツイストサーブは普通だと珍しいサーブなのだが、なぜか俺たちの世代では精度はともあれ、ちらほら使い手がいた。スポーツ漫画の影響力は凄いなと思ったものだ。
「前から思ってたんだけど、ケイ君ってさ、魔法学の授業………聞いてないよね?」
昼休みを迎え、学食でご飯を食べ終えた俺は教室でマリアとおしゃべりをしていた。
いつもは他愛のない話をして楽しい時間を過ごすのだが、どうやら今日は少し様子が違う。俺の授業態度を見かねたマリアがお説教モードに入りかけていたのだ。
マリアは訝し気に俺を睨んでいる。
何か、言い訳を…。
「ほら俺、魔法使えないからさ。自分が使えないとどうにも授業内容に興味もてなくてな」
咄嗟にでた逃げ口上だが、これは本心でもあった。
この学園の生徒のうち殆どが魔法を使えるらしい。なんでも中学である程度の基礎は学ぶのだとか。そんな中、当然だが俺は魔法は使えないし学んですらいない。
転生した俺の人生は勝手に高校進学した状態でスタートしていた。中学の頃に勉強したよね―――なんて言われても正直困る。俺が中学で勉強していたのは数学や英語だ。
じゃあ数学や英語はできるのかと聞かれると、それはそれで困るのだが………。
「確かにケイ君は使えないかもだけど、でも魔法って男の子ならみんな好きでしょ?」
「……え?」
「…………え??」
困惑した俺に対し、マリアはさらに困惑した様子で声を漏らす。
「もしかして、ケイ君魔法に興味ないの!?」
マリアは信じられないものを見るような目を俺に向ける。
けれど、俺はもしかしなくても魔法に興味がない。なぜ俺が魔法に興味がわかないか――――それは、この世界の魔法はテニスに使えそうにないからだ。
転生してすぐのころは魔法学の授業も真面目に聞いていたのだが、授業で取り扱われた代表的な魔法は『手から炎の球を飛ばす』というものだった。
そんな魔法、テニスの試合中にどうやって使えというんだ? マ〇オテニスじゃないんだぞ??
せめて準備運動をしなくても体が温まる魔法とかにしてくれ。そうじゃないと学んだところで使い道がない。
俺が魔法に関心を持っていないことが余ほど意外だったのか、マリアは立ち上がって机をバンッと叩く。
「魔法だよ魔法! 必殺魔法とかも撃てるようになるんだよ!?」
「必殺魔法なんてあってもテニスの試合じゃ使えないだろ? それよりは必殺ショットを覚えたいな、ドライブBとか」
「嘘……、魔法に興味がない男の子がいるなんて」
どうやらマリアの中では男子は全員魔法好きのイメージだったようだ。それ、偏見だからな。
マリアはガクンと席に座り込むと少しの間放心していた。
けれど、ふと何かを思いついたらしく目に正気を取り戻す。
「そうだ! 魔法には火、水、土、風の四属性があるのは授業でもやったから知ってるよね?」
そうなんだ。ごめん知らない。
「でも実はその4つ以外にも光属性と闇属性があるんだよ! どちらも凄く珍しい属性なんだけど、特に闇属性は希少なんだ」
ふーん。
「でも昔、闇属性の人たちが王族に反旗を翻したことがあって、それ以来この国では闇は呪われた属性だって言われてるの。もちろん私は気にしないけどね」
へー。
「だからね、闇属性の人は大変な思いをするかもだけど、その代わりに格好いい魔法がたくさんあるんだよ。どう? 興味もてた?」
「いや別に…」
闇属性が希少だということは分かったが、珍しいならなおのこと自分には関係のない話なので興味がわかなくなる。
それにしても、マリアは随分と闇魔法に詳しいようだ。
「……もしかして、マリアは闇魔法を使うのか?」
「ううん、私は土魔法だよ」
どうやら違ったらしい。ならなぜマリアは自分が使えない闇魔法についてこんなに詳しいのだろう。中学の授業で習うのかな。
いや、魔法に興味がないといっている俺にわざわざ闇魔法をピックアップして熱弁してきたんだ。それはまり……。
「そうか。……さてはマリア、闇魔法を格好いいと思ってるな?」
俺の指摘にマリアはポカンとした表情をする。
「俺も昔は越〇リョーマに憧れて、
「別にそういう訳じゃ…」
「でもさ、そういうの中二病っていうらしいぜ。つまりは中学生の感性なんだってよ。マリアはもう高校生なんだから、俺の前ではいいけど、あんまりクラスメイトの前では言わない方がいいぞ」
俺はマリアの肩を優しくポンポンと叩く。
マリアが言うには闇魔法は嫌われ者の魔法らしい。そういうアウトローな感じなどますます中学生が好むような設定だ。
けれど、それを高校生のマリアが格好いいと思っているのは少し痛々しくある。『闇』とか『呪い』なんてものは良くないと感じるのが普通の大人な感性なのだから。
「別に中二病が悪いわけじゃないけどさ、ちょっと、な?」
「そ…… そうだよね」
マリアは少し恥ずかし気な表情で笑う。なぜか眉間に血管を浮かべながら………。
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「あんたが……、 あんたが闇属性だから教えてあげたんじゃんかぁ!!!」
マリアは女子寮の自室で、頭だけ布団にくるまり叫んでいた。
放課後、同室の先輩が生徒会の仕事を終えて帰ってくるまでの間、マリアは部屋で一人になる。その時間は、マリアにとって鬱憤を吐きだせる唯一のタイミングだ。
今日の休み時間、マリアが闇魔法の話をしたのはすべて圭太を思ってのことだった。
この乙女ゲームの
決まった運命とはいえ、いきなりそんな目に合う圭太のことを可哀そうに思ったマリアは先に知らせてあげようとした。
それこそが、
「それなのに、誰が中二病よぉ!!!!」
マリアはベッドをバシバシと叩く。
いずれ圭太は闇属性であるこが知られ、嫌な噂をされるだろう。その時になって初めて自分が異質な存在だと気づき、そして傷つくのだ。けれど…、けれど……。
「授業中はずっと寝てるし、私のことは中二病扱いするし、もう知らない!!」
ここから魔法ファンタジー路線に……突入しない!!