乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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 短いですが、テニス編突入です。


テニス編①
自分に課題をかしてこそ成長につながる


 圭太はテニス部に所属した。それは、この乙女ゲームの世界においてはラファエル様ルートに進んだことを意味する。

 

 乙女ゲームの王道展開をいくラファエル様ルートは初心者向けで、普通にプレーしていればよほどのことがない限り躓くことはない。

 強いて言えば、ラファエル様の許嫁である金髪ドリルの悪役令嬢が少し面倒なことくらいだ。

 

 

 悪役令嬢は上級貴族という高貴な立場のためか高飛車な性格をしており、平民上がりの下級貴族である主人公(ヒロイン)に対し強く当たってくるのだ。

 それでも、特段ストーリー通りに進めば問題にはならない。最終的にはヒロインはラファエル様に好意を寄せられ、敗れた悪役令嬢は大人しく去っていく。

 

 

 そのため、悪役令嬢とは直接闘うのではなく、できるだけ目を付けられないように立ち回るのが得策になる。そして、そう誘導してあげることこそが親友ポジションであるマリアの役割なのだ。

 

 

 

「でもケイ君は中二病の私のアドバイスなんて聞かないよね」

 

 

 

 ……マリアは、まだふてくされていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ウィンブル学園テニス部は週4日しか活動をしない。週7日練習をしないと満足できない俺にとってはかなり致命的な欠点だった。

 

 そのため部活動がない日は自主練をしているのだが、ここにも問題がある。なんと、テニスコートを利用するのは部長か副部長の同伴が必要なのだ。

 そんなわけで、入部してから二週間しか経っていない俺は筋トレやランニングくらいしかすることがなかった。

 

 

 

 

 6月の中旬、梅雨ど真ん中にも関わらず晴天となった今日は絶好のテニス日和だった。そして俺はテニス―――――ではなく一人でランニングをしていた。淋しいかな自主練だ。

 

 

 

 ランニングコースはすっかりいつもの定番となっており、中庭やサッカー部のグラウンド近くを通る代わり映えがない景色が続いていた。

 等間隔で並ぶ樹木の隣を並走しながら、視線を木々の隙間に向ける。もうすぐテニスコートが見えてくるだろう。

 

 誰も使っていないテニスコートがあるにも関わらず俺には使う権限が与えられていない。そのもどかしさを感じながらコートの傍を駆け抜けるのもすっかりお馴染みになっていた。

 

 

 恨めしい気持ちで樹木を眺めながら足を動かしていた。すると、木々の隙間の向こうからポーンッ! という低い音が聞こえた。

 

 それが何の音かは直ぐにわかった。――――テニスの打球音だ。

 

 しかし、今日はテニス部は活動していない。

 ではいったい誰が打っているのだろうか?

 

 

 俺はテニスコートの様子を見に行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 フェンス越しに見えたテニスコートでは、ピンク色のテニスウェアを着た女性が一人でサーブ練習をしていた。その女性は眩いほどの金髪を縦ロールにしており、後ろ髪はピンクのリボンで結んでいた。

 それにしてもボリューミーな髪型だ、毛量が凄い。

 

 

 なんだろ、初対面のはずなのに何故か見覚えがある。

 

 

 テニスコートでサーブを打っている女性について俺は知らない。それなのに、どうしようもなく既視感があった。いったいどうして……。

 

 

「………そうだ!お蝶〇人だ!!」

 

 

 直後、記憶が合致し思わず叫んでしまった。

 

 お蝶〇人というのは『エー〇をねらえ』という漫画に登場する主人公のライバルキャラだ。かなり古い漫画ではあるが、母親から借りて読んだことがあったのだ。

 

 それにしてもそっくりだ。特徴のある髪型はもちろん、少女漫画ならではのキラキラした瞳まで似ている。

 

 すげぇ、リアルお蝶〇人だ!!

 

 

 

 思わず感心しきっていると、俺の視線に気づいたお蝶〇人(のそっくりさん)がこちらに近づいてきた。お蝶〇人はフェンス越しに見ていた俺に声をかけてくる。

 

「あら? あなた確かケイといったわね」

 

「そうですけど…。どうして俺の名前を?」

 

 俺はこのお蝶〇人とは初対面のはずだ。…だよな?

 

「どうしてって、あたくしはこのテニス部の副部長よ。新入部員が入ったのならば把握しているのは当然のことよ」

 

「ふ…副部長!?」

 

 驚いてしまったが、確かに部活動がない日にテニスコートを使っているということは、その権限を持った部長か副部長であることには違いない。

 

 それにしても、このテニス部に入部してから二週間になるが俺は副部長が誰かすら知らなかったのだ。それってちょっと失礼っていうか、まずいよな。

 

「もしかして、あたくしが誰か知らなかったのかしら?」

 

 お蝶〇人は少女漫画全開の力強い瞳で睨みつけてきた。その女性特有の『Yes』以外の選択肢を許さないという圧力に俺は思わずひるんでしまった。

 

「え!? いや…その、 知ってましたよ、もちろん!!」

 

「そう。それならよくってよ」

 

 お蝶〇人は俺の答えに満足したらしく少しだけ目力を緩める。

 

 よかった。

 

 知っているなら、あたくしの名前を言ってみなさい――――とか言われたらどうしようかと思っていたが、何とかこの場は乗り切れたようだ。

 

 

 

「ところで、先ほどあたくしを見て『お蝶〇人』といってたわよね。どういう意味かしら」

 

 前言撤回。まだ乗り切れてなかった。

 

「え? 言いましたっけ?」

 

「ええ。ケイ、あなたは言ったわ」

 

 お蝶〇人は断定系で言い切る。

 

 俺のことなのに断定されちゃったよ。まあ言ったのは事実だけどさ。

 

 けれど、さすがに元の世界の古い漫画のキャラにそっくりだったからだと説明するわけにはいかない。どうしたものか……。

 

「それは、きっとあれですね。先輩のプレーが蝶のように美しかったので、つい咄嗟にそう呼んでしまったんですよ」

 

 俺は何とかごまかそうとした。確か本物のお蝶〇人もそんな理由だった気がする。

 

「あらそうでしたの。ですが、あたくしはまだ夫人ではありませんわよ。ですから、せめてお蝶先輩と呼んでいただけますか?」

 

「はい! お蝶先輩!」

 

 名前を知ってると嘘をついてしまったが、あだ名をつけることで今後バレなくて済むようになった。我ながらファインプレーだ!

 

 

 

「ところでケイ、あなたは随分とテニスが上手いらしいわね。他の部員が噂していてよ」

 

「いやいや、そんなそんな……」

 

 たった二週間でもう噂になっちゃってたか。まったく困ったもんだ。ふはは。

 

「そうですわケイ、今からあたくしと試合をなさい。一人で自主練習をするよりよい練習になると思うでしょ」

 

「いいんですか!?」

 

「もちろんよ。早く支度なさい」

 

「ありがとうございますッ!!」

 

 まさか自主練でテニスコートを使えるなんて……、しかも試合だ!!

 この世界に転生して初めてのテニスの試合だ!!

 

 お蝶先輩のお誘いを二つ返事で承諾した俺は、急いで部室にラケットと()()()を取りに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 お蝶先輩には申し訳ないが、俺はこの試合をリハビリに当てようと思っている。

 

 乙女ゲームの世界に転生した俺は数カ月間テニスをしていなかった。そのせいで、テニス部に所属してからある程度の勘所は取り戻してはいるが試合勘はまだ戻っていない。

 

 転生後の俺の肉体は筋肉こそ落ちてはいるがそれでも男だ。対戦相手のお蝶先輩が女性である以上、いくら俺の体が鍛えなおしている最中であってもやはりパワーでは圧倒的に俺が勝る。

 そのため、力強い球を撃ち込み続ければ試合勘を取り戻す前に決着がついてしまうのだ。

 

 せっかく試合をするチャンスが巡ってきたのに、そんな勝ち方で終わってしまっては勿体ない。

 

 

 この試合、筋力の男女差を考慮した俺は『パワー勝負はせずに技術で勝つ』という目標を掲げた。

 

 練習試合は自分に課題をかしてこそ、成長につながるというものだ。

 

 

 

 

「では、1セットマッチでよろしくって?」

 

「はい、お願いします!」

 

 

 お蝶先輩がサーブの構えをする。

 

 

 お蝶先輩は身長が170cm前半程度だ。女性にしては高身長だがスピン系かスライス系のサーブだろうと予測ができる。

 

「ケイ、あなたは一年生ですが経験者だと聞いているわ。手加減は必要なくて?」

 

「はい、もちろんです」

 

「そう…。では、いきますわよ!」

 

 

 

 そう宣言すると、お蝶先輩はトスを高く上げる。

 

 そして、垂直に跳んだ。――――――というより飛んだ。

 

 

「……へ?」

 

 

 思わず素っ頓狂(すっとんきょう)な声が漏れる。

 

 そんな俺を余所に、お蝶先輩は跳躍した勢いをそのままに一気にラケットを振り下ろす。

 

 

 

 スパーーーーーーンッッッッ!!!!

 

 

 

 物凄い破裂音を響かせた打球は俺のほほをかすめ、ガッシャーーーン!!!と音をたてて後方のフェンスにめり込んだ。

 

 

「な、な、なんだ今のサーブはッ!!??」

 

 

 お蝶先輩のサーブは俺の予想から大きく外れた高速フラットサーブだった。しかもジャンプサーブだ。

 

 テニスのジャンプサーブは助走をつけないため垂直跳びになる。そのため、バレーボールのジャンプサーブのような跳躍力はなく、普段よりはちょっと打点が高い程度のはずだ。

 

 しかし、お蝶先輩の垂直ジャンプは助走をつけたバレー選手並み、いやそれ以上の高さだった。 あんな垂直ジャンプ男子でも見たことがない。

 

 

「いやいやいやッ! なんスかあれ!? 魔法?? 魔法ですか??」

 

「失礼ね。スポーツの試合中に魔法を使うのはルール違反よ。あたくしがそんな卑怯な手を使う訳がないでしょう」

 

「いや、でも、そんな……」

 

 

 この時、俺は初めてお蝶先輩の足を注視した。彼女の太ももは丸太のように太く、白のレギース越しに足の筋肉の形がくっきりと浮き彫りになっていた。馬の後ろ脚のような筋肉のつき方だ。

 

 ふくらはぎはレギースの中に岩でも入れているのではないかというくらい膨れ上がっている。

 

 今まで髪のボリュームやキラキラした目ばかりに意識が向いていたが、この人、下半身の筋肉が尋常じゃない。

 いったいどれだけのトレーニングを積めばこれだけの下半身を身に着けることができるのだろうか……。

 

 

 

 

 スパー--ンッッッッ!!!! ガッシャーーーン!!!

 スパー--ンッッッッ!!!! ガッシャーーーン!!!

 スパー--ンッッッッ!!!! ガッシャーーーン!!!

 

 

 

 

 

「ゲームカウント1-0ですわね」

 

 1ゲーム目は4連続サービスエースで終わった。

 

 この試合は6ゲーム先に先取した方が勝ちだ。そして、テニスは1ゲームごとにサーブを打つ人が交代する。

 つまり、俺がどんなに自分のサーブゲームを勝ち取り続けても、あのジャンプサーブを攻略しない限り勝てないという訳だ。

 

 

 俺はベンチに座り頭を抱えた。

 

 やばいやばいやばい。

 

 あんなジャンプサーブは元の世界の男子テニス界隈でも滅多に見ないレベルだ。ビッグサーバーが過ぎる。

 

 どうやら、女性(おとめ)が本気で鍛えると、外国人男性のトップアスリートと同レベルのフィジカルが手に入るようだ。

 

 乙女の筋力が発達しやすい世界―――――それが、乙女ゲームの世界というわけかっ!!

 

 

 俺の頭の中では、リハビリ代わりになるなどという甘い考えはとっくに失せていた。

 自分への課題?? 何それ知らんッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 俺はノートを広げ、お蝶先輩の特徴を書く。

 

 試合の休憩時間に対戦相手の情報をノートにまとめ、分析し戦略を練る。これはベイビース〇ップという漫画の主人公の真似をした作戦だ。

 

 俺はノートにペンを走らせた。

 

 ・右利き

 ・サーブがやばい

 

 

 …2行で終わっちゃった。

 

 4連続サービスエースでやられたためノートに書く内容がない。

 

 

 試合中にノートを開いている俺が珍しかったのだろう。お蝶先輩は首をかしげる。

 

「ケイ、そのノートは何ですか?」

 

「これですか、これは"ケーちゃんノート"です。このノートに相手の特徴や戦略を書いてまとめるんですよ」

 

「ケーちゃんって、あなた自分のことをそう呼んでいるの?」

 

 元ネタが通じないため、俺が変な奴だと思われたようだ。

 

 お蝶先輩は俺のベンチに近づき"ケーちゃんノート"を覗き見た。そして、たった2行の文字をみて呟く。

 

「あなた、このくらい書かなくても覚えられませんこと?」

 

 余計なお世話だよッ!

 




ついに悪役令嬢が登場!!
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