乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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 前回に続き、チェス編の後編となります。




どうやってこの学園に入学したんだい?

 俺はノバクの元でチェスを教わった。初めはルールすら知らなかった俺だが今では戦術も扱えるようになっていた。

 

 ノバクと共に考えた戦術はどれも自信作だ。

 

 相手の"ポーン"を全て奪い、自分の"ポーン"の前に並べるダブルポーン!

 

 "キング"で敵陣を切り崩し攻め込むキング無双!

 

 "クイーン"の周りを他の駒で全方位固める鉄壁のディフェンス、無敵要塞クイーン!

 

 戦略や戦術を駆使して戦うのは想像以上に楽しかった。

 

 

 

 チェスを学んで気づいたのだが、チェスはテニスと通じるところがある。

 

 序盤は相手がどのような戦略を得意とするか探り合いになる。そして、ある程度対局が進むと相手の戦略に対応するべくこちらも戦略を練り直す。

 その後は、いかに自分の有利な盤面にもっていくか、得意なシチュエーションでの戦いにもっていくかを押し付け合う。

 

 俺はテニスの試合中に色々考えながらプレーすることを苦手としていたが、ここにきて戦術の楽しさを知ってしまった。

 俺はこの世界に転生して、チェスプレイヤーとテニスプレイヤーの2つの才能を開花してしまったのかもしれない。

 

 

 

 ちなみに、ノバクのことをあまり信用していない俺は念のため先日、部活仲間のヤニクに質問をした。

 

「この学園でチェスのルールを知らない奴ってどれくらいいるかな?」

 

 俺の質問にヤニクは笑いながら答える。

 

「チェスのルールを知らない? そんな奴は流石にいないだろ。もしいたら、そいつはどうやってこの学園に入学したんだいって話だろ!」

 

「はは… だよな! そんな奴、この学園どころかグランドスラム王国にいる訳ないよな」

 

「そりゃそうだろ! この王国民なら誰でも知ってるさ」

 

 この王国はチェス普及率100%らしく、どうやらノバクのリアクションは演技ではないようだ。

 

 どうなってるんだよこの国は、いくら人気といっても限度があるだろ。ノバクからルールを教わっていなければ危うく非国民扱いされるところだったぞ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の放課後、俺とマリアは学園の中庭を探索していた。

 

「確か、中庭のこの辺りのはずなんだよね」

 

 マリアに案内された俺は背中を追うようについていく。

 

「チェス部は最近、中庭のこの辺りで活動をしてるはずだよ」

 

「まさか、ラファエル先輩が掛け持ちしていた部活がチェス部だったとは。しかもどちらも部長をしているなんてな」

 

「ラファエル"先輩"じゃなくて、ラファエル"様"ね。この国の王子様なんだから、先輩呼びはだめだよ。」

 

 マリアは俺をたしなめが、そう言われても部活の先輩を様付けして呼ぶ方が気が引ける。それに、俺は以前からラファエル先輩と呼んでいるが今のところ本人からのお咎めはなしだ。

 

 

 

「ラファエル様を見つけたらテニスの自主練に付き合ってもらうの?」

 

「ああ、自主練でコートを使うには部長か副部長についてきてもらわないとダメだからな。しかも、ラファエル先輩はテニスがかなり上手いから練習相手としても申し分なしだ」

 

 ラファエル先輩と直接試合をしたことはないが、プレイは何度か見ている。正直、セミプロレベルはあるのではないかと思うほど上手い。元の世界の俺が試合をしても勝てるかどうかわからないレベルだった。

 

 彼のことはあまり好きじゃないが、練習相手に申し分ないというのは紛れもない本心だ。

 

 

 

 

 

 

 マリアは中庭を見渡して、校舎の方向を指さした。

 

「いた! あそこじゃないかな?」

 

 マリアの指さした校舎は一階がテラスになっており、暖かな初夏の日差しが差し込んでいる。

 そのテラスにはいくつか丸くて白いテーブルが並んでいて、それぞれのテーブルではチェスの勝負が行われていた。

 

 あれはチェス部の部員だろうか。

 

 少し見渡すと、その中にひときわ輝く金髪男をすぐに見つけえることができた。ラファエル先輩だ。

 

 

 

「ラファエル先輩!」

 

 俺は大声で名前を呼びながら駆け寄る。

 

 ラファエル先輩の周りにいた人達は駆け寄ってきた俺に驚いた様子だ。けれど、当のラファエル先輩は相変わらずの穏やかな視線をこちらに向ける。

 

「やあ、ケイ君。こんなところに来てどうしたんだい?」

 

 ラファエル先輩の近くまで来て、先輩がチェスの対局中であることに気づいた。

 ……邪魔しちゃったかな、まあいいや。

 

「俺、今日テニスの自主練がしたいんですけど、もし良かったら先輩も来てくれませんか! ていうか、先輩が来てくれないとコートが使えなくて」

 

「ああ、なるほど。君は相変わらずテニスへの情熱が凄いね。でも申し訳ないが、今日はチェス部の活動日なんだよ。私はチェス部の部長だからね、部長の私が他の部の自主練を優先するわけにはいかないさ」

 

 やはりそう来たか。その回答はこちらも予想していた。

 

 …………予想はしていたが、それに対する策は何も用意できていない。

 

 俺は誠心誠意お願いをすることにした。

 

「そこを何とか! 1日だけで構いませんので! お願いします!」

 

 俺はラファエル先輩にすがるように頭を下げる。思いつく方法がこれ以外になかった。

 

 すると、ラファエル先輩の対面に座っていた女性が声をかけてきた。

 

「ケイ、少ししつこいのではなくて?」

 

「あ、あれ? お蝶先輩!? どうしてテニス部のお蝶先輩がチェス部に交じってるんですか?」

 

 どうやらラファエル先輩のチェスの相手はお蝶先輩だったようだ。お蝶先輩は対局を邪魔されたのが不服なのか、いつも通り力強い目でキリッと睨んでくる。

 

「あー、えっと、お蝶先輩も一緒に自主練します?」

 

「ハァ……。あなたの自主練習の誘いを受け続けて、あたくしここ数日テニスしかしてなくってよ。あたくしにはチェス部の副部長という立場があります。だから、これ以上テニスだけをするわけにはいかないわ」

 

 お蝶先輩の言うように、あの試合の日から毎日自主練に付き合ってもらっていた。最初はやる気のある後輩だと可愛がってもらっていたが、今では少し避けられている気がしていた。

 俺はただ、毎日毎日朝から晩までテニスに誘っているだけなのに………。

 

 

 お蝶先輩がまた文句を言おうとしたところ、ラファエル先輩がそれを遮る。

 

「どうやら私が頷くまで帰ってくれそうにないね。では、こういうのはどうだろう。私とチェスで対局し、もしケイ君が勝てば対局後すぐにテニスの自主練習に参加しよう。ただし、もし君が負けたらコートを使っての自主練習は諦めてくれ」

 

「いいんですか!? ありがとうございます!!」

 

 なんとありがたい提案なのだろうか、俺は内心でガッツポーズをした。

 

 ダメ元で誘ったラファエル先輩を交渉のテーブルにつかせることができた、しかも交渉方法はチェスときた!

 ちょうどノバクと特訓した成果を誰かに試したいと思っていたところだ。

 

 

 

 ラファエル先輩の話を聞いたお蝶先輩はムスっと頬を膨らませる。

 

「あら、ラファエル様。許嫁(いいなずけ)である あたくしとの対局を放棄して、ケイとの対局を優先されるのですか?」

 

「もちろん、君との対局を放棄などしないさ。次は私の番だったよね。」

 

 ラファエル先輩はお蝶先輩に向かって不敵にほほ笑むと、盤上の駒をすっと動かす。

 

「チェックメイト。これで私の勝ちだ」

 

 

 

 ………なんだそのイケメンムーブ!?

 

 

 

 

 

 どうやら決着がついたようだ。周りにいたチェス部員たちが驚きの声をあげる。

 

「そんな、あたくしは既に負けていたのですね!」

 

 お蝶先輩はラファエル先輩の一手に衝撃を受けていた。

 

 「ああ、なんてことでしょう…」「マーガレット様、お気を確かに」とチェス部員の女子生徒がお蝶先輩に寄り添う。

 

 彼女たちはお蝶先輩の取り巻きだろうか。

 

 ……というか、お蝶先輩の本名はマーガレットというらしい。毎日テニスに誘っていたが今日初めて知った。でもダメだ、お蝶〇人のイメージが強すぎて本名を覚えられる気がしない。

 

 

 

 お蝶先輩は席を立つと、空いた椅子を俺の方に向ける。

 

「仕方ありませんわ。この席はケイに譲ります」

 

 こうして、俺とラファエル先輩との真剣勝負が始まった。

 

 チェス部員たちは興味津々で俺たちの対局を取り囲みだした。

 

 

 

 

 

 このチェス勝負で勝てばゲーム攻略になるのではないだろうか――――対局の直前、ふとそんな考えがよぎる。

 

 なにせ、このゲーム世界はチェス普及率100%の異常な王国が舞台なのだ。乙女ゲームというのはコンピューターとチェスで戦うゲームなのかもしれない。

 もしそうであれば、この対局で勝つことがラファエル先輩の攻略――――つまりはこの乙女ゲーム世界の攻略といえるだろう。

 

 ―――――俄然、負けるわけにはいかなくなった!

 

 

 

 先手の俺は"キング"の前の"ポーン"を1マス前進させた。"ポーン"は将棋の"歩"と同様に1マスずつ前進させるしかない。

 

 後手のラファエル先輩は"クイーン"の前の"ポーン"を摘まんだ。…そして、2マス前進させた。

 

「…え?」

 

「…ん? どうしたんだい?」

 

 思わず声が出た俺に対し、ラファエル先輩は疑問で聞き返す。

 

 どうしたもなにも"ポーン"は1マスしか進めないはずだ。ノバクから教わったのだから間違いない。それなのに、いきなり2マス進めたのだ。

 俺は周りのチェス部員たちを見渡した。ラファエル先輩のいきなりの暴挙に俺と同じように疑問を感じているはずだからだ。

 

 ところが、彼らは特に反応はない。

 

 …あれ?

 

 

 俺は振り向いてマリアを見る。

 

 マリアは「どうして急に振り向いたの?」といった表情で見つめ返してきた。

 

 

 周りの反応を見る限り、どうやら"ポーン"が2マス進んだことはルールの範疇らしい。

 

 ……ローカルルールだろうか。

 

 俺が元の世界でよくやっていた麻雀も地方によっては微妙にルールが違ったりするものだった。そういう事もあるのだろう……。

 

 よくわからないが、このチェス部のルールでは"ポーン"は2マス進めるらしい。

 そうと分かれば利用しない手はない。

 

 俺は先ほど動かした"ポーン"を今度は2マス前進させた。

 

「…え?」

 

「…ん?」

 

 今度はラファエル先輩が声を出した。つられて俺も疑問形で返す。

 

 何故か周りもざわざわしだした。

 どうしたのだろう?

 

 

 すると、マリアが慌てて俺の耳元で話しかけてくる。

 

「ケイ君、その"ポーン"は2マス進めないよ! 1マス戻して!」

 

「どういうことだ? さっきラファエル先輩は2マス進めたじゃんか」

 

 俺の質問にマリアは頭を抱える。

 

「ああもう! ルール知ってるんじゃなかったの!? 今ここで説明する時間はないから、とにかくケイ君は2マス進めないで! あと、ラファエル様の手には文句を言わないで!」

 

 ルールはノバクから教わったんだ、もちろん知っている。しかし、ラファエル先輩は許されて俺は許されないのはどういう理屈なのだろう。

 

 

 ……もしかして、ラファエル先輩が第一王子だから許されているのか!?

 

 ……多少ルールを曲げても、ラファエル先輩が王族だから周りのチェス部員は黙っているのか!?

 

 この闘いは真剣勝負だというのに、この先輩は何て卑怯なのだろうか。許せない!!

 

 

 

 

 俺は"キング"で敵陣に攻め込むキング無双作戦を実行した。俺の"キング"が単身で攻め込むたびに、なぜか周りのチェス部員たちがざわつきだした。

 

 ラファエル先輩は着実に"ポーン"を進めて攻め込んできた。 

 

 信じられないと思うが、"ポーン"で斜め前のマスにある俺の駒までとりだすというルール無用っぷりだった! …………無茶苦茶だなこの王子!!

 

 

 

 この対局は、なぜか10ターン程度で俺が負けたことにされた。

 

 

 "クイーン"は取られていない。

 

 ……俺はただ"キング"を取られただけなのに。

 

 

 

 対局が急に終わったので呆然としていると、ラファエル先輩は真顔で俺に向かって問いかけてきた。

 

「ケイ君。君はどうやってこの学園に入学したんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「俺さ、チェスプレイヤーとしての才能に目覚めたかもしれない!」

 

「今新しい戦略を考えてるんだけどさ、チェスって奥が深いよな!」

 

 教室での彼の言葉は何だったのだろうか。

 

 

 

 ラファエル様とのチェス対局は、ラファエル様ルートでは必須のミニゲームだ。

 

 もしラファエル様に勝てば「驚いたな。まさか私が負けるとは」と言われ、ラファエル先輩の好感度が大きく上昇する。

 負けてもよほどひどい対局をしない限りは「…ふふっ、おもしろい女」と評価され、好感度はやや上がる。

 

 普通にやっていれば好感度が上がる、簡単なイベントだと思ってた。

 

 

「まさかチェスのルールを知らないまま挑むなんて、想定していなかったぁ~!」

 

 

 話したじゃん! 

 

 こうならないように、休み時間にチェスの話たくさんしたじゃん!!

 

 

 チェス勝負があった夜、マリアは自室で1人頭を抱えた。




 チェス編終了!
 ちなみにですが、ノバクが教えているチェスのルールはほぼ間違いなので信じないようにしてください。

 次回は新編です。俺様系な話になる予定です。
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