乙女ゲームに転生した体育会系男子   作:瓜売り

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 新編開始です。


ボクシング編
決闘のしきたりとか知らんよ…


 大学の男子テニス部で合宿をすることになり、俺は合宿係に任命された。

 

 ちょうどバイト先の友人がテニスサークルに所属しており、彼もサークルで合宿係をしていたらしいのでアドバイスをもらうことにした。

 

 友人の名前は修造(しゅうぞう)といつ奴だ。

 

 

「やっぱみんなが楽しめるゲームの準備だな!例えば、ビンゴ大会とかするんだったらその景品とかな。

 まあ、酒と紙コップがあれば、王様ゲームとかの飲み会定番のゲームが始まるから特に準備しなくてもいいんだけど」

 

 合宿で飲み会? 王様ゲーム? 修造は何を言っているのだろうか。

 そもそも男だけで王様ゲームなんてして楽しいわけがない。

 

 

 ……ああ、そうか。彼らは部活ではなくサークルだったな。

 ……そうだったな。

 

 

 

「あとは泊まる場所の予約と車出せる奴の確保くらいかな。 え? ラケットとボール? 持っていくわけないじゃん。お前ら合宿まで行ってテニスするの?」

 

 

 ……ああ、そうか。こいつらはテニスの皮をかぶった、飲み会サークルだったな。

 ……そうだったな。

 

 かわいい女子を入会させるため名目上はテニスサークルとなっているが、実態はただの飲みサーだったな。

 

 

 こういう奴らを何かしらの法律で裁くことはできないのだろうか。

 

 アドバイスをしてもらってなんだが、俺は修造をどう裁こうか迷っていた。

 

 

「お前らテニス部だって、合宿で女子と飲み会くらいはするだろ?」

 

 

 次は法廷で会おうと固く誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぢぃ~ ! おいケイ! ジュース買ってこい!」

 

 本格的に夏が始まりそうな暑さの中、部活の練習もひと段落ついて休憩時間になった。すると早速アシヅカ先輩が俺をパシリに使おうとする。

 

 アシヅカ先輩は3年で鋭い目つきとでかい鼻、二重あごが特徴の先輩だ。髪は金髪をツンツンに立てており、ガタイはエチゴ先輩よりもでかい。

 

 

「ああ! じゃあ俺の分もよろしく!」

 

 エチゴ先輩も合わせて注文してくる。

 

「うす! お二人とも、スポーツドリンクでいいっすか?」

 

 いかつい顔にガタイの良さ。アシヅカ先輩とエチゴ先輩は何かと似ているところが多い。

 ……後、新人いびりをするところとか。

 

 

 ウィンブル学園のテニス部に所属して以来、俺はこの先輩方と一緒に練習することが増えた。

 

 2人とも、他の部員からは「性格がやばい」「終わっている」などと評価されているが、なぜか俺はこの2人といると居心地が良かった。

 

 正直、「性格がやばい」「終わっている」という部分には同意しているけれど。

 

 イケメン、美女がキャッキャウフフと楽しそうにテニスをしている光景を見ると元の世界のテニスサークルの連中を思い出すからだろうか。ここのテニス部員はちゃんと練習してるんだけどな。

 

 

「ケイ! あとはアイスも買ってきてくれ! 俺はバニラのやつな!」

 

「アイスですか、いいですね! じゃあ俺はチョコで!」

 

 アシヅカ先輩の注文に、またもエチゴ先輩が注文を追加してきた。

 

 ジュースもアイスも確か売店で売っていたはずだ。

 

 俺が注文の内容を覚えていると、アシヅカ先輩がエチゴ先輩に怒鳴った。

 

「馬鹿野郎! エチゴ! お前も買いに行くんだよ!」

 

「え? なんでっすか? ケイ一人で充分でしょ?」

 

「充分じゃねえよ! 忘れたのか、ケイは学園一の馬鹿だぞ! アイスの種類を2つも覚えられる訳ねえだろ!」

 

「確かにそうっすね! ケイには難しいか!」

 

 アシヅカ先輩とエチゴ先輩は「だははは!」と大声で笑った。

 

 

 

 な…! ちくしょう!また馬鹿扱いされた!

 

 これで今週10回目だ!

 

 

 

 

 先日、俺はラファエル先輩とチェス勝負をし記録的な早さで大敗した。

 

 どうやら俺は"キング"の単身自殺作戦を決行した、とんでもない馬鹿だと思われているらしい。

 その噂は瞬く間に学園内に広まった。そのせいで、俺は学園一の馬鹿なのではないかと囁やかられるようになってしまっていた。

 

 すべては嘘のチェスルールを教えてきたノバクが原因だ!

 あいつだけは許さん!

 

 

 結局、俺とエチゴ先輩で売店に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 売店についた俺とエチゴ先輩は分担して買い出しを済ませることにした。

 

「自分はジュース取りに行ってきます」

 

「おう、じゃあ俺はアイス取ってくるわ」

 

「エチゴ先輩、自分はチョコアイスを所望します!」

 

「てめぇはのアイスはてめぇで買え!」

 

 エチゴ先輩は俺のケツを蹴り上げた。―――痛い。

 

 

 

 俺はジュース売り場に行きスポーツドリンクを3本手にする。

 

 その直後、少し離れたところで大きな声が聞こえた。

 

「てめぇ! 王子だか何だか知らねぇが後輩だろ!」

 

 その声はエチゴ先輩のものだった。それも誰かに怒鳴っているようだ。

 売店の周りにいた学生たちも一斉に声の方を振り向く。

 

「は? なんだお前。俺様に喧嘩を売っているのか?」

 

 今度は聞いたことない男の声が聞こえた。なにやら揉めているらしい。

 

 

 

 怒鳴り声のした場所に駆けつけると、エチゴ先輩は長身の男と睨み合っていた。周りにいた学生達は少し離れたところから野次馬をしている。

 

 長身の男は銀髪の前髪を大きく立ち上げ額が見えている。肌は褐色で、少し鋭い二重眼でにらみつけている。なかなかの男前なイケメンだ。

 体格はかなりの筋肉質で、ガタイのごついエチゴ先輩とは違い彼は細マッチョの類だ。右手には買い物袋をぶら下げている。

 

 彼をどこかで見たことがある。なんとなくクラスメイトにいた気はするが名前はでてこない……。

 

 すると、エチゴ先輩が長身の男に食ってかかった。

 

「"お前" だと! お前先輩に向かってなんだその口の利き方は! 第二王子だからって偉そうにするなよアンディ!!」

 

 

 第二王子のアンディだった………。

 

 確か第二王子といえばこの乙女ゲーム世界の攻略対象の一人だ。

 まさかそんな奴がクラスメイトだったなんて、3カ月ほど同じクラスにいたはずなのに今まで知らなかった……。

 

 第二王子ということは、第一王子のラファエル先輩と兄弟ということになるはずだ。

 

 

 

 それにしても、エチゴ先輩はさすがだ。相手が王族でもお構いなしに怒鳴り散らしている。怖いもの知らずが過ぎる。

 

 

 すると今度はアンディがエチゴ先輩に詰め寄った。

 

「俺様は偉いから偉そうにしているだけだ! お前こそ学年が上だってくらいで調子に乗るなよ?」

 

 ………聞き違いか?

 コイツ、今自分のことを『俺様』って言ったぞ。

 

 これが本物の『俺様系』というやつなのだろか、それにしても一人称が俺様の人間が本当にこの世にいるなんて。跡〇様じゃあるまいし……。

 

 

 

 もうすでに面倒な予感しかしないが、さすがに喧嘩を放置するわけにはいかない。それに俺はエチゴ先輩の後輩でアンディのクラスメイトにあたる。つまり、喧嘩の仲裁にぴったりの立場なわけだ。

 

 俺は覚悟を決めて、仲裁として二人の間に割り込むことにした。

 

 

 

「まあまあ、エチゴ先輩落ち着いてください。アンディも目上の人に対してその言葉遣いはよくないだろ、謝っとけって」

 

 喧嘩の仲裁をするといったが、そもそもなぜ揉めているのか知らない。そのため、とりあえず二人を落ち着かせようとしてみた。

 ただ、いくら揉めていても目上の人に対して先ほどの言葉遣いはよくないのでアンディには軽く注意だけした。

 

 すると、アンディが俺に怒鳴り返してくる。

 

「なに!? 王族の俺様よりそこの中級貴族の方が偉いっていうのか!?」

 

 そうだった、この世界には学年以外にも王族や貴族といったカーストが存在するのだった。

 

 

 …ややこしいな、この場合どっちが偉いんだ?

 

 

 

 

 この世界のヒエラルキーを知らない俺は、とりあえず低姿勢で対応しこの場を治めることを選んだ。

 

「悪かったってアンディ…様。 ほら、エチゴ先輩も行きましょう!」

 

 俺はエチゴ先輩を正面からグイグイ押す。喧嘩の仲裁をする際、一番効率的なのは当事者を引き離すことだ。

 怒りがおさまてっていないエチゴ先輩は「おい、ふざけんなよ!」とごねていたが、お構いなしにこの場から距離をとらせる。

 

 そんな俺の背中越しにアンディが嘲笑ってきた。

 

「なんだ二人して逃げるのか? お前らテニス部の連中だろ、テニス部の連中ってのは全員お前らみたいに腰抜けなのか!?」

 

 ……こいつ、俺達だけじゃなく部活仲間まで馬鹿にしやがったッ!

 

 俺は振り向いてアンディを睨む。

 

 

「勘違いするなよ。俺が低姿勢で喧嘩を治めようとしたのはお前が怖いからじゃない。お前の兄貴に、―――ラファエル先輩に申し訳ないからだ。」

 

「なに!? 兄貴だと?」

 

 アンディの眉間にしわが寄る。

 

「そうだ。俺はお前の兄貴にテニス部で世話になってる。ここで俺達がお前と揉めたら、ラファエル先輩に迷惑がかかるだろ。だから穏便に解決しようとしてたんだ! お前の失礼な態度を見逃すのはラファエル先輩の顔を立てるためだ!

 わかったら次にお前がラファエル先輩に会った時『お兄ちゃん、ありがとう』ってお礼でも言っとくんだな!」

 

 そう吐き捨てて俺は立ち去ろうとした。

 

「……兄貴の顔を立てるためだと! ……お礼でも言っとけだとッ!!!」

 

 どうやら、俺の捨て台詞は思っていた以上にアンディに効いたらしい。怒りに満ちた彼は噛みしめるように低い声で叫ぶ。

 

 

 

 周りの野次馬たちも彼の怒鳴り声にざわつき始めた。放課後の売店だがそれなりに人は多かったようで、気が付けばかなりの人が集まってきている。

 

 アンディは野次馬たちの様子を気にすることはなくただ俺を睨みつけていた。

 

 そして、彼は宣言した。

 

 

 

「お前、ケイタとか言ったな。()()()()()()()!!」

 

 

 

 

 

 

 アンディの言葉に野次馬たちは騒ぎ立てる。

 

「決闘って… 嘘だろ!」

「しかもアンディ王子が…」

「やばいだろ、相手のやつ誰?」

 

 

 決闘? この世界には決闘文化があるのか??

 

 俺もアンディにはムカついていたところなので、公的な手段で戦えるのならありがたい。しかし、決闘については何も知らない。そもそも決闘とは何をするものなのだろうか。

 

「俺様から決闘を申し込んだんだ。ケイタ、勝負の内容はお前が決めろ! それが決闘の正式なしきたりだろ!!」

 

 

 ………そうなんだ。決闘のしきたりとか知らんよ…

 

 

 

 

 いきなり決闘の内容を決めろって言われても相場が分からない。テニスの試合とかでも良いのだろうか?

 

 

 俺が悩んでいると野次馬の中からヤニクが現れた。

 

 ヤニクは俺に近づき耳打ちする。

 

「おいおいケイ! やばいじゃんか。お前アンディ様と決闘するの?」

 

「ああ、そうなるみたいだ」

 

 ヤニクは恐らく俺と同じで練習の休憩時間に売店に来ていたのだろう。そして、先ほどまで野次馬の中に紛れていたらしい。

 

 …来ていたのなら、喧嘩の仲裁手伝えよ!

 

 

 俺はヤニクを恨めしそうに睨むが、ヤニクは珍しい出来事に心が躍っているのか妙にテンションが高い。他人事だと思いやがって…。

 

 これ以上ヤニクを睨んでいても仕方がないので、俺は決闘について聞いてみることにした。

 

「なあ、ヤニク。決闘の内容ってどんなのがあるんだ?」

 

「そうだな、よくあるのは魔法勝負、チェス、剣闘、ボクシングとかだな」

 

 ヤニクは4つの選択肢をあげた。俺はその中から無難そうなものを選ぶことにした。

 

 まず魔法勝負は論外だ。なぜなら俺が魔法を使えないからだ。

 魔法勝負の具体的な内容は知らないが、魔法を使えなやつが勝てるルールではないだろう。

 

 次にチェス、これもだめだ。

 ノバクから適当なルールは教えられたが結局正しいルールは教わっていない。

 

 

 残りは剣闘かボクシング。

 

 どちらも痛みを伴うこと必須だが、剣闘の方が武器を使う分より危険な気がする。

 

 ―――――となると答えは一つだ。俺はアンディに向かって答えを出す。

 

 

 

「決闘の内容はボクシングにしよう」

 

 その言葉を聞いたアンディはさらに眉間にしわが寄る。

 

「ボクシングだと!? 随分と挑発してくれるじゃねぇか! 俺様がボクシング部だと分かったうえで選んだんだよなぁ!」

 

「え? そうなの? お前の部活とか知らんよ……」

 

 

 

 こうして俺とアンディは決闘を行うことになった。

 

 

 

 あれ? 俺は喧嘩を止めようとしていたはずなのに…




 ボクシング編突入!
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