高校2年生になった僕こと清井啓は亡霊に取り憑かれた。正直取り憑かれたのは自業自得だが後悔はしていない。
意外なことに日常に変化はあまりないが、取り憑かれて初めて分かったことがある。それは授業中に視界内で動かれるのは厄介だと言うことだ。
どこに行っても視界の中に亡霊が居るから、誰かと話す時目線が変なとこにいかないように我慢して、亡霊とキスしそうな距離になっても動揺しないようにポーカーフェイスをしなければいけない。
正直言ってかなり疲れる。
そう疲労を抱えながら弁当を片付ける。
「なぁ啓、旧校舎の亡霊の噂知ってるか?」
「まさか君までその噂を信じているのかい秀」
「違う、だがこんな噂を流されていいのかよ!」
幸いにもここは屋上に行くための階段だから人が滅多に寄りつくことはない。それにたとえ人が居ても耳を澄まして聴いている生徒がいなければ聴かれることもない。
そんなことをわかっているからこそ秀はここでその話題を出したのだろう。
「啓、お前だって犯人が誰か知りたいだろ」
「亡霊ねぇ、犯人じゃなきゃあって見たいけどなあ」
「・・・悪い」
「気にするなよ」
最近の校内はこの手の話が尽きない。だが理解はできる。この学校内でも美人として人気が高かった生徒、白鳥透華。彼女は三週間前、この学校の離れにある旧校舎で亡くなったのだ。
第一発見者は彼女の友人鐘鳴響と部活の後輩である僕。死体を見つけた時、半狂乱になった鐘鳴先輩は今もカウンセリングを受けている。
当然のことだろう。友人の死体を目の当たりにしてしまったのだから。
事件現場は旧学校の一室。窓や扉は施錠されており、彼女は仰向けに倒れていた。扉の鍵は本人の手の中にあった。死因は心臓をアイスピックで刺されたことによる失血。
僕と響が部屋に訪れた頃にはもう息をしていなかった。ここまでならただの自殺で終わったのだろう。
だが、当時白鳥透華は利き手の右腕を骨折しておりギプスをした状態であった。左手に鍵を持ったまま鍵に血を付けず自殺できるだろうか?
無理だ。片手に手のひらサイズの鍵とアイスピックを同時に持ち、利き手と逆の手で自分の心臓を貫けば確実に鍵に血がつく。
それに白鳥蒼華には自殺する勇気がない。
そのため学校の教師や関係者が犯人、旧校舎の亡霊の呪い、あまつさえ殺された被害者が亡霊として夜な夜な彷徨っているなんて噂がが飛び交っている。
「だが犯人は旧校舎の亡霊じゃあないのかって、好き勝手噂してる。」
「確かに部屋は密室且つ被害者本人が鍵を手にした状態で死んでいた。」
「しかしだ、白鳥先輩の胸部にはアイスピックが刺さっていた。それも真正面から」
白鳥透華を発見した際、彼女には抵抗した跡や争った跡がまるでなかった。亡霊だというなら無抵抗はまずないだろう。取り乱した痕跡や逃げようとした形跡が必ずつく。
だからこそ真正面から致命傷を負ったのなら、必然的に白鳥透華と面識がある人物となる。
そのことをこの友人は理解している。
「そうだ。だから犯人は絶対に人間だ。決して亡霊なんかで片付けていいことじゃない。」
「・・・そうだな」
しかし、秀は分かっているはずだ。白鳥透華と面識がある人物で親しいものの一人に僕が含まれている事を。それでも、秀は僕をその犯人候補から除外している。
しかし、事件当時の自身の行動あまりにも落ち着いた行動であった。警察や救急車の手配、被害者の生死の確認を冷静にこなした。そのため、お巡りさん達は僕が事件について何か関わっている又は、知っていると踏んで捜査している。
だからなのか、事情聴取の際もかなり疑い深く聴かれることとなったし、疑いがはれない限り次の事情聴取もかなり厄介なことになるだろう。
このため、僕は現在学校でかなり孤立している。流石に表立って犯罪者呼ばわりする者はいないが、陰ではかなり言われているのを知っている。
だから、秀のようにいつも通り接してくれるのはすごい助かっている。
「優しいね...秀は」
「当たり前だろダチなんだからよ」
バシバシと背中を叩き秀は笑い、予想外の威力に叩かれた少年はゲホゲホとむせる。
先ほどまでの殺気だった雰囲気はどこかへ、そうしてチャイムがなるまでの時間をたわいもない話しで盛り上がったのである。
午後の授業も終わり多くの生徒が部活へと向かい、教室は一気に活気を失った。もう少しで梅雨時期となるゆえか、空気は少し重く感じらなれる。
ふと空を見上げた。頭上には黒雲が垂れ込めていた。
「・・・雨が降るかもな、早く帰るか」
教室を出ようとした直後、ポケットの中に入れていたスマホがカタカタと震える。
「もしもし、どうしたんだ?」
教室にはひどく楽しそうでどこか哀愁がする声がただ一つだけ響いた。時には失笑し、怒り、拗ねた声が人のいない階層に少しの間存在した。
外では大雨が地面を濡らし、その音だけが校舎を支配している。
やがて自然の音しか存在しない無人の建物に足音が混ざる。建物外では雷鳴が響き、まだ雨が止みそうにないことを主張している。
「雨、急に降ってきたなあ。お母さん早く迎えに来てくれると良いけど...」
旧校舎、約3週間前に姉が死んだ場所。雨が降ったからつい中に入ったけど、亡霊の噂が目立つようになってからは先生達ですら今は寄りつかない...
それもそうだろう。こんな古い校舎で人が死んだのだから怖くて近づけないのも当たり前だ。
伽藍とした校舎に足音が響く。老朽化の進んだ建物は先へ進むたびに、古い床特有の音が鳴り、その音を雨が打ち消していく。
私は姉が死んでから1回もここに足を運んでいない。単純に亡霊に怯えていたのもあるけれど、一番の理由は姉さんと仲が良くなかったからだ。姉さんは完璧で美しくて私より人付き合いが上手だった。
嫉妬しなかったと言えば嘘になるけど、そんな感情より憧れの方が強かった。尊敬できて優しくていつも私のことを気にかけてくれた。だから、私は姉さんを追ってこの高校に入学した。
でも、最近はうまく話せなくなった。うまく言葉にはできないけれど避けられてるような気がした。そんなことがあったからか私はどう話せばいいのかわからなくなってた。
それからお互いにあまり話さなくなって、そんな折に姉さんは殺された。
そこからは怒涛だった。私たちは姉さんが死んだことに悲しんで泣いて、葬式を終えた今だってまだ信じられない。
それに犯人はまだ捕まらない。現場には何も証拠が無くて現場は密室。警察の人は手詰まりで唯一わかるのはアイスピックで殺されたこと。
校舎を一人登りこの建物最後の階へと進む。やがてあまり使われてない部屋特有の埃やカビの匂いが辺りに漂い始め、少女の眉を顰める。
壁には蜘蛛の巣と巣に積もった埃。かつては人手溢れていたことが一目でわかるほどの教室が彼女を迎えた。
「えっ?」
考えや雨音に気を取られ気づかなかった。人の声が聞こえる。どこか楽しそうでそれでいて哀愁のただよう声が、誰もいな筈の校舎に存在していた。
ここは現在誰も寄りつかない場所なのに。
事件の調査、現場の清掃と封鎖が行われてからはほとんどの人が寄り付かない。ここは旧校舎の三階で部室として利用されるてるのは一階である。
まさか肝試しに来た生徒?
疑問や疑念、恐怖を殺して前へと進む。
手には力が入らず背中は冷たい汗が長流れる。音を殺すため屈んで進むが床はギチギチと音を鳴らし、その音がより一層の恐怖を高める。やがて音の地点へと辿り着く。
声が消える。
鼓動が自身から流れ出ているのではないのかと錯覚するほど自身の内側から溢れ出る。引手に手をかけ金属特有の冷たさに臓物が引き締められるような痛みが走る。
呼吸を整え開けるため勇気を振り絞る。
「誰だ?」
急に声を掛けられた驚きから体が強張るも聞き覚えのある声に驚愕する。やがて自身のしていた行為に恥ずかしさのあまり今までの寒さが熱へと変わる。
「白鳥遥香?」
戸を開いた先にいたのは背が高くどこか浮世絵離れした容姿の整ったここの生徒であり、姉の恋人がそこにいた。
「清井、けいさん?」