対魔忍世界に移住するので、対魔忍達を守護りたい   作:槍刀拳

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序章 対魔忍世界に移住するので、対魔忍達を守護りたい
Attack0 『修羅の再訪』


井河アサギは頭を抱えていた。

 

 五車学園の校長であり、五車町の最高責任者。

 井河アサギの頭痛と胃痛と腸通の新たな悩みの種となっているのは、校長室へ訪れた1人の女性の存在だった。

 彼女は突然、脈拍もなく校長室に訪問しては“私を対魔忍達の救助部隊に配属させてほしい”と申し出てきたのだ。

 

 それは対魔忍でも、ましてや魔族でもない。

 何処にでもいる一般人に見える——服装から滲み出る思想が右の方に強めであることと、長身ではあるが人間の女性だ。

 ただそれ以外に他と少し異なることがあるとすれば、彼女は未来のゆきかぜのように別の次元から対魔忍世界に訪れた来訪者であること。

 対魔忍側でもまだ彼女の能力について、全容を掌握しきっていないことだろうか。

 

 もちろん、この突然の外部の人間の突飛な訪問に対魔忍達が里の総本山の中核、天守閣で例えるところの本丸までやすやすと侵入させるほどの杜撰な警備体制ではない。

 

 されど彼女が一般人の身分であったとしても、このように何も問題も起きなかったかのようにアサギと会うことができたのは過去に成し遂げたできごとによって、他の対魔忍達が油断しているところへ五車学園に入ったあとに強行突破してきたこと。

 実のところ彼女が対魔忍世界に来訪したのは今回で二度目であり、既に顔見知りであったこと。

 その過去のできごと成し遂げたというものも対魔忍では太刀打ちできない事態に陥った際に強力な助っ人として友好的な存在であったことなどが重なってやすやすと本丸まで乗り込ませてしまった一因としてある。

 また初回時に来訪した短い期間で他の対魔忍学生達と友好的な交流を済ませており、今回の五車町への来訪に対して他の対魔忍達に2度の来訪について疑念や違和感を与えなかったことなども重大インシデント発生の要因として挙げられるだろう。

 最初の来訪時には、ある人物の親友に当たる存在としてアサギも彼女が敵対存在ではないことを事前に周囲へ通達してもいた。

 

 無論、対魔忍育成学園である五車学園としても、前回のような異常事態でもないにも関わらず五車の彼女の2度目の来訪に際しては……温かく出迎えたこともあったのだが。

 応接間にて今回の来訪に関して要件を尋ね、この突飛もない申し出を断り丁重に引き取ってもらおうとはした……。

 だがアサギに対してどうしても一度だけ謁見させて頂き、本人に直接要件を告げると言い出し――

 

 学園内にて制止する対魔忍を、文字通り“殴り倒して”校長室にやってきた。

 

 応接間で対応を行った生徒指導部の蓮魔(はすま) 零子(れいこ)、蓮魔を慕っている黒田(くろだ) (ともえ)、尋問官の津島(つしま) 優紀子(ゆきこ)、訓練生の板知屋(いたちや) 小町(こまち)、任務から帰還していた眞田(さなだ) (ほむら)。そしてアサギの右腕である八津(やづ) (むらさき)までもが鎮圧に出動したが……。

 この武闘派や教師や現役対魔忍陣で止めることが出来ていれば、校長室までの侵攻を許しているわけがない。

 

 今、この思想強めで高身長の女性に立ち向かった対魔忍達は全員——

 きれいに廊下で気絶して(のびて)いる。

 

 武闘派な対魔忍以外にも、支援や妨害を得意とする対魔忍。

 ふうま 時子(ときこ)高坂(こうさか) 静流(しずる)井河(いがわ) さくらも校長室目指して直進する修羅の対応へ出向いたことには出向いたのだが……。いずれも、この逸般人を静止させる有効打にはならず……。

 総勢9名の対魔忍の中では善戦した井河さくらでさえも、2度目の来訪である彼女を支援する他の対魔忍の妨害によって手を引かざる負えない状況となってしまった。

 

「…………不躾なお願いであること。また道中での行いは無礼極まる非道であったことは承知しております」

「……」

「…………ですが、実力自体は充分であると前回——そして今回を踏まえ井河校長先生も確認できたと思います。私と致しましては年間、失踪する対魔忍の数に対して、対魔忍組織が解消すべき問題を同時に解消できる一助となりたいと考えております」

「……」

「…………井河校長にも断られてしまった時は、私も諦めます。それにいくら実力を確認して頂く機会になったとはいえ、私も守護る(まもる)べき対魔忍組織に対してあってはならない弓を引く行為に及んだのですから、本事態を招いた如何なる処罰も受けます」

「……」

「…………ただ」

「……」

「…………ただ私がここに来るまでに私を支援してしまった対魔忍達は無関係です。私が彼女達をそそのかし、私が《術》を用いて味方につけただけで犠牲者です。私が死ぬことができれば、〈魅惑〉の《術》は解け必ず正気に戻ります」

 

 異世界から来訪した彼女は解答を決めあぐねているアサギに対して、淡々と機械のような感情が何処か欠けているかのような冷静な口調で告げる。

 その目は地獄丸アキラの如く、黒く暗い深淵だけが鋭い目つきの中でドロドロとおごそかにとぐろを巻いている。

 しかしその目の中には自己の処罰を案じるというよりも、さくら戦で自発的に彼女に協力し妨害した対魔忍を庇う真摯なものでもあった。

 戦艦クラスの眼光と評するに値するほど、思わず目を逸らしてしまいたくなってしまうような厳つい視線ではあったが、アサギもまた対魔忍の救助部隊に組み込んでほしいと言ってきたただならぬ逸般人の目を見つめ返す。

 

「……いいでしょう」

「…………!」

 

 アサギの肯定にも相槌にも取れる返事に、ピクリと一瞬であるが彼女の表情に変化がある。

 希望が灯ったかのような嬉しそうな表情だ。しかしすぐに引き締まった表情になる。

 

「実力に関しては申し分ないことはわかりました。こんなことはしなくても最初の来訪で実力は知っているつもりだったけど……。仮に貴女は私が断っても単独でこの世界に滞在し、失踪した対魔忍の救助に向かうでしょう。それこそ人魔結託した企業を排除するつもりで——」

「いいえ。“排除するつもり”では済ませません。対魔忍や日本国を明け渡そうとするモノノケや支那、国賊、売国奴、非国民、不法滞在者は一匹残らず殲滅します

 

 沸騰した熱湯から湯気が湧き上がるように彼女から鋭い殺気が漏れる。

 これまでは常に一呼吸を置いて話をしていた彼女からは考えられないほどの素早い返答。

 

「っ」

 

 アサギもこれには言葉を詰まらせる。

 その狂信にも近い愛国心で溢れた眼光は、一睨みしただけで人をも殺せるような冷徹なものへと変貌する。

 明らかにアサギや他の対魔忍に見せていたものとは異なる。

 最初の来訪でも見たことも見せたこともない強い殺意。

 戦国時代の武士のような人殺しを厭わない修羅の眼。

 手綱を握ることができるのならば、決して手離すべきではないと直感で理解できる眼。

 

「——対魔忍としてもあなたのような存在を野放しにして、現地でぶつかり合うことは望んでいません」

「…………はい」

「国家として正式には認めることはできませんが、私の指揮の元でよいのであれば貴女を採用します」

「…………ありがとうございます」

 

 深々と。

 先ほどまで異常なまでの殺気を放っていた逸般人はアサギに対して頭を下げる。

 それも一瞬の礼ではなく、天皇陛下へお辞儀をするような敬意に満ちたもの。

 

「ふぅ…………」

 

 彼女との視線が切れたところでアサギは小さな溜息をついた。

 対魔忍が総がかりで刃の立たなかった逸般人が敵側へとついた時の脅威と、この手の似た問題はアサギとしてはいくつか抱えているためであった。

 

 




~あとがき~
 アレのスピンオフです。
 初の3人称視点で書き方で描いてみたい小説です。

 1月から本格的に投稿します。

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