「…………」
要救助である対魔忍の他にふうまの救助も考慮した彼女は、そのまま室内に入るわけではなくオークの頭で叩き割った窓の部屋を外から眺める。
それから壁に取りつき2階の割れた窓の部屋まで、雨どいや壁の出っ張りを使って
スマートな忍者とは異なり、ミシミシと壁材の音を軋ませながら。
「…………よっこい、しょういち」
雷が壁を
雷の位置から最も離れた場所で、ふうまがうつ伏せに倒れ。
中型ナイフ相当の脇差を持った全裸の女がオークの頭を抱えながら泣き散らし。
中肉中背の男はイスからずり落ちて絶句のもと失禁している。
前脚と牙がやけに発達した犬だけが雷に前身を低く屈め飛び掛かろうとしているところだ。
「…………ごめん。錯乱させるつもりはなかった」
「バウバウバウッ!!!」
窓枠から侵入し自身の主に最も接近したた巨女に対し、魔界製の番犬が飛び掛かる。
「あっちいけ」
だがそれも雷にとって羽虫を潰すようなものだったのだろう。
噛みついてきたところを躱しすれ違い様に首輪を掴んで、自身が入ってきた窓枠から魔犬を地面めがけ遠心力を付けて叩き落とす。
「――――キャィン!」
ハンバーグがまな板の上で叩きつけるような音と、犬の断末魔が階下から一つ。
「いやっ!いやぁああぁぁああああっ!」
「あっ。あ。ご、ごめん。アレも貴女のペットだった? 邪魔だったから殺しちゃった……」
「ひぃああああああああっ!??!!」
犬が窓から投げ捨てられたことで、膝から崩れ落ちていた要救助対象の対魔忍が叫ぶ。
まるで予期しない第三勢力、悪鬼羅刹が乗り込んできたように室内の混乱は勝手に悪化していく。
「え、えっと。だ、だだだ大丈夫?」
「…………」
「ど、どどどどうしよう。よ、よう、よよ要救護者を錯乱させちゃった。静かにさせても良い?」
「…………」
「承知。黙らせる」
ふうまの沈黙を肯定と受け取ったのか、雷はそのまま腰を抜かして失禁している男の横を通り過ぎ、振るえた手で中型ナイフを握りながら刃先を窓枠から現れた対魔忍とは異なる巨女に突きつけている要救護者の方に歩みよる。
突きつけられた中型ナイフをゆっくりと刃先を握りしめて、女性対魔忍の手から木刀を取り上げるみたいに引き剥がし窓の外に放り投げる。もぎ取った拍子に指が切れて鮮血が滴り、〈投擲〉した拍子に天井に血がへばりつく。
「…………温かい……」
自身の切り傷から湧きだしていく血を掌でぬるぬると触わり、生きている実感を楽しむようなことを呟く。
「こ、来ないで!異常者!」
「あ…………え、えっと、わたしは敵じゃないです。あなたを助けに来ました。」
「殺して救済するってこと!?」
「ち、違。わ、わたしは非公式の対魔忍です」
「非公式の対魔忍って何!? すぐに助けに来てくれなかったくせに!用済みだから?!抜け忍だから殺すのね!?嫌!いやよ!死にたくない!死にたくない!」
「お、
「うっ――」
インプレゾンビや中国商品のようなエキサイト日本語と、雷が何を喋っても口下手なせいで、どんどんパニックに陥る要救助対象者。
そんな彼女の首筋にオーク達に放った〈こぶし〉よりもかなり優しめの手刀が刺さる。
そのまま鼻元に指を当てて彼女が生きているかどうか確認しているが、大丈夫そうだ。男汁と本人の分泌液で大変なことにはなっているが、命には別条はない。
「…………それで……」
「ひぃっ」
「そこに居ろ。動くな。動けば殺す。…………あ、大丈夫。今回は隊長がいるから……指示を仰いでからにするね。ってこと……貴様が非国民でなければ怯える必要はない」
伸びた要救護者の対魔忍を肩に担いで、そのままふうまの元に近づいていく。
ふうまは相変わらずフローリングの床に突っ伏したままだ。
「…………ふうま君? あ。……ふうまさん?」
「」
「…………ありゃりゃりゃ?」
雷は血濡れた右手で顎をV字に触るように撫でながら、左手でふうまを揺する。
しかし起き上がらなければ返事もない。それどころかふうまの髪が雷の血で赤くなっていく。
どうやら要救助対象者と同じように、気絶している。
「…………ありゃー。どーしよ」
ふうまが伸びたことで次の指示を仰げず、ポツンと取り残されることになる。