対魔忍世界に移住するので、対魔忍達を守護りたい   作:槍刀拳

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Attack10 『ド地雷』

 

「…………どうしよう……。井河先生の任務としては要救助者を助けること。でも、そのあとのこと段取りについてはまだ教わってない……」

 

 チラリとまだ残された家主に視線を向ける。

 家主は自分も雑に殺されるか、もしくは雑に気絶させられるかデッドオアアライブな選択肢を目前に膝をガクガクと小刻みに動かす。

 

「こ、交渉……! 交渉はできるか!?」

「…………ん?」

「金に興味はないか!? このまま私を見逃してくれたら、使いきれないだけの金をお前にくれてやるぞ!」

「…………具体的な金額は?」

 

 雷は要救助者の対魔忍を肩に背負ったまま男に近づいていく。

 割れた窓から入る風が、バサバサとたなびかせ不穏感を煽らせる。

 月に照らされた彼女の影が長く悍ましい怪物のように伸びていく。

 

「す、すぐに用意できるだけでも6、い、いや8億!」

「8億……」

 

 雷の食いつきに男は下品な笑みを浮かべてすり寄ろうと。なんとか命だけは助けてもらおうとゴマをするような手もみを始める。

 

「たった8億か……」

「たった!? い、いよし不満なら送金日数は要するが、10億でどうだ!?」

「ん? 自分の命を〈値切り〉してたの?」

「しっ、してない。してない! 即日入金できる金額を提示しただけだ!」

「…………ふーん?」

「お、お前はいくらなら! い、いくらなら見逃してくれるんだ!?」

「5000兆円」

「……へぁ?」

「5000兆円ほしい」

 

 モラルも秩序もない法外な金額に男は目を白黒させる。

 5000兆円とまるで国家予算をはるかにしのぐ金額。払える訳もない。

 

「…………できないなら全資産」

 

 無理難題の加減を知らない要求に男は口をつぐむ。

 そんなことをすれば男は、というよりも誰でも破産する。

 オークを雇っている以上、この男も魔側に足を踏み入れており小物ではあるが、多少なりの人脈はある。ここで生き延びて雷をのちに狩るとしても、それでも全資産を譲るというのは……。

 

「カカカカカッ」

「!?」

 

 ケタケタと。

 まるでパペット操り人形が顎だけをカタカタ揺らすように顎を動かして、笑い声が漏れ出る。

 

「面白い顔。冗談冗談。じょーだん」

「じょ、冗談、で、ですか……」

「冗談。ほら笑え」

「は、ハハハハ……」

「…………私も鬼じゃない、今回は日本円とアメリカドルの全資産だけで許そう」

 

 悪鬼羅刹の所業である。

 

「わ、わかった」

「では私も雇い主に銀行口座を聞いてくるゆえ、待ってもらえるか?」

 

 首の皮一枚繋がった男はほっと胸をなでおろす。

 

「えへ、へへへぇ……待ちます。待たせていただきます」

「…………よし。あ。先生? 任務が終わりました。それでふうまさんが伸びてしまったので迎えが欲しいのと、銀行口座教えてもらいたいのですが……はいはい。……そうです。……ええ。……任務の完遂には必要な情報なんです」

 

 スマホを使って雷はアサギと連絡を取り合う。

 ついでに10ケタの預金通帳番号も聞き出す。男もまた恐る恐るといった手付きで、送金デバイスを操作し、入金準備を整え始める。

 とてもではないが最終金額提示の段階で作ったような笑い顔から糸が切れるように無表情へ切り替えた金額交渉する雷を前に、細工をする余裕などなかった。

 それにもっとも彼の恐怖心の上昇に拍車をかけていたのは、背後では全員を滅茶苦茶にした巨女が男の頭をポンポンと手を置きながら時々、鎖骨が折れる威力で肩を揉んでいるのだから。

 金額提示の加減の如くうっかり間違えられたら、涙で汚れた状態のまま床に転がっているオークのように脊髄事引き抜かれない恐怖がチリチリと蝕んでいることだろう。

 

「口座番号が分かった。ゴシャア銀行の普通口座。4112715203」

 

 雷の指示を受けて送金デバイスが操作され、口座名が表示される。

 

「こ、これか? イガワ アサギ?」

「そう。全額入金しろ」

 

 雷の指示の通りに男は銀行へ預けている現ナマを指定された金額すべて、アサギの通帳へと入金して行く。

 

「…………あとで神葬に贈与税について聞かなきゃ」

「え? その、まさか律儀に税金を支払ってい……?」

「納税は当然の国民の義務。……逆に支払ってないのか?」

「あ。あ、ははははぁ……し、支払ってますけど?」

「そう。ならいい。税務省は私よりも恐ろしい。しかし、これも日本をよりよい国に導くため仕方のない納税。国民の義務」

「そ、そうですね……ハハハ……」

 

 本来ストッパーになるはずの対魔忍2人が伸びている間に、男の渇いた笑いだけが室内でエコーをかける。

 

「あの、イガワさんがよろしければなのですが……私の元で護衛として働きませんか?」

「…………それは、どうだろう?」

 

 雷のことをアサギと勘違いした男は、雷のポンコツ具合に感づいたもしくは欲に駆られて勧誘を始める。

 しかし実際、男の勘はあながちはずれでもない。既に五車で対魔忍を6人、現地で1人気絶に追いやっているのだ。もし護衛として雇うことができれば、対魔忍以外には敵なしだったに違いない。

 

「貴女が抱えている私が買った対魔忍を怯えさせ、オークすらも首を捩じり取る……! わ、私の手元には日本円とアメリカドルはなくなってしまいましたが、他の資産を切り崩せば護衛代は支払えるかと……!」

「…………対魔忍を買った?」

「ええ! すごいでしょう? お金様様ですよ。その娘の話ではあなたは対魔忍と敵対しているようですし、暴れる対魔忍を狩れるだけの力もあるのですから。ぜひ、その力を私の元で——」

 

 しかし彼は自慢げに話し過ぎてしまった。

 見事に雷の地雷を踏み抜く。

 室内に建物へ自動車が衝突したかのような音に続いて、バケツで水を浴びせたかのような音が響く。

 

「…………え?」

 

 男は視線を自分の胸元に降ろす。

 心臓部が熱くなる。まだ動く手で心臓のある胸元を触る。

 しかしそこに心臓は存在しなかった。心臓だけではない。その近辺にある血肉や内臓、骨までもがまるで内臓が爆発したかのように、穴あけパンチのように空洞になっている。

 

「な、なんで――」

「指先が寒かったから」

「エッ?」

「…………私は国家転覆を計る国賊の手先になるつもりはない。死んで償え。あとで、六文銭の税率教えて」

 

 するずると男はそのまま椅子に寄りかかるも座り損ねたように腰を落とす。

 最後に視線に映ったのは、顔が影で隠れ無機質な目だけを向けている雷の冷たい見下す眼光と男の血肉が滴る彼女の右手に違いない。

 

 

 

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