2人は別々に作戦行動を開始する。
雷は正面玄関に向かい、ふうまは裏口側に回り込む。
「ゴホン。おー。おー? 珍しい緑色のハゲがいる! おいハゲ!」
「あん?」
「それは仮想大会の予行練習のつもりか? ハロウィンはまだ先だろうに。時代を先取りしすぎるのも考え物だと思うがね?」
「おう、ババアふざけやこと言ってねえで何処かに行きやが――で、でけぇ」
「正面玄関。俺達に喧嘩を売ってきたバカであたまのイカれたデカ女がいる。俺達だけじゃ手に負えねえかもしれねぇ。来てくれ」
初動で騒ぎを起こす雷に対して正面玄関が一気ににぎやかになる。
歩哨をしていたオークが無線機で余所に連絡を取り始める。
雷が推測を立てていた通り、屋内から武器を携えたオークが姿を現す。
邸宅内ではお楽しみ中でもあったのか、屋内から出てきた2体のオークの武器に革の腰巻き姿に棘つき警棒と簡素な装備で少し汗ばんでいた。
またこの騒動によって邸宅に備え付けられている2階のカーテンが僅かに揺らぐ。
雷 巴という女はオークと体格を比較しても決して劣ることはない。むしろただの一般的なオークの方が小さいまである。長身で骨太な恵体に生物上の本能的な威圧感を与えることに成功している。
………
……
…
「……」
雷が正面玄関に引き寄せている間に、ふうまは音もなく警報装置を掻い潜って裏から敷地内へと潜入する。
オーク共の出入りがあるためか、庭を越えた中央に存在する邸宅の扉は鍵が掛かっておらずあっさりと侵入に成功した。
豪邸と呼べるほどの邸宅には芸術的ではあるものの中世の拷問を描いているかのような悪趣味な絵画があらゆる場所に飾られ、家主の残虐的な性癖が垣間見える。
ほかの伏兵に警戒しながら1階を探索し、2階の階段へと歩を進める。
「おいおい。マジかよ」
彼は敵地でぼそりと言葉を漏らす。
本任務のパートナーの現状を確認するため閉じられたカーテンの隙間から伺えば、既に正門に集結した4人のオークと雷の姿は忽然と消えている。
代わりに先ほど雷が発見した金とトランプカードが置かれていたパラソルの元で、雷がオークに囲まれながらカードゲームを始めている姿が——。
オーク共が浮かべている表情は明らかな愉悦。これから目前の女をどのように犯してやろうかと言う卑下な視線を彼女へと向けている。イカサマありきの敗北強要ゲームだ。
一方で雷も案内された椅子に足を組みながら座り、後頭部に2方向から銃口を突きつけられたままオークとトランプで遊んでいる。その表情は無表情だが、銃口を突きつけられてもなお動揺することも怯えることもなくオークと雑談しながらカードを選んでいる様子がふうまからは見えた。
潜入しうる状況としては好条件下ではあるが、ふうまとしては行動に迷いが生まれたようになる。
囚われた対魔忍より対魔忍的な状況になっている新人を助けに戻るか。
それとも彼女が提案した作戦通り、この先で囚われていると思しき対魔忍を助けに向かうか。
「きっと大丈夫だ。……囮になるとは言っていたが……まるで期末試験時の青空さんと、そっくりだな」
ふうまはそのまま先へと進む。
ふうまとしても初回での接触で彼女がどのような行動をとって窮地から脱したのか、ふうま自身が視ている限りでは理解できていない。
されど彼の監視対象であり例の問題児の紹介で運命的に巡り合った彼女を信じてみることにしたようだ。