その頃、ふうまはと言うと……。
「ヒィィッ!」
「バウッ! バウバウバウッ!!!!」
「ご安心くださいませ。ご主人様。ご主人様を害そうとするものは私が捻じ伏せます。この男は対魔忍の中でも忍法は開花していない落第生。すぐに片付けます」
「くっ! 目を覚ましてくれ! 俺は君を助けに来たんだ!」
救出対象である対魔忍と刀を交える事態に陥っていた。
彼女は裸体であり、つい先程まで乱交でもしていたのか男汁臭の白濁液を股ぐらや胸からボタボタと垂らしているがそれを自身の身体に塗りたくりながら、混濁した瞳でふうまを睨む。
また雷が予想した通り、売国奴の傍には魔界から取り寄せた番犬が主人を護るように激しく吠えたてている。
「クソッ!雇ったオーク共は何をしているんだ!」
売国奴は苛立ちながら増援のオークに目配せをする。
だが現在彼等は外で対魔忍救助隊志願者の囮にまんまとひっかかり、腕相撲大会中だ。
窓際から彼等を呼ぼうとするも白熱していて、まるで聞こえていない。
「頼む正気に戻ってくれ! 五車町に一緒に帰ろう!」
「1カ月前に見捨てた癖に……見捨てた癖に! 今更、戯言を……!」
ふうまと要救助対魔忍の間で剣戟が繰り返される。
戦況としては、ふうまの方が押されがちだ。
同じ対魔忍同士かつ男女の性差としては男性であるふうまの方が一見有利な状況ではあるように見えるが、要救護対象である対魔忍はふうまと異なり忍法が開花している。
これが何を意味するのか。
忍法が開花している対魔忍は、対魔忍の力の根源をなす物質である対魔粒子の扱いに精通していることになる。この対魔粒子は身体や武器に纏わせることで殺傷力や防御力を高めているほか、体内でエネルギーに変換することで超人的な身体能力を得たり、遁術などの超自然的な力を発揮できるものだ。
要救護の対魔忍は忍術封じの首輪が付けられているため忍法自体は扱えないが、対魔粒子自体で自身を強化して、1対1ならば生身のふうまを捻じ伏せることぐらいできないこともない。
「校長先生は救助を出そうとはしていた! だけど、救助部隊編成するたびに緊急性の高い任務が——」
「それは私よりも任務の方が重要だったということでしょう!見捨てたのと何が違う!二度と五車などに戻るものか!ここなら私を愛してくれる人たちがいる!私が護りたいものを護ることができる!私は五車の対魔忍のようにご主人様やオーク様達は私を見捨てたりしない!」
「っ! ――しまっ!」
恨みがこもった力強い一撃がふうまの剣先を大きく弾く。
焦燥が絡む顔を浮かべるが、その判断では遅い。
次の瞬間には刀の柄頭がふうまの胸部に突き刺さっていた。
「がはっ!」
少年漫画のワンシーンのように衝撃でふうまの身体が後方の壁まで吹き飛ばされる。
室内からは派手な衝突音が聞こえるが、外のオーク達は腕相撲に盛り上がってしまいまったく気づいていない。
ふうまが対魔忍スーツを着用していたのは正解だろう。
もしこの一撃に対し対魔忍スーツがなければ、あまりの恨みがこもった一撃を柄で殴られたふうまのあばら骨は折れ、肺に突き刺さっていたかもしれない。
「いいぞ!いいぞ!」
「バウ!バウッ!」
「ふうまも私のように売られて、同じ気持ちを味わえばわかるわよ。待てども待てども助けは来ず、後回しにされて、私達は使い捨ての駒にしかすぎないって味方から思い知らされて……!」
黒い闇が視界の端から侵食するなか、地面を這うことしかできない。
彼は近づいてくる彼女を見つめることしかできない。
戦術に長け独立遊撃部隊の隊長であるふうまと言えども敵の数は増え、たった1カ月の間に囚われた対魔忍が洗脳が及んでいること。またアサギ校長から手渡されていた諜報情報にも彼女が買い取った男に忠義を尽くしているとは記されていなかった。
今日はサポートしてくれる上原鹿之助も。武闘派の相州蛇子も、現場をかき混ぜる青空日葵すらも居ないのだ。
息を荒々しく吐きながら、顔を上げる。
彼女の手にはいつの間にか魔界製の拘束具が握られており——
「……ピィーーー……ピィーーーッ……!!」
辛うじてできたことは雷から託された銀の警笛を鳴らすことだった。