………
……
…
一方、その頃。
オークと腕相撲組は……。
「行け!行け!行け!」
「ほらほら!もっと頑張らないと負けちゃうぞ~っ!!!」
「…………」
「人間の女にしては耐えきった方だな」
「すぐにアヘらせてやるよぉ!」
こちらもこちらで追い詰められている。
雷側が腕を倒される寸前まで、腕を傾けそのまま硬直しているのだ。
あと数㎝でも許せば雷の敗北と言う状況に彼女は厳しい顔つきを作っているが、膝の上に組んだ足はそのままであり下半身には力が込められてはいなかった。
そもそも本気になったオークが腕相撲で人間の小娘を完封できないのがおかしな話ではある。
だがこの場にいるオークの誰も彼もが、彼女が手を抜いて腕相撲をしていることに気が付けない。下半身に脳を支配されている。
ピィーーーッ……!!
オークによる最後の一押しが加わる瞬間に邸宅内からふうまに渡した警笛の一笛が響く。
実に最後の力を振り絞って吹き鳴らしたかのような、短く一瞬だけ力強さを感じられるような音だ。
聞き慣れない甲高い音にオーク達も、音の発生源を探るように反応をする。
刹那。バキッ!というまるで太い枝を折るような音が腕相撲会場にて発生する。
「へ?」
間抜けな声を出す対戦相手のオークは、雷と握っていた手のひらに視線を移す。
前腕部が関節のない中途半端な場所で『くの字』に折れ曲がっている。
まるで急な圧力が加わったかのように……。
「…………」
そのまま折れた腕を、時計の針が6時30分を指すように捩じられる。その勢いのまま反対側へと叩きつける。ゴキンッという関節を外した時のような音が対峙していたオークの肘から聞こえる。
いつの間にか雷の表情は余裕の顔つきから無に戻っていた。
「ギャアアアアアアアアアッ!!!!!」
腕を時計の針のように捩じられたオークが、激痛に顔を歪ませ絶叫をあげる。新たな関節からは、折れた骨が皮膚を突き破って赤白い芯をむき出しにしていた。
「テメエッ!」
仲間の悲鳴で正気に戻るオーク達。
「サイボー――」
ディーラー役を務めていたオークは自分の推測を言い終えることすら許されなかった。
雷の左こぶしがオークの右顎を貫く。閃光の如く、またたく間の一閃。瞳の中の暗澹が残像の軌道を残しながら揺らぐ。
オークの首がまるでブラックジャック*1のように酷く引き伸ばされ、そのまま仰向けに転倒。地面で動かなくなる。
「調子に――」
「死ネッ――」
ディーラーを殴り飛ばした勢いで雷は組んでいた足とは反対の足を軸にショットガンを構えている2体へと振り返る。
散弾銃の引き金を引く行為自体は、オーク達の方が先制射撃として早かった。されど雷のゼロ距離射程内において、彼女の拳は2匹の銃筒を拳で弾き、弾丸を夜空や邸宅の壁に逸らす。
「“こんな辺鄙な土地じゃ助けも悲鳴も誰にも届かねえ”だったな? 有意義な情報をありがとうモノノケ」
2連式ショットガンによる二撃目が飛ぶ前に各オークの鼻先と眼球横の側頭部に1発ずつ《鉄拳》が突き刺さる。
ただでさえ豚鼻だった鼻孔がアニメのように平たくなり目頭から血が噴水のように吹き出る。赤い目玉が外部からの圧迫によって視神経のみが最後のつながりとして両目から垂れ下がる。
ショットガン持ちの殴られたオーク達はそのままプールへと倒れ込み、水しぶきがあがった。
鼻を殴られた1匹のオークは水中でうつ伏せになって気絶のまま溺死コースへと導かれる。
両目が零れおちてグロテスクなアメリカンクラッカーのような1匹のオークは、水の中でバシャバシャともがいているが、じきに鼻を殴られたオークと同じ道を辿る。
「い、いでぇ……!いでぇよぉ……っ!お、おれっ、オデの腕がァッ!!!」
腕相撲で腕を折られたオークはうずくまり、上半身を地面にこすりつけ醜くもがいている。そこに落ちているショットガンからの接射が首へぶち込まれる。
皮一枚繋がっている腕どころか首も千切れる。
「…………あの部屋だな」
不法滞在者の死など興味がないような無の表情のままショットガンで千切れたオークの頭を拾い上げ、手のひらの上でポンポンと転がす。
まるで野球の投手が滑り止めの粉袋をお手玉するように。
適当に歩きながら首がブラックジャックのように伸びたオークの頭蓋をブーツの底で踏みつぶし、時間をかけてゆっくりと砕き殺す。
「えーっとキャッチャーだったか? …………大きく、振りかぶって」
オークの頭頂部側を鷲掴みにして
「…………〈
投げられた頭部は一直線のストレートを描き、警笛が響いていた一室の窓がオークの頭部でカチ割られる。
ガラスが破壊される音。
直線で戦車の砲弾のように飛んで行ったオークの頭部は、クリーム色の壁を凹まして2階の室内へと転がっていく。
「ホームラン」
「ひぎぃいいいいいいいっ!!!!?」
「……。……い、いやぁあああああああああああっ!?!!!!!!!」
「グルルルルルッ」
何一つ野球用語は一致していないが、彼女にとって満足の一球の結果を呟いたところで、最初に男の悲鳴が割れた窓の部屋から零れる。一呼吸を置いてから女性の悲鳴。そして犬の唸り声。
ふうまの声は聞こえない。
「…………急がないと」