ユウカとノアとパジャマパーティをするだけのお話 作:天野ミラ
それはそれとしてASMR待ってます。
この学園都市キヴォトスにも遂に寒波がやってきた。
私が”シャーレの先生”としてこのキヴォトスにやってきて、随分と時間が経ったものだ。
冬の寒さも本格的になってきて、マフラーと手袋が手放せなくなってきたこの頃。
今日はミレニアムサイエンススクールの生徒会であるセミナーの要請を受けて、書類整理のお手伝いをしにきた所だった。
机の上には見渡す限りの書類の山、山、山・・・年末と言う事もあっていつもの数倍は書類が多い気がする。
普段はユウカやノアに手伝って貰っている立場なので、こう言う形で恩返しが出来たのは良かった点だろう。と言っても、2人とも書類整理が早いので本当に役に立てていたかは分からないが・・・
「ふぅ・・・やっと終わりが見えてきたわね・・・」
彼女の名前は早瀬ユウカ、このミレニアムのセミナーで会計の職に就いているが・・・
「全く、こんな忙しいって言うのに、会長が不在とはね・・・リオ
会長が不在の今、なし崩し的にミレニアム全体の運営を行っている。
「辞表が提出された以上、彼女の意思は固いと思いますよ。」
膝より長い銀髪の髪をたなびかせて歩いてきた、彼女の名前は生塩ノア。
セミナーでは書記を務めていて、彼女自身の記憶力の良さも相まって正確な議事録が評判だ。
書記と会計のたった2人で、この広い学園を運営している形となる。
「難しい事は分かってるんだけど・・・って、すみません先生!先生もいるのに愚痴ばかりになってしまって・・・」
”別に構わないよ、それにユウカとノアにはいつもお世話になってるからね。”
「先月の
”た、大変お世話になりました・・・”
「それにしても冷え込みますね・・・ユウカちゃん、コーヒーを淹れてきたのでよければどうぞ。」
「ありがとうノア、ふーふー・・・美味しいわね。」
「先生もコーヒー・・・いかがですか?」
”ありがとう、もらおうかな。”
少し濃いめのコーヒーを飲みながら、窓の外の様子を眺める。
辺りはすっかり暗くなっていて、照明がまるでライトアップのように校舎を照らしている。
地面は真っ白く染まっていて・・・真っ白く染まっていて???
「あら、雪が降っています、今年初めてですね。」
”ど、どうしよう・・・!”
「私の記憶が確かなら……先生のお車って、スタッドレスじゃありませんよね?」
”ノアの記憶が確かなら”と言うのはつまり、殆ど確定のようなもので。
私自身も、今季タイヤを変えた覚えはなかった。
確か、天気予報では早くても来週と言う話だったのに・・・
「ど・・・どうするんですか先生?終電は後5分30秒で出発しちゃいますよ?」
急いでも絶対に間に合わない、間に合うはずがない。
ここからシャーレまで車でも時間がかかるというのに、歩いて帰るのも現実的じゃない。
”車中泊か、セミナーのソファでも借りれれば嬉しいな・・・”
「ダメに決まってるじゃないですか・・・!こんな寒くて雪も降ってるのに正気ですか?」
”そうだよね・・・どうしよっかな・・・”
チェーンの類があれば、持ち主と交渉してそれを借りるのも手ではあるが・・・
時間が時間である事と、車を運転する生徒があまりいない事を考えれば厳しいだろう。
この辺りに宿泊施設があるという話も聞かないし、タクシーも休みと言う話だ。
「あの・・・ノア?」
「ふふっ、私は構いませんよ?」
”どうしたの?ユウカ・・・もしかして名案が?”
「そうと言えばそうなんですけど・・・今日は私とノアでお泊り会の予定だったんです。」
”うん・・・うん?それは早く帰らないと・・・”
僅かに頬を赤らめて、意を決したように口を開いたユウカ。
「せっ・・・先生さえよければ、私の部屋に来ませんか!?」
”そっ、それは流石に!何か間違いがあるかもしれないし?それに外聞とか、倫理的に・・・”
咄嗟にそれらしい言葉を並べてしまったが、流石に先生である私が生徒の部屋で一夜を過ごすなんてことは有り得ないだろう。
「あら、この話を知っているのは私と先生、そしてユウカちゃんだけですよ?先生が外聞を気にする必要は一切ありません♪」
そうは言っても、流石に教師である私が生徒の部屋に泊まるというのは……
「それに、私とユウカちゃんは先生を信頼しています。」
”いっ、いや・・・でも・・・”
「それとも・・・先生は起こすつもりなんですか?ま・ち・が・い。」
”勿論、そんなつもりはないけど!”
「なら問題は・・・ないですよね?」
理詰めされきってしまった。
ここまで厚意を向けて貰って・・・それを無碍にするのも二人に悪いだろう。
何より、私自身にもこの局面を乗り切れる策がない。
”それなら、申し訳ないけど・・・ご厚意に預からせてもらおうかな。”
「やった・・・じゃなかった!今、購買で先生用のパジャマとか買ってきますね!」
「は~い、いってらっしゃい!ユウカちゃん♪」
逃げるように部屋を出ていくユウカ。
提案をした時から顔が真っ赤だったから、外の空気を吸いたいという意味もあったのだろうが。
”私、ユウカに服のサイズを教えた覚えがないんだけど。”
「大丈夫ですよ?鍵はこの通り・・・先に預かっているので、ユウカちゃんのお部屋にお邪魔しちゃいましょうか。」
そう言って懐から猫のキーホルダーの付いた鍵を取り出したノア。
何が大丈夫なのかは、何となく怖くて聞けなかった。
廊下に二人の足音だけが響き渡る。
セミナーの部室を出て歩く事・・・数分。
吐いた息が白く染まるのも、冬の風情を感じさせる。
「そう言えば、先生は冬はお好きですか?」
”結構好きだよ。寒い外から帰ってきて食べるお鍋も、温かいお部屋で食べるアイスも美味しいよね。”
「ふふっ、それはあまりにも・・・花より団子ではありませんか?」
”えっ、そ・・・そんなことないよ。例えばほら・・・こんなに綺麗に雪が降ってる。”
「雪が降ってる、と私が言います。」
”もう一度・・・って私が言えば良いかな?”
酷く驚いた様子の彼女、まぁ・・・私の普段の様子からは想像がつかなかったのだろう。
「せっ・・・先生も詩集とか、お読みになられるんですか?」
”ノアと過ごしたあの雨の日からね。読み始めてみると結構面白くてさ。”
「そっ・・・そうですか・・・」
少しだけ、いつもより朱色に染まった彼女の頬。
確かに、この詩の続きを考えれば恥ずかしいのも頷ける。
「もう一度・・・と私が言います。」
続けるのか、てっきりここまでだと思っていたから動揺する。
が、何となく手玉に取られている気がして顔に出したくなかった。
負けず嫌いとも言えるかもしれない。
”こんなふうに・・・”
「こんな・・・ふうに・・・」
しんしんと雪が降り積もる窓の外。
互いの足音だけが、廊下に響き渡る。
会話こそないが、心地の良い静寂。
”それにしても・・・ノアの珍しく焦った顔が見れたのは、詩集を読んでたおかげかな。”
「いっ、言わないでください・・・!」
未だに頬に朱の残る彼女、私もきっと少し赤くなっているだろう。
話題を切り替えようか、というところでノアが口を開く。
「その・・・この続きは・・・どうします?」
”私は教師で・・・ノアは生徒だよ。例えキヴォトスではそれが犯罪じゃなかったとしても、ね。”
「もし私達が卒業したら・・・つまり、もっと後のことは別ってことですね?」
”それは・・・”
彼女達の事は大切に思っているから、いや・・・大切に思ってるからこそ・・・
そんな事を考えたことは今まで、無かった。
私は、ここでその問いに対する答えを出すことは出来なかった。
暫く歩いて、<早瀬ユウカ>と書かれた表札の部屋を見つける。
ノアがガチャリと鍵を回して、扉を開くと見えたのは綺麗に整頓された玄関。
なんでも、
ヒナの家に行った事もあるし、生徒の部屋に入るというのは初めての経験ではないが・・・やはり緊張する。家主がいないのは初めてかもしれない。
部屋の中は青と白を基調とした・・・ユウカらしい部屋だった。人をダメにするソファというやつも置いてあるな・・・おっと、あまりマジマジ見るものではないだろう。招き入れてくれたのもユウカの純粋な厚意によるものだし。裏切るような真似はしたくない。
「うぅ・・・寒いですね。暖房が付いていないので当然ではあるんですが。今エアコンつけちゃいますね?リモコンは・・・っと。」
ピッと言う音とともに部屋のエアコンが稼働し始める。
ミレニアムの生徒の部屋なだけあって、私の私室よりも近代的な様相を呈している。
「ユウカちゃんももうすぐ来ると思うので、お風呂の用意だけしちゃいますね。」
そう言って浴室の方へ消えていった彼女、手伝える事は・・・無いよなぁ。
大人しくユウカの帰りを待つことにする。
「ただいま~!うぅ・・・寒いわね・・・」
リビングで座ってメールの確認をして待っていると、帰ってきたユウカと目が合う。
手元の袋には衣服やアメニティ用品が詰められている。
”いくらかかったの?言ってくれれば・・・”
「ああ、こちらの接待費として落とすので大丈夫ですよ。先生も今日はこれ以上書類・・・書きたくないですよね?」
そう言ってふふっと笑う彼女、自宅だからだろうか?何時もより年相応の表情を見せてくれる。
正直に言えば意外だった、ユウカはオンとオフの切り替えがしっかりしているのかもしれない。
”あ、あはは・・・ありがとね?”
「それにしても寒いですね。最近、部屋が温まるまで時間がかかるんですよ・・・そうだ!ちょっと待っててくださいね先生。」
そう言って部屋の奥に消えていったユウカ。
「ん-っと・・・これじゃなくて・・・これでもなくて・・・あった!」
「ちょっと先生、危ないのでもう少し離れて・・・えぇ、そこで大丈夫です。よっこいしょ・・・っと。」
ガサゴソと何かを探していたであろうユウカ。
そんな彼女が見覚えのある机と掛布団を持ってやってきた、もしかして・・・炬燵か。
「エンジニア部の子達から貰ったんです、なんでも画期的な炬燵だとか?一人だとあまり使わないんですけど、先生とノアもいるのでどうせなら使ってみようと思って。」
”良いよね、炬燵。なんかこれが部屋にあると・・・冬だなぁって感じるよ。”
「そうですか?私はあんまり馴染みがないので、パッと来ませんね。」
「ユウカちゃん、お風呂の用意は出来ていますよ。」
丁度ノアがタイミングよく戻ってくる。
お風呂掃除をしていたからか、髪を後ろで束ねたポニーテールにしていて。
いつもとは違う生徒の顔を見れてなんとなく嬉しい気分になる。
「ありがとうノア、それじゃあ・・・順番の事を考えて無かったわね・・・」
確かに失念していた、セミナーにシャワールームがあれば良かったんだけど・・・
”私はシャワーだけで良いよ?”
「ダメです先生!冬場はヒートショックのリスクもあって危険なんですよ?特に部屋が寒いと寒暖差があって大変なんですから・・・」
「私もユウカちゃんも気にしないので、よければゆっくり湯船に浸かってはいかがでしょうか?先生が嫌なら無理に、とは言いませんが・・・」
”嫌ではないんだけど・・・”
「とりあえず私入ってきちゃいますね?着替えとタオルとかはそこの袋に入ってるので、好きに使ってください、先生。」
そう言って浴室の方に歩いていくユウカ。
炬燵の方も温まって来ただろう、足を入れてみると程良い温さになっていた。
「私も失礼しますね?ああ、そうです・・・先生。」
”どうしたの?”
「ユウカちゃんのお風呂・・・覗いちゃいけませんからね?」
”覗かないよ!?”
「ふふっ、冗談です。シャーレに当番に行った時*1も先生は紳士的でしたもんね?」
”全く、その冗談は心臓に悪いよ・・・”
少しずつ部屋も暖かくなってきて、大分過ごしやすくなってきた。
こう、炬燵に入っていると無性に蜜柑が食べたくなるのはどうしてなんだろうか。
「実はお泊まり会は私から提案したんです。寒い日に、部屋に一人でいると孤独感を感じる事・・・先生はありませんか?」
”確かに、そういう日はあるかな。”
キヴォトスの外から来た、異邦人である私。
七つの古則ではないが、誰もいない冬の交差点を歩いている時なんかは・・・人は独りなのではないかと思う事はある。
「ユウカちゃん・・・優しいですよね。結構急な予定だったのに快く受け入れてくれて。」
”そうだね、ゲーム開発部の子達に対しても・・・なんだかんだ世話を焼いてあげてるし。”
「ノア~?上がったけど・・・あれ、何話してたの?」
「ん~・・・」
ノアが悪戯を思いついたような顔で、私とユウカの顔を交互に見つめる。
何か、凄く嫌な予感がする。
「先生はやっぱり覗いたりしないんですね?前みたいに・・・って話です。」
「の、ノア!?前みたいにって何のことよ・・・!?」
「ふふっ、内緒ですよユウカちゃん♪」
”あはは・・・”
「先生も笑ってないで答えてください・・・!」
ノアが浴室に向かってから、入れ替わりでユウカが炬燵に入る。
お風呂上がりの髪をタオルでまとめていて、前から見るとうさぎさんみたいに見える。
化粧を落としているので、少しだけいつもより子供らしさを感じる。
「あの、先生。まじまじと見られると流石に恥ずかしいんですが・・・」
”あっ、ごめんごめん・・・!”
このご時世、何がセクハラになるか分からないから気を付けていたというのに。
そんなに視線が分かりやすかっただろうか。
「その・・・先生?どうですか?」
”ん?どう・・・って?”
「ふ、服の話ですよ!じろじろ見てたので何か感想があるのかと・・・!」
もう一度、彼女の服装を見る。薄着の水色のパジャマがユウカにとても似合っていると思う。絵柄が猫ちゃんなのもとても可愛い。ここは素直な感想を言うべきだろう。
”ユウカに似合ってて、とっても可愛いよ。”
「そ、そうですか・・・ふふっ。」
そう言って掛け布団に包まるように隠れてしまったユウカ、何か間違えただろうか。
言ってしまったことは仕方ない、次は失敗しないようにしよう。
「あらあら、私のパジャマに関しては感想は無いんですか、先生?」
何時の間にかノアもお風呂から出てきている。
驚いた様子でユウカが飛びあがるが、それを見越してかユウカの後ろに立っているので彼女からは顔色は伺えないだろう。
「のっ・・・ノア!?何時から聞いてたの!?」
「ふふっ、一体いつからでしょう?」
ノアは白いワンピースタイプのパジャマでゆったりとした印象を受ける。
黒いガウンを上から羽織っていて、いつもより一層大人びて見える。
”そうだなぁ・・・ノアらしくてとても良いと思うよ。”
「ふふっ、ありがとうございます♪それじゃあ次は・・・先生の番ですね?」
「ご飯の用意をしておくので、ゆっくりしてきてください先生。」
あれ、私の記憶が確かなら・・・
”ユウカって料理が苦手って聞いてたんだけど・・・?”
「しっ、失礼ですね!人は成長する生き物なんです・・・!ゲーム開発部の子達にも大好評だったんですから・・・!」
”そうなんだ、楽しみにしてるね!”
「ええ、任せてください!」
浴室に向けて歩き出す、終電は過ぎてしまったが・・・明日は折角の休み。
良い感じに夜も更けてきたところだし、これからのパジャマパーティに心を躍らせながら湯船に浸かる事にしたのだった。
次回、パジャマパーティ本番予定。