扉間によって重傷を負わされてから一か月が経った。ようやく土の国へ向かえるはずなのにドンは顰め面を浮かべている。
苦虫を噛みつぶしたような顔だが勿論扉間のせいだ。扉間が刀に塗っていたあの毒…あのせいで一か月もの時間を浪費させられたのだ。
この時代には医療忍術も発達していないため、基本的には忍自身が持つ回復力で傷を治すことになる。
ドンはうずまき一族。生命力に満ち溢れた肉体を持つため大抵の重傷は数日も経てば完治してしまう。
それが毒であってもだ。そのためうずまき一族の生命力はゴキブリ並みと言われている。
だから腹の傷は数日で塞がったが、扉間の使っていた毒が問題であった。
地球の人間もそうだが人種や一族でそれぞれ効きやすい、あるいは効きにくい毒や薬が存在しそれは遺伝やDNAによって決まる。
忍にも当然当てはまる。扉間が使っていた毒はうずまき一族に特に効く毒だったのだ。
恐らくドンの出奔の件でうずまき一族を糾弾した際にその毒について聞きだしたのだろう。
────奴を殺すために必要だ
とでも言い放って。
当然ドンも毒の対策はしていた。赤砂のサソリ等から毒の恐ろしさは十分承知してた為、白蛇仙人の元で修行した際にあらゆる毒に対して抗体を得ていたのだ。
だからこそ扉間による毒からの回復が一ヶ月程度で済んだのだ。もし抗体を得ていなければ今頃この世には居なかっただろう。
やはり遺伝的に耐性が極度に低い毒は抗体の効力が低くなってしまう。改めて扉間の存在に不快感を抱きながらドンは土の国へと歩みを進めた。
●
道中の争いは徹底的に避けながら土の国へ入り、遂に目的の一族の元にたどり着いた。
「…うーん!いい場所だ…!」
旅で疲れた体を伸ばしながらドンは気持ちよげな顔で呟いた。
小鳥の鳴き声が川のせせらぎと融合し久方ぶりにのどかな気分にさせてくれる。
この一族が住む場所は土の国では珍しく緑地が多く、近くに川が流れる恵まれた立地だ。
久しぶりに訪れた土の国だが相変わらず岩や石ばかりで荒廃した土地が多かった。
この土の国に住む忍は僅かにある恵まれた土地を巡って延々と戦を続けている。
火の国と何ら変わらない。相も変わらず地獄そのものだった。
集落の外から住居を覗くとどうやら戦に出ているのか忍が殆ど居ないようだった。
残された女子や子供らに頼んで集落に入れてもらいたいがそれでは礼を欠いてしまう。
この時代で一族の長に話を通さない事は侮辱として捉えられてしまう。長を軽んじる事は一族に喧嘩を売る事と同意なのだ。
戦に出た長や一族衆を空を眺め待っていると青空に黒い点がぶつぶつと現れ始めた。
やがて黒い点が近づくにつれそれらが空を飛ぶ人であることが分かった。
ドンも口元に笑顔を浮かべるとスッと腰を地面から上げ手を振り上げた。
「おーーい!」
その声に釣られ空飛ぶ忍の集団はドンの前に降り立った。
不審な男だと感じたのだろう。ドンに警戒しながら近づいてきた集団の先頭に立つ男…イシカワはドンを見るなりその顔を綻ばせた。
「懐かしい顔じゃのう…!
相変わらずのダジャレ具合にドンも苦笑いを浮かべた。
殺伐とした時代だとこんなダジャレでも気分が紛れるものなのか。
既にドンは原作で初代土影として岩隠れを治めたイシカワに会っていた。
ドンの姿をしっかりと確認した他の忍達も次々にドンと挨拶を交わしていく。
うずまき一族から抜けたドンにとってこのイシカワの一族は第二の実家のような安心感を抱かせてくれる。
「久しぶりだなイシカワ。遂にこの土の国を変える準備が出来た…お前との約束も果たせそうだぞ」
自信の程が伺える顔には覇気が迸っていた。
その威風堂々とした態度もイシカワが最初に会った頃から何ら変わってなどいなかった。
「ハッハッハッ!確かにお前の名前もこの土の国に轟いておるぞ…。ではやるんじゃな!」
初めてドンに会ってから随分と大きくなったものだ。大きく逞しく成長したドンを下から上まで眺めイシカワはそう感じた。
あの頃はまだ己より小さかった赤髪の少年は
ドンを下から見上げながらその目を覗き込む。
平和を望みながら何処か野望も孕むその瞳に何故か惹きこまれてしまう。
「あぁ、やるんだ。俺たちの里を作るぞ」
ドンの宣言で万来の想いが胸に湧き上がる。
遂にこの無限地獄を終わらせる時が来たと。己の
新たな時代の始まりを祝福するかのようにイシカワは川へ小石を放り投げた。
ドンとの出会いはイシカワ達が五尾に追われている所から始まった。
戦で激戦を繰り広げた後ヘロヘロの状態で集落へ戻る途中、暴れ散らかす五尾に見つかってしまったのである。
他の忍一族に攻撃されたのだろうか、怒り狂い目についたもの全てに攻撃的になった五尾はイシカワ達にも相違なく攻撃を仕掛けてきた。
空を飛んで逃げようにも激戦故にチャクラ残量がギリギリで飛べない者も多かった。
味方を切り捨てるかの判断に迫られたイシカワであったが突如現れた黄金の鎖が五尾を縛り付けてくれたのである。
そのまま五尾を撒いたイシカワは一族を失わずに済んだ感謝として鎖の術者のドンを集落に招いた。
敵の罠かもしれないとの声も上がったが恩には恩を返すとイシカワは譲らなかった。
その夜ドンはイシカワの枕元に降り立ち己の理想を語った。
この地獄の土の国を、命を育む揺り籠へ変えたいと。そのために術を教えてくれとドンが頼み込んできたのだ。
何を…!そんな事出来るはず無いであろう!
当然断ろうとしたがドンの目を見て息を呑んだ。
────何という眼つきだ…
この時代その目を持つ者は殆ど居ない。何故ならそのような野望、夢を見続ける余裕など無いからである。
イシカワにも大望はある。戦の終焉、平和な世を夢見ている。
だがそれも願望でしかない、結局自分一人が頑張ったところで達成出来ないと達観してしまっている。
大望を抱く者の瞳はおおよそ早く濁り、淀んだ目で現実を直視するものだ。
何故なら大望のために自分を投げ捨てて早死にせぬよう大人が現実を教えるからだ。そして瞳は淀む。
この赤髪の少年も教えられたはずだ。これだけの術の使い手ならその分多くの現実を周りの大人から享受したはずだ。
だが未だ幼いドンがその目に宿し続ける
己が捨てようか迷っている大望をこんな幼子が未だに強く宿しているなど。
勿論ドンは平和
この世の全ては
心半ばで倒れる者も多く見てきた。だがそれは無意味ではない。その者が抱いた
誰かがやらねばこの
─────遂にワシの番なのじゃろうな
己の賭け時だと感じる。
長きに渡る沈黙を破りドンに了承の意を伝えた。
勿論打算もあったかもしれない。ドンが力を持たない唯のガキであれば断っていた…が、あのうずまき一族出身だというのだ。
あの千手と組む名門の本家血筋…その安泰な立場を捨て己の命を賭け大望を成し遂げんとしている。
それはたまらなく大きい
己の一族を出奔してまで叶えるその姿勢・勇気を見てドンの抱く
だがイシカワも一族を率いる長である。馬鹿げた理想に共感はすれど当然対価を要求せなばならない。
一族に伝わる浮遊の術までドンはせびってくるのだ。基本の術を教えるのとは訳が違う。
秘伝には秘伝を。等価交換がこの時代でも基本だった。
当然要求する対価はうずまき一族に伝わる封印術。これを教えるならば術の手習いを助けるとドンに迫った。
ドンはこれを快諾。
こうして土の国で猛威を振るう空飛ぶ忍イシカワの技術を全て学んだことでドンの飛躍の土台は出来たのだ。
ドンが大望を成し遂げ大きな石へと成長するまでイシカワは傍にいると決めた。
成長を遂げた大きな石は小さな石を支える土台となるとイシカワは信じているからだ。
ドンを支えた最初の石はドンに術を授けた最高の師であり友だった。
遠い時代、岩隠れのアカデミーの石門には創設者イシカワの名が刻まれていた。
初代土影を支えた右腕…その
●
「してドン。これからどうするのじゃ」
イシカワが素朴な疑問をぶつけた。ドンの名は土の国でも轟いている。あの千手柱間やうちはマダラと互角に戦う忍だと広く知られている。
既にドンの言葉に耳を貸さない忍は殆ど居ないだろう。
しからば計画は第二段階へ移行することになる。
「いいかイシカワ…。戦略を成功させるためには三つの条件がある。一つ目は”天の時”だ」
「天の時?それはなんじゃ」
ドンは語る。
天の時とは時流に乗れているかである。すなわち己の戦略がもたらす結果を皆が待ち望んでいるかどうかが重要になってくる。これに逆らっていれば誰も協力等してくれない。
しかしこの条件は元々満たされている。
ドンが抱く”長きに渡る戦乱の終結”は皆が心の奥底で願っているからだ。
「二つ目は”地の利”だ」
地の利とは自分が物事を成し得る上で有利な場所に位置取れているかだ。しかしドンにはこの地の利が無かった。
原作でイシカワが初代土影になれたのもこの土の国で最強の忍であった事の他に、この地で親しみがあったのも理由の一つだ。
現代で例えれば地元で人気の政治家がその地で当選しやすいのと同じ現象と言える。
”イシカワになら岩隠れの里を任せてもいい”と他氏族が判断したからこその土影就任だ。
対してドンはこの地では余所者。
大して知らない余所者に岩隠れの里を任せてくれるはずが無い。
だからこそ名を売ることでドンは”地の利”を無理やり作った。今のドンならどの土地でも一定の評価をしてくれるはずだ。
ドンの勇名の親しみと力への信頼。これこそが地の利なのだ。
「…最後の三つ目。それが”人の和”だ」
人の和が一番難しいだろう。
人の和とは協力関係を維持し続けることだ。目標を達成した後に空中分解するわけにもいかない。
敵対氏族と手を結び里を作る。勿論これも難しいが、それ以上に里を作り上げた後もその体制を維持していかなければならない。
そして現状の土の国で平和が訪れても間違いなく不平等から不和が生まれてしまう。
そもそもこの土の国で争いが続くのは数少ない質の高い土地を奪い合っているからだ。
ここでいう不平等は例え平和となり皆が一つになっても
結果的に平和を成し遂げても不満が燻ぶるだけだろう。
敵対氏族と和を結ぶことは平和への対価として飲んでもらうしかないが、土地の不平等問題は解決しなければならない。
さもなくば最悪内戦が勃発するかもしれないからだ。
木の葉は五大国で一番豊かな火の国にあったからこそ土地問題が起きずにすんなり里が創設出来たとドンは推測している。
木の葉と違い岩や砂の様な貧しい里では食べるための土地確保が多くの争いの原因であり最重要項目なのだ。
この問題を解決しない限り人の和の条件を満たし協力体制を構築出来ないとドンは考える。
「だからこそ次の計画はこの土地問題の解決だ。これで土の国の大部分の戦の要因が無くなる。仙術チャクラも大量に
にんまり笑いながらドンがイシカワに計画を伝えた。
この計画を持ってドンは人の和を成すつもりである。
イシカワの顔は驚愕に染まり、口元がワナワナと震えている。
「そ、そのような事が出来るのか!?しかし出来るというのであれば…!確かに戦が……!」
「そうだ、戦は終わる。これから忙しくなるだろう。俺達がこの国を豊かにして優しさで満たすんだ」
人に優しくするためには余裕が必要だ。余裕が無いから人は攻撃的になり反発する。
大金持ちを庶民が目の敵にする事が多いのと同様である。
この土の国を豊かにすれば皆に余裕が生まれる。さすればこの国は優しさで包まれる事となる。
ドンの計画の第二段階が始まった。
あれから数日が経った。ドンはイシカワを連れ土の国の忍一族…里美一族の集落に居た。
里美一族はイシカワの一族が有する恵まれた土地を奪うべく多くの戦をイシカワ達と繰り広げた忍一族だ。
イシカワからしてみれば大敵である。しかしそれは里美一族も同様だ。彼らがイシカワを怨嗟の籠った目で睨みつけるのがその証明だろう。
だがイシカワはその視線をすべて受け入れていた。これから里を作るには否が応でも敵対氏族との和平は飲まなければならない。「そのための第一歩をドンの右腕の己が踏み込むのじゃ!」とドンに訴えたのである。
イシカワは彼らの視線から逃げない。この視線から逃げることは心底望む平和から逃げる事と同義だからだ。誰かがやらねばならんのだ。それがイシカワの番であっただけだ。
そう思い頭首の里美ゲンと向き合っている。
「ドン殿…。話が違うではないか。こ奴が居るなど聞いておらなんだ!」
里美ゲンがその顔を怒りに染める。当然だろう。
ドンが出した先触れの文には向かうのはドンだけと記されていたからだ。
今居るイシカワを集落に入れたのもドンの名を立てただけだ。
でなければ不俱戴天の仇をこの場で殺しているまでだ。
ゲンは断じてイシカワと話すこと等無いとその声を荒立てるが、唐突にドンが膝を下ろしその顔を地に着け土下座の体勢で懇願し始めた事で言葉尻が小さくなる。
「大変申し訳ない。ただ此度どうしても聞いてもらいたい宿願がございましてイシカワを連れて参っただけの事。何卒聞いていただきたい。この通りだ」
断るゲンだがドンが頭を下げ続けた事で何とか話だけも聞いて貰えることとなった。
ここでドンの話を聞いて貰えたのもドンの名が土の国でも鳴り響いているからである。
改めて名を売った事の恩恵が感じられた。
「単刀直入に申す。この荒廃した土地を私が生き返らせた暁には戦を止めて頂きたい」
ドンの申し出に言葉を失ったゲンである。勿論そもそもの争いの原因を取り除いてくれるなら戦を止めたいとゲンも思っている。
一族はイシカワ達への怨念を持っているが、その怨嗟のためにこれからの子供達までその犠牲にしたくはなかった。
だがもう止まれない…。一族を食わせる土地を得れなければ争いを止めることは出来ない…死んでいった同胞たちに申し訳が付かないとゲンは語った。
だからこそドンの言葉に耳を貸してしまった。
しかしそんな事は目で見るまでは信じられるはずが無い。この時代は論より証拠だ。
だが”このうずまきドンならやってくれるかもしれない”と何処か期待をしてしまうのは自分だけなのだろうか。
「…未だ信じられぬがまずは結果を見せて欲しい。我らの土地へと案内しよう…。だがこれが法螺話だと分かった暁にはイシカワ共々我らが殺す。それでよいかな」
ゲンの言葉に了承したドンとイシカワは里美一族と共に荒廃した土地へと向かった。
着いた土地は見事に荒廃していた。この土の国の土地は決して土壌の質が悪いわけでは無い。
ただ植物や農作物が育つための土に大きな石や岩が大量に混じり込んでいるのだ。
地表付近一帯に石や岩が大量に混じり込んでいては植物は育ちにくい。地中に根が行き届かないのだ。
だからこの土壌に混ざり込んだ石や岩を何とかすればこの地は緑が生い茂る土地へ変わっていくはずだ。
当然過去には土遁で何とかしようとした忍も居ただろう。だが石や岩を取り除くためには一度土を掘り返さなければならない。
例え土遁でそれが出来ようにも石と岩の分別には手間もかかるし何より広範囲で行う事は難しい。
更には一度整えた土地も川の氾濫や土砂災害などでまたそれらが混ざり込んでしまう。
だからこそ忍達は土地を何とかする事を諦め、最初から土壌が整った土地を奪う方向にシフトしていったのだ。
治水をすれば良いかもしれないが戦が原因でそんなことをする時間は存在しない。
戦を止めたい為にしたい事は戦のせいで何も進まない。
修羅の時代の日常だ。
だがドンには出来る。この作業をドンならば一人で広範囲で行うことが可能なのだ。
「離れてくれ。これより始める」
そうドンが呟くと里美一族とイシカワはその場から離れた。
皆が離れたことを確認したドンは
「仙法・無機転生」
仙人モードの状態のみで使える術が地面へと放たれた。
仙法・無機転生。これは生体機能を持たないモノに生命を吹き込み自在に操る術だ。
原作では薬師カブトが鍾乳洞に生命を吹き込みイタチを攻撃させていた。
生命を与える都合上、熱や冷気等の生命を脅かすものによって術は解除されるが確かに今この土地は生命を宿している。
この世界で生命あるもの、つまり命を宿した生き物は皆チャクラを持っている。人間から始まり動物や植物に微生物まで生きている存在は皆チャクラを保有している。
チャクラを持たない生き物は存在していない。
つまりこの土地が生き物になった今それを構成している土や
彼らはドンの仙術チャクラによって生命を吹き込まれた以上そのチャクラを有している。
仙人モードはチャクラを感知出来る。そしてそのチャクラの形も判別出来るのだ。
ナルトは仙人モードの感知能力で正確に三代目雷影の肘を感知して螺旋丸を当てていた。
雷影の腕の形をチャクラの形で把握出来ていなければあの神業は成し得ていない。
この事から仙人モードはチャクラを塊では無く形で感知している事が分かる。
であればドンは感知したチャクラが宿ったモノをチャクラの形で何なのか判別する事が出来るはずだ。
加えて無機転生によりこの
すなわち…
「この
大きな地響きと共に地面が波打ち始めた。農地に必要な
植物の成長を妨げていた石や岩は地上付近から消え、生命を育む土地へと変化した。
術の完了を報告したドンが変貌した土地を確かめるようゲンへ告げた。
「何だこの土は…!」
ゲンが足を踏みしめてみると土がふわふわと包み込んでくれる。今まで踏みしめていた土地は硬く足を弾き返してくるだけだった。
歩けば痛い。靴を履いていようと石の形が底から強く感じる程ボコボコする土地だった。
だがこの土はやわらかい。例え赤子を落としてもこのやわらかい土は揺り籠の様に優しく受け止めるだろう。
冷たく硬かったこの土地が母の様なやさしさを持った土地へと変わったのだ。
─────この土地なら食物も育つ。もう奪うために幼子を戦へ出さなくても良い…!
「父様!これがぁ!これならぁぁ!これ…がぁぁ!」
倅が泣きながら見つめてくる。倅は一昨年の戦で息子を無くした。
だからこそイシカワ達を恨み戦に没頭してきた。
必ず勝たなければ…。勝たなければ息子の死が無駄だったことになってしまう。
だからこの土地が…これこそが…!
「これが…これが我らの…!望んでいた土地…!」
涙が止まらない。ぽろぽろと水滴が土へ落ちる。
この土地で流し染み渡った今までの涙とは種類が違う。
歓喜の涙…嬉し涙など何時以来だろうか。
怨嗟の涙はもう流し疲れた。もう流さなくて良いのなら…。
ドンが手を伸ばした。その横ではイシカワも手を伸ばしている。
少し前のゲンならその手を切り落としこの地に眠る一族達に仇として捧げていた。
もう変わるときが来たのかもしれない、と。
握手など出来る仲ではないというのに己の手は伸ばされた。
────この手を取ってもいいかもしれない
一族の者たちと抱き合い誓った。
もう戦を止めると。
この土地に眠る過去の同胞たちに誓った。
宿願は達成できたぞ、と。
未だわだかまりが完全に解けたわけでは無い。だが同じ方向を向き始めたことをドンは感じている。
確かにイシカワとゲン達との間に人の和が生まれた瞬間であった。
●
「まさか本当に何とかするとはのう…」
イシカワは未だ遠くに見える里見一族の土地へと振り返りそう呟いた。
ドンとイシカワはぷかぷかと浮かびながら自分たちの集落へ帰っていた。
なだらかな土地だ。ここがあの岩だらけの土地であったと言われて信じる者が何人いるのだろうか。
それだけキレイに整地されているのはドンの仙術の賜物であった。
「何とかしなければ平和は作れんからな。それに土地が良くなればより多くの水が必要となる。これから川から引く水路も作らねばならん」
更には土砂災害や川の氾濫が怒らないよう土地の形も変えねばならない。
まだまだやる事が山積みだと語るドンだがどても満足気に見える。
己の野望に向けてまた一歩歩みを進めた充実感に浸っている。
しかし精神的にはかなり来るものがあった。仙人モードでチャクラを正確に感知し続け更に精密にコントロールしなければならなかったからだ。
既に太陽が沈みかけている。昼から始まったとは言え六時間に迫る間その作業を一人で行っていたのだ。
「しかしそれだけやってよくチャクラが切れないのう。お主が化け物じみているとは言えこればっかりは信じられんぞい…」
イシカワがドンへ伺うような視線を向けた。イシカワも土の国で有数の猛者である。
ドンの持つチャクラに何かカラクリが無ければ、これだけの術を連続行使出来ないと考えている。
ドンもイシカワを見つめ返した。己に一番に協力してくれた盟友…彼になら己の秘密を明かしても良いと判断した。
「…これから話す事は他言無用だ」
そう言いドンは己の服を捲り上げ自身の腹をイシカワへ見せた。
ドンがチャクラを腹へ込めた。すると腹が光を発し封印術の術式が浮かび上がってきた。
「これは俺がうずまき一族を出る際に刻んだ封印式だ。うずまき一族にこの封印術は存在していない…。つまり俺自身が一から組み上げて作ったオリジナルの封印術だ」
この術式はドンから常に一定量のチャクラを吸収し封印し続ける。
チャクラの積立貯金…常に一定のチャクラをドンは術式に溜め続ける仕組みを作ったのだ。
そして封印術を呼吸の様に扱えるドンはその封印式を自在に解きチャクラを引き出しながら戦う事が出来る。
千手綱手が使っていた百豪の印。これを参考にして作り上げたドンが誇る封印術の傑作だ。
寝ている時でさえチャクラが封印され続けるためチャクラが生成されるスピードが上がったのは嬉しい誤算。これによりドン自身が持つ元々のチャクラ量も伸び好都合だらけであった。
「だが人のキャパシティーを超えるチャクラ量は溜められない。この時代に生まれてある意味助かっているのさ」
人が持てるチャクラ量は意外と多い。
人柱力が尾獣を宿せるように尾獣程のチャクラ量でも人は保持できるのだ。
溜まり続けるチャクラがドンのキャパシティーを超える心配は無かった。
修業期間は定期的に修練でチャクラを使用していたし、傭兵時代も定期的に戦でガス抜き出来ていた。
とはいえ既に溜め込んだチャクラは尾獣を優に超えている。
ガス抜きを定期的に行なわなければキャパシティをいずれオーバーするだろう。
(この戦乱の時代が終結すればより有意義なガス抜きの使い道を考えねばならない…が、今考える事では無いか)
「そして俺が今日使った仙術チャクラ。こいつも俺は溜め続けていたんだ」
ドンが右腕を捲り上げチャクラを込めればその前腕にも術式が刻まれていた。
定期的に練り上げた仙術チャクラも溜め続けていた。
ナルトの様に影分身で仙術チャクラを溜められれば楽だったがドンには影分身の術が使えない。
何故なら影分身の術の開発者である扉間がその印をドン見せる訳が無かったからだ。
うちはを相手にするよう印を隠して結ぶ徹底ぶりに内心苦笑したものだ。
だが当分の間この作業に必要なチャクラ、仙術チャクラには困らないだろう。
「だがイシカワ。そのチャクラもいずれ無くなり、俺は仙術チャクラを練り上げる必要が出てくる。その間の護衛は任せたぞ」
イシカワの仕事はドンの護衛だ。術に集中しなければならないドンを外敵から守る。
幾ら貧しい土地が生まれ変わるとは言え怨嗟の螺旋が未だ渦巻く真っ只中だ。血迷った連中が現れる事は十分考えられる。
里美一族の残りの荒れ地が終わればまた別の一族へ出向き土地に生命を吹き込まねばならん。
争いの源を断ち切りまずは手を取り合う余裕を土の国に持たせる。
年単位の仕事だ、かなりの長丁場になる。
だがこれを成した時にドンは土の国に人の和をもたらす事が必ず出来るはずだ。
土地関係なく争う一族が居ても他の一族が手を結べばおちおちと争いを続けられないだろう。
「何年かかるかはわからない。だが俺は必ず成し遂げ、この土の国に優しさを抱かせてみせる」
ドンの改めて言い放った宣言にイシカワも強く頷いた。
そのまま沈む夕日を眺めドンに聞こえぬようボソボソ独り呟いた。
「沈むばかりだったが遂に昇る時が来たのぅ」
開けない夜は無い。この時代の夜も間もなく開けそうだと確かに感じさせられた。
そして三年が経った。
調べていたらイシカワがアニオリ限定の上水流一族出身だと分かりました。
蜂使いの一族との事ですがしっくり来ませんでした。
この件に付いては触れないでいただきたいです。
仙法・無機転生は筆者が一番可能性を感じた仙術ですが矛盾がありそうならご指摘して頂けると幸いです。
正直可能性の塊なのでまた登場するかもしれません〜