岩隠れに栄光あれ   作:WBX

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第四話です。


動く時代

 

 

 

 あれから三年。遂に土の国の争いは沈静化し戦乱の時代は概ね終了した。

 ドンが次々と土地を生き返らせたことで和を結ぶ余地が生まれたからだ。

 土の国の忍はドンを英雄として称えやっと掴んだ平和を存分に味わっていた。

 ところが他国でまだまだ続く戦を高みの見物で眺めていた最中、ある事件が起こった事で未だ争いが続いている事に彼らは気づく。

 

 

 「まずは皆の衆…。俺の呼びかけに集まって頂き感謝の極みだ」

 

 ドンの言葉に里見一族の長…里見ゲンが声を張り上げその言葉に異を発した。

 

 「何を言うか!ドン殿の呼びかけとあらば我ら何処に居ようと集まる所存だ!」

 

 ドンの前には土の国の氏族の長達が集まっており、皆一斉にドンの言葉に意気揚々と頷きを返していた。

 今や土の国でドンの言葉に反感を持つ者はそうは居ない。土の国の大英雄、大大地主(おおとこぬし)のドンの発言力はそれだけの重みを誇っている。

 それに今回は彼ら忍一族の未来を左右する構想が語られると便りに記されていた為殆どの氏族の長が揃っていた。

 

 

 興奮が収まり場が静まった事でドンが言葉を発し始めた。

 

 「此度の事件は大変痛ましいものであった。我ら土の国が遂に得た平和を他国の者が犯し奪い取らんとした事は断じて許せるものではない」

 

 「このまま黙っておられぬわ!」

 

 「我らを舐めておるのよ」

 

 「「「しかり!しかり!」」」

 

 次々と声を荒らげる長達だがこれには理由があった。

 始まりはドンが豊かにした土地の氏族が他国の忍に襲われた事だった。何とか撃退したものの死傷者も発生した事で報復の声が一族内でも上がり始めた。

 更にこれは国境付近の氏族で多発し被害を受けた氏族の長達を悩ませていた。氏族としては報復をするのが筋ではある…が、やっと掴んだ平和を投げ捨てて再び争いを再開する事は気が進まない。

 襲った他国の忍もそれを感じ取ったのか定期的に襲撃を重ねその被害は拡大する一方である。

 

 「奴らは平和の重みを知っておるから戦を仕掛けるのだ。我らがそれを捨てられぬと舐め腐っているのよ。然様なことを許せるはずが無い」

 

 そしてドンは続ける。

 

 「だからこそ我らが一つになる時が来たのだ。己の一族のみを考える時代を終え、我ら土の国に襲い掛かる脅威に共同で立ち向かわなければならない時代が遂に来たのだ。

 我らが手を結び一つの集団となれば奴らは手を出せなくなる。何故なら手を出すものには我ら全員から報復の刃が振り落とされるからだ」

 

 「領地が内地にて未だ他人事と思う者も居よう。だがもし最前線の彼らが負ければどうなる?いずれ奴らはそなた達の領土にも雪崩込みその土地は草刈り場と化すだろうな」

 

 「何故奴らが我らに安易に攻め入るのか…それは当然我らが舐められておるからよ!舐められぬ為に連合を組むのだ。小さな石も集まれば大きな石と匹敵する重さとなり奴らを踏み潰すことが出来る」

 

 ドンの脳内には木の葉の猪鹿蝶が浮かび上がる。彼らは同盟を結び三氏族が協力し戦の時代を生き抜いている。その名声、コンビネーションから彼らを侮って戦を仕掛ける馬鹿は殆ど居ない。

 複数で組む強みが分かる事例だろう。

 

 「だからこそここに提案する。我ら土の国の者達が手を組みその誰もが住める場所、”里”を興す事を。そこでは我らの幼子があらゆる事を学び、忍やそれ以外の生きる道を選べるようになる。その尊い場所を我らが守るのだ」

 

 その提案に場の者は一斉に賛同し盛大な歓声が沸き上がった。誰もが望む幼子の健やかな成長、彼らはそれを守るために戦い、犠牲を払い続けてきたのだ。戦は終われどその気持ちを失うはずが無い…。

 それを奪う者がいるのであれば立ち上がり”守るために戦う”と奮起し顔つきに闘志が湧き上がっていく。

 もう我らが攻め入る理由は無くなった、であれば次は争いを防く段階…奪うのではなく守るための新たな時代が到来したことを彼らは肌で感じ取る。

 

 

 「であればここに宣言する!我らが暮らし守る尊き居場所…岩隠れの里の設立を!」

 

 こうして皆が待ち望む”命を育む揺り籠”…岩隠れの里が設立され、地獄の戦乱の時代から一足先に土の国は抜け出した。

 土の国の民もこれには賛同しあらゆる事に協力してくれた。

 里の中心部にはドンや彼らが使う土遁で新たな町が築かれていった。そこには各地から集まった民が手伝う光景が見えたという。

 更には一枚岩になった一族連合部隊の反撃で他国の忍の襲撃も減少しやがて途絶えた。

 

 やがて彼らは土の国と連携を取り土の国と密接に関わる忍の集団として受け入れられていった。

 加えて戦によってバラバラだった土の国も里と連携することで安定し、多くの事に取り組めるようになった。

 

 だがいつまでも国の決定に対してそれぞれの一族に合意を取り続ける訳にもいかない。

 そのため岩隠れの里のリーダーを決定するよう土の国が求め話し合いが行われたが、ものの数分で終了した。

 

 彼らにとってのリーダーなど当然決まっている。

 この土の国に生命を吹き込み争いを止め、他国からの侵略をその案によって押し止めた。

 その名は各地に轟き土の国の大英雄”大大地主(おおとこぬし)”と称され讃えられている。

 

 ───他国から来た者? だからどうしたと言うのだ!

 

 誰かがほざいたなけなしの反論も叩き壊され岩隠れの里のリーダーは決定した。

 土の国を守る影の忍びの長…名を土影。

 その初代に選ばれたの忍の名は ”うずまきドン”。

 

 その名は平和を夢見て実現させた最も偉大な土影として未来永劫語り継がれた。

 

 そしてその名は未来の土の国だけではなく、この時代においても語られる。

 土の国の戦の終焉、岩隠れの里の設立、その長である土影の誕生は瞬く間に忍界に波及していった。

 平和をいち早く作り上げたドンは多くの影響を各地に与えた。

 だがその報は平和への希望を他国の忍に抱かせると同時に受け入れがたい事実を知らせる事になった。

 しかし時は進んでいく。この戦乱の時代が終わるのも時間の問題であるのは確かであった。

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 「ではドンが土の国の争いを止め里を興したというのは誠の事であったか!」

 

 千手一族の長、千手柱間は届けられた報告に耳を疑った。

 思わず歯を食いしばり畳から立ち上がってしまった。

 平和が訪れた報告は柱間の心を

 ───いずれは自分も───と奮い立たせてくれると思いきやそれを成し遂げたのがドンであることで苦々しい心境へと変貌させてしまった。

 

 ───何故平和を真に望む俺が未だ成し遂げれず奴が先に成せるのだ───

 

 嫉妬の感情を隠せない。それが顔に出ていたのだろう、共に報告を聞いていた扉間が柱間に茶を注ぎ入れ湯呑を差し出した。

 

 「に、にがっっい、この茶は何ぞ扉間…!」

 

 一口飲めば渋みで吐き出しそうになった。苦い表情で扉間を見ると口元に笑みを浮かべていた。

 ”すこしは嫉妬(・・)の感情が飛んだか”と扉間は話し始める。

 

 「落ち着け兄者。人は余計な感情があると事実を正しく認識出来ぬ。奴を正しく分析できねば兄者の平和も成せぬのだぞ」

 

 扉間の言葉に納得した柱間は渋茶をごくごくと飲みきり湯呑を置いた。嫉妬の感情が薄まり顔つきが切り替わりつつある。

 とは言え渋茶を一気に飲んだ口直しで慌てて水を飲み始めた柱間に扉間も苦笑した。

 そして柱間が水を飲み終わり一息ついたことで扉間も話し始めた。

 

 

 「良いか兄者。奴は綿密に計画を練りこの里興しを成し得た…それだけはまず認めねばならぬことよ」

 

 誠に遺憾だがそれは認めねばならないと柱間にもわかっている…が、気に食わなかったのだドンのやり口が。

 平和のために必要な闘争…ドンが土の国で里興しを成した事でドンが"名を売った”意味がようやく柱間にもわかったからだ。

 それが火の国では無く土の国で野望を成すために必要だったから、それが柱間の手を取らなかった理由だったのだ。

 

 「だがドンは心の奥から平和を望んでなど無かった。俺はそれが悔しい…!奴は己の名を売るために火の国を踏み台とし、欲望のための平和を叶えたのだ!」

 

 その悔しさ、やるせなさは柱間を蝕んでいる。だが扉間の脳内は感情に囚われることなくドンを正しく分析していた。

 

 「それは違うぞ兄者。奴とて心の底から平和は求めておったわ。ただワシらの視点が低かった故に奴をそう捉えてしまっただけの事よ」

 

 扉間は語る。確かにドンの欲望は平和の上に成り立つモノなのかもしれない。

 そのために火の国の忍を踏み台にして名を売ったのは事実だろう。

 だが…

 

 「奴は決して兄者やワシを殺そうとはしなかった。殺せる機会があったのは兄者にも分かっているはずだ。奴の使う塵遁…あれの恐ろしさをワシらは身に染みて知っておろう」

 

 いくら柱間や扉間が傑出した忍とはいえドンの高速の飛行術から放たれる塵遁や仙塵掌(せんじんしょう)危うく()触れかけてしまったことは何回かあった。だからこそ腑に落ちない。

 

 ───あのタイミングであれば奴はワシを殺せたはずだ…!

 

 

 一度疑問に思えばあらゆる疑問が扉間の脳内に浮かび上がってくる。

 思えばドンと交える戦で大きな被害を千手一族は殆ど負う事が無かった。

 更には頻度が減ったとはいえ(………・)主な戦の相手のうちは一族の面容もそれほど変わりが無いのは何故だ…。

 もしかすれば奴ら()あの出鱈目なドンを相手に死者の数がそれ程出て居ない(…………・)のかもしれん…。

 

 積み重なったそれらの違和感を拭うべく戦場で検証を重ね遂に扉間はある推測を打ち立てた。

 

 

 うずまきドンはうちはと千手に火の国の忍を束ねさせ里を興させたいのではないかと。

  

 

 もしそうであれば辻褄が合うと扉間は感じた。

 

 火の国で里を興すにはうちはと千手が手を結ぶか何方か(どちらか)が滅ばなければ難しいだろう。

 だがうちはと千手、何方か(どちらか)の一族の戦力がドンにより偏って減ればその一族は滅亡を免れない。

 また万が一、うちはと千手が手を組んだ場合でもある程度強力な戦力が残っていれば里を牽引出来るだろう。

 つまりドンは意図的にうちはと千手の核となる人物を殺さぬよう手加減し、火の国の里作りが何時でも出来るよう調整していたと扉間は語る。

 

 それを聞いた柱間もドンの行動の違和感に気づき始めた。

 戦場でのドンへの違和感も思い返せば納得が出来るものがある。

 

  更には初めて敵として相見えたあの時…

 

 

 

 ───「悪いな柱間…。同じ理想だとしても俺は自分で叶える

 

 「何故だ!?俺達で叶えればお前が叶えることと一緒だろう!

 

 「違う…。お前達()と共には叶えるのでは意味が無い」───

 

 

 

 「奴が言っていたお前達()…とは ”俺達千手と” ではなく” うちはと千手と” と言う意味であったのか!?」

 

 扉間が頷いたことで柱間の腕に鳥肌が立った。確かに扉間の推測は筋が通っており柱間の勘もそれが正しいと疼いている。

 

 「奴はワシらを相手に手加減し火の国に里を興せるだけの戦力を残しておった。更には奴の参戦でうちはと千手の直接の戦が減り両一族の死者数は減少傾向にある。恐らくは奴の意図通りだろうな…」

 

 また扉間が言葉を連ねる。

 

 「故に間違いなく奴は心の奥底から平和を望んでいたのだ。火の国に里を興すために ”うちはと千手が手を結ぶ必要性” をヒントとしてワシらに与え、己の名を売る為の被害は最小限に止め土の国はおろか火の国でも平和の布石を打っていたのだ」

 

 尤もあんなヒント普通は気づけないと扉間は毒づく。

 が…扉間の推測通りドンは平和を真に望んでいた。岩隠れの里を忍五大国で随一の強国にするには木の葉隠れの里を設立させなばなければその証明が出来ない。

 

 そのため出来るだけわからないように手を抜きマイルドに戦っていたつもりだったが扉間には見抜かれていた。

 望む平和のための踏み台として彼らと戦いつつ木の葉の戦力を残す。

 こうしてドンなりに彼らに償っていたつもりだったのだ…尤もかなり傲慢な言い分だが。

 

 「奴の野望は何なのかは未だわからんが、奴はそれを叶えるために真に平和を欲しておったのは事実だ。ワシらと違うことはその視点の高さよ。平和を成した先を見れぬワシらの視点が奴より低かったのだ」

 

 その言葉に柱間は納得すると同時に大きな溜息を吐き俯いてしまった。平和を成す、成したい己の視野の狭さと情けなさに…そして平和を成したドンとの差が重く心にのしかかる。

 猫背で座布団に佇む柱間の元に扉間はゆっくりと歩み寄りその腰を落とした。

 まだ大事な話が終わっていない。あと少しだけ聞いていくれと扉間が言葉を続ける。

 

 「…奴が不気味に感じるのはワシとて同じよ。そもそも何故里を興すのに火の国では無く土の国を選んだのか、そして何故火の国にも手を広げておるのか、それらの動機が全く分からぬからな」

 

 そうだ。そのような敵の全容を見抜けない事が柱間を不安にさせるのだ。

 例え己が里を興しても遠くを見渡せる視野が無くば忍び寄る危機に気づけずに里を危機に陥れてしまうかもしれない。

 ───それでは皆が安心して里に暮らせないではないか

 ネガティブに考え更に心が沈みそうになったが…

 

 「だが安心しろ兄者。そのためにワシが居る」

 

 柱間はその言葉に思わず顔を上げ扉間を凝視してしまう。

 

 「ふっ…今の兄者は己が馬鹿なのを忘れておる…。過去ワシがどれだけその尻ぬぐいをしたと思っておるのだ」

 

 扉間が薄く笑いながら柱間の肩に手を置いた。肩に暖かさがじんわりと浸透していく。

 なんと大きな手だろうか…その手は柱間に確かな弟の成長を感じさせてくれる。

 あれだけ小さかった、たった一人残った弟がこれだけ大きくなってくれた。必ず守り切ると誓ったあの頃の()とはもう違うのだと、その手は扉間の心を伝えてくる。

 

 「千手柱間を支える千の手…当然その一つはワシの手よ、兄者が一人で抱え込む必要などありはしないのだ。…それに加えてワシの手は五百本分の働き者、ならば兄者があのドンに負けることなどありえぬ。何せ俺の兄者なのだからな…」

 

 恥ずかしげに顔を逸らした扉間に思わず笑ってしまう。

 そうだ。確かにそうだ。その言葉は今まで己が一人で考えても碌な結果にならなかった事を思い出させてくれる。

 

 ────それもそうよの…里は皆で営むものぞ。俺は大切なことを忘れる所であったな…

 

 己が傲慢であったと猛省しなければと柱間も顔を叩いた。

 顔に笑顔が宿りやっといつもの柱間に戻ってきたのだろう、大らかで全てを包み込む陽だまりのような温かさを柱間から感じられる。

 

 「扉間!早く里を興した後の事も考えようぞ。計画性の重要さは()学んだ故にな。ハッハッハッハッハッ!」

 

 

 淀んでいた柱間の目に光が戻った事に扉間は気づいた。

 多少の荒療治になったがこれでもう安心だ、と扉間もホッと一息ついた。

 

 ───やっといつもの兄者に戻ったか…世話が焼けるな全く…。

 

 バシバシと肩を叩かれ座布団が強引に扉間の下に敷かれた。

 その強引さに扉間は苦笑いを浮かべながら柱間と里の構想を語り合う。

 そんないつも通りの千手家の光景がそこにはあったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 ドンは次々と渡され積もっていく書類を陰鬱な気持ちで眺めていた。あとどれくらい続くのかと先の見えない現実から目を逸らそうと隣を見れば、これまたうず高く積もった書類の山をイシカワが流れるように捌いていた。

 

 (…もう本当にこいつが土影で良かったのではないか…?)

 

 そんなドンの気持ちが伝わったのか書類を捌き続けるイシカワがペンを止め、困ったような視線でドンを見つめ返す。

 既にアイコンタクトでどんな気持ちか伝わる仲だがこればっかりはイシカワは許すわけにはいかない。

 ”諦めろ”と首を振り再び書類に視線を戻したところでドンはがっくりと肩を落とした。

 

 ドンが土影となってから早一年、未だその激務は留まることを知らない。

 何せ初めての里づくりとあって前例が無いことに加え、参考に出来るモノが記憶にある木の葉隠れの里しかドンは持ち得ていない。

 押しよせる意見交換、原作には全く出てこない里システムの構築の段取り。

 いくらドンが岩隠れの里を興したスーパーマンとは言え全部が全部完璧では無い。

 やはりあの扉間が居なければ間違いなく柱間は里を興せなかったとだんだん柱間へのイライラが募ってくる。

 一里に一人扉間が居ればイーブンだと切に願ってしまうドンであった。

 

 (そして俺を苦しめる奴はもう一人…。くっッッッ。どうやらまた来たようだ)

 

 どしどしと女とは思えない歩幅と足音で土影室に来た女はノックをすることなくそのドアを開け放った。

 蒼い髪をショートボブにまとめた女は苦しむドンとイシカワを目の当たりにしたことで目元をニヤニヤと歪ませている。

 そのままズンズンとドンへ近づき両手に抱えていた書類の束を適当なスペースにズカっと置いた…が、その瞬間ドンの目がカっと見開らいた。

 

 「貴様青ツチ!適当なスペースに置くなと言っておるだろうに!何度言わせるのだこの石頭…」

 

 ドンに怒鳴られたその女…青ツチはドンの言葉に悪びれることなくむしろ挑発的な笑みを浮かべながらドンに詰め寄った。

 

 「うるせーーな!せっかくウチが持ってきたんだからありがたく受け取りな。余裕が無い男は持てないぜぇ…だ・ん・な・さ・ま!」

 

 相も変わらず繰り返される挑発にドンのこめかみがピクピク動き握った万年筆が鈍い音を立てて握り折られた。

 この里でドンにこんな口の利き方が出来るのはこの女ぐらいである。

 黙っていれば美人でスタイルも良いことから引く手数多の癖にこの性格だ…売れ残っていた在庫品なだけはあるとドンは会う度に思ってしまう。

  

 (何故こんな奴と婚姻を結ねばならなかったのだ!)

 

 ふと嘲りの視線を感じて横を見たがいつも通りのイシカワが映るだけであった。

 奴も”疲れている”のだろう。だがこいつこそドンに青ツチを押し付けた張本人だ。

 未だに疑いの目線を抱いてしまうのも無理もない。

 今でもあの時を鮮明に思い出すとドンは腸が煮えくり返る。

 己が火の国出身である事を最も恨んだのは後にも先にあの時だけだったとドンは後に語った。

 

 「これこれ!お主はドンの嫁御、ドンがモテる必要は既に無いのだぞ!それにその口調をいい加減直せと散々言うておろうに…!」

 

 イシカワが青ツチに苦言を漏らしたが、口笛を吹きながら窓の外を見つめる様子からどうせ言っても無駄な事は既に確信している。

 ドンの前だからこそ注意するが内心嘲りと感謝の念をドンに送っている。

 なんせドンは己の一族で腫物だった青ツチを引き取ってくれた大変ありがたい縁者であるからだ。

 

 目の前の生意気な女、青ツチ。

 彼女はイシカワの父が死ぬ晩年に設けた子でありイシカワとかなり年齢が離れた妹だった。

 一人残された母はやっと生まれた女の子という事もあり大層この妹を可愛がった…がそのせいですこぶる我儘に育ってしまったのだ。

 イシカワが定期的にゲンコツを落とした甲斐あってかそのわんぱく加減は多少収まったが、未だに自由気ままな性格は健在。

 おかげでこの年になっても結婚相手が見つかりやしない。

 

 青ツチの年は二十六。この時代であればもう行き遅れも行き遅れで”嫁ぐ相手が可哀そう”と周りが気を使う年齢である。

 青ツチも結婚は半場諦めておりドンによって戦が終わるまでは、元気に戦場を飛び回り爆撃(・・)する日々であった。

 

 だが戦が終わり戦場での日常が終焉を迎えると青ツチは本格的に一族で浮き始めた。

 イシカワも青ツチとの婚姻を一族内の有望な男に勧めた。

 しかし皆 ”族長の妹など恐れ多い…” と断る始末。

 大変都合の良い理由だがイシカワは納得せざるを得なかった。なんせ自分でも勘弁してくれと思うからだ。

 母になんとかしろとせっつかれ婚姻相手を探す日々だったがとある会議が里で開かれたことでその悩みは一掃されることとなる。

 

 

 

 「してドンよ。お主は何時身を固めるだ。好きな女子の一人でも居ないのか?」

 

 始まりは土の国の大名がドンにその旨を聞いた事だった。未だに恋の一つもせずに野望に突き進むドンであったが、流石に土影となれば身を固めねばならない事は分かっていた。

 特に火の国から来た余所者のドンに土の国で家庭を築かせるのは大変大きな意味を持つ。

 うずまきの血を岩隠れで残し封印術を相伝させる事は里の最重要プロジェクトに名を連ねている。

 

 だが安易には決められない。何故なら土影の嫁にはそれ相応の家格が、血筋が無ければ国や忍一族に示しがつかないからだ。

 だがそれなりの家の娘は早く身を固めるものだ。となれば残された未婚の女共は訳アリの事故物件であるのが殆どである。

 

 「ゲン殿…そなたにも娘がおったな」

 

 「いやいや、娘は既に未亡人にて…」

 

 「そなたの家はどうなのよ…!」

 

 「いやぁ…未婚なのは今年で四十になる某の妹しかおりませぬ…」

 

 皆うーん、うーんと悩んでいたがイシカワの一言によって流れが完全に決まることになる。

 

 「ワシの妹であれば年も二十六とドンに釣り合うと思いますぞ。加えてドンも面識がある故安心して娶ってくれるはずじゃて」

 

 イシカワの爆弾発言に皆目を見開くがドンにとっては寝耳に水。認められるはずが無かった。

 

 「イ、イシカワ!貴様何てことを!何故俺があんな爆弾娘と婚姻を結ばねばならんのだ…!」

 

 ドンは鬼の形相でイシカワを睨みつけ ”ふざけるな” と言い返したが次々と賛同の声が上がる。

 更には大名まで青ツチ興味を抱いてしまった。

 

 「皆の者よ。イシカワの妹はそれほど有名なのかぇ?」

 

 大名の言葉に皆一斉に青ツチを褒めちぎり始めた。ここを逃せば延々とこの話題が続くと察し、隙を見逃さずにチャージを掛けるのは見事な連携と言えよう。

 とてもこの間まで戦っていたとは思えないドンである。

 

 「それはそれは有名ですぞ!なんせあの青ツチ殿ですからなぁ!」

 

 「いやぁ、我ら里美一族もあやつには手を焼かされましたなぁ!」

 

 「確かにゲン殿は良く知っておろうな…。あの英傑であれば安心してドン様を任せられるでしょう…」

 

 青ざめたドンが口を開き異を発しようとするが既に遅かった。

 

 「ほほぅ…強者の皆がそこまで言うとはのう。イシカワの妹は相当な剛の者であったか。血筋も実力も年齢も申し分無いとなれば文句は無いのう」

 

 「儂の妹は相当な暴れ馬ですがドンなら乗りこなせましょう。しっかし大名様が居られる会議で決まるとはこれも御縁ですな…よろしければ大名様から祝福を頂ければ妹も大層喜ぶかと」

 

 「ホッホッホッ!嬉しいことを言うのうイシカワは。それなら我からも祝いの言葉を後日送らせて貰うとしようかのぅ」

 

 不味い、不味いぞと。このまま大名が青ツチを気に入ればあいつとの婚姻は既定路線になってしまうと危惧していたドンだが残念ながら手遅れであった。

 母も最高の縁を拾ってきたとイシカワを褒め称え、一族の長老も笑顔を浮かべるだろう。

 やっと家から出て行く妹にも最高の御縁を結ぶことが出来た。

 

 (あ奴のせいで家が騒がしくて仕方ならん。これで嫁も生き生きと出来様な)

 

 青ツチに怯えていた嫁もやっと家でリラックス出来るだろう。土の国にも里にも最高の婚姻だ。

 そして何より強い(・・)、贔屓目に見てもあ奴ならドンの護衛としても十分役立てるだろうとイシカワは確信している。

 

 ───これで皆満足じゃろうな。我ながらあっぱれよ

 

 歓喜の笑みを表情筋から消し去ってドンの顔を伺ったが、その目は何処か虚ろで現実逃避している。

 その哀れな顔に思わず吹き出しそうになったが間違いなく吹き出せば殺される。

 だが気合で笑みを噛み締めたというのに体がプルプルと震えてしまった。

 幸運にもドンは気づかなかったためイシカワは安堵した。

 ぶつぶつとドンが呟いているが誰も触れようとしない…なんせ今この瞬間はドンが最大の腫物であると皆気づいているからだ。

 

 「…馬鹿な…、俺があやつと?嘘だろ…?何故あいつと…?何故だ、何故だ…なんで…?」

 

 壊れたように同じ様なことを繰り返すが現実は変わらない。

 ドンの嫁はイシカワの妹、青ツチに決定した。

 

 後世で青ツチは”勇ましい嫁でその気高い心は周りを惹きつけ放さなかった”と歪んで語られていた。

 気高い心何ぞ持ち合わせていない。ただ好奇心のままにうろつくため周りが青ツチを放置出来なかっただけである。

 いつの世も歴史は正しく継承されないものだ。後世で作られたドンと青ツチの恋物語をこの時代の者が読めばひきつけを起こして笑い死ぬだろう。

 

 ただ”勇ましい”点だけは合っていた。これから始まる第一次忍界対戦でその名は轟くことになる。けたたましい音と共に悲鳴をばら撒き続ける様は他里から恐れられ異名を冠された。

 

 岩の爆撃姫

 

 またドンは御年二十一歳、青ツチは二十六歳。

 令和の世界なら全然ありだ。前世なら大好物であった姉さん女房である事だけがドンの唯一の救いだろう。

  

 

 

 

 

 それから三年。未だうちはと千手の争いは続いていたが唐突に終止符が打たれた。

 傷を負った弟が自らの力を兄に授け、失意の最中息を引き取ったからだ。

 

 「頼む…!イズナ…!イズナぁ!俺を置いていかないでくれ…ぇ…。お前まで死なれたら俺はもう…!」

 

 冷たくなった弟に縋り付き、マダラは枯れない涙を流し続けた。

 

 マダラは永遠に輝く弟の形見を宿し柱間と雌雄を決し、敗北した。

 だが最後に腸を見せた柱間によって千手とうちはの和平は成った。

 火の国に長く続いた争いが収まり、遂に平和が訪れた。

 何故ならうちはと千手が手を結んだことで他の氏族もそのビッグウェーブに乗り、急速に争いが沈静化したからである。

 うちはと千手が先導し作った安寧の地。

 その里の名は ”木ノ葉隠れの里” と呼ばれた。

 

 

 




2024年お疲れさまでした!皆さん、良いお年を。
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