岩隠れに栄光あれ   作:WBX

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第五話です。


打ち上がる狼煙

 

 

 

(砂隠れが出来て五大国全てが出揃った、後は戦争に備えるだけよな…)

 

 既に夜は深け間もなく三時になる頃、やっと青ツチとの夜の大運動会を制した事でドンは一人の時間を迎えられた。

 実に強敵。毎度毎度激戦を繰り広げるが此度も何とか勝利することが出来た。

 四時間もの時間を強奪した青ツチは許しがたいが、夜は可愛い奴で何処か憎めないのだ。

 仕方なく気絶して眠りに耽る青ツチにドンはそっと布団をかけてあげた。

 ぐーぐーと気持ちよさそうに眠る顔を愛おしく感じる。

 しかし相当な疲労故の眠りだろうがそれはこちらも同じ事、毎度毎度は勘弁願いたいものだ。

 

 

 (戦争は間違いなく起きる、必ずだ…)

 

 青ツチから視線を切り思考の海へ戻る。遂に忍び五大国全てが設立され一族単位の戦争は沈静化した。

 しかし出来立ての組織は何処もごたつくもので、不安定な政治を行う里が多く存在する。

 しっかりと地盤を固めきって里を興した岩隠れや、うちはと千手による強力な牽引…何より扉間を有した木の葉を除けばどの里も不安定と言えよう。 

 

 不安定な政治は民に伝播しやがて崩壊へと突き進む。それを避けるために一刻も早く政治を健全化させたいがそれは難しい事だ。

 なんせ岩や木の葉に乗り遅れまいと強引に対立していた一族を束ねての里の設立だ。

 今まで敵対していた忍の言葉を果たして素直に聞けるだろうか、いいや無理だろう。

 だからこそドンは順序立てて計画した。

 階段を一歩ずつ上り時間をかけて土の国に尽くした。

 おかげで岩の忍からの信頼深く、すんなり彼らは従ってくれる。

 

 (ある意味俺は火の国出身で良かったのかもしれん…。敵対してた者がトップに立った時、素直に指示を聞いてくれるとは思えんしな)

 

 健全な政策にも国内の火種が反発し、思うような政治が出来ない。だが不安定な政治は民からの信頼を失いやがてクーデターの様な動きに発展しかねない。

 内側からの改革が不可能と悟った時為政者はどうするのか、その答えは決まっている。

 

 (辞めるか、外から功績を引っ張ってくるしかないな。ハハッ相も変わらず地獄のような構図だな…)

 

 ドンは思わず乾いた笑いを浮かべてしまった。なんせ為政者は自分の立場を守るために新たな争いを外に吹っ掛け勝ち取るしかないのだから。

 せっかく国内の争いを終焉させたのだ。

 けれど国内を安定させるために他国に戦争を仕掛ける必要があるとは一体何事なのか。

 相も変わらず地獄模様だとドンは感じた。

 

 (吹っ掛ける理由は幾らでも作れる…。後は上手く国内の忍をそれに乗せるだけだからな)

 

 不安定な政治は不満が多いからこそ不安定なのだ、火種には事欠かないだろう。

 全ての原因は余裕が無いから、これに尽きるとドンは思った。余裕が無いからこそ少し我慢して全体の利を取る選択肢が取れない。

 恐らくドンが土の国の土壌を改善していなければ今頃食糧問題で国内から突き上げが起こっていただろう。

 余裕が無くなった時は奪うしかない。彼らはそれ以外の選択肢を取ったことが無いしそれしか知らない。

 

 

 (やはり豊かさは選択肢を増やしてくれた。多少の我慢が利く国は強いからな、色々と国外に目を向ける余裕が出来る)

 

 国外へ目を向ければ色々と他里の様子が見えてきた。砂は豊かな土地の不足、雲は武闘派揃いの里ゆえに国内の意見がバラバラになっている。直にこの二つの里の不満は弾けるはずだ。

 霧隠れは閉鎖的過ぎる…が少しばかり情報は入ってきた。どうも国内で激しい粛清が行われているようで不満が高まりつつあるらしい。

 総じて不安定な情勢から大国同士の戦が起きるのはまず間違いないだろう。

 

 もしドンが他里の長なら早期に岩や木の葉に仕掛ける。責めるのが遅れれば遅れるほど豊かな岩や木の葉の結束は高まり、隙が無くなっていく。

 故に戦争の備えは早急に進めなければならない。この豊かとなった岩隠れの里を守るために、我らの幼子を守るために。

 

 

 (問題は木の葉だがこれはまだ読めん。火種はマダラぐらいだが大きさが火事レベルだ)

 

 ドンはうちはは勿論千手からも恨まれている自覚がある。

 攻め入られる事も覚悟していたが、木の葉隠れの里設立の際、柱間から受け取った文に『助言感謝する』と書かれていた。

 

 (俺の意図にも気づいていたか…。大方扉間だろうが奴にも感謝しなければならんな)

 

 扉間のおかげで柱間からのヘイトが大分少なくなったようだ。油断は出来ないが少しは安心出来そうだ。

 とはいえ同盟を結ぶほど信頼されているとは思えない。

 なんせドンの動きは火の国側からしたら意味不明、その警戒心は未だMaxを維持しているだろう。

 やはりいざという時への、選択肢の幅を増やす準備はしておくべきか、とドンは結論付ける。

 

 (黒ゼツの工作で木の葉から攻められる事があるやもしれんしな…)

 

 原作で黒ゼツはうちはの碑文を捏造しマダラを里から抜けさせた。

 であればまた何かを捏造し岩隠れとマダラ属する木の葉の戦争を引き起こすことだって考えられた。

 この世界でも黒ゼツが暗躍しているはず、必ずマダラを闇に堕とす準備を重ねていると見て間違いない。

 岩隠れにイズナがマダラへ託したうちはの者を殺させ、マダラの闇をより深くする事だって可能だろう。

 そのために岩隠れが被害に合うのは看過できない。

 仕方なくドンは戦争が起きる事を近日、皆へ伝えると決めた。

 

 「…もうこんな時間、流石に寝るか」

 

 そろそろ寝ようと布団に寝転ぶが肝心の掛け布団が見当たらない。キョロキョロ探し見つけたが青ツチに蹴り飛ばされ部屋の隅へ押しやられていたらしい。

 さっき布団をかけたばかりなのに、とんでもない奴だと呆れてしまう。

 どうせかけても朝には無くなっているだろうがもう一度かけてあげよう。

 

 「おやすみ青ツチ」

 

 横の青ツチと羽毛の布団から暖かさを感じつつ薄れて行く意識にドンは身を任せた。

 

 

 ●

 

 

 翌朝ドンは皆を集め戦が間もなく始まるかもしれぬと伝えた。

 彼らもその理由に納得し、守るために戦うと誓ってくれた。

 その決意の表れだろうか、来たる戦で一族間の連携を効率化するために血系限界を持つ一族もある程度の情報を開示し協力する姿勢を見せてくれた。

 そのおかげで部隊の再編成、作戦の立案をスムーズに行えた。

 お互いを助け合う仲間と捉えるその様は、”それぞれの意思()が一つになりつつある”と、ドンに感じさせてくれる。

 

 ドンはご機嫌にペンを書き走らせ午前中の業務を早めに終わらせた。

 しかし茶を飲み一息ついている所で、土影室にノックの音が響き渡った。

 

 「第三部隊の隊長から報告が御座います」

 

 「ふむ。良いぞ、入ってまいれ!」

 

 折角の暇だが仕事は後回しにすればやがてツケが回ってくる。

 ドンは出かかった溜息をグッと押し殺し、使いを中へ招き入れた。

 茶を飲みながらいつもの様に報告を聞いていたドンだが、事の重大さに思わず飲むのを止めてしまった。

 

 「第三部隊にて塵遁を習得した者がおります。名を無と言い、我らの部隊でかなりのやり手だった者です」

 

 目を見開きしばし沈黙してしまう。まさか、まさかと心が踊った。

 

「…それは真なのだな。それは…それは、実に僥倖だ…!」

 

 真偽を確かめ確信に至るとワクワクが湧き上がる。

 やっと現れた己の後を継ぐ後継者。ドンが作った岩隠れを導き、積み重なる小石を支える新たな大石の原石。

 その誕生はドンの心に熱い血潮を滾らせた。

 

 (遂に来たか無…!)

 

 最もドンが原作で好み、憧れた忍であの塵遁の開発者だ。忍としての強さ、才能はあの扉間を上回るとドンは確信している。

 

 間もなく来たる第一次忍界戦争、無は否が応でもその存在を忍界へ轟かせるだろう。

 あの塵遁で全てを無に帰せばドンを継ぐ次の意思()と皆認めるはずだ。

 しかしそれでは原作の筋道通り、寂しいではないか。

 このうずまきドンが己の持つ全てを叩き込む。

 原作の無を超え、このドンに引けを取らない次代の岩隠れの強さの象徴にしてみせる。

 無のハードルが飛躍的に高まってしまったが、彼には頑張って貰いたいところだ。

 

 (面白くなってきた…。実に、実に…堪らんぞ)

 

 滾る心に更に薪がくべられた。既に無を鍛えさせるための計画を練り始めるドンであった。

 

 

 

 

 

 「塵遁・限界剥離の術

 

 白い閃光が迸り目の前の大岩が塵となった。宙に浮かぶ全身包帯の男は荒い息を吐きながら再び(・・)両手を合わせ次の塵遁を作りあげる。

 辺り一面岩だらけのこの地は岩隠れの里からかなり離れた場所だ。まったく人が寄り付かない故に僻地と言える。

 

 無が塵遁を扱えるようになり早数か月、ドンと無の修行はこの地で行われている。ただでさえ危険な塵遁が薙ぎ払われる事もある為、人がいるような場で修行は行えなかった。

 数か月もの間で岩山は殆ど塵と化し遠くの景色が見えるようになった。この調子だとあと二、三回の修行でこの山は潰れるだろう。

 

 

 「もっとだ、もっと早く塵遁を作れ…。その繰り返しが術への理解度、放つ速度を上げるのだ!」

 

 ドンの言葉は無には聞こえているが、答える気力は既に無い。かれこれ二時間塵遁を放ち続け、既に無の集中力とチャクラは風前の灯だからだ。

 だがドンは休息を許さない。疲れた時こそ人は楽になるため近道を考え、工夫し始めるからだ。

 それに疲れた時には疲れた時なりの戦い方、チャクラの使い方がある。戦場で疲労は言い訳にならない。それは無も理解している事だろう。

 

 ヒューヒューと息が切れかけた無の塵遁は遂に不発となり軽重岩の術が解けてしまった。無の体が力を失い落下を始める。

 ドンが慌てて抱きかかえゆっくりと地面へ無を下ろした。

 しかし滝の様な汗をかく無はドンの心配する呼びかけにすら応答出来なかった。

 結果的に無が立ち直るまでに五分もかかり、やっと会話が行えるまでに回復した。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ…。助かりましたドン様」

 

 荒い息を落ちつかせつつ、無はドンから受け取った水筒の水を飲み始めた。

 つい先ほど渓流から汲んできたばかりの水だ。

 冷たい水筒の水は生き返るような心地良さでごくごくと全てを飲み干してしまった。

 やっとこさ息が整いドンが的として運んだ大岩に腰掛け、暫しの休息を許された。

 

 「ドン様の仰ることが分かります。確かに塵遁の放つ速度が上がり、チャクラの流れがスムーズになりつつある」

 

 目の前の師…ドンの教えは着々と己を強くしているのが無には分かった。

 なんせ今放つ塵遁の展開速度は習得した過去のモノとは雲泥の差だ。今では塵遁にも慣れ軽重岩の術と併用して運用出来るまで至った。

 後はかつての切り札、無塵迷塞を同時に扱えればステルス状態から塵遁で不意打ち出来る、それが無の当分の目標であった。

 

 「中々の仕上がりだ…。チャクラの流れも整い、無駄が減ってきた。疲れた時こそ精密なチャクラコントロールの練習と心得るが良い」

 

 師からお褒めの言葉を頂き嬉しく感じると同時に、大きな実力の差も感じてしまった。 

 最も偉大な岩隠れの忍と比べる事は烏滸がましいと分かっている。だが何時かはドンに追いつきたい、そう無は思っているのだ。

 

 「…ドン様。仙塵掌(せんじんしょう)を扱うにはあとどれ程かかるのか教えて頂きたい…」

 

 迷ったが遂に聞いてしまった。

 やはり自分の現在地が気になって仕方が無かった。確かに前進しているが未だ師の背中が見えた気がしない。偉大な師は塵遁だけでなく各種性質変化の高度な術、封印術、仙術まで会得している。

 その差を埋めたい、せめて仙塵掌(せんじんしょう)は習得したい、と未熟な心が無を急かしてしまう。

 

 「焦りは禁物…と言っても焦ってしまうものだ。お前の気持ちはよく分かる」

 

 

 何処か彷徨うような無の表情にドンは心当たりがあった。

 それはかつての己を思い出させる。

 

 ドンが野望を果たすには奴ら(・・)に勝たねばならなかった。

 だからドンは一族から出奔し、しがらみに囚われることなく己の時間を有意義に、計画的に使用した。

 そのおかげで今でこそ追いつけたと思っているがとにかく奴らは強い、強かった。

 

 最初から頂きの高さを知っていたドンにはその背中が見えない、追いつけない事への苦しさ、焦りを抱える無の気持ちがよく分かった。

 

 だがドンは最初から彼らに抗う手段…塵遁や仙人モードの存在、そしてそれらに至る”道筋”を原作から知っていた。

 ドンに追いつくための道筋の辿り方、必要条件。無はこれらが分からないから苦しんでいるとドンは分析した。

 

 「無、俺と同じ位早く塵遁を打てるようになれ。そうすれば仙塵掌(せんじんしょう)を教えてやる…」

 

 故にドンはそれに至る道筋、条件を示してやった。

 道筋と必要な条件を知れば無は途中で心折れる事は無いだろう。

 なんせ、なんせコイツはこれからの里を背負う男、

 

 (お前は二代目土影なのだからな…!)

 

 無の目に熱が灯った。ドンの目から己への信頼、期待を見出したのだ。

 ドンと同じ位の塵遁の展開速度…、決して簡単では無いだろう。

 しかし出来る。己なら出来る。ここまで来れたのだから行けるはずだ。

 そこまで行けば師へまた一歩近づいたと実感できる。

 師はそこでまた己に道を示してくれるはず。

 

 「その言葉忘れないで頂きたい…!必ず俺は塵遁を完璧に習得する故」

 

 無の言葉に力強くドンは頷き修行は五分後再開すると伝えられた。

 元々無に仙塵掌(せんじんしょう)はいずれ教えるつもりだった。

 塵遁を開発した無ならば直ぐにこのステージには来れるはず。そして会得すれば奴は更に化ける。

 なんせドンは無にこそ仙塵掌(せんじんしょう)が一番適していると考えている。 

 

 (戦争が始まるまでに間に合わせろよ、無)

 

 必ずあいつならやってくれる、頼もしい後輩のために全力でドンはサポートするつもりだ。

 休憩は終わりだ。もう五分経ってしまったか、とゆっくり無は立ち上がる。

 岩から立ち上がったドンもやる気に溢れた無に近づき減ったチャクラ(……・)を補充し始めた。

 

 「気張れよ無。お前なら出来るさ…」

 

 

 その応援に返答は無い、しかしその背中から応えが返ってきた。

 そんな、そんな気がしてならないドンだった。

 

 

 

 

 

 

 「おーい!青ツチを見なかったか?」

 

 「ん? おお、ドン様!奥方は今日はお見えになっておりませんぞ」

 

 待ち合わせの場に何時までも現れない青ツチに痺れを切らし、ドンは彼女を探し回っていた。

 何軒も馴染みの店に顔を出し、今は行きつけの蕎麦屋に顔を出したがここにも居ないようだ。

 青ツチはふざけた態度を取りはするが遅刻する奴では無い。待ち合わせに来ないのはそれなりの理由があるからに違いない。

 

 (あいつも空を飛べるから行動範囲が広いのよなぁ…)

 

 致し方なしと仙人モードの広範囲感知で青ツチを探し始める。

 街中に感知反応が無い、どうやら郊外に居る様だ。

 しかし感知範囲をかなり広げても青ツチのチャクラが見つけられない。

 

 (馬鹿な、仙人モードだぞ…。何故これでも見つからんのだ…!)

 

 仙人モードで見つけられないのは大問題だ。

 これがまだ感知範囲の外でほっついているなら良い。怒りはするが取り返しが付く。

 だがもし既に命を奪われチャクラの鼓動が止まっていたとすれば…。

 

 (まさか既に…!ありえん、だが、だが、本当にあいつは…!)

 

 本気で焦ったドンが保安部隊と連絡を取るため空に飛び上がった。しかしその直後、クスクスと笑い声が背後から聞こえてきた。

 すぐさま反転したがドンの前には虚空が広がるだけ。

 だがそんなはずはない。いったい何度あの声で言葉を交わし、笑い合い、笑われたか。

 己の妻の声を聞き逃す事は夫としてあり得なかった。

 

 「青ツチ、悪ふざけは止せ。無も出てくるんだ」

 

 何となくカラクリが理解出来たと同時にホッと一息ついた。ドンの言葉と共に青ツチと無の透明化が解かれその姿が露わとなった。

 青ツチの背中に無が手を付け、共に宙に浮いていた。どうやら無が透明化とチャクラの隠蔽を青ツチに付与していたようだ。

 ツボに入ったのかケラケラと笑い始める青ツチと青ざめた表情でドンを見つめる無が目に映る。

 

 「てめぇいい加減にしやがれ!ガキかこの野郎…っ!」

 

 「ハハハ!感知出来なくてイラついちゃったか土影様!戦場なら今死んでんぞこの野郎」

 

 

 キャキャキャッと相変わらず人を逆撫でする態度だ。折角のデート日和、快晴の天気だと言うのに悪ふざけとは本当終わってる。

 ドンがこのデートの日を捻出する為にどれだけ激務を重ねたのか青ツチは知っている。

 そのサプライズのつもりだろうが、ドンは普通に2人きりでデートがしたかった…。

 

 「無…。貴様がこんなイタズラに加担するとはな。次の修行もさぞかし余裕なのだろうな」

 

 共に地面へ降りた後、放たれたドンの一言で無の顔に白さが増し冷や汗が包帯へ染み渡る。

 慌てて無も弁明を始めたがドンの目つきは変わることは無い。

 青ツチの甘言に乗った事に今更後悔が募ってきた。

 

 「お待ちくださいドン様…!俺は奥様に誘われて致し方なくk」

 

 「おいおい無!てめぇもドンに一泡吹かせたいって前から言ってたじゃねぇか!」

 

 クソみたいな青ツチのリークで無の言葉は遮られた。

 無が自分からこんな事するはずがない、しからば青ツチに誘われてやったのは本当だろう。とはいえ…

 

 「ほう、俺に叛意があったのは本当とはな。まっこと残念、悲しい、悲しい事よ本当に…!」

 

 コメカミをぴくぴくと痙攣させるドン。

 同じくドンに激務を重ねさせ修行の時間を捻出させてる無だからこそマジにキレていると即座に気づく。

 言い訳無用。大通りの蕎麦屋の前で躊躇無く綺麗な土下座を披露した。

 

 (プライドなど不要…。恥をかいてでも避けねばならぬ事がこの世にはあるのだ…!)

 

 

 綺麗な姿勢で土下座する無にザワザワと野次馬が集まってくる。

 観衆を味方につけ何とかこの場を凌ごうとしてるのだ。

 実に汚い無の魂胆に即座に気が付いたドン。

 この場で更に叱ればドンの評判が落ちるのは避けられないだろう。

 手段を選ばない扉間の様な卑劣さがそこから感じ取れた。

 

 ───そういえば扉間を卑劣と評したのもコイツが最初だったか…

 

 もしやあの世代で一番の卑劣が扉間だっただけかもしれない、そうドンは思ってしまう。

 

 「…精々次の修行まで余生を楽しむがいい。その腐った根性を叩き直す…!」

 

 今か、未来で下る罰、どっちを選べど地獄なのは変わりは無い。

 どうせ何も変わらないが一先ずこの場での安寧は得られた無である。

 必死に自主練し次の修行で素晴らしい成果を見せてくれるに違いない。

 それを見てる青ツチもまたニヤニヤし始めた。お前は一体どっちの味方なんだ、青ツチ。面白ければ何でもいいのか青ツチ。

 

 「はっ!器の小さい奴だ本当に。てめぇら男の癖に細けぇ事気にし過ぎなんだよ」

 

 全ての元凶の癖に己を棚に上げ言い募るパワハラ女。土影の嫁に頼まれて無が断れない事などコイツは知ってるだろうに、とドンは内心毒づく。

 

 コイツは人がいる場では強がり、自分を上に見せようとする憎たらしい奴だ。それはそうだ。それは確かに認めよう。

 だがドンと二人きりの時は普段と違う顔を見せる可愛い奴でもあるのだ。

 無もコイツのクソみたいな所しか知らないだろう。兄のイシカワですらそうだ。

 ドンが楽になるにはとにかく早く無を追い払わなければならない、それに尽きた。

 

 「無…。ここからは夫婦の時間だ。お前は次の修行で殺されないよう仕上げとくんだな」

 

 こくこくと頷き無が退散してくれた。

 野次馬を追い払い青ツチとのデートにやっと入れた。

 しかしこれ程の大騒動の後に里で逢引するのは何処か気が引ける。

 二人きりになれる場所でイチャつきたいドンであった。

 

 「ふぅ……。青ツチ…、空のデートと洒落込むか」

 

 ポリポリと頬を掻きながらドンが青ツチを空の遊覧に誘う。

 誘惑に負けた形でドンからデートの誘いを引き出せた青ツチはニンマリとご満悦の様だ。

 なんのことは無い。既にドンは羞恥心、プライドを捨て去った無敵の男だ。

 

 青ツチはドンの肩をぺちぺち叩きその背中を少し屈ませた。

 そのままドンの背に飛び乗りギュッとドンの胸元で両手を繋いだ。

 デートで空を飛ぶ時はいっつもこのおんぶ、野次馬が消えたと言えこの体勢は人に見られたくない。 

 青ツチが羞恥心で頬を染める。

 

 「早く行こうぜドン…。ウチも空のデートは嫌いじゃないし…

 

 小声で耳元で囁かれるとゾクゾクと体の節々が震えてくる。

 青ツチの声がこんなにクる事を知っているのはこの世でドンだけだろう。

 少し低めのウィスパーボイスは脳を溶かす危険な快楽を発生させる。

 加えて背中に当たる柔らかい胸の感触。

 そこからは全ての男達へ告げる、高い優越感に浸ってしまう。

 

 良い嫁を貰ったものだ。ずっしりと感じる密度の高い太腿の筋肉。

 鍛えられたその足は青ツチが色々な意味でも出来る忍だと伝えてくる。

 

 (こいつが意外と重いと知るのも俺だけだろうな…)

 

 言えば暴れ回るだろう。悟られぬよう胸の奥にし舞い込むと同時に表情もキリッと硬くさせた。

 だが青ツチは獣のような鋭い勘でドンの頭をガシガシと叩く。

 青ツチも三年ドンと居るのだ、顔を見なくとも何となく感情は分かる。

 

 「変な事考える暇あんなら早く飛べ。次は頭突きすんぞ」

 

 「……うっす……」

 

 適当な返事を返しながらドンは己と青ツチに術をかけた。

 軽重岩の術をかければ体重なんぞ関係無い。今は良い、だが青ツチはかなりの大食漢だ。

 今後も続けばいつかこの身体を味わえなくなるかもしれない。

 

 (そろそろ食事量を管理させるか…)

 

 健全な身体に健全な精神は宿る。平和太りは争いがない象徴、これがただの民ならドンは感心するだろう。だが青ツチは忍だ。

 何時でも戦える状態を保つ、この我らの揺り篭を守る為に。

 

 ──けどまぁ、今はいっか…

 

 

 細かい事はやっぱり後回しだ。今は若さに任せて楽しいひと時を過ごしたい。

 ふわりと空へ飛躍したドンと青ツチの姿は里の外へ消えていった。

 

 「今日はあの山に行きてぇよ…

 

 脳髄にクる声で飛ぶ速さがちょっと上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 三か月後、雲隠れの里、霧隠れの里が火の国へ攻め入り忍界へ激震が走った。

 

 一族での争いは確かに終わった。争いの歴史に終止符が打たれ、これから平和の歴史が紡がれるはずであった。

 だが話はそう簡単では無い。平和に見えただけで中身はぐちゃぐちゃの国など幾らでも存在するだろうに。

 

 雲隠れや霧隠れ、彼らに平和など訪れてはいなかった。

 彼らが平和を掴むためにはやはり踏み台、犠牲が必要。

 ドンが火の国を踏み台にしたように、彼らも火の国を飲み込みその礎にするつもりだろう。

 だが木の葉も黙ってはいない。その平和を守るために巨木が薙ぎ払われる事となる。

 

 やはりこの世は争い止まぬ地獄そのものだ、そう悟り絶望する者が現れても無理は無いだろう。

 

 遂に始まったのだ。一族同士とは比べ物にならない規模の争い、夥しい(おびただしい)死者が出る死の煉獄が。

 

 

 第一次忍界大戦

 

 かくしてその幕は今上げられた。

 

 

 

 

 

 

 




新年明けましておめでとうございます。
更新ペースが落ちるかもしれませんが今後も連載は続けていきます。
2025年も岩隠れに栄光あれをよろしくお願いします。

次回から戦争です。
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