今日もまた、異世界の空は青い。   作:青い灰

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3話 バートリ家

 

 

 

 

 

「僕の方で騎士団には捜査を頼んだ。

 それぞれの聴取も終わっただろうし、少し休もうか」

 

 

その後。

騎士団による事件の聴取が行われた後、アンドルの提案で、俺はバートリ家に再び案内されていた。今も邸宅の入口では騎士団による警護と調査が行われており、裏口も封鎖され、検問が行われている。

 

そしてバートリ家の邸宅、食堂。

豪華な食事を終えて、俺たちはカトレアを含めた五人だけになるよう人払いをさせ、席についていた。

 

 

「それにしても……済まないね、ナイン。

 家に無理やり連れてきたうえに

 君にまで危険に晒してしまうことになった」

 

「私からも礼を言わせて下さい。

 シェイラ様を助けて頂き、ありがとうございます」

 

「気にしなくていいって。

 そのお陰でシェイラを守れたんだ、寧ろ良かったよ。

 カトレアもアンドルの傍にいてくれて助かった」

 

 

謝罪と礼を言う二人に、俺は首を振る。

どちらかというとアンドルの方が危険だった。それをすぐに察知して出て来ず、彼の保護に回ってくれたカトレアもまた功労者の一人だ。今回の襲撃はメイドに扮したものだし。

 

しかしアンドルは、顔をしわくちゃにして溜め息をつく。

 

 

「情けないね……大の男が守られてばかりとは」

 

「し、仕方ありません!

 それにアンドル様の身は私が必ず守ります」

 

「カトレア、多分そういうことじゃないわよ」

 

「へ?」

 

「アンドルは仕方ないっちゃ仕方ないが……

 まあ、お前たちが狙われなくて良かったよ。

 だからってシェイラが狙われて良い訳でもないが」

 

 

俺の言葉に、その場の人たちは頷く。

何はともあれ、誰も怪我をせずに無事だったのは良かった。

 

 

「こういう意味で言いたくはなかったけど、

 アンドルとカトレアが二人でいて助かった。

 あ、結婚おめでとう」

 

「嬉しくないタイミングだね。ありがとう」

 

「あ、ありがとう……

 ではなく! それ今言うことか!?」

 

「言ってなかったし」

 

「言ってなかったわね」

 

 

苦笑いするアンドルに、頬を赤くしながら怒るカトレア。

それとさっきからターニャが黙っているな、と思い、横目でターニャを見てみると、彼女は居心地が悪そうに食堂の中をきょろきょろと見回している。まぁ、自分の分からない話を周りに続けられてこうなる気分はよく分かる。

 

可哀想だし、ちょっと話を振ってみよう。

彼女の言葉から分かることもあるかもしれない。

 

 

「そういえば、ターニャ。

 ここでの暮らしはどうだ?」

 

「あ……うん。みんな、優しくしてくれた。

 ご飯も美味しいし……慣れないことも多いけど……

 ……ああいうのって人間の国じゃよくあることなの?」

 

「流石にないわ。

 あんな風に襲撃されたのは私も初めてよ」

 

「そ、そっか……みんな落ち着いてるから。そうなんだ」

 

「……色々あったからね」

 

 

ほっとした様子のターニャに、アンドルが遠い目で言う。

流石に異世界とはいえ、そこまで修羅の国ではない。まぁ、クソみたいな性格のやつはちらほらいるし、その歪む原因もそこらにあるような気もするが、それなりに平和だ。

 

しかし、数十年前の大戦乱期はそうでもなかったらしいのが恐ろしい。外国との戦争に内乱に革命、そういった出来事が大陸各地で起きていたらしい。

……修羅の国というか修羅の世界なんじゃないか?

 

アンドルの言う色々、というのもまぁ本当にアレだし。

あれやっぱこの世界ちょっと駄目なんじゃないか?

 

………いや、魔物とかいうのがいる時点で修羅だな。

 

 

「お前の故郷がどんなところかも気になるが……

 お前はフィルリンデ……あのメイドに会ったか?」

 

「うん。昨日、部屋に朝ごはんを持ってきてくれた」

 

「様子がおかしいところはなかったか?」

 

「……ごめん。分からない。

 あんまりメイドさんたちのこと、知らないから」

 

「ふむ、それもそうか。

 私も給仕からは少し離れていたからな……

 一先ず、ここにいる者の情報はこれだけか?」

 

 

カトレアは顎に手を当てて考え込む。

給仕のことなら彼女も知っていそうだが、一週間前に入ったメイドだと言っていたし、分からないのも無理はない。が、ターニャは少し顔を俯かせて、頬を手でなぞる。彼女もまた考え込むような仕草をして、俺も、そこで気が付く。

 

………そうだ。

わざわざターニャを狙ったというのなら、この邸宅、そして今日である必要はないハズだ。

 

 

「……でも、なんだか………変、だと思う」

 

「変、って何が?」

 

「私が標的かも、ってこと……

 別に今日、それに、こんな人が多いところで、

 わざわざ目立つみたいにやることはない、と思う」

 

「あぁ、俺が連れてきたときにも城下で目は引いてた。

 もし人攫いでの金が目当てならその日のうちに、

 それに昨日の朝とやらに連れ去ればいい」

 

「確かにね。

 だとすれば、やはり狙われたのはシェイラだ」

 

 

アンドルが言い、全員の視線がシェイラに向く。

件の彼女は苦い顔で、コップのお茶を啜った。

 

 

「一週間前からメイドに扮していた時点で、

 ターニャくんの存在は向こうからすれば予定外。

 朝食の配膳という形での接触は、ターニャくんが

 計画の邪魔になるかの確認のためだった……のかもね。

 そもそも計画犯、という前提で話をしているけれど」

 

「計画犯で間違いはないでしょう。

 シェイラ様、あれは邸宅の正面玄関から

 奇襲を仕掛けていたと言っていましたよね」

 

「えぇ。ドアを途中まで押した時点で、

 相手が私に合わせて、裏からドアを引いていた。

 それに気付けたから下がれたわ。

 そう考えると確かに計画性があるって言えるわね。

 ただ、そうなると………」

 

「俺の存在が、問題になってくるな」

 

 

そう、シェイラは俺を最初から邸宅に連れてくるつもりだ。それを給仕に伝えていないハズがない。計画性があるならば敵の数が多くなってから仕掛ける意味がない。それに、俺の存在は一部の給仕たちがよく知っており、顔見知りもいる。

 

ただ、それに首を振ったのはカトレアだ。

 

 

「いや、それはない。

 6年前のことは私が関係者全員に口止めしている。

 お前の強さに関しては私を含めて邸宅の全員が

 よく知っているが、外部の者はそうではない。

 あれを知らず一週間前に入ったばかりの新人が

 お前の実力まで理解しているとは到底思えん」

 

「あぁ、そうだね。

 ナインが無害なのは見た目だけだし」

 

「………」

 

「ははは、すまない。けど事実だろ?

 君はそんな見目で滅茶苦茶するじゃないか」

 

「まあ……そうかもしれんが」

 

「うん。だからこそ、だよ。

 見目は強くは見えず、そう見えるのは武器だけだ。

 素人だろうと制圧出来そうに見えるのはおかしくない。

 それに、昨日の朝はまだターニャくんも衰弱して

 満足に動けなかっただろう? おかしくはないさ」

 

「うん。私も、昨日までは調子が悪かった」

 

 

アンドルの言葉に、俺も納得させられて言葉を呑み込んだ。色々と言いたいが確かにそうだ。ターニャのことまでは俺も知らなかったが、確かに部屋まで食事が運ばれており、またシェイラも『獣人の回復力には驚かされる』と言っていた。

 

そしてあのナイフ、騎士団の薬師によると確かに毒だった。それも相手を昏倒させる類いの毒だそうだ。

 

 

「さて、邸宅で狙ったことへの疑問は消えたね。

 本題は……シェイラが狙われた理由だ。

 毒のことも聞いているだろう?

 命までは狙っていなかった。恐らくは……」

 

「人攫い、ね」

 

 

シェイラがアンドルの言葉を引き継ぐ。

人攫い……最近、城下町で相次ぐ失踪事件。

 

 

「裏路地の人間に城下町の人間、見境なく、

 忽然と姿を消している。厄介なのは、

 噂が流れてもう一月が経過しても、捜査している

 騎士団が何の進展も得られていないこと……」

 

「彼らも無能じゃない。

 それに常に仕事に追われているような組織だ。

 巡回の傍ら、というやり方に文句は言えない。

 そもそも騎士団は治安維持が役目だからね」

 

「だからこそ、解決を待つのではなく

 自ら率先して動く必要がある……ですね」

 

「「そう」」

 

 

カトレアの言葉に、バートリ家の兄妹の返事が重なる。

今回の一番の被害者ともいえる二人だが、頼もしいものだ。ていうかこの二人を敵に回したのが運の尽きというべきか。二人にカトレアを含めて敵意マシマシである。俺がそうではない、というワケでもないし。

 

 

「それに恐らく貴族を狙うなら

 相手もそれ相応の理由と立場がある筈だ。

 だが、その主犯がたとえ王族であろうと

 この家に手を出したこと……絶対に赦しはしない」

 

「えぇ、うちのメイドに扮してその価値を汚した

 事実も含めて……死ぬよりも辛い仕置きが必要だわ」

 

「必ず始末しましょう。必ず」

 

 

どいつもこいつも殺意が強い。

まあ起きたものが殺人未遂なので仕方ないか。当然だが俺も犯人を許すつもりはない。あのメイドは生かしたが、どうせ放っておいても死罪か国外地へ追放だ。燃える三人を横目に再びターニャに目をやると。

 

 

「……」

 

 

ちょっと怯えていた。

 

 

「まあともかく、今は情報が少なすぎる。

 今回のことを考えると、相手はナインのことを

 僕たちと関係のある人間と考えるだろう。

 それに今回は手酷い結果を負った、

 主犯は一時的にではあるが動きを止めるだろう」

 

「そうですね。今は情報収集に徹するべきかと」

 

「あぁ、僕らの番だ」

 

 

カトレアの言葉に頷いたアンドルが、俺に視線を向ける。

情報収集なら騎士団や冒険者組合、白雲商会が良さそうだ。だが、その険しい目線から察するにどうやら彼は別の考えを思いついているらしい。

 

 

「ナイン。今夜、何か予定はあるかい?」

 

「いや、特には」

 

「ちょっと僕の用事に付き合ってくれないか。

 荒事になるかもだが……カトレアも、いいかい?」

 

「私は構いません。

 それに少々、身体を解したいところで」

 

「俺も大丈夫だ」

 

「うん。ありがとう」

 

 

カトレアが不敵な笑みを浮かべて目を瞑り、俺も頷く。

それにアンドルは礼を言う、が。

シェイラが立ち上がる。

 

 

「兄さん、私も問題ないわ!」

 

「あ、私も……」

 

「君たちは留守番だ」

 

「なんで!?」

 

「いや、君は狙われたばかりだろう。

 ターニャくん、シェイラの警護を頼めるかい?

 メイドに扮されていたのなら今や給仕も心配でね。

 何があるか分からない、今日は家から出ない方がいい」

 

「分かった」

 

「む、う……」

 

 

アンドルの言葉とそれに了承したターニャの頷きが騒がしいシェイラを黙らせる。彼女は納得いかない様子で口をつぐみ椅子に座り直す。それを、アンドルは息を吐いて

 

 

「シェイラ、君は暴れ足りないだけだろう」

 

「当たり前よ!!

 毎日毎日、執務に社交界に商談に……!!

 あの小さかった頃に戻りた……くはないけれど!

 私もナインみたいに自由に冒険者になりたいわ!!」

 

「お前絶対それ往来で言うなよ。暴動起きるぞ」

 

 

はっちゃけたシェイラの言い分に俺はドン引きしながら一応言うべきことは言っておく。当然だがこの国にも貧富の差はあり、特に稼ぎの少ない、冒険者にもなれないような者には居場所というものもない。道端は物乞いもおり、特に郊外の東側にはスラムまで広がっている。

 

この世界、一日三食は基本的に贅沢とされており、貴族でも一日三食は上流の家だけらしい。まあ俺はそれなりに稼いで三食摂ってはいるが、金持ち呼ばわりされることもあるし。ついでにバートリ家も金持ちで、アンドル曰く『大戦乱期の報償金と思わしき資産が大量にある』らしい。

 

そんな貴族が『冒険者になりたい』などと往来で言えばまず間違いなく事件が起きる。怪我するのは事件を起こした側でシェイラは加害者になるだろうが。貴族でも気性が荒いのが致命的すぎる。よく貴族の仕事がやっていけているなぁ、とかなりの頻度で思う。

 

 

「……貴族は冒険者になれないの?」

 

「よく聞いてくれたわね。

 貴族が冒険者になるには二十を越えて、

 それから自分の家と縁を切る必要があるの」

 

「えっ」

 

「それから国、組合への特別な申請も必要ですね。

 貴族としての権力を各地で使えることがないよう、

 またそれを禁止するための法律です」

 

「え、縁を切るの? それって……」

 

「まあ、だから事例はない、と言っても良いね。

 人生を棒に振るようなものだし……

 この家としても、宝剣の使い手がいなくなる時点で

 国からどう扱われるか分からないから避けたいけど……

 君、冒険者になるなら間違いなく宝剣を持ち出すよね」

 

「ええ。便利だもの、この剣」

 

 

またも顔を青くしているターニャを他所に、シェイラは腰に差している二本目の剣の柄に触れる。

 

かつてバートリ家の祖先には吸血鬼がおり、ある盟約を国と結んだ際に、王から直々に譲り受けたのがその宝剣だった、という伝承がある。ちなみにこの世界でも吸血鬼は伝説上の存在だ。アンドルとシェイラも信じていないらしい。

 

敵の肉を骨ごと裂き、戦場に血の華を乱れ咲かせたという、曰く付きの宝剣。銘を〝骸咲きの薔薇〟。

 

この世界には魔剣や聖剣とやらも存在しており、大抵の場合それらは魔法や魔術の力が込められているといい、またこのバートリ家に伝わる宝剣もそう言われているのだが、しかしシェイラによると『何の魔力も持たない剣』であるらしい。

つまり、ただ〝名剣〟と呼ぶべきものだと。

 

俺も握らせて貰ったことがあるが、地獄のような使い難さで人を選ぶ逸品であり、その剣の特徴も相まって、宝剣専用の技量が必要となる。詰まるところ、シェイラの専用武器だ。が、俺も彼女が振るったところは一度しか見たことがなく、本人もあまり軽々しく振るいたくないとのこと。

 

 

「とにかく、今日は家から出ないこと。

 ターニャくん、その辺も含めてよろしく頼むよ」

 

「うん。任せて」

 

「うぅ……ズルいわ、兄さんだけ」

 

「いつも僕に仕事を押し付けてるのは誰だい?

 今日の仕事はもう片付けてあるし、

 その辺も含めて感謝して欲しいくらいなんだけど?」

 

「ぐぬぬ……!」

 

 

ぐぬぬって。歯を剥き出してアンドルを睨むシェイラ。

それを横目に、そういえば何をするのか聞いていかなったと思い出す。荒事になるかもしれない、と言っていたが、一体どこに向かうというのだろうか。

 

 

「アンドル、どこに行くんだ?

 まさか城に乗り込むとか言い出すんじゃないよな」

 

「ははは、まさか。

 だけど『乗り込む』っていうのは間違いじゃないか」

 

 

そう言って笑い、アンドルは言葉を続ける。

笑顔のまま、その声音を、真剣なものへと変えて。

 

 

 

「裏路地とスラムの支配組織〝オメルタ〟。

 その本拠地に、僕達三人で乗り込もうと思ってね」

 

 

 

それは、あんまりにも無謀すぎる一言だった。

 

 

 

 

 

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