嵐ガ丘へいらっしゃい   作:ひねもす@HAMELN

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#10「大団円」

まだ撮影を続けているテレビ局は3社だ。

さすがにここまで生き残っているからには、経験豊富なベテランばかり。

事件が起きてから取材に赴くような鈍獣とは格が違う。

撮影担当は怪物の動きを予測して立ち回る。他のスタッフはカメラの画角を計算しながら囮に徹する。地形も最大限に利用する。

高度な戦術を駆使できる精鋭チームであることがわかる。

しかし怪物は足元のピートを自身の動力源としながら、火をつけて剛速球にしてぶつけてくる。スタミナに限界が無いように思われる。

人間は、あまりにも無力だ。

そろそろ残り2社になるな、と見切りをつけてヒースクリフは陣を出た。

 

クラーヴァルの待機所へ打ち合わせをしに行く。

と見せかけて視界の届かなくなったところでウォアザリング・ハイツ裏手へと回る。

なにやらゴソゴソ。

やがて出てきた。

次はまっすぐ、怪物のもとへ向かう。

 

博士より手渡された専用ビーコン。これで現在地点を中心に怪物とクラーヴァルの方位および距離がわかる。

このビーコン自体には発信装置がついてないので、ヒースクリフの居場所が特定されることはない。

そこまで確認済みだ。

ちなみに本陣周辺には博士御用達の軍人チームが防衛ラインを敷いているが、今回来ているのは工兵隊ばかりなので、戦闘装備は程々である。

怪物には弱点が設定されており、致命的な急所をクラーヴァルにだけ教えてあるので、よほどのことでもない限り軍人たちの出番はない。ジャーナリストが皆殺しされようと助けにいかなくてよいとも指示されている。

だったらボードゲームでもやって、時間をつぶしてることだろう。それでいいのだ。軍人は、待機しているだけが一番だ。

 

ヒースクリフは、まっすぐ怪物へ会いに行った。

博士はアンダー・ガーデナーの何人かを分解して合成し、体高8フィートで6本の腕を持つバケモノを創造したのだが、このとき逃げおおせたガーデナーがいる。

ヒースクリフはその男を邸から連れてきた。

感動の再会。

彼に「この人はおれたちの味方だ」と紹介してもらうことで、無益な流血を回避した。

 

ヒースクリフ「きみに、名前を授ける。

エピメテウス。終わらせる者という意味だ。

プロメテウス博士の身勝手な道楽を終わらせよう。

それから、相棒。きみの名はメイノティオス。

博士を殺すと、エピメテウスのボディをもとに戻せる者がいなくなってしまう。この姿のまま生きていくのは、現実的に大変だろう。彼の伴侶となって、助けてあげてほしい。できるか?」

 

メイノティオス「この身はとっくに死んでいたはず。なんの不満がありましょうか。

エピメテウスよ、逃げたおれをゆるしてくれ。今からは一心同体だ。

ピートが枯渇しない限り生きていくことは可能だが、その最後の一瞬まで、おれはきみを支え続ける。

ヒースクリフに賭けて誓う!」

 

エピメテウス「グガゴガガガウウ!!」

 

作戦を開始する。

ヒースクリフはクラーヴァルを迎えに行く。

互いのビーコンをたしかめあい、クラーヴァルは怪物の背後に、ヒースクリフは前面に立って、00分きっかりに同時攻撃をしかけることにした。

展開。

 

クラーヴァルは荒野に立っている。

砂塵の先にうっすら怪物のシルエットが浮かんで見える。

時間まで、あと50秒……40秒……

不意に、背後から羽交い締めにされた。

怪力だ。

もがく。

眼前のシルエットが近づいてくる。怪物が……

こっち見てるぞおおおおお。

次の瞬間、クラーヴァルは火だるまになっていた。

3方向からどつき回されていたような気もした。

そのまま、ヘンリー・クラーヴァルは絶命した。

 

博士は指揮所の中で異変に気付いた。

扉を開こうとするが、びくともしない。

だんだん室内の気温があがっていく。

通信ケーブルや発電機からの供給線が、外から切断されており、手も足も出ない。

全裸になってベッドに転がり、のたうちまわるが、どうにもならない。

天才外科医ヴィクター・プロメテウスと秘書ジュスティーヌ・モーリッツ、ここに絶命。

 

雇われ軍人たちは、時間がきたので終業となり、解散してそれぞれの祖国へ帰っていった。

プロメテウス博士の正妻がジュネーヴに住んでいるはずだから精算はそっちでやってもらえば。とヒースクリフが伝えると、あっさり了承された。

チョロいなあ。いまどきの派遣業界てのは、人の姿を見なくても万事進行することに慣れすぎてるから、楽なもんだ。

いいんだか悪いんだか。

 

娘たちは狂喜した。

ヒースクリフはハイツを去っていくものと、すっかり諦めていたのだ。

まだまだ創作もお芝居も続けられるなんて!

こんな嬉しいことはない。

 

落胆したのはパパだった。

元請会社の事業主が自邸付近で変死してしまったのだから。

どうしようどうしよう。

しかしヒースクリフが助言した。

「犯人は名も無き連続殺人鬼に決まっているじゃないですか。博士は自分から最終決戦に挑み、敗北した。招集されたジャーナリストも大勢、巻き添えをくらった。犯人は宿願を果たして現在も逃走中。

アーンショーの一家は作戦当日、全員邸内へ引きこもってて、何もしなかったんでしょ?

胸を張ってそう主張してください」

 

しかし新たな収入源を早期に開拓する必要は急務なんですよね。

おれ、殺し屋なら、できそうなんだけどなあ。

どこかの出版社に、コネでもありませんか。

 

 

(おしまい)

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