嵐ガ丘へいらっしゃい   作:ひねもす@HAMELN

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#05「箱入娘」

ハコイリムスメが3人おりました。

ずっとお城で暮らしてました。

恋に恋する年頃でした。

そこへある日、ぴちぴちの、ぷりっぷりの、野性味あふれるスマートなボーイが現れたのです。

そりゃ争奪戦になりますわよ。

 

宗教改革より遥か昔の修道院を改築した要塞です。小部屋も多いし、防音も気密性も、気象の荒々しさに負けじと過剰すぎるレベルで造りこまれております。

対戦相手は実の姉妹のみ。互いに手の内、知り尽くしてます。

隠れてこっそりお外でデートなんて不可能。そんな御都合主義的舞台設定。

ミステリ界の大先輩に倣って、真犯人がひとりずつライヴァルを消していき最後には「ふたりきり以外誰もいなくなった」なんてハッピーエンドなジェノサイドも読んでみたい気はします。

しかし意外にもウォアザリング・ハイツの住人たち、そこまで異常者ではありませんでした。

誰も不幸にならない解決法が、実は、あったのです。

 

順序立てて語りましょう。

まず、食卓でいつも皆を笑わせてくれるヒースクリフ坊やは、恒例になっていた三姉妹のロールプレイングゲームへ自然と混じるようになりました。

彼女らは自分たちの創作したキャラクターになりきって即興のドラマを演じ、そこから発生したセリフやアイデアを摂りこみます。こうして物語にリアリティと奥行きを与え、密度を高めていくことをルーティーン化してきたのです。

ここに、まったく別種の視点と発想を持ち、行動を起こしてストーリーを動かしていく力を持つ少年が新規参入したという次第。

お話はグン!グン!!グン!!!と面白くなりますよねえ。

 

ヒースクリフは図書室への出入りを許可されました。

二日目以降は、朝食を終えると即、お籠もりします。

娘たちの創作活動において、もはや無くてはならぬ存在です。

選ばれた者しか踏みこんではならぬ図書室。そこには、ダディが出張のたび娘たちのリクエストに応えて買ってきた膨大な文献がすべて収められており、棚の一角には彼女たちが肉筆し手作りで製本した世界で唯一のオリジナル全集が鎮座しております。

ヒースクリフは終日、これらの本をくたびれるまで読みふけります。

奥の机で執筆・推敲中の作者たちから呼ばれると、草稿に目を通して感想や助言を述べます。

なんと幸福極まりない日常。まったく、うらやましいかぎりです。

 

夕食ができあがると4人は図書室から出てきます。

いつもシャーロットが鍵をかけます。

朝にくらべると、夕刻のルーティーンには波があります。ロールプレイングの続きが盛り上がる日もあれば、全員ぐったり疲れきり無言を貫く場合だってあったのです。

でもヒースクリフが加わるようになってからは、娘のうち一人だけがニコニコしている光景が多くなりました。

彼女たちは協定を結んだのです。

週7日のうち、ひとり2夜ずつ、ヒースクリフを独占できるというローテーションを組みました。

部屋へお持ち帰りして、朝まで一緒にいていいのです。

そりゃニコニコするなという方が無理でしょう。

ちなみに安息日が設けられてまして、ヒースクリフは週イチで客間に泊まります。えーとなんて名前だっけ、家庭教師をしていた流れ者がまだ邸に居候してるのですが、7日おきに来るヒースクリフへ「どんな按配だい」とねちっこく訊くらしいですよ。

さすがにウゼエとヒースクリフもオカンムリで、「疲れてるからおやすみ」とすぐ眠っちゃうそうなんですけどね。

 

数ヶ月も経過したでしょうか。

パパ以外は実のところカレンダーなんて見もしません。ウォアザリング・ハイツでは今日が何年何月何日かなんて、どうでもいいことだからです。

だからこそ、やりたいことを持っている者と、持っていない者との間には、永遠のといってよいほどの差がつくともいえます。

それはさておき、一本の長編小説が完成しました。

朝、家庭教師くんがその原稿を手渡され、読んで率直な感想を聞かせてほしいと4人から請願されます。

彼はその日の勉強をお休みにして、静かな部屋に籠もって、おそるおそるページをめくりました。

 

太古の地球。

剣と魔法が法と秩序を決めていた。

人類は竜を飼い慣らし、七大陸すべてに色とりどりの王国を築いている。

そんな世界へ突如、異星の客が襲来した。

天は黒雲に覆われ、巨大な岩塊が雨あられと降り注ぎ、地上の都市をひとつ残らず壊滅させた。

姿を見せぬ侵略者は地球人に代表政府をつくらせ、託宣を与えて産業のすべてを支配する。

かれらには欲しい資源があったのだ。

採掘はすべて現地奴隷にやらせる。

それさえいただけば、下界における揉め事には一切介入しない。

なんと効率的な搾取であろう。

人類史と文化は根絶やしにこそされなかったが、不毛で苦しい停滞を余儀なくされた。

何世代も経過するうちに、神と交信できる一握りの特権階級が固定化する。

神官たちが圧倒的多数の混成民族を徹底的に抑圧する社会構造は、すっかり定着してしまう。

ここから始まるファンタジー。

3人のヒロインが、一話ずつ、見たまま思うままを語りまくる。

彼女たちはそれぞれ、かつて栄えし王族の血統を継ぐ。今も忠誠を尽くす寵臣たちの子孫から慈愛に満ちた教育を受けて育ったので、自信と闘志に満ち溢れ、皆が皆、臆することなく胸を張る。アイアムザ・ナンバーワン。

3人は社交界で知り合ってから文通を重ねてきたが、それまでは決して、仲が良いとも言えなかった。

ひとりの勇者が現れ、流れを変える。

彼は人類が忘れ去って久しい、剣と魔法を使いこなす。空高く翔け昇る最強の竜を乗りこなすこともできる。

徐々に明らかとなる、屈辱の人類史。

何が悪かったのか。誰が愚かだったのか。

4人の力は天へと向かう。雲を突き抜け、あの太陽を手に掴もう。

失われた世界を取り戻す戦いだ。

われら、反逆の世代なり。

 

家庭教師は一気に読み終え、熱烈なファンレターを書かずにおれませんでした。

作者たちは恭しく受け取って、感謝を述べます。

これなら、売れそうだね。

売るべきだよね?

 

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