ロックウッドは、文筆業に多少の心得を持つ。
だから集中砲火を浴びた。
ロ「この小説は大傑作だと思う。僕自身、まだ余韻が醒めやらない。感想文には書ききれなかったことがまだま
シ「興醒めしますから鼻息をお鎮めください。
単刀直入に伺います。根回ししていただける出版業者はございますの?」
ロ「コネですか。ええまあ、僕が放浪記を書いたらここへ持ち込もう、と考えていた会社なら、いくつか」
シ「紀行本とSFでは、購買層も宣伝媒体も大きく隔たりがありますでしょう。まさか、よろず屋に預けるおつもりでしたか?」
ロ「シャーロットさん。貴女も、皆さんも御存知ないのは当然でしょうが、いまどき専門性に特化した出版社なんてありませんよ。すべての会社が、売れそうなものなら何でも出します。
作家だって、一発屋で消え去りたくなければ、いろんなジャンルを書かされる。
華々しいデビューさえ飾れればいいんです。次作からの路線は出版社との共同作業。
マーケティングに基づいたオーダーに応えられ続ける芸人魂とスタミナを持っていることが大事です。
今はそれだけを考えましょう」
エ「ねえさん。こいつ、あたしたちを肉屋に売り飛ばす気でいるよ。
あんたのお友達はさぁ、マージンをどれだけくれんのかなぁ?」
ロ「エミリーさん。ひどい偏見だ。この作品を世に出したくないんですか。栄光をつかみたくないんですか。
マーケティングさえ確かなら映画化だって間違いない。
ミリオネアになれます。何だって買えるんです。地上のどこにでも別荘が持てますよ」
ヒ「おっさん。いまどきそんな甘言にひっかかるトウシロがいんのかよ。おれたちはこの邸から出ていくつもりもないし、やいのやいの注文されて続編ばかり書くつもりもねえんだ。
新体制でチャレンジして、一作仕上がった。満足度も高かったし、おまえさんに読ませてみたら反応もよかった。
じゃあ売ってみるか?って話だよ。勘違いすんな」
ロ「理解できないなあ。君たちはまだまだ書きたいんだろう?この作品はほんの小手調べなんだろう?
だったら、将来性のある手堅い出版社と契約を交わし、資金繰りや取材の便宜・法律関係の問題など、面倒な作業を肩代わりしてもらいながら、もっともっと高みを目指していくのが一番の近道では?
って言ってるんだけどなあ」
シ「都会には、人を窒息死させるだけが目的の法律がいくらでもありますけど、この小説を一文字も改変させないで出版することは難しいものですか?」
ロ「ウム……僕も専門的なことは言えませんが、まず、過去の名作とちょっとでも似ている場面や言い回しがあれば、表現の修正を求められます。
昨今どんな出版物でも、発売と同時に、文字列検索で盗作を証明してしまう輩が湧いて出るもの。
売れてないうちは裁判費用の方が高くつくので見逃してもらえますが、話題になってくると世界中から訴訟を起こされます。
作者を新作の執筆に専念させ、代理で法廷に立つのが出版社の役目です。だからどこもが理論武装し、実弾戦術に秀でた弁護士団を抱えているんですよ。
本を売るっていうのはね、そのくらい命懸けな商売なんです」
エ「肉屋よりエキサイティングだわ。
ねえ、あたし次の次の次の次の次あたりで、そんなハードボイルドも演ってみたいなー」
ア「えーまた企画増やしちゃうのお?これじゃますます、オーダーなんて聞いてあげる余裕ないよう。あたし、おばあちゃんになっちゃう」
シ「ロックウッドさん。出版界事情というものが少し呑みこめてきましたわ。
それほどの暴力団とつるんでいなければ成り立たない商売なら、一冊でも多く売るために仁義なき妥協を強いられることも無理ありませんし、作者の取り分なんてほんの微々たるものでしょう。
私たちはこれからも、自分たちの満足を極めるためだけに創作を続けてゆくのがよさそうに思います」
ロ「うう、もったいないなあ。
でも確かに、この作品が出版社を通して世に出るときには、牙も毒も抜かれた、マシュマロの如き歯応えのない消耗品に成り果てている可能性だって無くもない。
僕には、ここでの退屈な日常が吹き飛ぶくらい刺激的でしたけど、毎日テレビを見ながら一斉に笑ってないと不安になる一般ピーポーには、悠久の彼方へひたすら突き進んでいくパワーとロマンなんて、共感を持たれにくいかもしれないかな……」
シ「つまり。売れやしないよ。と?」
ロ「あ、いえ。広告費に糸目をつけなければ、アニメ化まではチョロいでしょう」
ア「アニメ……?」
ロ「ああ……その……なんて説明したら……」
ヒ「説明なんてヤボなことすんなよ、おっさん。そんなやつらに買わせたところで読みゃしないし、あんたほどのファンレターも書きゃしねえだろう。
この会議は終了だ。
とっとと、次を演ろうぜ」