嵐ガ丘へいらっしゃい   作:ひねもす@HAMELN

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#07「異邦人」

パパが、出張から帰ってくる。

 

ウォアザリング・ハイツでは大切なイベントだから、家族は玄関に整列してお出迎えする。年に数度のこの機会しか生鮮食品にもありつけないので、おのずとテンションは上がるのだ。

 

ロックウッド「僕も、車の音がわかるようになりましたよ。距離感までは、つかめませんが」

 

ブランウェル「いつもより、ゆっくりですね。

父の車の後ろにもう一台、大型車がついてきています。誘導しているのでしょう」

 

ロ「お客さん……ですかね」

 

ブ「万一の可能性がある。先生は、この部屋に隠れて聴き耳を立てていてください」

 

ブランウェルが階下へ降りると、姉妹たちがヒースクリフを囲んで来客の素性を推理中だった。

後続車輌の正体は、ピラーニャという装甲兵員輸送車の8輪タイプ。もちろん耐寒・耐砂塵特別仕様と思われる。

乗っているのは敵か味方か。

パパは無事なのか。人質にされているかもしれない。

ここでもヒースクリフが武装して奥へ隠れ、状況次第ではジョン・マクレーンに扮するという役回りが決定した。

では、スタンバイ。

 

邸の裏手には厨房および使用人部屋と直結した搬入口があり、装甲車は扉の前に横付けされた。

パパの車はそれを確認してから専用の車庫へと移動する。

運転手が降りた。

この足音は間違いなくパパだ。

全員が息を殺しながら安堵する。

 

パパは後部座席のドアを開け、来客をひとり……ふたり、降ろした。

片方は女だ。会話をしているが、英語ではない。

パパも、客人たちの言語で話している。

ヒースクリフなら通訳できるだろうか。

一緒にいてもらえたら、どんなに心強い王子様だろう。とブランウェルさえもが考えた。

 

やがて三層の暴風扉を抜けて、正面入口より、3人が姿を現す。

パパ、おかえりなさい。

お客様、ようこそいらっしゃいました。

 

客人はヴィクター・プロメテウス博士と、その秘書であるミス・ジュスティーヌ・モーリッツであると紹介される。

パパの仕事とはヴィクター博士の下請けであり、いわば親会社のCEOをおもてなしするという栄誉に浴した格好だ。

くれぐれも粗相の無いように。恥ずかしいところをお見せするんじゃないぞ?とパパは子供たちに優しく注文をつける。声は震え気味で、目も笑っていない。

何泊くらいしていかれるのですか、と誰もが知りたかったけれど、誰も訊けない。

 

ひとまず解散となり、博士と秘書はダブルベッド付きの特別客室へと案内された。

かれらのお世話をする専属の使用人をつけるから、子供たちは余計なことをしなくてよろしい。ただ、話しかけられたり御用を求められたりしたらにこやかに応対すること。などの諸注意が伝言ゲームで回されていく。

 

ヒースクリフは完全に気配を殺して隠れていたが、アンが呼びに来た。

パパが御用ですって、と。

ニヤッとしながらヒースクリフは立ち上がり、武器をすべて置いて、アンについて書斎へと赴く。

かくかくしかじか。博士がお呼びだから行ってあげてほしい。はい、わかりました。

立ち去るヒースクリフ。

アンは、緊張でいっぱいいっぱいのパパに、やっと質問をするチャンスを得た。

だがパパの口は重かった。

 

パパ「突然のことですまない。でもね、パパだって博士から急に言われて、断ることもできずにこうなってしまったのだ。

これから、ある催し事が、この付近で行われる。

期間は2週間以内と聞いている。終わり頃にはもう少しお客さんが増えるけれども、全員、楽しんだら帰っていく。

そうしたら、今まで通りのウォアザリング・ハイツに戻るんだ。

そのあとでなら、パパもすべてを説明してあげられると思う。

それまでは、すまない。おとなしくしていてくれ。余計なことは、きかないでくれ。

わかってくれるかな。

アンはいい子だね。じゃあ、今の話を、そのまま、エミリーとブランウェルに伝えておくれ。

シャーロットにはエミリーが、ロックウッド先生にはブランウェルから伝えてくれるよう、頼んでおいてくれ。ママには私から話すから」

 

アン「ヒースクリフはどうなっちゃうの?

彼は秘密を知っているようだったわ。

ヒースクリフはここに残っててくれるの?

それだけ教えてちょうだい、パパ」

 

パパ「こればかりは、パパにもわからない。博士次第、ヒースクリフ次第じゃないかと思う。

おまえたちがヒースクリフを愛していて、ずっと一緒に暮らしたがっていることは、じゅうぶん理解しているつもりだ。

だが、その決定にパパは関与できない。

アンがヒースクリフに問うたり請うたりすることを止めたりはしないつもりだが、どうか、ヒースクリフを、それからパパを、困らせるようなわがままは言わないでほしいんだ。

アンはもうレディだから、わかるだろう?」

 

葬送式のような晩になった。

娘たちは、肩寄せ合って、涙した。

 

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