それはあなたかもしれないし、あなたじゃないかもしれない。 作:茶漬四郎
親って、いつもイイとこで声かけて来るよね。
これはとある配信後の事である。あなたは、とある理由から宝鐘マリンと仲良くなり今やオンラインで駄弁り合う仲となった。
今日も例にもれず、彼女の配信後に二人はパソコンのディスプレイを通じて顔を合わせた。
「配信お疲れー。」と言うあなたの声にマリンは喉を鳴らして「あーい」と返答する。
それから彼女は「今日のさー。久々に焦ったわ。」とつぶやいた。
先ほどの配信中に少しワチャワチャとしてしまった瞬間があった。マリンはその原因を電球が声をかけてきたからだと言う。
「あ、フラッシュマン来てるんだ。」
「フラッシュマン言うな。電球と言え。パパマリンをそんなかっこよくいうな。」
いいところで話しかけてきたためタイミングの悪さに鬱憤がたまっているようだ。
「いつもイイとこで話しかけて来るんだから、お灸を添えてやったんだワ。」
「どこの親も変わらないよな。」
それからカチカチとマウスをたたく音に交じって小さなため息が聞こえた。
「なんだ、また変なDMでも来てたのか。」
「いや」と彼女は否定して一息置いた。
「運営から連絡が来てた。20件くらい。」口から息を吸う音が聞こえ、あなたはゲラゲラと笑いだした。
「即レスつけなきゃダメじゃーん。」
「うるっせえ!配信中だったんだよ!すぐ終わらせるから待ってろぉ!」若干巻き舌になりつつ、気持ちよくキーボードをたたく音がヘッドセットから流れてきた。しばしの沈黙、こちらも暇つぶしにカチカチとパソコンをいじりだす。
「今日何してたー」とマリン。相手は一般社会人なのだからお務めだとわかりつつも、何かを探るように聞いてみる。すると通話越しの相手は「ポケモン」と一言返答した。
「あー今はやってるやつ。ポケポケだっけ?」
「いんや。スイッチのSV。アプリは課金しちゃうとダメだから。」
マリンは「あーね」とその意見に同意見のようだ。
「マリンもさー。依存が断ち切れない物には手を出さない主義だから。」
「あーメン限で言ってたね。」とあなたはポツリとつぶやく。その言葉にマリンは驚いたように声を荒げた。
「えっ待って。メン限?」
「うん」
「入ってんの?」
「うん」
「一味ってこと?」
「うん」
「キモ」
「うん?」
「キモ」
「キモとはなんだ何ぞね。我一味ぞ。」
「まー、しょーがないか。」と彼女は切り替える。
「そうまでしてセンチョーと一緒にいたいのか。」とどこか嬉しそうである。
日頃憎たらしいコイツを少しからかってやろうと思い、マリンはさらに続けた。
「どう?船長のあんな一面やこんな一面。月一のアートも可愛いでしょ?」
さあ、悪態をつけと言わんばかりに余裕な態度で相手の言葉を待っていたが返ってきたのは「かわいいよ。」と言う返事だったので、逆に言葉に詰まってしまった。
「悔しいけど可愛いよ。」
「一言余計だな。」
心なしかいつもと様子が違うようにマリンには感じられた。彼女が「どしたん?」と聞こうとした瞬間に、こう話題を振られる。
「センチョー最近さ、下ネタ減ったね。」
「ファ?」
思わず声が漏れる。
「落ち着いてっていうか。パイパ…あぶねー最悪の言い間違いするとこだった。パイパイ仮面の後あんまりそういうの見なくなったね。」
「お前ホントサイテーな言い間違えするとこだったな。こんなんが一味とか荷が重いわ。」
マリンはぼそりと「そんな下ネタ許すのマリン位だぞ。」と小さく念押しする。
しかし自分でも気づかないうちにアイデンティティが消失していることは意外であった。何かが変わろうとしている時、自分と言う人格が、習慣から、癖から、考え方に至るまでに変化するのだ。
ぺこらに対する愛情の持ち方だろうか。フレアに対する求愛行動だろうか。それともシオン先輩に対する気持ちに落ち着きが見えたのだろうか。
いや、どれも違う。自分の中で何が変わったのか、マリン自身もわかっているのだ。
しかしそれが自分一人だけではないかと思うと癪なのだ。なので相手にカマをかけてみる。
「そっちも変わったじゃん。」
「ウェ?何が」
自信をもってもう一言かけてみる。
「へえー?マリンの事可愛いって。前までそんなこと言わなかったのにぃ。」
相手はキョトンと目をパチクリさせてポリポリと頭をかいた。
「うーんとね。今、僕、ニート。」
「え゛」声に濁音が混じる。
「昨日から無職。」
「え”っ!」思わず小さくなった瞳が下を向きキョロキョロと泳いだ。
「今、有給消化中。だから厳密にはニートじゃないの。」
「え”‼ああ、いいのかそれは。びっくりなんだワ、もお。次何するの。」
「んーん。決まってない。」
「ファ?」
「メンシ代、命なんだよね。コレ。」
「重い重い」と声を震わせ、机をパンパンとたたく。何も人生をかけて笑いと取りに来なくてもいいのに、と内心思いつつ、きっとそうではないのだろうと自分を安心させた。本人はいたって真面目なのだから。
「よかったよ。笑ってもらえて。退職届が無駄にならずに済んだし。」
「辞めろって。」
斜め上を行くその発言はまるで知識を持ち始めた子供のようだ。今度、ハローワークに行くのだという。
「だから、いろいろ教えてくれよ。書類とか期限とかさ。」
マリンは口をハムスターの様にしてモゾモゾさせた。
「いいよぉ。」
明日からまた、申請関係でアドバイスをすることを約束し、これは単なる口約束ではないことを二人はなんとなくわかっていた。
「明日からの新しい朝に、出港~!」とマリンは明るく声を上げる。
「ヨーソロー!」と声がパソコンから帰ってきた。
その時、ガチャリと部屋のドアが開き、シャイニングヘッド電球マンこと、パパマリンが現れた。
「マリンちゃん、まだ配信してたの?」