それはあなたかもしれないし、あなたじゃないかもしれない。   作:茶漬四郎

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バイオみょーんシャ

 エコー、それはあなたに与えられたコードネームである。2年前に新設された「特殊戦術及び救助部隊」に所属している何故か「エリート」だ。アルファチームと共に郊外の山地へとヘリに乗って降り立ったあなたは、後に「洋館事件」と呼称される一夜の悪夢へと踏み込むことになる。

 

 野犬に追われ、命からがら洋館へとたどり着けたのは、あなたを含めた半分の人員だけだった。初めての現地調査と、食い殺されるという恐怖の中を走り抜けてきた大神みおは、息を整えながら新人としてここに配属されたことを恨んだ。出動前に食べたケーキが食道を戻ってくる気配がして口を抑える。

重厚な扉で閉ざされた洋館内のホールを見渡したあなたは、一足先に落ち着きを取り戻してみおに向かって「みおしゃ…同じ犬同士会話できなかったの…」と軽口をたたいた。

彼女はクワッと目を見開いて「ウチは狼だから!」と経歴が五十歩百歩の相棒に反論する。

一同が顔を見合わせる間もなく、一発の銃声が空気に亀裂を作るように放たれる。

その場で一番位の高いサングラスをかけた隊長が冷静沈着に指示を出した。

「みお、見て来てくれ。」

眉一つ動かさないその姿に、仕事人としてのプロ意識が垣間見れて心強かったが、内心は不安だった。

「私はここの安全を確保する。」

みおは「わかりました。」と返答してホールを出て、音のした食堂へと向かおうとする。そんな彼女をエコーは呼び止めた。

「待ってくれ!一緒に行くぜ、相棒っ」

肩パットにポンと手を置き、横顔を見せて微笑むその姿はナルシストそのものだった。

しかしそんな奴でも今のみおには頼もしい。

「よし、みおしゃ。先に行ってくれ。」

「えっ?ウチ?いやいやいや、行ってよ。」

みおは思わずキョトンとする。

「レディーファーストだよ。」

「こんな状況で?」

「ベレッタなくしちゃったんだって!」

こんなのが自分の相棒なのかと思うと足の進みも重くなる。

ただこの中で唯一ボディアーマーが無く、肩パットでしか体を守る物がないみおからしたら、こんな奴でもないよりマシなのである。

 

 扉の先は高い天井と保守的なヨーロッパ調の食堂であり、奥では暖炉が薪を燃やしている。長いテーブルにはキャンドルスタンドが均一に並べられており、その空気はまるで貴族の館に招待されたようだった。

二人が室内を探索していると暖炉の前に赤色の液体が広がっているのが見えた。エコーはすぐそこまで行くと膝をつき、その赤黒色の液体がすぐに血液だと判断した。

「ケチャップじゃなさそうだな。」

「ヒエエ」と小さき命のような声を上げたみおに対してあなたは一足先に銃声のあった方へ向かうように言った。

「ここでもう少し調査するから、みおは先に行っといてくれ。」その太い声は何か悪い予感を払しょくするように感じられた。

しかしみおは、「ヤダ」と言って断る。

あなたは驚きながら立ち上がり、彼女を目でとらえて「みおしゃ…」と彼女の名前を呼ぶが、当の本人はあなたを睨むだけだった。怖いのは重々承知の上だが、あなたは手に持ったナイフの刃をチラリとみおの持つサムライ・エッジに向ける。

「銃、持ってるんだし…。」

「そんなの無くしたお前が悪いんじゃん。」

「そんなこと言ったってしょうがないだろ?落としちゃったんだから。」

みおからしてみればエコーの口は嫌というほどよく動く。そもそも警官が自身の拳銃を紛失するなどあってはならないことなのだが、さすがにそこまでは言葉が出てこなかった。

しかし感情に任せて仲たがいをしている場合ではない。ココはエコーが一枚上手で余裕の態度を示す。

ポン、とみおの両肩のパットに手を置いたエコーはまるで動物か小さい子供を勇気づけるように語り始める。

「大丈夫だって!ホラ!訓練を思い出してさっ。えいえいおー!」

うざい。つーかお前が行け。

無言だったが表情で感情を伝えようと試みる。

半ばあきらめた彼女は食堂を出る扉に向かって半歩ずつ歩き出すも、気が進まないようでゆっくりとエコーの方へ振り向いた。その動きを見たエコーは力強く「頑張れっ!」と両手で拳を作りエールを送る。

しかしそれでもみおは扉の前まで進むとあなたに振り返る。

半ばあきれながら大げさに「大丈夫だからっ!」と肘を曲げてエールを送った。

つーかウチより体力あるんだから、お前が行けよ。銃貸すから。

 

意を決して扉の向こうに足を踏み入れるとそこは廊下だった。木材のきしむ音と共に背後がバタンと閉まると急に寒さがこみ上げてくるのを感じ、半袖で来たことを後悔した。そんな中、誰かの租借音が聞こえてくる。まるでハムの塊を頬張っているような、くちゃくちゃとした生理的に受け付け難い音だ。

みおの野生の勘が「やばい」と告げる。そうでなくても、銃声はするし、乾いていない血だまりがある中で、食事ができる人間にロクな奴はいないのだ。

みおは再び食堂へ戻ってきた。

相棒は立ったまま自分の長くなった爪を眺めており、簡単に言えばサボっていたのである。奴は帰還者を二度見して「みおしゃ!」と駆け寄った。そして大きくため息をついて微笑むと「わかった」とついに観念したようだった。

「そんなに怖いなら一緒に行ってあげるよ。この自慢の相棒がね!」

きらりと光る歯は前職のホストか内緒でしている副業の住職で得たものらしい。

「ウチも後ろから行く」

「おいおい、誤射だけはやめてくれよな!」

あなたはナイフを改めて手に握り、先陣を切る。

何故か扉は自然と開かれた。その先には廊下ではなく一人の男がこちらを向いてたたずんでいる。

腐った体液がにじむ衣服を身にまとい、黒ずんだタイルのような肌が空気にさらされている。焦点のあっていない死んだ魚のような目がギョロギョロと微かな潤いを頼りに動いている。

「うわああああああ!」とエコーが叫ぶ。

「ワ、ワアアアアア!」とみおも叫んだ。

「イッタ!みおしゃ今撃った!?」

9ミリパラべラムがあなたの背中を襲う。そして前方には首を掴もうと歩み寄ってくる不審者が一歩一歩と近づく。

「エコー!伏せて!」と声を上げたみおは手に持つベレッタから銃弾を不審者に向けて発砲する。それは綺麗に胸部へと命中し、微かに粉じんを撒き散らした。みおの背後に回ったあなたは「いけね」とつぶやき、発砲前に警告しなければならなかったことを思い出した。

「言ってる場合か」とみお。

しかし撃たれた相手は少しだけ仰け反るも、再び歩行を続ける。

まるで何かを求めるようであり、不気味だった。痛みに悶絶するわけでもなく、出血している様子もないので、その光景はこの世ならざる異常そのものだった。

初弾がエコーに当たってから、みおのサムライ・エッジはハンマーが下がったままだった。

多少の力で引き金が引かれ、命中率が跳ね上がる。さらに続けて3,4発命中させると相手は重力を失ったようにかっくりと膝から崩れ落ちた。

ナイフの刃先でちょいちょいと突いたあなたは対象が完全に絶命したことを確認した。

そして神妙な表情を作りみおに向き直る。

「…みおしゃ。コイツ死んでる!最初から死んでたんだ!」

「ええ」と小さくみおは驚くと緊張が切れたのか思わず引き金を引いてしまった。床に当たった実包が跳弾となってエコーに襲い掛かる。何とかぴょんと足を上げて回避すると、あなたは信じられないといった表情で相棒の顔を覗き込んだ。

「ごめん。」

「もうみおしゃあ!」

「前々から思ってたんだけど、その決め顔とセリフにムカついてたんだよね。」

「だからって貴重な一発無駄にすることないだろ?」

もしやさっきの誤射もそれが原因だろうか。思わず背中に手をやる。

怖くなったあなたは「もうイイヨ!」と吐き捨てて、みおが本来先頭を行くはずだった場所へと歩いて行った。困惑したみおは「ごめん」とつぶやいて犬の様に後について行く。

二人の行く先はソファのある休憩スペースのような場所で、そこにはのど元を食いちぎられた同僚のケネスが倒れていた。

それは長い悪夢の序章としては、あまりにも大きすぎる演出だった。

 

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