それはあなたかもしれないし、あなたじゃないかもしれない。   作:茶漬四郎

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お気に入りの店長

 こんにちは、17歳、学生です。

人生早いもので大学受験が迫って来ました。どうもレトロなものが好きなようで、よく昭和のドラマのように、鉢巻きをして布団を被り,分厚い参考書を片手に机に向かうものだとばかり思っていましたが、現代はどうもスタイリッシュのようです。

洗礼された生活環境のもと,机に向かう今日この頃ですが、その分受験への意識は年々早くなり、早い人では中学,あるいは小学生の頃から将来を見据えた選択をせねばならないとのことです。

今は予備校の講義を終え、近くのファーストフード店に来ています。

ここは最近店舗数を増やして来ている新生児です。何よりもまず、店長とアルバイトのやり取りが和みます。

「ラッシャイマセー」とお客さんの入店を歓迎する店長は鼻声の上に語尾を短く切り詰めて跳ね上げます。

「ご一緒にさくらあんのたい焼きはいかがですか?」

「店長,ウチ,それやってないです。」

店長は赤ん坊のような無邪気の感性の持ち主ですが、実は懐の深い優しい人です。

そんな私と彼女の出会いは、暦の上での冬初め、ちょうど数回目の模試が惨敗に終わった日でしいた。

 

 模試の終了後は自身の真面目さゆえにその場で自己採点をするのだが、あなたは答案用紙の赤い丸の少なさに目の前が滲んでしまった。

なぜ問いと問いの間のつながりを見つけられないのか。答えは常に目の前にあるというのが講師たちの教えだが、一体何行前にあるというのだ。

漢文は読まなくてもいい、古文は暗記で一気にカタが着くなどとみんなは言うが、それならば受験とは一体なんのためにあるというのだろうか。

眉間の奥から鈍痛がする。気がつくと陽は完全に沈んでいた。

だんだんと肌を刺すような風が吹き始める中、帰路についたあなたは眩く輝いている駅を恨めしそうに見つめる。あの灯りの元で生きている人たちは今の自分の苦悩を知らず、また縁もなく、ただ過ぎゆく時間を過ごしているのだ。

ちょうど信号を渡った時、近くから優しく何かを誘い出すような声がした。

「クリスピー。クリスピー、どこお?」

ピンク色の長髪をキャップからはみ出した女性が何かを探しているようだ。

それが、あなたとさくらみことの出会いだった。

「みこちイ!」とガタイの良い男性が彼女に駆け寄っていく。

「みこちじゃない。店長だ」

「クリスピーいた?」

「…いない」

みこは自信なさげに答える。

「やっぱ飲食にペットはダメだったんだよ!」

頭を抱えながらアルバイトっぽい男はそう呟くと、みこは上目づかいに「だあってえ…」と泣きそうな声を上げた。

「愛着湧いちゃったんだモン。それに星街店には負けてらんねーんだから」

「すいちゃんトコはだってお前…」

「おいおいおいおい。ちょっと待てよ。お前今すいちゃんって言った?」

「アッ、ヤベ」

あなたは記憶を辿るとその星街店には覚えがあった。最近できたファーストチェーン店だ。モデルのようなスレンダーな店長で、噂によると閉店後には時折ファンサービスとして歌を披露するというものだ。

「あそこ風営法どうなってんだよお!」

「そこはホラ、ここ日本じゃないし…っていうかみこち風営法知ってたんだ。」

「店長!やってんなあおい!舐めてんじゃねーぞ!」

思い通りにならない現実と部下の裏切りに、みこはとうとう感情が吹き出して泣いてしまった 

「もう誰も信じねえ!みこ、1人でクリスピー探しにいく!」

バカバカと音にならない足音を立てて「ついてくんじゃねえ!」と吐き捨てた彼女はあかりのまばらな住宅街へと姿を消していった。

アルバイトはため息をついて一息入れるとようやくあなたの存在に気がついた。

「あ!すみません…もしかして入店されようとしてました?」

キョトンとしたあなたは周囲を見渡し「ホロナルドさくら店」と書かれた看板を確認した。

 

そういえば、星街店には行ったことあるけど、このさくら店は来たことがなかった。

 

あなたはコクンと頷き「1人でもいいですか。」と言って人差し指を立てた。それを見たバイトの表情は明るくなり、店内へと迎入れてくれた。

レジについくと「おすすめはなんですか?」と問う。

「ベーコンカツバーガーとかいいですよ。今期間限定で出しているんです。お試しみたいなものですね。」

「じゃ、それください。」

「はい。セットにしますか?」

財布の中身を思い出したあなたは一度考えて首を振るが、バイトはサービスすると言い出した。

「変なもの見せちゃったんで。」

「すみません…あの、店長さんはいいんですか?」

「あーあとで行きますよ。また変なもの持って帰ってこないといいなあ。」

そうぼやいたバイトにあなたは少し興味を抱いた。彼はへへへと笑う。

「実は私も拾われた身なんです。以前は医薬系の仕事についていましてね。気がついたらここにいました。」

医薬といえば頭のいい人である。給料もよかったであろう。それほどまでにこの店長は魅力的なのだろうか。

注文したセットが自分の目の前に運ばれてくる。

なるほど。ベーコンカツとは塩気と油ですでにソースの役割を十分に果たしている。そして同時に強すぎる風味は千切りにされたキャベツによって水々しく中和されている。

頬に詰め込みモゴモゴ咀嚼するあなたの目は、何も言わずとも伝えたいことが表示されているようであった。

その時「ただいまっ」とみこが帰ってきた。

「あ、おかえりー」

「おかえりーじゃねえよ!追いかけてこいよ!」

「お客さん来たし…」

みこはあなたに気づくと「あっ」と反応しぺこりと頭を下げる。

「いっらしゃいマーセ。あの、お味どうですか?」

思わずポテトとハンバーガーが喉に詰まる。

「ああ!ごめんなさいごめんなさいっ!」

「あーあ、みこち」

「みこちじゃない!店長!」

2人から解放されたあなたは礼を言いつつ、「美味しいです」と精一杯の声で答えた。顔は見えないが「えへへ」というみこの笑い声がする。

「クリスピーちゃん見つかったんですか?」

「あ…聞いてたの」

あなたは苦笑いをして「はい」と答える。

みこは嬉しそうだがどこか恥ずかしそうにもじもじとしている。

「見つかったよ。おいでークリスピー」

彼女に呼ばれてよちよちやってきたクリスピーはマイクロブタだった。

 

 以上があなたとさくらみことの馴れ初めである。ふーん,と話を聞いていた友人はストローでコーラーを一口吸い上げる。

「ベーコン調理しながらマイクロブタ飼うなんて、どんな拷問よ。」

「…確かに…」

クリスピーのことだが、暗い住宅街まで行ってしまったらしく、みこの声は必然的にお店の宣伝になったらしい。

人もまばらな店内では、みこ店長とバイトの口喧嘩が始まっていた。

「間違えたんなら素直に謝れよ!みこちゃんが間違えたらいっつも謝れ謝れって言うくせに。自分の時はダンマリですかっての!」

「うるせええ!本医薬系研究職の俺がそんなミスするわけねえだろ!許せ!」

「医薬系医薬系って治験のバイトじゃねえか!」

自分の体で実験するならギリギリ研究職なのでは?

「ごめんじゃん!」

「いいよっ!みこもごめんね!」

さくら店と星街店の因縁はまた別のお話。

今は少しづつ地元で注目されつつあるこの店長とバイトのやり取りは名物になりつつある。

それよりもまず、今年で最後の全力で楽しめる学園祭をどうするか、あなたは考えなければならなかった。

 

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