それはあなたかもしれないし、あなたじゃないかもしれない。 作:茶漬四郎
感性がリスナーに近いハバ卒だったね?
リア撲はもう一週やります。曲も半分くらいかな?機会があればまたやりたいね?できればリスナー含めみんなが幸せになれるやつ目指すよ。
一般的に即決裁判とは、軽犯罪を裁くための簡略された裁判という認識です。
しかし事、今あなたが巻き込まれているものはちょっと違うようです。
まず、その場で法を握っているのが、一つの象徴に集まった「一味」であること。そういう集団の言う即決裁判とは、施行される刑が死刑以外いないのです。それも結論ありきというおまけ付き。
あなたは両手を後ろに拘束され、空き教室の中央で跪かされています。
大空スバルとヤンキー君はあなたの弁護を引き受けてくれました。
「きばれよ!転入生」喉から発せられるスバルの声が教室に響きます。
「スバルはこう見えて、逆転裁判履修してっから!」
「なんのフォローだよ!忍耐力の証明にしかなんねーよ!」
誠に不安である。
そんな命懸けの駆け引きが行われている最中、紫咲シオンはチョボチョボと廊下を歩いていました。手には先ほど拾ったアイドルのブロマイド風お菓子のおまけを持っています。紫色の髪を靡かせている彼女はどこかシオン自身を連想させていました。
彼女の足取りは平均的な体を持つ人間より少し小さく、周囲からは人知れずかわいいと評されていますが、本人はそれを知る由もありません。
紫咲シオンは拾った落とし物を隠すように手に持ち、行先である職員室へとやって来た。
彼女の目的は拾いものを届ける事ではなかった。扉を開け、キョロキョロと室内を見渡し担任の戌神ころねを探し出すと、こっそり彼女の後ろへ忍び寄る。
丁度彼女は他の生徒と対面しており、何やら話し込んでいるようだった。相手の生徒は丸坊主にプックリと膨らんだ鼻を下に向けており、正面から見るとソースのかかっていないたこ焼きのような見た目をしていた。
彼がこのように惨めな環境に身を置いている原因は、ころねによる無意識の圧によるものだと言う事は一目瞭然だった。ブランケットを肩から被り、焼き過ぎたパンのような茶髪は教員として明るく親しみやすい。
ころねだけがこの無機質な空間を温めてくれる存在の様に、シオンには思えた。
「君はまだ若いからわからないと思うのよ。」
ころねから発せられる独特なイントネーションは、彼女が地方から上京してきたことを実感させる。しかしそれでも自分のアイデンティティを維持している所に周りから尊敬されていた。
「特にお前。」
そして彼女は無慈悲だった。こっそり机を覗くと進路相談票が置かれている。
辛らつな言葉を告げられた生徒は涙を流して職員室を後にした。
「ころね先生ヒドーイ。」
「おおう、シオンちゃん。びっくりしたでな。」
素っ頓狂な声を上げるが表情はたいして驚いていなかった。どうやら先ほどの生徒は進路希望に「ころね先生のお嫁さん」と書いたらしい。
「どうせほかの女教師にも同じ事言ってんだよ。わかってるから圧かけたのさ。指持って来いよってな。」
そう答えるところねはシオンに体を向け、彼女に腰掛けるように促す。
「どったのシオンちゃん。」
チョコンと座ったシオンは小さな手を遊ばせて甘えたように声を出す。
「文化祭の出し物何にしようかなって。」
てっきりもっと深刻なものかと思っていたので、教師は少し安心した。
「考え中かね?」
「うん、考え中―。」
「なにしてもいいけど問題は起こさないようにね。」
教師はなおも続ける。
「先週みたいに昼過ぎて登校しないようにな。もう少しであの転入生呼ぶとこだったでな。」
シオンは、はにかみながら「ごめんなさーい」と返答する。
「それよりその手に持ってるのなんなん?」
「アイドルのカード。お菓子のおまけみたいなの。廊下で拾った。」
まるで落ち葉を拾った子供のようだ。
ころねは何かピンときたようで、それは転入生の物ではないかという。それを聞いたシオンは少し満足そうだ。
まだやってきて日の浅い学生が、既に周囲にキャラ付けされている所を目の当たりにして自分の目がさえていたことに小さい胸を張った。
一方その頃空き教室では即席学級裁判が開かれていた。
大空スバルを中心とした塩っ子弁護集団と、一味の息のかかったジャッジを挟んで検察一味集団がにらみ合っている。
グラサン検察官は裁判が始まると同時に当事者同士のプライバシー保護のため、実名を避け、「被害者」「被告」と呼称を使うことを宣言する。そして手の甲で資料を軽くはたきながら陳述を始めた。
「被告人はつい先週、被害者に近づき何やら心の奥に印象付けることを行っておきながら、その後何の音沙汰もなく情緒を不安定にさせ、彼女の学園生活に多大なる損害を与えた。よって『可愛い船長泣かせた罪』が適用されると思われます。」
「お兄さん一行で矛盾するの好きなの?」
「ピュアな心をもてあそんだ残虐な行為、また、被告人に反省の態度が無い為、極刑を求刑します。」
「ん?」
バンバン、とジャッジが定規をハンマーのように机をはたく。
「判決死刑」
「え?」
「これにて閉廷」
「まってまってまって。」
あなたが戸惑っていると弁護人のスバルが声を上げる。
「異議ありい!」
「はーい弁護人、発言を許可します。」
「その発言にはおかしなところがあります!」
あなたは直感で「これは終わった」と思った。その気持ちを代弁するように隣のヤンキーが彼女に声をかける。
「スバル、そうじゃない。セーブポイントないしここでその印象は極刑に直結しちゃうぞ。」
彼女がこのような反応をするのは塩っ子にも理解できた。何故なら3人には何が起こっていたのか一切わかっていなかったからである。
「スバルは不審者集団が学校に入ってきたからそのために声をかけたんですケード。」
可愛く恍けても無駄である。
ここで親切な一味から事のあらましを説明してもらおう。
先週より、彼ら一味が可愛がっている宝鐘マリンに変化が訪れた。
深刻そうに物思いにふけり、フルフルと涙目になることが増えたのだ。女一味の証言では溜息、突発的な号泣、そして凡ミスが目立つようになった。
「異議あり!」
「弁護人」
発言が再び許可される。
「それはいつものホルモンバランスの乱れです!時季的なものです!」
「異議を却下します。」
「言った後で!?」
つまりマリンの行動に敏感な彼らから、彼女の背景には何かがあると踏んだのだ。本人の事を考慮し、直接的な調査は行っていないものの、周囲の証言を集め結論にたどり着く。
先週木曜日、宝鐘マリンは何者かと一晩お泊り会をしたのだ。
「異議ありい!」
今度はあなたが思わず叫ぶ。
しかしジャッジは冷徹に「聞きません」と一掃したのだった。
そしてなぜ塩っ子が容疑者として挙がったのか。それは最近のマリンの発言からの推測になる。
「彼女は『話の合う先輩』『BLを深めてあげる』と発言しています。もう一つ、マリンは『リア充撲滅委員会』に強い興味を抱いていました。」
「あ、もうマリンって言っちゃうんだ。」とあなたが呟くとグラサンは空気を緩めて「さすがにかわいそうだと思えて来てね。」と返す。
「ジャッジ!発言を求めます!」再びあなたが声を上げるもジャッジは表情を変えない。
「発言無効。」
「じゃあ勝手に言うもん!先週木曜日って言ったら予備校に行ってました!」
遠回しに遊ぶ時間がなかったことを伝えると検察は小さく舌打ちをした。
「小癪な。一丁前にアリバイ作っていやがる。」
だが彼らは顔色を変えない。
「残念だけど、予備校なんて一日数時間の拘束。お泊り会は一晩ぶっ通しで行けるからできちゃうんだよぉ!」
ここで初めてジャッジが自らの意思で話した。
「もう死刑でイイ?」
「死刑無効!」
「却下。」
ジャッジの気の抜けた声に反してグラサンはヒートアップする。
「ああ見えて若いし、繊細な子なんだよ…。俺たちも血の涙を飲み込んで耐えようとしたさ。でもなあ…同じベットで背中をつつき合ったってのはいただけないなあ…!」
凍る教室。スバルの表情は塩っ子を人を見るような眼をしていなかった。
「素直に認めれば半殺しで済んだのによぉ。」
もちろんあなたには身に覚えがない。なので藁にも縋る想いであなたはスバルに目をやるが、当の彼女は眉間に指をあてて顔をしかめていた。
「よりにもよってマーちゃんか…シオンなんて言うかな。」
事実は人の手によって作られる。
そんなことを実感した塩っ子であった。
しかし救いの手と言うのは予期せぬタイミングで訪れる物である。
「…ねー、みんな何してんの」
がらりと開かれた扉の先から聞き覚えのある声がした。喉を鳴らすようなその音色、小柄な体を校則通りに着こなした制服に包み、その姿は白いドレスをきたシンデレラのようである。
紫咲シオンはそこにいた。
「シオンちゃん!」
あなたは思わず彼女の名前を叫ぶ。
「無実を証明して!」
「え?何の?」生意気そうに開かれた瞳をパチクリと瞬かせる。
あなたは場の空気が変わる間もなく口を動かすが、要領を得ないのか彼女はポカンとしている。
「塩っ子がマーちゃんとお泊りしたっていう罪を被せられてるんだ。」スバルが助け舟を出してくれた。
するとシオンは眉をハの字にして考え込む、どこか一歩引いているようだった。
「わかったよ、みんな。シオンが解決してあげる。このハバ卒の脳みそがね。」
まだ高校生だろう。そんなツッコミを堪えられたのは、彼女が状況を打開する切り札の様に頼もしく見えたからだ。そしてそのままスタスタとローファーを鳴らして足を前に動かす。その先はスバルとヤンキーのいる弁護席ではなく、中央にいるジャッジと塩っ子を通り過ぎ、一味側についた。
「あれ?」
くるりと髪を靡かせ振り返り、バンッと机をたたく。
「塩っ子、罪を認めなさい。今なら楽な罰で済ませてあげるから。」