それはあなたかもしれないし、あなたじゃないかもしれない。 作:茶漬四郎
切り抜きろくに見れないけど、いつかネットの海で会えた時に笑顔でいたいね?
リア撲、まだ続けようかなあ
前回までのあらすじ。
紫咲シオンが敵につきました。
突如として即決学級裁判に現れた紫咲シオンは、一応あなたが信頼する委員会の代表です。しかしそんな彼女はあなたの弁護をするどころか、裁く側として一味の味方につきました。ここまでされることに身に覚えが全くないわけではありませんが、戸惑いを隠せません。それはスバルやヤンキー君どころか、相手の一味も同じようです。
シオンはどこから取り出してきた襷を肩から掛けると、前髪を花弁のように軽く払いおでこをキラリと光らせました。
「塩っ子」と一息置きます。
その表情は自信に満ちていて、肉を切って骨を断つ、痛みを受け入れ前に進もうとする覚悟が見て取れました。
「よくもマリンを悲しませたね。シオンが責任をもって終わらせてあげる。」
紫咲シオンの登場は、窮地に立ったあなたにとってスクリーンの中から飛び出してきたヒーローのように映った。しかしそれもつかの間、彼女は何を思ったのか一味側へと就いたのである。その流れはまるで闇落ちヒロインを生で見ているかのようだった。
「シオンお前!マーちゃんと面識あったのか!」とスバルが思わず叫ぶと彼女は「全然」と答える。
「でもシオンは学園の女の子が泣いているのは見逃せないの。悪は成敗しなきゃね。」
それから改めてこの場において公平で厳格な刑罰が下されるよう尽力を尽くすよう誓った。
彼女は一味の手から資料を取り、ふむふむと一読する。
「有罪じゃない。」
「シオンちゃん?」
「有罪だよ有罪。美少女は無罪。」
あなたは確固たる証拠がないことを訴えると、シオンは諭すようにゆっくりと口を開き始める。
「ここまで具体的な妄想を作れるということは事実と受け取ってもいいんじゃないでしょうか。確かに塩っ子、その日予備校行ってたもんね。帰りとか行けたんじゃない。その夜に、BLを語り合ってベッドで背中をつつき合い、吸った吸われたの話をしたんじゃないの?」
シオンが言うには、現実味のある物語は真実として扱っても問題ないというのだ。
「だって、塩っ子がホントの事言わないからじゃん!」
「してないもん!シオンちゃんこそ!その日返信遅くなかった!?文化祭の相談してきたくせに!」
「シオンだっていろいろあるの‼関係ないジャンそれは!」
ここであなたはふとゾーンに入る。
彼女とのやり取りで疑問に思うことがあったのだ。
それは自分と宝鐘マリンの出来事が事実なら、まぎれもないリア充行為であるのだ。これは「リア充撲滅委員会」の会員としてポリシーに反している。そうであれば本来シオンが問うべきは「反逆者」としてのあなたの処分であり、被害に遭ったとするマリンの味方ではないはずである。
更に彼女は先ほどマリンとは面識がないと言ったがそれも考えにくい。
何故なら一味が「マリンはリア充撲滅委員会に興味を持っている。」という第三者からの発言を得ているからだ。それであれば転入して日の浅い塩っ子よりも同姓で在籍歴の長いシオンに話が通っているとみる方が自然である。少なくとも認識があったと考えるべきだ。
ましてや慢性的に人手不足で、仲間が欲しいと言っていた彼女が興味を持ってくれた人物を完全に忘れることなど考えられないのだった。
で、あれば何故シオンはマリンに関する情報を否定し、あなたに自白を求めるのか。
ゾーンの終盤、あなたはシオンの頬から滴る汗と増える瞬きの回数を見つけ、不信感を抱いた。
「シオンちゃん」
あなたが彼女の名を呼ぶと周りに静寂が訪れる。どうやらあなたが沈黙している間に随分と話が進んでいたらしい。
「ん、罪を認める気になったあ?」
彼女は少し安心した様子だった。
「認める事って大事、塩っ子えらいぞ。」
「先週金曜日、だいぶ遅れて登校してたけど、どったの?」
遮ったあなたの発言に教室は固まる。いや、意の一番の硬直が見て取れたのはシオン本人だったかもしれない。
「えっちょっとキモイ。何の関係があるの」
シオンは笑いながら受け流すがその笑みには感情が無かった。あなたはナイフの様に一つの小さな事実を突きつける。
「その日って確か…マリンも遅刻してきてなかった?」
これは一つの賭けだったが、彼女がピンッと跳ねるように反応したのを見逃さなかった。サングラス一味が間に入る。
「遅れてきたよ。フェアに行きたい。塩っ子、君の主は何時ごろに登校してきた?」
「12時45分。約4時間の遅刻だったよ。」
グラサンがきらりと光る。
「ウチのマリンもその時刻に学校へ来たよ。」
両陣営の思考は一致した。つまり、木曜日のお泊りが長引いて翌日の金曜日に二人とも遅れて登校してきたというのだ。
「塩っ子、そこまで把握してるのはキモイよ。」
「シオンちゃん、笑い声に楽しみがないよ。」
関係がよくわからない二人が、同時刻に大きく遅刻してやってくるというのはその時点でお茶の間を騒がす。
不倫関係の人間は特にその部分に注意するものだ。
「あー!その日マリンちゃんと偶然同じバスに乗って来たんだー!」とシオンは慌てて発言するが、あなたは口を休めない。
「さっきマリンとは面識ないって言ったじゃないか。」
「言葉の綾だよ、辞めてくれる?揚げ足取るの。」
「吸った吸われたってのは?そんなの一味の資料にも載ってないと思うけど。」
さっきまでの威勢は何処へ。しかしシオンも負けていない。態勢を整えつつある。
「何を言いたいのかわからないけど、証拠がないじゃん。」
「じゃあ、マリンに聞けばいいじゃん。」
あなたは最短の近道を提示する。
「…それは違うじゃん。」
「ん?」
「それは違うじゃん!」
チートをせずに、自分達で解決したいのだそうだ。
「…」
「…」
二人の沈黙はやがて教室中に広がる。そして最初に言葉を発したのはシオンだった。
「…ってか塩っ子マリンの連絡先知ってるんだ。」
「うん」
「解釈違いだなー」その言葉はまるであきらめたようにも受け取れた。
そして一味に同意を求め、念の為に誰かマリンの連絡先を知らないか聞いてみたが、誰もいなかった。
スバルたちの手助けを得たあなたは、自由になった手を使ってマリンに連絡を取る。
「もしもしセンチョー?」
「あっ!セコイ」とシオンが噛みつくがそれも遅く、通話口からは猫のように撫でるようなマリンの声が通っていた。
宝鐘マリンはシオンと小柄な事以外に共通点はなかった。左右色の違うオッドアイに、見た目とは違って成熟しているオーラを出している。
そんな彼女が学級裁判の場へ顔を出した時、まず反応したのは追っかけである一味に対して「何故ここにいるのか」という問いかけだった。
一味たちは各々端的に回答する。
「有給遣いました!」
「単位今落としました!」
「脱柵してきました!」
するとマリンは喉をカッと開いて声を上げる。
「後ろの二人は人生をなんだと思ってるんだ!馬鹿かおめえらはよぉ!」
そして塩っ子、スバル、そしてヤンキーの味方に就き、そのままシオンをじっと見つめ対峙する。
呼吸すらしにくい無音だけが室内に充満するなか、居たたまれなくなったのかスバルが口を開いた。
「マーちゃん」
それはアヒルを擬人化したような声だった。
「な、何ですか、スバル先輩」
「マーちゃんはシオンたんとお泊りしたの。」
「しました。」
流水のごとく事実を認めたマリンに思わずシオンは噛みついた。
「ねええええ!ちょっと!」
「だってシオン先輩あの日から知らんぷりするじゃん!」
喉の寿命を引き換えに叫ぶ後輩を前に、シオンは思わずたじろぐ。
さすがに「吸った吸わない」のくだりは両人とも喉を詰まらせてしまい、それがかえって一味たちの顔色を青くさせた。彼らが正気を保っていられるのは、渦中の人物に見知らぬチャラ男がいなかった点があったからである。
「それをここで言ってさー。センチョーはシオンとそういう関係になりたいってわけ?」
今度はマリンが言葉を詰まらせる。売った買ったの押し問答は、猫の喧嘩のような間合いにはとても大きすぎた。
それはシオンが言った「そういう関係」という言葉ではない。「そういう関係」と第三者が受け取れる何かをした、という事実である。
同じベッドで横になり、背中をつつき合って吸った吸われたの行為。それは思春期のあなたにとって十分すぎるほどのめくるめく情景を連想させる。
この時あなたは再びゾーンに入っており、周囲の会話に聞き耳を立てていなかった。それを察して助け舟を求めたシオンがあなたを呼んだのだった。
「塩っ子!どう思う?」
既に脳内で考えを巡らせていたあなたは、結論までの道中を行き終える手前であり、無意識にその考えを口にしてしまった。
「どうしたのシオンたん、もしかしてセック―」
記憶はここで途切れた。
失言によりジャッジから無慈悲な一撃をお見舞いされたあなたは、それが罪人無き罰としてこの裁判の収束であることを告げられた。ブーブー文句を言うあなたに、彼女はフワリとした雰囲気を崩さないまま言い放つ。
「だってぇ丸く収まるんだもん。」
「そんな御無体な。」
「じゃあどーする?シオンを罰すれば彼女のポリシーに反するし、マリンの涙を無視すれば彼女の面目は丸潰れになっちゃうんだよ?女の子に恥をかかせちゃダメだもん。」
「まあ、一理ある。」
「だから君に罰を被せるの。罪状もあるよ?『リア充撲滅運動における反体制運動への加担』どう?立派でしょ?」
彼女はニヤリと笑って「だって僕、知ってるんだもん」と悪戯に笑みを浮かべる。
「でも可哀想だから。アイドルにうつつを抜かしたってことにしとこうかな。」
それから上目遣いにあなたを見つめ、「君の未来は真っ黒だねえ」と言ってやり取りを終わらせた。
そして場面は冒頭の会見へと戻る。
あなたの発言に自身から注目を外すことに成功すると、内心ほくそ笑んだのだ。「紫を基調とした巨乳」で連想された唯一の人物。誰かが「あっ、その猫叉が逃げた」と叫んだのを聞いて思惑通りに事は運んだが、それもつかの間。元ジャッジの逃げ足は猫の様に早く、早々に見失ってしまい、皆の注目はゆっくりと塩っ子へと戻って来る。
これは塩っ子なりの小さなリベンジなのである。関係がなくとも人見知りの彼女の事だから居たたまれなくなるだろうと考えての行動だった。
「つまり塩っ子先輩は。」と天使の後輩がペンで下唇と押しならが、次の言葉を慎重に考える。
「胸が大きい方が好きと」
「うん」
咄嗟に答えて後悔する。何故なら教室内の空気がその回答が誤りであることを無言で伝えて来るからだ。
「…そこだけか…。マリンが勝っているのって。ってか大きければいいわけじゃないし。」
あなたの肯定意見を聞いてか否かは定かではないが、シオンはボソボソと独り言を口にする。
天使が追撃する。
「でも今日のシオン先輩可愛いですよね?」
「うん。ん?」パッと出てきた言葉を取り換える暇もなく、クラスメートたちは日常を取り戻した。
一方シオンはこっそりと人知れずに教室を後にしており、そっと扉をしめた。一息つくと担任の戌神ころねと鉢合わせしてしまい、思わず声を上げる。彼女の背後には先ほど逃げた女生徒が両目を線にしてつままれた猫のようにおとなしく捕獲されていた。
それは疲労のせいか絞られたのだろうか。
「シオンちゃん」ところね。
「話は全部聞いたでな。」
ハイトーンを失った瞳がシオンを逃がさない。
「こっちまで疲れちまったよ。問題起こしたら活動停止だかんね。」
ころねが言及したのは不純行為疑惑と不法侵入をした上に無断で教室を占領したことについてだった。
「僕は何もしてないのにぃ」と嘆く元ジャッジにころねは一括する。
「アンタもその場にいたでしょうが!」
それからフーっと大きなため息をつくと騒ぎだしている教室に目をやる。
「なーんかみんな変な騒ぎに巻き込まれやすいね。」
「大変だね―みんな」
「こら!渦中の人物だろうが」
パチンと頭を叩かれピャーと鳴き声を上げる。
「みんな憑かれてんのかねえ」と、ころねが呟くと教室が一層物騒に騒ぎ出す。その状況はあえんびえんそのものである。
耳を澄ましてかろうじて聞こえてくる言葉を拾うと、「靴は食べ物じゃない!」だの「ぎゅ!ぎゅ!じゃない!」だの「握りつぶさないで!」だの塩っ子の声しかはっきりと聞えなかった。
それは断末魔そのものであった。
自分に好意を持ってくれる人にどう向き合えばいいのか、それはこの世に生を受けたものにとって永遠の課題である。しかし塩っ子の存在がシオンにとっての変換点であることは、教師であるころねには直感的に分かっていた。このまま見守り続けたいと彼女は心の中でつぶやく。
それは卒業したとしても変わらないだろう。
「ころねせーんせっ」
上機嫌なシオンの声がころねを呼び、現実へと引き戻した。
「文化祭の出し物、決まりました。」
ころねは「へえ」と一言。
「なにするん?一応聞いとくでな。」
今の問題が片付けられてからでないと参加できないことを伝えるが、当の彼女は前向きだった。
その証拠にシオンはニコッと笑う。
「御祓い屋!」
シオンちゃんの歌を題材にしたリア撲は一旦終わりです。これ書き始めた時卒業なんて想像してなかったです。
これからも皆さんの暇な時間なお供になれるよう、よろしくお願いします。辛い時に少しでも楽しくなれたら嬉しいです。